機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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シクザール

noside

 

「戻って・・・、来た・・・!!」

 

誰が発しただろうか、その歓喜に染まった声は、今この場にいるすべてのアメノミハシラを護る者達の心情そのものだった。

 

今も、あわや撃墜となる所だったブリッツスキアー、宗吾の窮地を救い、眩いばかりの光を纏って降臨した機体に、彼等の目は釘付けとなっていた。

 

「皆、待たせたな。」

 

その機体に乗る男、織斑一夏は以前にも増して凄味のある、どこか優しい声で宣言する。

 

待たせてしまったなと。

彼なりの言葉で、自身の帰還を仲間達に告げた。

 

「一夏・・・!お前っ・・・!」

 

一番近くにいて、護られた宗吾は歓喜のあまり嗚咽混じりに彼を呼んだ。

 

今迄床に臥せっていた彼が、今まさに目の前に立っているのだ。

彼にとっては、願ってやまぬ事だったのだ。

 

「心配かけたな宗吾、もう大丈夫だ。」

 

泣きそうな宗吾に、一夏は優しい声色で告げた。

 

案ずるなと、俺は此処に居ると。

 

「ッ・・・!!」

 

彼の言葉に、緊張の糸が解けたか、宗吾の頬を涙が伝った。

 

負って来た荷が下りた事に対する安堵では無い。

彼が帰って来た、ただそれが心の底から嬉しかったのだ。

 

「一夏様・・・!」

 

「一夏・・・!!」

 

「アンタ・・・!遅いじゃないのよっ・・・!!」

 

宗吾の無事と一夏の帰還を知ったセシリア達が、泣いている事がハッキリと判る声色で呼びかけながらも彼等に寄って来る。

 

帰って来てくれたのか、その想いが、三人からは滲み出ていた。

 

「一夏っ・・・!」

 

その輪に、リーカは入る事を躊躇ったか、少しだけ離れた場所から声を掛けた。

 

無理も無い。

自分を庇ったせいで、一夏は一時生死を彷徨うまでに陥ってしまったのだ。

 

どんな顔をして、どんな風に接すればいいのか分かった物では無かった。

 

「リーカ、君が無事で良かった。」

 

「ッ・・・!!」

 

どんな言葉が彼の口から飛び出すか、恐怖で身構えていた彼女に掛けられた言葉は、罵倒でも叱責でも無かった。

 

ただ純粋に、リーカの無事を喜ぶ、何処までも穏やかで優しい声だった。

 

責める事も無く、彼は只只管に、仲間を、友の身を案じていたのだ。

 

その優しさと想いの強さに打たれ、リーカは声にならない叫びをあげ、さめざめと泣いた。

 

今が戦闘中である事も忘れ、彼女達は一夏の帰還を心の底から喜んでいた。

 

だが、感動の再会に水を刺す、と言ったところだろうか、デストロイが再び動き出した。

 

各部砲門を開き、図らずも密集していた彼等を狙う。

 

致死の光条が降り注ぎ、彼等を焼き尽くさんと迫る。

 

だが、その全ては、矢面に立つストライクが纏う光に阻まれて霧散するばかりだった。

 

「フェニックスストライカーを完全にモノにしてやがる・・・!俺なんて動かすだけで精一杯だったのによ・・・!」

 

その光景に、宗吾はまたしても驚愕の声をあげる。

 

ノーモーションで、更に言えばぶっつけ本番で操縦しているにもかかわらず、一夏はそれを何の苦も無く扱って見せた。

 

テストパイロットを肩代わりした宗吾でさえ、50%ほどの稼働率しか出せなかった装備を、彼は完全にモノにしていたのだ。

 

「なるほど・・・、このストライカーは良い性能だ、ぶっつけ本番で上手くいくとは思わなかったが、上出来だ。」

 

自分でも予想以上に上手くやれたと言った風な一夏だが、その声に揺らぎは一切なかった。

 

やってやる、そう言わんばかりの強い意志が光っていた。

 

「だが・・・。」

 

「ど、どうした・・・?」

 

だが、何処か不満げ、とまでは言わないが、困った様な声色で言葉を発する彼に、宗吾は戸惑いの声を掛けた。

 

今のストライクに何か文句があるのか、若しくはそのほかの不満か・・・。

それに皆目見当も着かなかったのだ。

 

「フェニックス、という名は俺には少々大袈裟過ぎないか?肩が凝りそうだ。」

 

