機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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過去に囚われて

side一夏

 

ここは、何処だ・・・?

 

何も聞こえない、何も見えない。

ただ、自分が何処かへと墜ちていっている様な感覚だけが酷く鮮明に理解出来る場所に、俺はいた・・・。

 

手足の感覚も無い、目を開けているのか、閉じているのかさえ分からない。

ただ、酷く疲れた様な感覚が、全身に纏わりついて来ていた。

 

俺はどうなったんだ・・・?

リーカは無事なのか?

 

コートニーは・・・?

 

そうだ、コートニー・・・。

その先に行ってはいけない・・・。

 

全てを、何もかもを失ってしまう・・・。

 

俺が味わったその苦しみを、お前が味わう事なんて無いんだ・・・。

 

そうだ・・・、こんな所にいる場合じゃない・・・。

 

皆が、皆が危ないんだ・・・。

待っていろ・・・、今、俺が・・・。

 

―――いい加減、楽になったらどうだ?―――

 

もがこうと意識を集めている中で、その声はまた唐突に聞こえてくる。

 

あぁ・・・、何を言うんだ・・・・。

俺は、帰らなくちゃならないんだ。

 

コートニーを、俺と同じ様な絶望に染めては・・・。

 

―――生きる為の言い訳が他人の事か?相変わらず、愚かな男だな?―――

 

言い訳なんて・・・、しているはずが無い・・・。

コートニーを救いたいのは。俺の本心・・・。

 

―――本心を偽るな、お前はただ、眠りたいのだろう?―――

 

そんな事は・・・、そんな事は無い・・・。

 

―――見せてやるよ、お前がしてきた事を、お前の傷を―――

 

その声が聞こえた瞬間、目の前に光景が始めた。

 

『君にね、世界を救ってほしいの。』

 

『どう救えと言うんだ?』

 

『大きな悪となって、全てを滅ぼした後に、彼に斃されて欲しいの。』

 

『彼・・・、秋良か・・・。』

 

これは・・・、まさか・・・。

 

―――そうだ、あの時の、全ての始まりの瞬間さ―――

 

そう、あの時、前の世界で一度死にかけた時に、あの女と話した・・・。

 

俺が、人形になる瞬間・・・。

 

『そう、だから二人を選んだの、君には大変な厄を押し付けちゃうけど・・・。』

 

やめろ・・・。

 

『良いぜ、俺を使え、あんたが望む世界になる様に。』

 

その先を見せるな・・・。

 

『先に地獄へ行って待っていろ、どうせすぐに、俺もそっちに行くさ。』

 

振り下ろされる刃、飛び散る鮮血だけが俺の目の前に突き付けられ、全てが克明に飛び込んでくる。

 

『なんでだ・・・!アンタはなにがしたいんだ!!』

 

秋良の声がする。

そうだ、これは・・・。

 

『実の姉を殺して、アンタは何がしたいんだ!!』

 

俺が裏切ってしまった。

選ばれたと図に乗って、傀儡になったと気付かぬままに、神の遣いだと振舞って・・・。

 

弟を、あの世界について来てくれた弟を裏切ってしまったんだ。

 

―――そうだ、お前は裏切った、今までを、そして、これからも裏切って行くだろう―――

 

やめろ・・・。

俺は、二度とこんな事は・・・。

 

こんな事をしないために、戦うと決めたんだ。

 

だから、あんなことになる前に、コートニーを・・・。

 

―――疲れただろう―――

 

え・・・?

 

―――お前はもう戦いたくないんだろう?だから、今も目覚めない―――

 

違う・・・。

 

―――良いんだ、赦そう―――

 

そう聞こえた瞬間、俺の意識はまた、闇の中へ真っ逆さまに墜ちていく。

 

―――だから眠れ、もう誰も、お前を傷付ける事は無い―――

 

ヤツの声が遠ざかって行く。

 

これが、安らぎ・・・?

 

俺の、終わり・・・?

