機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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「閣下・・・!閣下・・・!!」
「メディック!!ストレッチャーを速く!!飛んで来てくれ!!」
中破し、コックピットのすぐ脇が抉られたストライクSに、整備兵や医療班、MSパイロット達が一斉に群がった。
ストライクSが沈黙したすぐ後、傭兵部隊Xが救援に駆けつけたため、ザフトは分が悪いと撤退して行った。
デスティニーインパルスはストライクSに手を伸ばそうとしていたが、ドレッドノートイータを駆るカナード・パルスの手によりそれは遮られ、何かを思い詰めるようにしながらも撤退して行った。
その後、ストライクSは早急に回収され、現在必死の救出作業が行われている最中であった。
出撃していた隊員達や衛兵、整備士、そして、表情を一切変えられないソキウス達ですら、不安げにその様子を見守っていた。
「一夏・・・!お願い・・・!返事して・・・!!」
愛機の電源を落とす間も無く駆けつけたリーカも、涙を零しながらも、応答の無い一夏に呼びかけ続ける。
自分を庇ったせいで、恩人を喪うなど、到底堪えられるモノではない。
本来ならば、自分が撃たれていた筈。
それを庇った一夏が傷付いてしまったのだ、何も思わないはずが無かった。
「死ぬんじゃないぞ一夏・・・!今開けるからな・・・!!」
コードを入力し、ハッチを開けようとしたが半分ほどしか開かなかったため、ジャックは工具を使ってセーフティーシャッターを抉じ開ける。
熟練の機械職人のジャックの作業は流れるように進むが、それでも周囲で見守る者達には、何分も、何十分もかかっているかのような感覚があった。
急がなければならない。
この機体に乗っているのは、アメノミハシラの柱となる男、こんな所で死なせる訳にはいかない。
それに加え、彼の妻は地球に降り立っている。
こんな所で死なせてしまっては、彼女達に顔向けができないのだ。
戦闘が終了してから既に十分ほどが経過しており、生存率も著しく低下する時間となっている。
最早間に合わないのではないかと言う空気が蔓延しはじめるが、その手が止まる事は無かった。
そして、シャッターがこじ開けられ、人がしっかりと通れる程に広がった時、彼等の視界にそれは飛び込んで来た。
『ッ・・・!!』
それを見た者は皆、青ざめたまま何も言えなくなる。
パイロットスーツのあちこちにはおびただしい数の破片が突き刺さり、尋常でない程に流れ出る血がシートや計器類を染めていた。
そして、誰もが言葉を失ったのは、彼の右腕が元の形を留めないほどにへしゃげ、有り得ない方向へ向いている事だった。
恐らく、至近距離で何かの機器が暴発し、彼の腕とその周囲を抉ったのだろう。
パイロットスーツの防御力も、万能ではないのだから。
「そんな・・・!閣下・・・!!」
「俺達は・・・、何も出来なかったんですか・・・!?」
その凄惨な光景を目の当たりにし、自身も戦闘の際に負った傷を抑えながらも、ガルドとファンファルトは、自身達を拾ってくれた恩人の今の有様を受け入れる事が出来なかった。
自分達が加勢していれば、彼はこの様な事にはならなかった筈だ。
それなのに、自分達は何も出来なかった。
それが、何よりも悔しかった。
「あぁ・・・、そんな・・・、一夏・・・。」
自分のせいだ。
自分のせいで彼は・・・。
絶望したリーカは、虚ろな目で、膝から崩れ落ちた。
自分のせいで、一夏は死んでしまった。
その現実を受け入れる事が出来なかったのだろう。
もう手遅れ、誰もが一夏が死んだと理解し始めた、まさにその時だった・・・。
「ぅ・・・こ・・・、と・・・」
『ッ・・・!?』
不意に一夏の左腕が動き、うわ言のように何かを小さく呟いた。
小さく掠れながらも、何処か鬼気迫る様に感じられたのは、彼の心の声そのものだったのだろう。
全員が信じられないと言わんばかりの表情で、彼の言葉と動きに釘付けとなる。
何せ、死んでいてもおかしくないほどの傷を負った者が、まだ戦おうと動いているのだから。
「ぃ・・・、ぁ・・・。」
まるで、まだ戦わんとしているかのように、その手は操縦桿へ伸ばされようとしていた。
だが、既に意識を保つ体力は無く、気力だけで動いている様なものだ、彼の手は操縦桿に届く事は無く、だらりと垂れ墜ちた。
「え、衛生兵・・・!早く来い・・・!!生きてるぞ・・・!!」
その様子に、ジャックは我に返り、近くで待機させていた衛生兵を呼びつけた。
すぐさま駆けつけた衛生兵の手により、一夏はコックピットから担ぎ出される。
