機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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嘗ての友へ

side宗吾

 

「一夏・・・!!」

 

アメノミハシラに帰還した俺は、中破した愛機の電源を落とす事さえ忘れて、俺を牽引してくれたストライクSⅡの下へ走った。

 

今、目の前にある光景が嘘では無い事、それを確かめる為に・・・。

 

見れば、セシリアやシャルロット達、城に仕える皆も、俺と同じ様に白銀の機体に駆け寄って来ていた。

 

皆、信じる彼の帰還を歓び、そして迎えたかったんだ。

 

そんな俺達の目の前で、ストライクSⅡのコックピットハッチが開き、中から白いパイロットスーツを纏った男が姿を現した。

 

足取りがおぼつかないのか、彼はよろめきながらも腹部を抑え、何とか右手で降下用のラダーを掴んでいた。

 

見守る俺達の目の前で、彼はゆっくりと降りてくる。

 

以前着ていた、何処か黒が混じった様なパイロットスーツでは無い。

傷から溢れ出す血で、紅に染まった純白のパイロットスーツを纏った彼は、俺達の前に降り立った。

 

『ッ・・・!!』

 

歓喜と感涙に混じった興奮に息を呑む俺達の前で、彼はヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

癖のある黒髪、切れ長の瞳から覗く黒曜石の様に輝く瞳、見る者を惹きつけてやまない野性味溢れるその顔立ちは、病み上がりな事もあってか青ざめてはいたが、そこから感じられる力強さは倒れる以前よりも遥かに増していた。

 

「ただいま、皆。」

 

泣きたいのか笑いたいのか分からない様な顔を、俺達は彼に見せていたのだろうか、一夏は少しだけ困ったようにはにかみながらも、自分の帰還を俺達に告げた。

 

「ッ・・・!一夏、さまぁ・・・!!」

 

「一夏ぁぁ・・・!!」

 

誰かが口を開くより早く、彼の妻であるセシリアとシャルロットが彼に跳び付くように抱擁を交わしていた。

 

「セシリア・・・、シャル・・・、心配かけてごめんな、もう、大丈夫だよ。」

 

まだ完全に体力が戻っていないのか、二人を抱き留めた際に少しよろめいていたが、彼は優しい声色で囁いた。

 

もう大丈夫、もうどこにもいかない。

そんな強い想いが、ひしひしと伝わってくる様だった。

 

「ホントよ・・・!心配、したんだからっ・・・!」

 

玲奈も、涙をうっすらと浮かべており、リーカは声を押し殺して泣くばかりだった。

 

かくいう俺も、今なんて声を掛ければいいのか、自分がどんな顔をしているのかさえ分からなかった。

 

笑って出迎えたいはずなのに、どういう訳か、涙が零れそうになっていた。

 

「宗吾。」

 

そんな俺に、抱擁を解いた一夏が歩み寄ってくる。

 

湛える笑みは柔らかく、今まで何処かに感じた影を感じ取る事は無かった。

 

「一夏っ・・・!」

 

そんな彼に、俺は賭ける言葉が見付からなかった。

 

たった一言、御帰りと言ってやれればいい。

それ以上の言葉なんて無い筈なのに・・・。

 

「気苦労をかけたな、ありがとう。」

 

まだ言葉を出せない俺を、一夏は左腕で抱き寄せ、ありがとうと口にする。

 

その瞬間、俺の中で何かが切れたのか、涙が止め処なく溢れ出してきた。

 

彼の代わりを務めなければと、俺が皆を引っ張らないといけないと気負っていた物が、今の一言で報われた様なきがしたから・・・。

 

「信じてたぜ・・・!お前が帰って来てくれるって・・・!!」

 

彼の身体を抱き返す。

もうどこにも行くなと、戻って来てくれて嬉しいと、言葉よりも何よりも、ずっと強く訴える為に。

 

「あぁ、もう大丈夫だ。」

 

そんな俺に、彼は何よりも強い言葉で返した。

もう大丈夫、その言葉は何よりも、信ずるに値する強さがあった。

 

だが・・・。

 

「うっ・・・。」

 

それでも彼の身体は限界に近かったのだろう。

彼の膝が折れ、その身体が倒れそうになった。

 

「一夏っ・・・!!」

 

慌ててその身体を抱き留めるが、彼の身体は力なく倒れ込んでいく。

 

見れば、彼の腹部や右肩からの出血が一層酷くなっており、意識を保っていられなかったのだろう。

 

「おい・・・!しっかりしろ・・・!」

 

「ジャックさん!!医療班を早く・・・!!」

 