 

これが・・・、死・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さようなら、織斑一夏―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideout

 

noside

 

「リーカっ!一夏の容態は・・・!?」

 

一夏の撃墜から数日後、ミナを筆頭とするアメノミハシラ幹部5名は帰還を果たし、集中治療室の前に辿り着いた。

 

今帰ったばかりというべきなのだろう、全員が血相を変えていた。

 

先頭にいたミナは、集中治療室内を窺える窓の前に立ち竦んでいるように見えたリーカに声を掛けた。

 

集中治療室の前には、リーカのほか、ガルド等新兵5人と、カナード、アグニス、そして、ジェスの姿もあった。

 

皆、一夏と多かれ少なかれ付き合いのあった者達であり、全員が最強のMS乗りに迫っている死を恐れている様な雰囲気だった。

 

「ミナさんっ・・・!皆っ・・・!!」

 

彼等の姿を見たリーカは、堪えていた涙を再び流していた。

 

無理も無い、今の今まで、一夏が倒れた現状のアメノミハシラを護っていたのは彼女だ。

自分自身のせいで一夏が死にかけている事を気に病んでいない筈も無く、それを押し殺していた緊張の糸が、安堵で切れてしまったのだろう。

 

「一夏は、今っ・・・!」

 

リーカは嗚咽を零して身体を震わせながら、集中治療室の方を指差した。

 

『ッ・・・!!』

 

そこを覗き込んだ幹部5人は、そこにあった光景に絶句した。

 

無理も無い。

 

全身に巻き付けられた夥しいまでの包帯と、輸血のチューブ、酸素マスク。

 

だが、一番はそこでは無かった。

 

本来あるべき身体の、特に上半身の右半分の損傷がひどく、右腕の肩から下が無くなっていた。

 

「そ、そんな・・・、一夏、さま・・・。」

 

「う、嘘でしょ・・・?いちか・・・。」

 

絶対的戦力であり、以前の世界からの経験から、一夏が負けるとは思ってもみなかったセシリアとシャルロットは、夫の変わり果てた姿に、大粒の涙を零す。

 

何時もは笑みを浮かべているその端正な顔が、今は血の気も無く青ざめ、黒曜石の輝きを持った瞳は閉じられ、死んでいる様にさえ見えてしまうほどだったから。

 

故に彼女達は今、今度こそ死に別れてしまうかも知れない、そんな恐怖を感じているのだろう。

 

「あの一夏を討てる相手なんて、まさか・・・?」

 

玲奈は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながらも、一夏に匹敵し、一瞬の隙を突いて撃破できる相手を、自分自身が知り得る限りで思い返した。

 

「ザフト・・・、だとすれば、まさか・・・?」

 

宗吾は、玲奈が思い至ったであろう相手に、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

どうか外れていてくれと、その眼にはそんな想いが見て取れた。

 

「リーカ、一夏を討ったのは、誰なんだ・・・?」

 

その嫌な予感を確かめるため、宗吾は恐る恐るリーカに尋ねた。

 

リーカを庇って瀕死ならば、それをさせたくない程の相手だったと思えたから。

 

「機体は、デスティニーインパルス・・・、パイロットは・・・。」

 

その問いに、リーカはしゃくりをあげながらも必死に言葉を紡ぐ。

 

「パイロットは、コートニー、だったの・・・!」

 

自分を救ってくれた者を、自分の最愛の人が撃つという最悪の結果、しかも両名は親友同士という悲劇を受け入れられないのかだろう、膝から崩れ落ちて声をあげて泣きじゃくった。

 

最悪の結果を齎してしまったのは、自分自身の甘さ故。

それが、彼女を苛んでいるのだろう。

 

「やっぱり、か・・・、なんてこったよ・・・、クソッ・・・!!」

 

現実の残酷さに、宗吾は壁を思いっ切り殴りつけた。

 

親友同士が叩か悲劇を引き起こした元凶への、やり場のない怒りをぶつける様に。

 

「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!私が、私が弱いばっかりに・・・!!」

 

親友の夫を傷付けてしまった事に、アメノミハシラの柱を奪ってしまった事に、リーカは血を吐く様な叫びで謝罪していた。

 

罪悪感が、止め処なく溢れる涙と共に零れ、彼女を抉って行った。

 

「謝るな、一夏はそんな事、望んでない。」

 

だが、そんな彼女の謝罪を、宗吾が遮った。

 

周囲にいた者達の、様々な想いを籠めた視線が彼に集中するが、彼はそれに構わずに続ける。

 

「一夏は、俺達の誰にも死んでほしくないと思ってる、それに加えて、自分の命なんて無いも同然とも思ってるに違いない。」

 

「「・・・。」」

 

