機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「まだ、一夏の意識は戻らない、か・・・。」
アメノミハシラ内の病室の一角、その内の取り分け広めに誂えられた個室を訪れた宗吾は、そこで眠り続ける友へ憂いの視線を向け、歯がみしながらも呟いていた。
プラントとの裏取引で入手したであろう再生治療技術と、オーブが元々持っていた義肢技術を用いたため、身体の傷は深すぎたモノを除けばほとんどが塞がり、再生治療で戻せなかった右腕はロボットアームを用いた義手が新たに設けられていた。
だが、それでも人工呼吸器を外す事は叶わず、今でも生きているのか死んでいるのかも分からぬ状態が続いていた。
既に一夏が倒れて2ヶ月近くが経とうとしていたが、彼が目覚める気配は一向に無く、寧ろ、その魂さえ感じる事が出来ない程に、眠りは深かった。
彼の妻であるセシリアとシャルロットは、表面上は大幹部としての立ち振る舞いをしていながらも、目に見えて気落ちしている事が窺えるほどだった。
彼女達もまた、一夏に依存していたのだろう、その憔悴っぷりは、宗吾自身見ていてつらいものが有った。
「何処にいる・・・、一夏・・・、俺の声、聞こえてるだろ・・・?」
ベッドサイドに備え付けられた椅子に腰掛け、宗吾は目の前に横たわる彼に声を投げた。
お前は今、何処で何をしているのだと。
自分の声が聞こえているのならば、答えて欲しいと。
彼が倒れてから、宗吾は彼に代わってアメノミハシラの運営を行っていた。
ロンド・ミナは彼が倒れて間も無く、再び地球へと降り、幹部を除いたMS隊の数名を連れて天空の宣言の名の下に活動を行っていた。
そのため、実質今のアメノミハシラを管理し、護っているのは宗吾に他ならなかった。
だが、所詮宗吾はスーパーエースとは言え一介のパイロットでしかなかった。
一夏の様にパイロットでありながらも、指導者の如く政治策略を熟し、尚且つ関わる者全てに影響を与えるカリスマ性を、彼は持ちえていなかった。
それを承知の上で、彼はこの一か月半以上の時間を、アメノミハシラの幹部としての務めを行ってきた。
しかし、それも限界に近付いて来ていた。
この城に使える者達が望む指導者の姿はロンド・ミナか、一夏を捉えており、その能力を求めていた。
故に、彼は次第にプレッシャーに押し潰されそうになって行った。
自分は一夏の様にはなれない、結局自分が出来る事は命令を受けて戦う事だけだった。
命令を出す立場になって初めてその責任の重さと難しさを痛感し、自身にその適性が無い事も理解した。
「一夏、お前はすげぇヤツだよ、だから、もう一度俺にその凄さを見せてくれ。」
そして、それと同時に一夏の偉大さも理解出来たのだ。
どれだけ苦しんでいても、どれだけ傷付いていても、誰かの為に戦おうとしていたその偉大さに、彼は何時の間にか惚れ込んでいた。
故に、彼は望む、その偉大な男の下で働く事を。
喩え、誰に何と言われようとも、この生涯を彼に仕える事で捧げる事も厭わない、その覚悟が出来ていた。
その覚悟を胸に、仕事に戻るべく席を立とうとした。
正にその時だった。
城内に敵の接近を告げる警報が鳴り響き、メディカルフロア周辺も慌ただしい気配が包んで行く。
「こちら神谷、管制室、何が有った?」
何時もの様に海賊が攻め込んで来たのだと感じた宗吾は、内線を掴んで管制室を呼び出す。
何も慌てる事は無い。
ただ、何時もの様に対処するだけ。
そう思いながらも、彼は管制室からの返答を待った。
『連合軍らしき艦艇を確認!あと十分で会敵します!』
「了解、すぐに行く!」
受話器を置いた彼はすぐさまマントをその場に脱ぎ捨て、何時でも出撃できるようにしていたのだろうか、パイロットスーツ姿となって部屋を飛び出そうとした。
だが、何か思う処でもあったのか、出口の所でいったん立ち止まり、背後を見た。
その視線の先には、先程と変わらずベッドに横たわる一夏の姿があるだけだったが、彼はその姿を一瞬見詰め、改めて病室を出た。
彼を護る、それが宗吾の固めた決意そのモノだったに違いない。
だからだろうか。
彼は気付けなかった。
一夏の腕が微かに震えた事に、端正なその顔が、僅かに顰められた事に・・・。
sideout
noside
「各機、合戦用意!一機たりとも欠けてはなりません!!」
『了解!!』
一夏の眠る病室から走って格納庫に辿り着いた宗吾の耳に飛び込んで来たのは、部下に戦闘準備の号令を繰り出すセシリアの気丈な声だった。
