機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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信じること

side宗吾

 

「こりゃまた・・・、相当酷くやられたもんだな・・・。」

 

集中治療室前からそのままの脚で格納庫に出向いた俺の目に飛び込んで来たのは、一夏の愛機、ストライクSだった。

 

戦場に煌めくかの如く舞う白く気高い機体は、今や見る影も無く鉄の床に横たえられていた。

 

右腕は完全に消え失せており、特にバイタルエリア付近の被害が酷く、コックピットの右側はPS装甲が完全に無くなっている状況だ。

ストライカーに至ってはバイタルエリア付近の被弾を受けて大破、最早使い物にならない状態だった。

 

「あぁ・・・、本体は兎も角、ガルーダは御終いだ、レストアのしようもねぇ。」

 

俺の横でそれに頷いたのは、アメノミハシラの職人親父として名の通るジャックさんだった。

 

彼は一夏を救出した後、独自に戦闘データの解析や機体の修復を試みていたらしい。

 

相当なショックを受けた筈なのに、それでも自分の仕事を疎かにしない職人気質には頭の下がる思いだ。

 

そのおかげでブラックボックス内にあった戦闘データは何とか取り出す事には成功し、現在は解析も進んでいる。

 

だが、肝心の機体修復作業は遅々として進まなかった。

 

何せ、コックピット周りだけでは無く、デスティニーインパルスの戦闘の際に一夏が行った無茶な機動に付いて行けなくなった部位が悲鳴を上げている状況なのだ、最早新たに造り直した方が早いとさえ思われるほどだった。

 

彼の機体の操縦法は機体の柔軟性に物を言わせた強引かつ関節稼働部を限界までに活用して行う無茶苦茶な動かし方だ。

調整がうまくいっていたとしても、戦闘の度に微細な調整を要されるほどだった。

 

しかし、今回の相手は一夏と同等かそれ以上の戦闘技術を持ったコートニーと、ストライクS以上のスピードとパワーを持ったデスティニーインパルスだったのだ。

 

彼は、コートニーを引き戻すために持てる力の全てを、いや、限界を超えた力を引き出そうとしていたに違いない。

 

故に、機体に絶大な負荷が掛かり、デスティニーインパルスの最後の一撃が楔となって、機体を再生不能に追い込んだと推察できる。

 

それは良い、だが・・・。

 

「生憎だが、ストライク系列を新造できるパーツは残っちゃいねぇ、あっても、イージスを解体した時のパーツしか流用出来ねぇよ。」

 

既にヤタガラスを始めとした新型機の量産体制に入る前段階に来ており、一からストライク系を作り出すパーツなど残ってなどいない。

 

仮に残っていたとしても、それは玲奈がイージスシエロに引き継がなかったパーツだけであり、とてもではないがストライクとの互換性は低く、使い物にならない。

 

PS装甲部材はジャンク屋を当たれば入手可能だったが、X100系フレームを構成する部材が不足していたのだ。

 

アストレイ系に用いられるフレーム部材よりも強度の高いモノは現在アメノミハシラには無かったため、建造が不可能だった。

 

故に、考えられる手は二つに一つ。

ストライクSを廃棄し、他の所から機体を引っ張ってくる事。

もう一つは、ストライクSを修繕する事になってくる。

 

「だが、一夏が万全になったとしても、今のコートニーにこの機体で勝てるだろうか・・・。」

 

しかし、ストライクSが完全な状態に直されたとして、一夏が復活を遂げたとして、彼と同等の技量を持つコートニーが駆る、ストライクSを超える機体に勝つ事が出来るだろうか。

 

如何に一夏が強いとはいえ、相手は修羅へと墜ちかけている存在、真面にやり合って勝てる可能性は極端に低くなるだろう。

 

情けない話だが、俺にそれを止められる技量も無いし、領域にもいない。

 

コートニーも友達だから、何とかして止めたい想いはあっても結局は一夏に頼らざるを得ない自分が本当に嫌になる。

 

「何を悩んでいる、このままにしておく必要など何処にも無い。」

 

自己嫌悪に陥りつつあった俺を叱咤するかのように、背後から声が投げかけられた。

 

その声に振り向くと、透き通るような銀の髪を持った少年、火星からの客人であるアグニス・ブラーエが険しい顔で俺達の方に歩み寄って来ていた。

 

「ミナとの会談は終わったのですか?アグニス代表?」

 

オーブで知り合った一夏からの招待を受けて、ミナとの会談をセッティングしたらしいが、仲介人である彼が倒れてしまった今、ミナとの会談も短縮されたと言う事か・・・?

