機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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デスティニープラン

noside

 

「そうか・・・、ダイダロスは墜ちたのか。」

 

「あぁ、ミネルバの奇襲作戦があっさり成功した様だ、流石はデュランダルのお抱え部隊ってトコだな。」

 

プラントが撃たれてから数日の後、自室で資料を纏めていた一夏の下には、ルキーニによって詳細な情報が寄せられていた。

 

そこから齎された情報に、彼は嘆息する以外になかった。

 

その内容とはこうだ。

地球にて、オーブ侵攻の後に宇宙へと戻るべくカーペンタリアに寄港していたミネルバが出撃、中継ステーション防衛の為に兵力が手薄になったダイダロス基地に奇襲戦を仕掛け、残っていた部隊を撃滅、及びレクイエムの破壊に成功したとの事だった。

 

尚、逃亡を図ったロード・ジブリールも、戦闘に巻き込まれて死亡したとの事だった。

 

これを僅か一日と経たぬ間に、しかもミネルバ一隻とMS3機が為したのだから余計だろう。

 

彼は、今どうしているんだろうか・・・。

 

その内の一機に乗っているであろう少年に想いを馳せていた。

 

自分を兄の様に慕い、その腕を磨こうとした少年の事を・・・。

 

「だが、これで全てが終わった訳じゃないだろう、コートニーが言っていた事も気にかかる。」

 

しかしながら、一夏は済んだ事よりも、先の事を見据えていた。

彼が以前聞いた、コートニーが語った内容が気になっていたから。

 

「確か・・・、戦う事で争いを失くす方法がある、ってヤツだったか?一体どう意味なんだ?」

 

事前に話を聞いていたからだろう、疑問を滲ませながら問いかけていた。

 

戦いを嫌うコートニーでさえも、争いへと駆り立ててしまう。

 

彼が願うのは、戦争が起こる事の無い世界、そして、戦争を起こさない兵器を創る事だった。

 

そんな彼が乗せられてしまう何かがある、一夏はそう考えたのだ。

 

それは恐らく、コートニーが属する組織の長、デュランダルの持つ野望や情報によって踊らされているのだと。

 

「それは、俺にも分からない・・・、だが、何か有るって事だけは確かだな。」

 

尤も、それが何かは見当がつかなかったが、それでもよくない事なのは確かだと感じていた。

 

彼が眠っている間に起きたと言う、デュランダルが煽った民衆によるロゴス狩り、その結果起こった各国要人の死亡、それに伴った政治的混乱により、何処の国家も体制がボロボロになっていた。

 

それに乗じ、プラントは各国へ様々な支援を行い、地球圏の主導国的存在になっていた。

 

だが、それは言い方を変えてみれば、気付かないままの支配を受け入れさせている様なものだ。

それは、何処か薄ら寒い物を感じざるを得ない、というのが彼が感じていた感想だった。

 

「一応、第二戦闘配備のまま全員に待機させている、何か起きる気配があれば、即出る。」

 

「そうかい、なら、俺も備えておくとするぜ。」

 

一夏の言葉を聞き、ルキーニは深く頷いた後に部屋から出て行った。

自分のすべき事の為に、彼は動いていたのだ。

 

「俺も、為すべき事を、為す・・・。」

 

彼が出て行った後、一夏は腰掛けていた椅子に深く凭れ込んだ。

 

自分はやらねばならない事がある。

だから、死と言う名の眠りを振り切り、この世界に戻って来た。

 

だから、それが終わるまでは止まる訳にはいかない。

 

「俺の心のままに。」

 

机の脇に置かれていた写真楯を見詰め、その目を細めた。

そこには、嘗てオーブの砂浜で撮った写真が収められていた。

 

そこには、一夏、セシリア、シャルロット、宗吾、玲奈、リーカ。

そして、コートニー・・・。

 

「必ず、助けるから。」

 

闇に囚われ、戦いを強いられている彼を救うと。

それが、今の自分の使命だと。

 

もう彼の瞳に迷いは無い。

世界がどう揺れ動いても、為すべき事は一つだと・・・。

 

sideout

 

noside

 

『―――私は、人類存亡をかけた最後の防衛策として、≪デスティニープラン≫の導入実行を、今ここに宣言いたします!!』

 

アメノミハシラのブリーフィングルームにて、一夏達はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの演説を見ていた。

 

つい半刻ほど前に始まった緊急演説は、此度のプラント崩壊事件の犠牲者哀悼から始まり、ロゴスの崩壊と続けられた。

 

そこまでならば、一夏達も何も感じる事の無い、何処にでもありがちな国家代表の演説だっただろう。

 

だが、彼が続けたのは、人間が有史以来戦い続けてきた訳と、ナチュラルとコーディネィターの争いの根本、そしていずれ、人類が滅ぶと言う事・・・。

 

そこからキナ臭くなり、遂には人類存亡をかけた最後の防衛策と謳い、≪デスティニープラン≫の導入実行まで宣言して来たのだ。

 

一体何がしたいのか、その部屋にいたほとんどがそう思ったに違いない。

 

そんな彼等を置き去りに、デュランダルを映していた画面が切り替わり、デスティニープランの概要を説明する映像を映し出す。

 

軽快な音楽と2Dアニメチックな映像で語られる説明は、逆に彼等の心の中にある不安を掻き立ててならなかった。

 

「なるほど、そういう事か。」

 

そんな困惑した空気を、何処か納得した様に呟く一夏の声が破った。

 

漸く狙いが分かった、そんな気色が窺い知れた。

 

「どういう事ですか閣下?」

 

一同を代表して、ガルドが質問の声をあげた。

デュランダルは一体何を目的としているのか、それを知りたがっている様だった。

 

それは他の者も同様なのだろう、皆一様に一夏の事を見据えていた。

 