だが、予想以上に身体の損傷が激しいのか、少し動かしただけでも尋常ではない程の血が流れ落ち、一目で危険な状況だと判断できた。
「緊急OPEだ!!輸血の準備!!ありったけの血を持って来い!!」
駆けつけた衛生兵の一人が叫びながらも、別室に待機する者へ連絡を飛ばす。
今すぐにでも治療を始めなければ命は無い、そう判断するには十分すぎる程だったからだ。
すぐさまストレッチャーに寝かされた彼は、人工呼吸器を着けられOPEルームへと運ばれて行った。
「一夏・・・!しっかり・・・!死なないで・・・!!」
それに付き添うリーカは、手を組んで神にも祈った。
どうか、彼の命が助かる様にと。
彼を想い、そして、自分の周りが壊れない事を願いながらも・・・。
sideout
noside
「お、俺は・・・、俺は、一体何を・・・?」
プラントへの帰路を辿るナスカ級戦艦の一室で、コートニーは頭を抱え、蹲っていた。
その表情には恐怖、後悔、様々な色が入り混じり、自分でも整理できずにいる様でもあった。
「い、一夏・・・。」
首から下げているロケットペンダントに貼られている写真に写る、黒髪の青年の名を呼び、彼は何処か救いを求めるように抱き締めた。
先程、彼は途轍もなく大きな過ちを、それも許されざる程に想い罪を犯してしまったのだ。
彼は、親友である織斑一夏を、この手で討つという罪を犯したのだ。
更に罪深いのは、一夏を庇った自身の恋人を殺める寸前だった事も、彼に追い打ちを掛けていた。
命令だった。
彼は討つべき相手を討っただけ、自分自身をそう納得させようとも、一夏やリーカ、友人の笑い声や姿が脳裏にフラッシュバックし、すぐさま血の色に塗りつぶされるという事の繰り返しだった。
「俺は、俺は・・・!」
―――よくやったじゃないか――――
その光景を消そうと頭を振るう彼の耳に、嘲笑う様な声が届く。
思わず顔を上げると、彼の目の前にいたのは、何処か不気味に歪むほど、嘲笑う様な笑みを浮かべた彼自身の顔が在った。
―――お前は戦争の無い世界に一歩近づいたぞ、お前の敵を討つ事でな―――
「ッ・・・!違う・・・!一夏達は敵じゃない・・・!!」
嘲笑う様な声に、彼は声を張り上げて否定する。
一夏は敵じゃない、自分の大切な友だと・・・。
―――ならばなぜ、お前は友を撃つ?それが正しいとでもいうのか?―――
「ッ・・・!!」
自分のした事を改めて突き付けられ、彼は再び絶句する。
そう、どう取り繕おうが結局は何も変わらない。
友をこの手に掛けたという、消しがたい罪は・・・。
―――おめでとう、お前は、立派な人殺しだ―――
「や、やめろ・・・!やめてくれっ・・・!!」
耐え切れず、彼は遂に悲鳴を上げて蹲った。
これまで経験した事の無い、罪の重圧に押しつぶされつつも・・・。
sideout
noside
同じ頃、地球にて・・・。
「ユーラシアでの活動は大まかに終わったな・・・、これで一仕事終えたって感じだな。」
ユーラシア連邦支配地域から離脱する輸送機のコックピットで、宗吾は何処か感慨深げに呟いていた。
元帥である一夏と、少将であるリーカを除いた総帥他、幹部4名は、連合支配地域に赴き、天空の宣言に賛同する者を募るべく、各地を廻っていた。
主に戦力援助を押し出しているため、強力な機体がバックにある事を示すために、彼等は自身の機体とその腕を言用いて説得に当たった。
大規模な戦闘にはならなかったモノの、少なくない戦闘も熟しており、連合やザフトの侵攻を凌いだ事もあった。
その結果と言うべきか、少数ながらも賛同者が得られ、圧政から逃れるべく抗う者達への支援も行っていける様になりつつあった。
つい三時間程前まで戦闘を行っていた彼等だったが、疲労の度合いはそれなりに濃く、先にオーブに戻ったミナと合流して休みたいと言いたげだった。
「ホント、大変だったよね~、早くウチに帰りたい・・・。」
待機シートに座っていたシャルロットが、パイロットスーツを半分脱いだ状態でタメ息を吐いていた。
かなり長い間戦闘を行っていたのだろう、機体は兎も角、パイロットである彼女達の消耗もそれなりに大きいのだろう。
「そうですわね・・・、一夏様、どうされているでしょうか・・・?」
アメノミハシラに、総帥代理として残った一夏の事を案ずる様に、セシリアは小さく呟いていた。
一夏は彼女達とは別行動を取っており、既に一か月は会えていないのだから、彼の事が恋しくなるのも無理はない。
「アイツなら大丈夫でしょ、もしかしたら、リーカとよろしくヤッてるかも~?」
そんな彼女を茶化す様に、玲奈は二ヒヒと笑いながらも言い放つ。