「お、おうよ・・・!!」

 

悲鳴のような叫びと共に医療班を呼ぶ。

 

「まだ・・・、死んでねぇよ・・・。」

 

「あぁ喋んな・・・!!早くストレッチャー!!」

 

なんとか動こうとする一夏を抑え、飛んでくるようにしてやって来たストレッチャーに寝かせた。

 

そのまま、彼が何か言おうとするよりも早く医務室へと運ばれて行った。

 

まるで嵐のような怒涛の勢いに、俺達は何故かジェットコースターに乗せられている様な心地だった。

 

でも、それでも心は今までにないほどに穏やかだった。

 

だって、俺達のリーダーは、帰って来てくれたんだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ん・・・。」

 

微睡から目覚め、一夏の意識は覚醒した。

 

「俺は・・・。」

 

自分は一体どうした、そんな困惑が感じ取れた。

 

「一夏様・・・?」

 

自分が何をしていたかを思い出そうとしていた彼に、どこか案ずるような声が掛けられた。

 

その声は、彼の耳に馴染む、優しく穏やかな色を孕んでいた。

 

「セシリア・・・?」

 

その声が自身の妻、セシリアのものであると気付いた彼は、その声がした方へと顔をむけた。

 

「一夏様っ・・・!御目覚めになられたのですね・・・!」

 

一夏の目が覚めたとハッキリ認識したか、セシリアは安堵の表情を浮かべながらも、泣き笑いのような表情を見せて彼の身体を抱きすくめた。

 

彼をもう二度と何処にも行かせない、失わないと、言外にそう語っているかのように・・・。

 

あぁ、そういえば出撃した後にまた倒れたなぁと、彼は何処かぼうっとした心地で思っていた。

 

実感がないのだろうか、あまりどうこうした様子は見られなかった。

 

見れば、自身の左側にはシャルロットもおり、今は眠ってしまっているのか、彼の腕に頭を置く形で寝息を立てていた。

 

「心配、掛けたな・・・。」

 

心の底から愛する二人の姿に、彼は漸く現実を取り戻したか、心配かけたとセシリアの頭を右手で撫でた。

 

その手付きは優しく、愛しい者を慈しむ彼の想いが見て取れた。

 

だが、そこで彼は気付いた。

自分の右腕の、そこにある違和感に・・・。

 

「う・・・?これは・・・。」

 

セシリアの頭を撫でていた自身の右腕は、人間のそれでは無かった。

 

冷たく無機質な金属が肉や骨の代わりとなり、それらを繋ぐチューブや細い配線が血管や神経の代わりとなって、腕と言う部位を形成していた。

 

本来なら人間の身体には有る筈も無いもの、それが今の一夏の腕を構成していれば、彼でなくとも驚くだろう。

 

だが・・・。

 

「そうか、あの時・・・。」

 

彼は、その事実をあっさりと受け入れていた。

 

そう、彼は分かっていたのだ。

自分が一度負けた事、その相手を救おうとして、右腕を持って行かれた事も・・・。

 

「すまない、セシリア・・・、君を抱く腕が、こんな事になってしまった・・・。」

 

自分の腕が無くなったショックよりも、愛する女を抱く腕がこんな事になった事にショックを受けている様だった。

 

触れた、という感覚は有っても、その腕で触れても体温を感じられない。

それは、とても辛いモノではないだろうか。

 

「良いのです・・・!貴方様が生きていて下されば、セシリアはそれだけで・・・!」

 

彼の右手を握り、セシリアは大粒の涙を零して答えた。

 

一夏が生きていてくれるならば、自分の傍にいてくれるならば、それだけでいいのだと。

 

「一夏・・・?起きたんだ・・・!」

 

彼が覚醒したと漸く気付いたか、シャルロットも起き上がり、アメジストの様な瞳を涙で潤わせていた。

 

彼女も、最愛の男の帰還を、何よりも喜んでいたのだ。

 

「シャルも、心配かけたな・・・、やっと帰って来れた。」

 

「一夏・・・!良かった・・・!良かったっ・・・!」

 

セシリアと同じく、彼は優しい笑みを浮かべてシャルロットを抱き締めた。

 

もう自分は何処にもいかない。

ずっと君達と一緒だと、強くそう語っている様にも思えた。

 

そんな三人の様子は、家族と形容できるものであり、最早何者にも立ち入る事の出来ない、不可侵の雰囲気さえあった。

 

「宗吾、玲奈、リーカ、いるんだろ、入って来いよ。」

 