 

「アンタの方が歳は上だろう、堅苦しい言葉はいらないさ。」

 

「そりゃ助かる、慇懃無礼は肩が凝るんだ。」

 

一夏なら上手くやるだろうが、俺には出来てないな。

アグニスもそれを見越して、いつも通りで良いと言ってくれたんだろう。

 

「この機体には、一夏にはしてやられた、俺のデルタの3度の負けの、二回目を着けた奴だった。」

 

中破したストライクSの装甲に手を這わせながらも、しみじみと呟いた。

 

それだけ、彼の中でこの機体の印象が強かったのだろうか・・・?

 

「俺が負けたのは、一重に俺の未熟だが、この機体と一夏が負けたのは、相手が力量以上の性能を持っていた事に他ならん、そうでなければ、一夏が負けるはずなど無い。」

 

「それは・・・。」

 

純粋に驚くしかなかった。

俺達よりも遥かに短い関わりの中で、彼は織斑一夏の力量を、機体の凄まじさを理解していた。

 

「相手と同等の速ささえあれば、一夏は必ず勝つ、だが、彼は今それを準備できない、動けるのは、今起きてる俺達だけだ。」

 

「それは・・・。」

 

何か確信があるのか、彼は雄弁に語る。

 

一夏は強いと、何のためらいも無く、自分が見て来た織斑一夏を語り、彼が出来ない事、自分達が出来る事を口に出した。

 

「俺達は、一夏に力を与えてやれる、この機体を、新たに生まれ変わらせてやるんだ。」

 

「何・・・?」

 

一体何をどうするつもりなのだ。

ストライクタイプを新造する余裕はないが、改修にしても今手元にあるデータだけではそれも十全とは言い難いものが有った。

 

だから、そこからどうするべきなのか、今の俺には判別できなかった。

 

「簡単な事だ、俺のデルタからデータを提供する、そこから新しく機体を創ればいい。」

 

「なんだと・・・!?」

 

まさかの申し出に、俺は理解が追い付かなかった。

 

機体と言う事は、以前彼が乗っていたと言うデルタアストレイと、現在の機体、ターンデルタという事になるだろうが、それは、最重要機密と言っても過言ではないだろう。

 

それをこうも簡単に差し出すと言う事に、驚きを禁じ得ない。

 

何故、マーシャンの彼が一夏の為にこうまでしてくれるのか、その理由が分からなかった。

 

「俺は一夏に教わった、可能性と言うモノを、運命に縛られるだけでは無い、抗う事、手を携える事も教えてくれた。」

 

俺の驚愕に説明するように、彼はぽつぽつと語り始めた。

 

「だから、俺は負けても立ち直れた、彼の言葉と姿勢、そして、俺を支えてくれる仲間がいてくれたから、俺は前に進める、それは、一夏のお陰でもあるんだ。」

 

その瞳には、決して退かぬ強い意志と、願いだけが有った。

 

何を見据えているのか、何を想っているのか、まだ俺には窺う事は出来なかった。

 

「だから、俺は一夏に借りを返すだけだ、アイツを信じているからな。」

 

その言葉と同時に、彼は俺にメモリーディスクを差し出してくる。

 

そこに記されたデータとは、恐らく一夏が望み、実現させようとしたもの、其のモノだろう。

 

俺達がするべき事は、彼が帰って来た時に再び負けない様にしてやる事。

ならば、選択肢は自ずと決まってくる。

 

だから、俺は・・・。

 

「申し出、ありがたく受け取らせてもらう、一夏の為に。」

 

メモリーディスクをしっかりと受け取った。

 

立ち止まっていられないから。

必ず戻ってくると信じたアイツを、最高の状態で迎えるためにも。

 