そこに動揺や、夫の事を案じ不安がる様な気色はなく、ただただ純粋に、対象として自分のやるべき事を見据えていた。
そんな彼女の号令に、MS隊のパイロット達も表情を引き締め、自身の役目を全うすべく声をあげ、自分達の機体の下へと走って行く。
「セシリア。」
「宗吾さん・・・。」
宗吾は、グレイシアの下へ動こうとしていた彼女を呼び止めた。
もう大丈夫なのか、その言葉を呑み込み、彼は口を開く。
「勢いは大事だが気負いすぎるな、・・・って言っても、経験浅い俺がいう立場じゃないよな。」
少しでも気を紛らわそうとしたのだろうか、彼は苦笑しながらも言葉を紡いだ。
「御心配、お掛けします・・・、ですが、戦うべき時には戦わなければなりません・・・。」
「そうだな・・・。」
見透かされたと思ったか、彼女の表情は翳り、声のトーンも僅かに墜ちていた。
やはり、夫の事を案じているのだろう、その心中は察する事が出来た。
それを察し、彼は頷きながらも周囲の、幹部クラスの者達の乗機が置かれている区画へ目をやる。
既に先発隊としてバスターイグニートが出撃しており、その後に出撃を予定しているイージスシエロとプロトセイバーが今まさにカタパルトへと足を進めようとしていた。
皆、精神的支柱である一夏を欠いた状態で戦いに赴こうとしているのだ、それなりに気負っている者も中には居るだろう。
だが、今のアメノミハシラのトップの代理である幹部達の肩に掛かるモノはそれ以上だった。
部下の命もアメノミハシラそのものも護らなければならない。
それを、最大戦力2名が欠けた今の状態でどこまでやれるか、そんな不安要素が更にその重圧を重く感じさせていた。
「それでも、俺達は立とう、アイツが帰って来た時、笑って出迎えられる様に。」
しかし、宗吾はそれでも前を向いていた。
今がどれだけ苦しくても、それは何時か終わる時が来る。
その終わりは、一夏が帰ってくる時にこそ訪れると。
ならば自分達はそれまで歯を食いしばり、この城を護り抜くのだと。
宗吾は、その覚悟をセシリアにぶつけていた。
自分より一夏との関係が深く長い彼女に宣言しても、鼻で笑われるだけと想ってはいたのだろうが、その目は真剣そのものだった。
「本当に・・・、頼もしい御方ですこと・・・。」
彼のその強さに、セシリアは柔らかく微笑みながらも呟いた。
自分達を追い掛けていた者が、何時の間にか自分を追い越していた。
それを今、彼の目を見て悟ったのだろう。
「参りましょう、私達の家を護るために。」
「あぁ!」
その言葉で決心がついたか、セシリアは強い意志をそのサファイアを思わせる瞳に浮かべ、宗吾に促す。
それを受け、彼もまた愛機の下へと走る。
コックピットに滑り込みながらも、瞬く間に機体を立ち上げていく。
「システムオールグリーン!!管制室、出るぞ!!」
『了解しました!スキアー、カタパルトへ!』
管制室からの指示を受け、彼は愛機、ブリッツスキアーを動かす。
最早迷いは無い。
あの日、一夏に誓ったその日から、自分がこの城を護り切ると。
誰も死なせない。
彼の唯一無二たる、絶対の信念だった。
『進路クリアー!発進どうぞ!!』
『了解!神谷宗吾、ブリッツスキアー、行くぜっ!!』
決然たる意志を籠め、仲間を護る影たる機体は漆黒のボディを煌めかせて宙へと駆った。
彼が戦場に出て時には、既に戦端は開かれている様だった。
ズーム機能で追った先を駆けるイージスシエロとプロトセイバーが敵の中枢へと斬り込み、敵の連携を掻き乱している様子が窺う事が出来た。
流石は攪乱戦法を得意とするだけはある。
機動力を売りとする可変機の面目躍如と言った様子だった。
自機のすぐ脇を見れば、バスターイグニートも最終防衛ラインで待ち構えるように陣取り、長距離攻撃による支援射撃を行っていた。
その射撃や砲撃のすべてが正確無比で、突っ込んでいった斬り込み隊には掠めることなく、敵のMS隊を次々に撃ち落としていた。
いくら精神的に参っていても、その腕はスーパーエース級、並の腕前ではその懐に入る事さえできないと思わせるほどの圧があった。
『負けてられんな!俺も行くぜ!!』
仲間にばかり戦わせているわけにもいかない、自分も戦う。
宗吾の掛け声とともに、ブリッツスキアーのスラスターが唸りをあげ、一気に敵MS隊へと機体を奔らせる。
彼は仲間達が張る厚い防衛網を必至の思いで抜けてきた敵を一機ずつ、的確に処理していく。
数は前衛が減らしてくれている。
ならば自分は焦らず、堅実に敵を討てばいい。
その思考の下、彼は仲間達に気を配りながらも戦い続けた。