だが、何時までもこうしていたいとは思えど、今は他にやるべき事がある。

それを察してか、彼は自分がいた病室の外へ声を掛けた。

 

「まったく・・・、気を利かせて三人だけにしてあげたのに・・・。」

 

扉が開き、部屋の中に苦笑した玲奈たちが脚を踏み入れた。

 

一夏が目覚めた時に、セシリア達だけ傍に居させてやろうと言う気遣いだったが、それも無用と言われれば苦笑したくもなるモノだった。

 

「気遣いありがとな、あぁそうだ、俺を心配してくれてありがとう、皆の声は、闇の中でもずっと聞こえてた。」

 

そんな彼等に対し、彼は優しく笑みながらも頭を垂れ、謝辞を伝えた。

 

「皆の声が、俺を呼び戻してくれたんだ、皆が俺を信じてくれてなかったら、俺はもうここには帰って来れなかった筈だ。」

 

「そんなの、当たり前だろ?俺達は仲間だ、戻って来て欲しいに決まってんだろ。」

 

その感謝の言葉がむず痒かったか、宗吾は何言ってんだと言わんばかりに笑った。

 

自分にとって恩人であり、友人である一夏に帰って来て欲しかったは、紛れもない本心だった。

仲間を、同じ場所で暮らす家族同然の相手を、失いたくなどなかったから。

 

「そうよ・・・、私だって心配、してたから・・・。」

 

そんな一夏の言葉と笑顔に、リーカはまたしても堪え切れないと言わんばかりに涙を零す。

 

自分を庇って死にかけた男が、一夏自身の事よりも先にリーカの心配をしたのだ。

本来なら罵倒されてもおかしくないと感じている彼女にとって、一夏の帰還と、自分を仲間だと言ってくれた事は、何よりも喜ばしく、何よりも誇らしい事だった。

 

彼女の言葉に、宗吾も玲奈も、そして、セシリアとシャルロットも頷いた。

 

一夏は大切な人だと。

だから失いたくない、たとえそれが自分達のエゴでも、一夏に帰って来て欲しかった。

 

「ありがとう・・・、俺を信じてくれた皆に、話しておきたい事がある、少しだけ、時間を貰えないか?」

 

家族も同然の者達からの言葉と信頼に、一夏は柔らかく笑みながらも、それでも何処か真剣な表情を作る。

 

その雰囲気に、室内にいた者達の表情が強張った。

一夏が何かを話そうとしていると言う事は、彼なりに重要な事か、それとも・・・。

 

「今まで隠してた事だ、俺とセシリアとシャルの過去に関する事だ。」

 

「「ッ・・・。」」

 

「「ッ・・・!」」

 

一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは遂にこの時が来たかと押し黙り、宗吾と玲奈は以前から感じていた違和感の正体が目の前に現れた事に絶句、リーカはそれが何の意味を持つか理解できていないのだろう。

 

一夏達三人の過去、それはこの二年、ずっと押し黙って来た事だった。

 

それを今、このタイミングで話す気になったのは、一重に宗吾達が一夏を、一夏達三人を信じ、愛してくれていると実感したからである。

 

虫の良い話であるが、一夏もまた、覚悟を決めたのだ。

 

過去を背負い、今を生きる。

一人では無く、自分を受け入れてくれる者達と、何も隠す事の無い関係でいたかったのだ。

 

「皆には結構きつい話にはなるが、全部事実だ、受け入れろとは言わん、ただ、聞いてほしい。」

 

「分かった、教えてくれ、一夏達の過去を。」

 

聞きたくなければ、此処から去っても良い、そう言わんばかりの様子だったが、宗吾はもう覚悟を決めていた。

 

一夏の過去が何であろうと、自分はそこから目を逸らさないと。

たとえ関わりが無かったとはいえ、今の彼に関わりがある以上、その苦しみの根源に共に向き合うと決めたのだ。

 

「何処から話そうか、そうだな・・・、リーカに分かってもらうには、俺達が一度死んでいると言う処から説明すべきか。」

 

「えっ・・・?」

 

その発言に、リーカは一体何の事か理解出来なかったのだろう、ただ間の抜けた声を漏らす事しか出来なかった。

 

一度死んでいる、その正確な意味を計れずにいたのだ。

 

「リーカ、信じなくても良いが解って欲しい、俺達5人は、この世界とは別の世界の住人で、そこで一度命を落として此処に居る、いわば転生した者、だ。」

 

「えっ・・・?皆は・・・、生きてるじゃない・・・?」

 

その意味を問うように、リーカは震える声で言葉を絞り出す。

皆は生きて、自分の目の前に存在しているではないか、死んでいるとは一体どういう事だと。

 