「そこかよ・・・!そんなもん後でジャックさんにでも言えよ・・・!」

 

こんな時に何を言ってるんだと、宗吾は一夏の発言に突っ込んでいた。

名前が仰々しいなど知った事じゃないし、後で幾らでも文句言えと、そう言ってやりたいほどだった。

 

「ふむ・・・、ハロ、ストライカーのネーミングチェンジだ。」

 

暫しの逡巡の後、何かを考え付いたのか、彼はハロに命ずる。

 

「フェニックスの名を削除、このストライカーの名は、シクザール、運命だ!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!ウンメイヲキリヒラケ!!』

 

独語で運命を意味する言葉、シクザールの名を冠した翼は雄々しく輝きを放ち、宙を包んで行く錯覚さえ覚えさせる程に広がって行く。

 

「これは・・・、ヴォワチュール・リュミエールの光・・・!」

 

「何と美しい・・・。」

 

その光景は戦闘中という事を忘れさせる程に美しく、まるでオーロラと見紛う程の勇壮さを持っていた。

 

「行くぞ、各機俺に続け!!」

 

その言葉と共に、一夏はストライクSの背よりアスカロンの改修型を抜き放ち、それを天高く掲げた。

 

それを旗とし、戦いに赴く騎士の如し勇ましさを持って。

 

「織斑一夏、ストライクシクザール!行くぜ!!」

 

迷いの無い、真っ直ぐな宣誓と共に、一夏は愛機を奔らせた。

 

光を纏う白銀の機体は、撃ち掛けらっる光の矢を全て無効化しながらも突き進んで行く。

 

接近させんと言わんばかりに、デストロイは全身の火器砲門を開き、ストライクシクザールに撃ち掛けた。

 

どれもが艦砲かそれ以上の威力を持っており、その数は避ける隙間を与えんと言わんばかりに密集し、まさに壁と呼ぶべき密度を持って迫った。

 

だが、その悉くを、ストライクシクザールは僅かな動きで回避し、掠めただけで蒸発してしまいそうな火力も、纏った光のオーラで威力を無効化していた。

 

その光景は、あたかも存在しない存在、ファントムを連想させる動きだった。

 

「デストロイだったか・・・、直撃だけは避けたいが・・・、杞憂だな。」

 

コックピットに座る一夏は、野獣の如き眼差しを湛えた戦士の顔になっており、一切の油断もよどみもなく、その攻撃を完全に見切った上で、最大加速のままデストロイに肉薄していく。

 

今迄の彼ならば、避ける事は出来たとしても、今ほど余裕の表情を浮かべてはいないだろう。

 

だが、今の彼には、目覚める前には失われていた力が戻っていた。

 

本当の意味で歩みを進める勇気と、生きると言う強い意志、その二つが彼を、彼の想いから呼び起こされる力を後押ししていた。

 

「ハロ!リュミエールユニット解放!!隙を作るぞ!!」

 

『タメシテガッテン!!』

 

機体を完全に我が物とするために、一夏はハロに機体に搭載されている機能の開放を指示する。

 

その指示に従ったハロの操作で、機体各部の装甲が展開、眩いばかりの光が溢れ出していく。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!」

 

それは、宗吾が機動試験時に発動した加速用ヴォワチュール・リュミエールの発現であり、その超加速を使用するという事だった。

 

転生者であり、尚且つ高い身体能力を持つ宗吾でさえ一度はブラックアウトし、あわや大惨事に陥りかける程、掛かる負担が凄まじいそれを、彼は傷の癒えぬその身体で扱うつもりだった。

 

自殺行為としか思えないそれでも、彼は止まる事をしなかった。

 

「行くぞ!!』

 

一夏の掛け声と共に、ストライクSⅡが光に包まれ、その輝きを保ったまま一気にデストロイへと迫っていく。

 

その勢いは凄まじく、コーディネィターでさえ捉えきれないほどだった。

 

いや、見えていないわけではない。

むしろその逆だった。

 

「な、なんだ・・・!?」

 

その光景に、動けないブリッツスキアーのコックピットに座する宗吾は、驚愕の呟きを漏らす以外なかった。

 

何せ、ストライクSⅡの姿が、まるで分身したかのように無数に見えていたのだから。

 

「これは・・・!?」

 

セシリアやシャルロット達もまた、目の前で起きている現象が理解できなかったのだろうか、ただただ、呆然と、その光景に見入ることしかできなかった。

 