少し遅れて、ヤタガラス5機を従えたデュエルグレイシアも戦闘に参加、押し寄せる連合軍MS隊と交戦、圧倒的とも取れる勢いでダガーLやウィンダムを主体とする敵を、的確に撃退していく。
ソードドラグーンを巧みに操るセシリアの腕に掛かれば、一般的なパイロットなど最早相手にもならないと言わんばかりの、まさに無双状態とも言える活躍だった。
如何に物量で勝っていようとも、MS隊の練度や質で勝るアメノミハシラは簡単には落ちぬ。
その戦ぶりが、何よりも雄弁に物語っているのだった。
彼等の気迫に押されたからか、敵MS隊は徐々に散り散りとなり、撤退して行くかのように見えた。
それを見たアメノミハシラMS隊は気を緩める事は無くとも、勝利を確信していた。
何時もの様に、このまま押し勝つ、彼等がそう思った時、それは現れた。
ブリッツスキアーのコックピットに、突如としてアラートが鳴り響く。
「ロックオンされた・・・!?まさかっ・・・!?皆避けろォォォ!!」
長距離砲撃に狙われていると瞬時に悟った宗吾は、自軍の全MS隊に回避を促しつつ、ブリッツスキアーのスラスターを強引に吹かす事で射線から逃れようと動く。
その刹那、漆黒の闇を切り裂き進む、大出力ビームが迸り、彼等が居た空間を焼いて行く。
「なんて火力・・・!?」
「ローエングリン・・・!?いや、違う・・・!!」
敵MS隊の編隊からではの攻撃では無い事は、その直中で戦っている玲奈とリーカが一番解っていた。
同時にそれは、MS単体が携行できる火力では無い事も理解し、ローエングリンやそれに準ずる艦砲だと当たりを着けていた。
だが、テストパイロットとして様々な機体や武装、艦船を見て来たリーカはそうではないと愕然とした。
艦砲であるならば、そこには必ず何隻もの艦船で構成された艦隊がいる筈であり、そこから放たれたものであるならば、それは発射地点が幾つも存在するはずだった。
だが、今の攻撃は見間違えでもなんでもなく、一点から放たれていた。
それが意味するところは、今の攻撃が単機によってなされた事だと言う事・・・。
「連合の新型・・・!?」
それに辺りを着けたセシリア達もまた警戒態勢に入る。
何が出て来ても、誰一人死なせない為に・・・。
そんな彼等をあざ笑うかのように、それはその姿を現した。
「な、なに・・・!?」
突如として太陽光を遮るかのように差し込んだ影に、シャルロットは驚愕の声をあげ、それを凝視する。
並のMSの何倍もの巨体と、相手を威圧する禍々しいまでの黒、それはまるで、要塞とも、死神とも取れる風体だった。
「こいつは・・・!MA・・!?」
戦慄する彼等の前で、その巨体は全身から強烈なビーム砲撃を開始する。
「ッ・・・!全軍回避!!」
宗吾の指示よりも早く動いていたエース級は何とか被害を免れたが、避けきれなかった機体がそれに巻き込まれ、爆発光を散らした。
「あぁ・・・!?」
仲間が討たれた事に、宗吾はショックを隠し切れずに叫ぶ。
誰一人死なせない、そう誓ったはず菜なのに護れなかった・・・。
無力さと怒りが、彼の中で渦巻いていた。
「ッ・・・!幹部全機!!あのデカ物を俺達で抑え込むぞ!!」
『り、了解・・・!!』
宗吾の指示に、セシリア達幹部勢が受け持っていた敵部隊から離れ、黒い死神に向かって攻撃を開始する。
自分達でコイツを惹きつけなければ、アメノミハシラ自体が墜とされてしまう。
肌でそう感じ取ったからこそ、行かねばならないと悟ったのだ。
「か、神谷卿・・・!」
「我々も・・・!!」
ガルドとファンファルトが援護に来ようとするのを、宗吾は制止する。
「来るな!コイツは俺達に任せて、お前達は他の者を援護してくれ!!もう誰一人しなせない・・・!」
誰一人死なせない為に、このデカブツは自分達が抑える。
自分達に次いで力のある者には、他の誰かを護れる様にしてほしい、彼の心からの願いが、その言葉には滲み出ていた。
「りょ、了解・・・ッ!!」
「御武運を・・・!」
自分達では及ばないと解っているからこそ、彼等は唇を噛んで、それでも自分達がすべき事の為に戦線へと戻って行く。
護るために。
この場に居ない者達の為に、この城を墜とさせはしないと・・・。
「行くぜ・・・!」
愛機のスロットルを全開にし、彼もまた仲間達と共に悪魔へと挑んで行く。
護るため、もう誰も、失わない為に・・・。
sideout
次回予告
薄れゆく意識の中、彼は嘗ての自分を見詰めていた。
それは、彼に何を齎すと言うのだろうか・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
想い
お楽しみに