「信じられないのも無理はない、この世界以外の世界が存在するなんて、荒唐無稽な話に他ならない。」

 

「だけど、受け入れてくれ、そうじゃないと続けられない話なんだ。」

 

一夏と宗吾は一瞬だけ互いに目を合わせ、話を続ける為にも理解してほしいとだけ伝えた。

 

まぁ無理も無い、転生や蘇りなど、普通の人間が人智を超えた範疇の話を、只の人間が理解出来る筈も無い。

 

だが、この部屋にいる大半は、只の人間では無い。

そう、俗に言う、転生者と呼ばれる者達だったのだ。

 

「俺達は、神と自称する奴に二度目以降の命と力を与えられてこの世界にいる、という訳だが、俺にとっちゃ、そこはさして重要では無い・・・。」

 

かみ砕く様に、自分自身に言い聞かせる様に、彼は一旦言葉を止めた。

 

そうなのだ、転生者であると言う事は、一夏にとっては重要では無い。

 

彼にとって重要なのは、嘗ての世界で何を成していたか、ただそれだけだった。

 

何かを言おうとして、それでも躊躇ってか、一夏は口を開こうとして、やはりできないと言わんばかりに小さく息を吸う。

 

彼等に受け入れてもらえるだろうか、そんな怯えの一端が現れている様にも見えた。

 

「俺は、嘗ての世界での俺は、只の虐殺者だった。」

 

「え・・・?」

 

意を決して放たれたその言葉に、宗吾の口からは何とも気の抜けた、只々呆然としたと言わんばかりの、吐息混じりの声だった。

 

一体一夏は何と言った?

虐殺者?

何をバカな事を?

 

そんな感情が混乱となり、宗吾の頭の中は軽いパニックになりつつあった。

 

今の彼を見ていれば、何よりも命を慈しみ、虐殺の様な行為を憎む姿しか見えないのだ。

 

それは、玲奈とリーカも同じく抱いた感想だろう。

今の一夏に、虐殺者などと言う印象は全くないのだから。

 

「ッ・・・!」

 

だが、そこで宗吾はある可能性に行きつく。

 

もしもだ、今の一夏の行動の全てが悔恨に基くモノだったとしたら?

人が死ぬ事も、虐殺を良しとしないのも、嘗ての経験が基となっているとしたら・・・?

 

「宗吾と玲奈は、IS世界がどんな世界だったかを知っているだろう?」

 

「え、えぇ・・・、確か・・・。」

 

「確か、女にしか扱えないISのせいで、女尊男卑が蔓延った世界、だったか・・・。」

 

一夏の言葉に、宗吾と玲奈は嘗ての世界での、小説としてのISの設定である事を思い返し、確認するように言葉にする。

 

ISの登場により、世界は急速に歪んだ。

宗吾と玲奈は、その記憶だけは残っていた様だった。

 

それを解っていると悟った一夏は、一度目を閉じ、小さく嘆息してから目を開き、言葉を紡ぐ。

 

「俺は世界を変えろと言う、神の使命を受けたと錯覚して、自分が生殺与奪の権利を握ったと思い上がって、大勢の人間を、この手で殺した・・・。」

 

後悔、そして恐怖、その二つの感情を滲ませながらも、彼は語る。

自分が犯した罪、取り返しのつかない過去、それらを隠す事無く、失いたくないと誓った仲間へとぶつけた。

 

「でも、その時の俺は、ヒトを殺す事に罪悪感も恐怖も抱かない、喜んですらいない、何の感情も無いまま動いていた、まさに操り人形だった・・・。」

 

自分が知らぬ間に誰かに操られ、罪を重ねていた。

それは、覚悟を決めて手を汚すよりも、遥かに重く圧し掛かって来た。

 

何度潰されそうになったか、何度放り投げたくなったか。

過去を思い出すだけで、今でも一夏の胸の内は、到底穏やかとは言い難かった。

 

「セシリアとシャルは、俺への想いに付け込んで、身勝手な妄想に付き合わせてしまった・・・、俺のせいで、二人には拭い去れない罪を、負わせてしまった・・・。」

 

それに加え、自分の身勝手で二人を巻き込んだ。

二人が何よりの支えであり愛する者であるからこそ、彼は自分を赦せなかったのだ。

 

セシリアとシャルロットがどう想っていようと、一夏はそれを曲げるつもりは無かった。

 

「こんな所、か・・・、分かってくれたか・・・?俺が、人の上に立つ事も烏滸がましい男だと、いう事を・・・。」

 