「もしや、残像が・・・!?」

 

だが、よくよく考えてみれば、それは分身ではなく残像を生み出しているということに気付くことができるのも、彼女達が歴戦を乗り越えた猛者である証明であった。

 

理屈としては簡単なことだった。

残像を生み出せるほど早く動き回る、これを何度も繰り返している事にほかならなかった。

 

残像とは、人間の目が捉えた光景が脳に伝達される際に、光が投影される網膜に映し出された光景が残ったように見える事を指す。

 

だが、その光景が残るのもほんの一瞬、眼球を動かしただけで次の光景と入れ替わるほどの短い間だけだ。

 

それを継続して見せ続けるなど不可能であるはずだった。

 

しかし、今、彼らの目の前に展開するストライクSⅡの残像は消えることなく、更にその数を増やしていくようにさえ見えていたのだ。

 

それには、一つのトリックがあったのだ。

 

フェニックスストライカー改め、シクザールストライカーにはミラージュ・コロイドを散布する機能が備わっており、主に高稼働時に機影をダブらせて敵に視認させる効果を発揮する。

 

だが、それも並のパイロットが扱えばただの残像にしかならない程度の効果であり、機体の姿そのものをその場に残す様な効果は無い。

 

つまり、今の一夏が行っている現象は、尋常ではない程の超高速で動き回りつつミラージュ・コロイドを散布、そこに機影を映し出す事で無数に分身を造りだしていると言う事だった。

 

「コイツは、キクなぁ・・・!!」

 

だが、それは同時にパイロットである一夏自身の身体も、急加速に伴うGによるショックを受け続けているも同然だった。

 

完全に塞がり切っていない傷が開き、白いパイロットスーツを血で染めていく。

その量は尋常では無く、普通ならば既に戦闘を継続できるレベルでは無かった。

 

相当な痛みと圧迫感が今の彼を襲っている筈だった。

 

それでも、彼の瞳から光が消える事は無かった。

必ず勝つ、そして護る、ただそれだけの想いが、彼の身体を、闘志を駆り立て続けていた。

 

その気迫に呑まれたのか、デストロイは先程までの勢いは何処へやら、手当たり次第に攻撃を繰り返すが、そのどれもが作り出された残像を貫くばかりで、本物に掠める気配は無かった。

 

「今だぁ!!」

 

しかし、それは一夏が作り出した隙に過ぎないのだ。

 

「クリスタロス!!」

 

セシリアの駆るデュエルグレイシアが操るソードドラグーンが、デストロイの腕の先端、ドラグーンと成り得る箇所を切断、その攻撃を封じ込める。

 

「二の矢!!」

 

「三の矢っ!!」

 

武装が破壊された事に怯んだその一瞬の隙を狙い、イージスシエロとプロトセイバーが上空より急降下、それぞれのビームキャノンを撃ち掛け、間合いに入った瞬間にMS形態に変形、ビームサーベルを抜き放ってその両腕をそれぞれ両断した。

 

如何な重装甲でもあろうとも、少しでも綻びがあれば容易く両断出来る。

彼等ならば、意志を一つとした今の彼等ならばそれを成せたのだ。

 

「最大出力・・・!!いっけぇぇぇ!!」

 

後方に控えていたバスターイグニートもまた、連結させた大火力ビームライフルを構え、デストロイの主砲にも劣らぬエネルギーをチャージ、一気に放出する。

 

その奔流は留まる事を知らずに宙を駆け、デストロイの頭部を跡形も無く消し飛ばした。

 

攻撃手段の大半を無効化し、デストロイは完全に狼狽えたか、それとも最後の足掻きか、胸部砲門にエネルギーを収束させていく。

 

避ければアメノミハシラに当たり、被害を齎すそれを、何としてでも防がねばならない。

それが、今この場で戦う者の総意だった。

 

「いけっ・・・!一夏ぁ!!」

 

だから、宗吾は一夏に向けて叫んだ。

お前がトドメを刺せと、その手に勝利を掴んでくれと。

 

「オォォォォォッ!!」

 

唸り声のような叫びと共に、ストライクシクザールは保持する対艦刀を突き立てんと、猛然とデストロイに迫って行く。

 

最早、分身の様な小技は必要なかった。

彼は、彼の想いを受けて羽ばたく翼と、その手に握った剣で、この戦を終わらせる腹積もりだった。

 

『――――――ッ!!』

 