宗吾の言葉に、セシリアとシャルロットは何も言えず、只々涙を流しているばかりだった。

 

彼の推察は間違っていない。

寧ろ、一夏の願いその物と言っても過言では無い事も知っている。

 

嘗ての罪の意識を背負い過ぎたあまり、夢を、未来さえを望めない程に自分の事を軽く見て、周囲を護る事に固執し、失う事を恐れている。

 

そして、生きる事の意味を見失ってもいる。

 

故に、彼女達は一夏が生きる事を諦めているとさえ感じているのだ。

最早、彼は目覚める事はないと、死へと向かっていると絶望しきっているのだ。

 

だが・・・。

 

「一夏が・・・、一夏が死ぬもんか・・・!必ず、必ず俺達の所に帰って来てくれる!」

 

宗吾はそれに気付いて尚、彼が帰ってくる事を信じていた。

 

根拠は無い、だが、一夏への絶対的な信頼と確信は強く持っていた。

一夏の奥底にある本当の苦しみを、一夏が撃ち破れると信じているから。

 

だから、彼は信じられた。

自分の信じる、織斑一夏と言う男を。

 

「信じるんだ、一夏は強い、必ず、もう一度笑ってくれるさ。」

 

信じているから、彼は笑えた。

それまで、自分が支えるのだとも、覚悟も出来ていた。

 

それは、一夏を支えると決めた彼にしか持ちえない、強さの形なのかもしれない。

 

宗吾の言葉に、その姿勢に、沈んでいた者達の瞳に希望と言う光が戻る。

 

ここで絶望している場合では無いと、まだアメノミハシラは狙われている。

今ここで踏ん張らねば、彼が帰って来れる筈も無いと。

 

「まずは部隊の再編から行う、機体の修復と資材の確保、傭兵達は警護の強化を依頼したい。」

 

「そうだな・・・、よっしゃ、オメェ等!やってやるぜ!!」

 

宗吾の指示に、ジャックを筆頭とする整備班は即座に了解と返し、自身の持ち場へと戻って行く。

 

先の戦いで損傷した機体も少なくない、その補修作業を再開させるためにも、立ち止まってはいられないと気付いたのだろう。

 

それと同じく、カナードを始めとする傭兵もまた、MSデッキへと踵を返して戻って行く。

 

宗吾の言葉通り、一夏の強さを知っているから。

それを信じ、彼が戻るまでここを死守する、そんな気概が感じ取れた。

 

「俺はこの事件をレポートさせてもらうよ、一夏が戦った証を、神谷卿の想いも、全部記事にして世界に伝える、信じる事の強さを、俺も信じてるから。」

 

一夏と行動を共にしていたジェスもまた、己が為すべき事の為に動く。

そこにあるのは、真実を伝えたいと言う想い。

 

彼が想う、友への敬意の形だった

 

「ありがとうジェス・リブル、頼んだ。」

 

短く言葉を交わし、ジェスもまた宛がわれた客室に戻って行く。

 

この場に残ったのは、総帥と大幹部、そして、一夏に拾われた5人だけだった。

 

他の者達と異なり、まだ打ちひしがれる者が多く、一歩を踏み出せずにいた。

 

「俺達に出来る事をするぞ、一夏は必ず帰ってくる、諦めるな!」

 

そんな状況でも、ミナでさえ俯いていた状況でも、宗吾は仲間達を鼓舞し続けた。

 

誰かが死にかけた程度で、一夏は止まらなかった。

死にかけているなら自分が救う、そんな姿勢を持っていた。

 

だったら自分も立ち止まらない。

それは、誰よりも近くで彼を見て来た宗吾だからこそ持ちえた、一種の気概だった。

 

彼は、一夏から直接与えられた、一夏の白と対を成す黒のマントをはためかせながらも踵を返し、格納庫への道を歩いた。

 

そこにあるのは、彼が理想とする男の強さが現れており、自分に付いて来いと言わんばかりの凄味が有った。

 

そこに一夏の背と同じ物を見たか、ガルドとファンファルトは彼を追った。

 

自分に出来る事を成すために。

それが、自分達を救ってくれた男への忠義の形だと信じて・・。

 

sideout

 




次回予告

彼は何を想い、何を成して来たか。
それを知らずとも、宗吾はそれでも彼を信じた。
それが、前に進めるきっかけと信じたから。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

信じること

お楽しみに
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