「頼んだ、一夏によろしくな。」

 

それを見届け、アグニスは踵を返して、自身の仲間の下へ戻って行く。

 

彼の道を歩くために、その先で、一夏を待つために。

 

「ジャックさん。」

 

俺も負けてはいられない。

俺がやるべき事を思い出せ、この城と、一夏の為になる事を成せ。

 

それが、俺を突き動かしていた。

 

「ったく・・・!勝手に話を進めやがって・・・!やってやろうじゃねぇか、手伝ってもらうぜ中将殿!」

 

「承知しました、設計と開発を同時進行させます、部材の確保も進めておきます。」

 

「おうよ、それぐらいやってくれなきゃ、名折れだぜ!」

 

ジャックさんの意気に負けじと、俺も今まで以上に力を入れて事に臨む。

 

これが、俺の一世一代の大勝負だ。

 

一夏の影を超えてみせる。

俺が、俺として生まれ変わった意味を、今、見付けてみせると。

 

sideout

 

noside

 

『神谷卿、スタンバイ完了しました、いつでも始められます。』

 

それから二週間後、アメノミハシラにほど近い宙域に、その機体の姿はあった。

 

青く輝く地球を背に、白銀に輝くその機体に乗り込むのは、アメノミハシラ軍部中将、神谷宗吾だった。

 

「了解、システムの最終チェックに移る。」

 

アメノミハシラ管制室からの通信を聞きながらも、宗吾は自分の機体では無い、最強の機体のパラメーターを再び確認する。

 

その機体は、彼の友であり、この城の最強のMSパイロット、織斑一夏の為に用意された、新しいストライクだった。

 

「ストライクSを超えるストライク、か・・・。」

 

型式番号AS-GAT-X105S ストライクSⅡ

ストライクSで得たデータと、マーシャンより齎されたデルタ系列機のデータを基に作成されたMSだった。

 

先日の戦闘で中破したストライクSを修復、改修した機体であり、本体にもマイナーチェンジが施されている。

 

また、デルタアストレイから得た光推進システム≪ヴォワチュール・リュミエール≫を使用するために、ストライカーを新造、装備する事で最速のMSと化す。

 

更に、その性能を120%発揮する為、新型ストライカーにはNジャマーキャンセラー及び核エンジンを搭載し、推進剤さえ使わなければ実質無限に稼働させる事が出来る様になっていた。

 

今回は試験運転のため、武装類は全て取り払われているが、ストライクSからの変更点をあげるならば、レールガンとビームキャノンを取り払ったため、中距離射撃手段が無くなっている。

 

尤も、コンセプト的には撃たれる前に近付き、斬り伏せると言う事を定めている為、一夏の技量と戦闘スタイルを加味すれば、マイナスと取れる程でもなかったが・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

「フェニックスストライカー・・・、不死鳥、か・・・。」

 

そのストライカーが冠する名を呟き、彼は自分達のやっている事に自嘲せざるを得なかった。

 

一夏が蘇ると信じていても、それがいつになるかは分からない。

そして、蘇った彼に再び命を懸けさせると言う、何とも非道な行為を強いているのだから。

 

一夏に不死鳥と言う、死ぬに死ねない存在にしてしまいそうな自分達に、彼は昏い想いを抱いていた。

 

このまま、彼は目覚めない方が幸せなのかもしれない。

過去の苦しいトラウマからも、今の厳しい現実からも切り離された場所で、眠り続ける方が良いのかもしれない。

 

だが、そうだとしても、彼等には、宗吾にとっては一夏が必要だった。

 

世界の為でも、アメノミハシラの為でもない。

ただ、宗吾自身が、一夏と共に生きて行きたいと願ったからだ。

 

だから、彼は一夏に戻って来て欲しかった。

それが自己満足でしかなかったとしても、一夏に帰って来て欲しかったのだ。

 

「本当に戻って来てくれるなら、俺はこの機体を完全に仕上げてみせる・・・、俺なりの、一夏への想いだ・・・!」

 

だから立ち止まらない、その想いと共に、彼はストライクSⅡの操縦桿を握り締める。

 