話し終えて、一夏は少しだけ自嘲するように笑った。

 

自分で話していて、どれだけ自分の業が深いか、嫌になってしまうほど改めて理解したのだから。

 

だが、彼はもう逃げるつもりなど無かった。

取り戻せないなら、罪が消せないのならば、代わりの何かで戦い続けるしかない。

 

罪滅ぼしだと罵られても、自分が背負った業から逃れるつもりなど、今の彼には無かったのだ、

 

重苦しい沈黙が続き、誰もが何も言えずにいた。

 

一夏は語る事を、セシリアとシャルロットは弁護する事も出来なかった。

 

それがどれだけ続いた時だったか、不意に、リーカが口を開いた。

 

「一夏は、今の一夏は、私達の事、どう思ってる・・・?」

 

その言葉は一夏にとっても予想外だったか、彼はただ、目を丸くして彼女の顔を見た。

 

質問の意図を読み取れなかったのもあるが、それ以上に罵倒や蔑む言葉を予想していたが故に、直ぐに答える事が出来なかったのだ。

 

だが、それでも、一夏の心は答えを持っていた。

何よりも、心の底から渇望するモノを、見付けたから。

 

「決まってる、リーカも、宗吾も、玲奈も、この城にいる皆も、そしてコートニーも、大切な仲間で友達で、家族なんだ・・・!失いたくない、今度こそ、失いたくないんだ・・・!!」

 

叫ぶ一夏の声には、これまでにない熱と、想いがこれでもかと言わんばかりに籠められていた。

 

大切なモノを失いたくない。

失い続けたからこそ、失う恐怖に駆られ、生きる意味を見失った彼が見付けたその答え。

 

それは結局、大切だから失わない、その為に戦っていくと言う事だった。

 

自分を必要としてくれる人がいる限り、自分は戦い続けると。

 

「そっか、なら、私はそれだけで十分。」

 

「え・・・?」

 

リーカが発した言葉に、一夏はまたしても驚いて顔を上げた。

 

彼が見た彼女の表情は、穏やかであり、そして、何処か満足したような、そんな笑みだった。

 

「私、一夏達の事よく知らないし、そう言う過去があったって事ぐらいは分かったってだけ、でもね、これだけは言えるよ。」

 

ゆっくりと、リーカは一夏へと歩み寄り、その左手を取った。

 

「私を助けてくれたのはこの腕だったじゃない、一夏が私達を大切に想ってくれてるなら、私はこの手を離す気はないよ。」

 

親愛と友情、その二つを籠めて、リーカは彼の手を握った。

 

 

お前が自分の事を仲間と、家族と見ていてくれるのならば、自分はお前に付いて行く。

その心が、その言葉と姿勢からはひしひしと伝わってくる様だった。

 

「リーカ、俺達のセリフまで盗るなよ、言う事なくなっちまうだろ。」

 

そんなリーカに、宗吾は声を掛けた。

自分の言う事を言われてしまった、そんな表情さえ見受けられる、柔らかい表情だった。

 

「一夏、俺はお前を信じるって決めた、過去に何が有ろうと関係ない。」

 

彼もまた、一夏のいるベッドに近付き、腰を屈めて彼と目を合わす。

 

「お前はこの世界でやり直すチャンスを貰ったんだよ、人間として、俺達の仲間として、だから・・・。」

 

一旦言葉を切り、彼は一夏の肩に手を置き、しっかりとその目を見詰めて微笑んだ。

 

「これから生きていこうぜ、この世界で、俺達全員で。」

 

「ッ・・・!!」

 

宗吾の真っ直ぐな言葉に、一夏は声にならない声をあげ、目をきつく閉じた。

 

その身体は、感激に打ち震えているのだろうか、小さく、それでもこれまでになく震えてた。

 

それは、彼がこれまで誰にも見せる事の無かった、涙と言うモノでもあったのだ。

 

喪った物は取り戻せない。

だがそれでも、何かで補い、癒す事は出来る。

 

その方法を見付けられなかった彼が見つけた、一つのキセキだった。

 

「あぁ・・・、そうだな・・・。」

 

だから、彼は泣き顔のまま笑った。

 

この愛しい者達とこれから進んで行くために。

最後の愛しい者を救うために。

 

彼は行くのだから。

 

sideout

 




次回予告

彼が眠っていた間にも、世界は大きく動き、その様を変えていた。
その一方で、彼の者はまた、己が罪の恐怖から逃れんと、その渦中に身を投じるばかりだった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTARY X INFINITY

鎮魂歌

お楽しみに
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