だが、デストロイもむざむざ撃墜されてやる訳にはいかないと、最後の足掻きと言わんばかりの不気味な駆動音をあげ、胸部砲門より致死の奔流を放ったのだ。

 

その奔流は猛然と突き進んでくるストライクシクザールが展開する光の壁、リュミエールユニットより展開されるアルミューレ・リュミエールの輝きにぶち当たり、拮抗する。

 

その威力は凄まじく、如何に光のオーラを纏うストライクシクザールでさえ、その足を止められている程だった。

 

「俺は・・・!負けない・・・!!今度こそ、生き抜いてみせる・・・!!」

 

だが、そんな状況でも一夏は勝利を、生きる事への渇望を滾らせ、更に操縦桿を押し込んだ。

 

その強い意志を汲み、ストライクもまた主と共に在る為に咆える。

 

光の翼が雄々しく開くと同時に、ストライクSⅡ本体に設けられていたリュミエールユニットが展開し、その光を更に強いものへと発展させていく。

 

それはまるで、ストライクシクザールやデストロイだけでなく、この宙域にいるすべてを呑みこまんとどんどん広がっていく。

 

その光は、拮抗していたはずの大出力ビームの奔流を徐々に押し返し、一歩、また一歩とストライクSⅡとデストロイの距離を縮めていく。

 

その速度も、最初は微々たるものだったが、それも少しずつ、大きく前進していた。

 

立ち止まらない、それが、今の一夏が抱く覚悟を表していたのだ。

 

完全に大出力ビームがかき消され、間合いがゼロになったその瞬間、ストライクシクザールの両腕に握られたアスカロン改の剣戟が閃いた。

 

その剣戟はデストロイの分厚い装甲を、まるで豆腐でも切るかの如く、容易く両断せしめた。

 

純粋な対艦刀の威力ももちろんあったが、それ以上にそれを操る一夏の、達人級の腕前がなければ成せぬ技だった。

 

だが、それでも、所詮その技は相手の生殺与奪を握るものでしかない。

そんなことは百も承知、それでも彼は・・・。

 

「お前の命、この場で刈り取らせてもらう・・・、だが、決して忘れはしない。」

 

閃光を散らし、成層圏に落ちながらも爆散していく黒の巨兵に、正確にはそのパイロットである者へ、一夏は敬礼を送る。

 

自分が生きるために、仲間を護るために、自分は敵となったその者を討った。

 

それは、何事にも換えられぬ事実であり、罪を重ねたことに等しかった。

 

「生きるために命を奪うことが、戦うことが罪であるというならば・・・、俺が背負ってやる。」

 

だが、それでも、彼は敵である者への敬意と罪を忘れぬと誓った。

そして、それを背負い、生きるために進んでいくと。

 

デストロイが完全に沈み、戦闘不能となった所で、連合軍は自軍の敗北を悟ったのだろう、幹部を除くアメノミハシラ防衛隊と交戦していたMSが戦意を失ったかのごとく、一斉に撤退して行く。

 

その様はまるで流星群の様な美しさを以て、アメノミハシラの防衛が為された事と、そして、最強のMS乗りの帰還を歓迎していた。

 

「皆、勝鬨を挙げろ!!俺達の勝利だ!!」

 

自分達の勝利を宣言し、彼はアスカロン改を高々と掲げた。

 

彼のそれに倣い、アメノミハシラのパイロット達は皆、ライフルやサーベルを掲げ、通信機越しに勝鬨を叫んだ。

 

自分達の勝利を、生を、心の底から歓喜していると言わんばかりに。

 

「全機撤退、整備班に仕事させるぞ!」

 

『了解!!』

 

一夏の命令に、部下達は一瞬の遅れも無く返し、一機、また一機とアメノミハシラへと戻って行く。

 

幹部達もまた、それを見届けてから一人ずつ、自分達の家へと戻って行った。

 

「宗吾、俺達も戻るぞ。」

 

「あぁっ・・・!」

 

ダメージで動けないブリッツスキアーを牽引し、一夏もまた、宗吾と共に家へと戻って行く。

 

これまでとは違う、新たな一歩を、誰かと共に踏み出すために。

失ったものを、もう一度掴むためにも・・・。

 

sideout




次回予告

一夏の帰還に湧くアメノミハシラだったが、まだ、一夏自身の戦いは終わってはいなかった。
共に歩む者達の為に、彼は自身の過去と、今一度向き合った。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

嘗ての友へ

お楽しみに
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