「神谷宗吾、ストライクSⅡ、ミッションスタートだ!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

専用のポッドに収まったハロが駆れの指示に呼応し、機体のリミッターを解除していく。

 

その瞬間、機体の各所に設けられていた推進器が展開してゆき、ヴォワチュール・リュミエールの光が迸る。

 

動きを確かめるように機体を滑らせるが、その一瞬の加速は、これまでのMSを遥かに凌いでいた。

 

「ぐっ・・・!?な、なんて加速だ・・・!これはっ・・・!?」

 

自分の機体やヤタガラスのMA形態など比べ物にならない、自分自身が光になったような感覚だった。

 

だが、それとは対照的に、その身体に掛かる負担は凄まじく、宇宙空間での操縦にも拘らず、宗吾の意識を揺さぶってくる。

 

「くっ・・・!これはっ、うぉぉぉっ・・・!?」

 

ただ加速しつつ真っ直ぐ飛んでいるだけなのに、暴れ馬の様に跳ね回る感覚を抑える事が出来ず、宗吾の身体が大きく揺さぶられる。

 

呼吸が止まったと、彼が感じた瞬間、機体は弾かれた様に大きく軌道を外れ、コントロールを失う。

 

『緊急停止!緊急停止!!』

 

宗吾の意識が飛んだと判断したか、ハロがヴォワチュール・リュミエールによる加速を中止、何とか制動を掛けようとするが、その速度が緩まる事は無かった。

 

『神谷卿!応答してください!限界高度に近付いています!離脱してください!!』

 

管制室からの警告が飛び、このままでは危険だと伝えたが、宗吾からの返答は無かった。

 

意識がブラックアウトしたのだろう、機体は徐々に高度を下げて行き、大気圏への突入コースを突き進む。

 

如何にフルフェイズシフトしている機体とは言え、大気圏に墜ちて無事に済む程甘くは無い。

 

機体が重力に引かれ始め、落下の速度が上がって行く、一刻の猶予も無い、そう思われた時だった。

 

「う、おぉぉぉぉぉ・・・ッ!!」

 

一瞬の気絶から目覚めた宗吾は、唸り声をあげながらも、閉ざされていたヴォワチュール・リュミエール発生基を抉じ開け、一気に加速する。

 

制動を掛ける事もせず、只強引に上に昇ろうとする様な加速だったが、それでも本格的に掛かる前だった重力を振り切るには十分すぎる程だった。

 

徐々に高度が上がり、遂には安定軌道まで上り詰めた。

 

「ハァっ・・・!はぁ・・・!!」

 

機体が安定した事を確認し、宗吾は今度こそ制動を掛けて制止、試験終了の報告を入れて息を吐く。

 

彼の額には、酸欠によって血管が浮き出ており、尋常ではない程の汗がにじみ出ていた。

 

「なんて・・・、なんて機体だ・・・、俺には、俺には扱い切れるもんじゃないぞ・・・!?」

 

幾らG緩和剤を積んでいない状態だとしても、この加速に耐えきれる人間がどれほどいようか。

 

ナチュラルとは言え、転生して並のコーディネィター以上の身体能力を持つ彼でさえ、耐え切れずに一度は気を失い、大惨事の寸前までいってしまったのだ。

 

なんとか持ち直せたのは、一重に彼の常人離れした気力による物だろう。

 

だがそれでも、とてもではないが、人の手に余る機体と言っても過言ではないだろう。

 

「けど、これなら一夏は負けない・・・!きっと、コートニーも救えるはずだ・・・!」

 

だが、この暴れ馬を扱い切れるのは、一夏しかいないと理解していた。

 

彼ならば、この機体を十全に使いこなし、全てを救えると。

 

「だから、絶対に帰って来いよ、一夏・・・!もう一度、俺に光を見せてくれよ・・・!」

 

あの時、一夏に救われた時に見えた光、それを再び彼が見せてくれる事を信じ、宗吾は機体をアメノミハシラに戻した。

 

きっと、彼が帰ってくると信じて・・・。

 

sideout

 




次回予告

罪と罰、慰めと安らぎ。
その狭間で惑う魂は、何処へ向かうのだろうか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

闇と光

お楽しみに
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