一夏とリーカと言う、それなりに相性の良い二人が揃っている状況なのだ、何があってもおかしく無いと言いたいのだろう。
「やめろ、一夏がコートニーに対して不義理な事、するはずないだろう。」
そんな玲奈の軽口を宥める様に、宗吾はそんな事は無いときっぱり言い放つ。
一夏程義理堅い人物が、自分の親友の恋人を寝取ると言う真似をしでかすはずが無い。
彼を信頼する宗吾らしい答えだったが、それは全員の共通認識だっただろう。
「ま、酒でも持って帰ってやろう、アイツもそれが楽しみだろうしさ。」
「マスドライバー使うのも何度目だっけか・・・。」
宙に上がるために用いるマスドライバーの強烈なGに酔う事もしばしばあったが、今となっては最早それも慣れっこだったようだ。
まぁ、出来る事なら慣れた場所にいたいと思うのは、彼等が人間であるからこそだったのだろうが・・・。
そんな時だった。
彼等が乗る輸送機に、通信が入ってくる。
「こちら宗吾、どうぞ。」
『神谷卿!大変よ・・・!!』
通信に出た宗吾の耳に届いたのは、アメノミハシラにいるベルナデット・ルルーの切羽詰まった様な声だった。
アメノミハシラに拾われて以降、諜報部の一員として頭角を現してきた彼女だが、このような通信をしてくる事は殆どないため、余程の案件だと察した。
「ベルナデットさん、どうしました?まさか、アメノミハシラに何か・・・!?」
宗吾の予想と同じ事を皆が考えたのだろう、全員が表情を硬いモノにしていた。
アメノミハシラの危機になる程の敵が攻め込んで来たコトが事実なら、一機でも早く宙に上がる必要がある。
故に、その足がある玲奈は自身の機体に向けて走り出していた。
『悪いニュースが二つ・・・!一つはザフト軍の攻撃を受けたわ・・・!MS隊の被害は撃墜が10・・・!』
「なんてこった・・・!俺達が地球に居るって分かってて・・・!!」
その報告に、宗吾は自分達の留守を狙われたと歯がみする。
総帥や幹部たちの大半が出払っており、戦力で言えば二割ほど低下している状況なのだ。
それを補うために傭兵部隊Xやサーペント・テールに声を掛けていたが、丁度交代のタイミングを狙われたのだと推察できた。
それを狙った相手の親玉であるデュランダルの手腕に、宗吾は悔し気に表情を歪めた。
『何とか防衛には成功・・・!でも、一夏が・・・!』
「一夏が・・・!?一夏がどうしたの・・・!?ベル・・・!?』
一夏の事に言葉を詰まらせるベルに、シャルロットは青ざめながらも問いかけた。
一体何があったのか。
これまでの報告から、最悪の状況が頭を過ぎっていたのだ。
『一夏は・・・、元帥はシェダー少将を庇って負傷・・・!現在、OPEの最中よ・・・!!』
「そ、そん、な・・・、一夏が・・・?負けた・・・?」
一夏が墜とされた事に、宗吾は現実を受け入れる事が出来なかったのだろう、その手と声は震えていた。
アメノミハシラの絶対的戦力となった一夏が負けるなど、これっぽちも考えていなかったのだろう。
その衝撃は推して測るべしだった・・・。
だが、それも一瞬の事、一つ大きく息を吐き、司令官の顔つきを作った。
「直ぐに宙に戻る、他の傭兵達にも、特に一夏と関わりがあった奴等に連絡してくれ、友の危機だと・・・!」
『りょ、了解しました・・・!』
宗吾の指示に、ベルナデットは敬礼を返し、すぐに通信を切った。
「(一夏・・・!死ぬんじゃないぞ・・・!)」
上官であり、友である一夏の事を案じながらも、彼は操縦桿を握りつつ指示を出す。
「玲奈!オーブにいるミナに連絡して来い!一夏が死にかけていると!!」
『なっ・・・!?りょ、了解よ・・・!!』
宗吾の指示の内容に驚きながらも、玲奈はすぐさま機体を輸送機より発進、オーブに向けて機体を奔らせた。
「セシリア、シャルロット、一夏は死なない、信じろ・・・!!」
自分より永く、嘗ての世界より一夏と共にいるセシリアとシャルロットの動揺は大きかったが、それを抑える為に、彼は自分が気丈に振舞わなければならないと己を律した。
自分が、彼の代わりとなってアメノミハシラを支える。
その決意が伝わって来ている様だった。
「(死ぬなよ・・・、一夏・・・!死ぬんじゃないぞ・・・!!)」
心の中で、友への祈りを捧げる宗吾の瞳には、決意にも似た光が宿っていた。
今度は、自分が導く番だと・・・。
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次回予告
斃れた一夏の魂は、嘗ての記憶の旅路を辿る。
そこに、彼は何を見るか・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
過去に囚われて
お楽しみに