「デュランダルがやろうとしている事が何となくだが分かった、まるで人類を管理するやり口に思えてな。」

 

「管理・・・?」

 

確信めいた何かを以て、語り始めた一夏の言葉に疑問を持っているのか、誰もが首を傾げる以外なかった。

 

「さっき説明していただろう、人間にはそれぞれ生まれ持った性質、遺伝的に持っている物があると。」

 

「遺伝的・・・、遺伝子って事か?」

 

一夏の説明に合点が行ったか、宗吾は問いかける様に呟く。

 

一夏の言葉通り、人間は生まれ持った時から、親から受け継いだ遺伝的特徴を持っている。

それ等を司る物こそ、遺伝子と呼ばれるモノだ。

 

コーディネィターは元々、ナチュラルが元来持っている遺伝子を、人間としてより良い能力を得ようと調整した存在である。

 

つまり、遺伝子を解析、データ化して並び替える事で、その特性を持った人間を生み出せると言う事だ。

 

無論、全てが完璧にいくという訳では無い、その証左として調整がオーダー通りにならなかったコーディネィターの子供は親から捨てられ、サーカス等の戦闘兵育成機関に拾われ、兵士として育てられると言う悲惨な目にも合っている。

 

それがオーダー通り完璧に調整されたのが、スーパーコーディネィターと呼ばれる存在であり、この世界にはキラ・ヤマト以外にいないと言う事となっている。

 

尤も、一夏や宗吾、玲奈も転生者としてスーパーコーディネィター相当の能力を有しているには有しているが、此処では追及する必要は無いだろう。

 

それはさて置き・・・。

 

「さっきデュランダルが言っていた言葉を借りるならば、争いが起きるのは人間が自分自身を知らなさすぎるから、という事になるが、これは恐らく、適性の事を言っているんだろうさ。」

 

「適性・・・?それが何故争いを?」

 

一夏の言葉の真意を理解出来なかったファンファルトが、おずおずと尋ねていた。

 

上官の意図が汲めないと言うのは、彼にとっては気味が悪いモノに映っているのだろう。

 

「何、簡単な事さ、適性の無い者が不当に地位を手に入れたり、適性のある者が不当に低く見られたりする、だからそこに嫉妬が生まれ、争いを呼ぶ、実に回りくどいが、デュランダルが言いたいのは大雑把に言えばこういう事さ。」

 

「あ・・・。」

 

合点が行った者は何人もいただろう、室内には何処か張り詰めた様な空気が奔った。

 

そう、結局は能力や生まれによる不平等が争いを引き起こすのだと。

現に、今現在この世界で起こっているナチュラルとコーディネィターの国家ぐるみでの争いもまた、嫉妬、差別に起因するモノなのだ。

 

つまり、その原因となる不平等が是正されてしまえば、争いが起こる意味は無い。

 

そうであるなら、今の争いに満ち、破滅への道を走るコズミック・イラにおいては、デスティニープランは非常に有効な策とも取れるだろう。

 

「だから、ヤツは人類の存亡をかけた最後の防衛策と呼んだわけさ、能力の有利不利を生まれた瞬間から見分け、無駄な争いを起こさない為のな。」

 

確かに良く出来ていると言いながらも、彼は生理的な嫌悪を滲ませていた。

 

何故ならば、彼は知っているから。

この世に生まれ出で、命を育み生きていく事は、確かに無駄に争い、無駄に寄り道をする事だってある。

 

どれだけ努力しても報われない可能性だってある。

どれだけ欲しても手に入らない夢だってある。

 

だが、だからこそその過程で得た経験は、その先にある未来に繋がると。

今、自分がこうして仲間と共に在れるのは、人から見れば無駄とさえ思える寄り道や堂々巡りを繰り返したからとさえ言えるのだ。

 

「でも、ハッキリ言って俺は受け入れられないね、遺伝子で一生が決まるなんて考えたくも無い、遺伝子なんてモンは、結局は指標でしかないんだからさ。」

 

そう、遺伝子よりも人間には大切なモノがある。

それは諦めない心や、夢を実現するために努力する熱意や心情。

 

それら全てを取り払った物が、果たして人間と呼べるのかと、彼はそう思っていた。

 

自分の定められた遺伝子、運命に従っていれば苦しまずに過ごせた。

それは、一夏が定められた神の駒として動く事を重ねていたのかもしれない。

 

だが、苦しみながらも、失いながらも辿り着いた今を、彼は無駄とは一切思っていなかった。

織斑一夏と言う人間を作り上げた、確かな道程だったのだから。

 

「ま、色々言ったが、この世界の在り方に嫌気が指してる連中も居るだろうから、天空の宣言の手前、俺達は今のところ静観だな。」

 

しかし、今のアメノミハシラの立場は天空の宣言に賛同する者を護る事、そして、私利私欲の絡まない思想を護る事だった。

 

極端な話、デュランダルはデスティニープランを地球圏すべてに波及させようとしているが、今のところそれは遺伝子の統制に依って争いを止めようと言う思想の延長線上でしかない為に、武力を行使する事が出来ないのだ。

 

故に、彼は待つ以外なかったのだ。

デュランダルが勝負を詰める時に見せる、その本性を見るまでは・・・。

 

彼の目が細められたのを見て、宗吾は何かを感じ取ったのだろう、何かを決めた様に表情を引き締めていた。

 

「(ファンファルト。)」

 

「(な、なんでしょう神谷卿?)」

 

唐突に呼ばれた事に焦りながらも、彼は宗吾の傍により、言葉を待った。

 

「(何時でも出れる様に準備しておけ、一夏に勘繰られない様にな。)」

 

「(は・・・?はぁ、了解しました・・・?)」

 

イマイチ要領を得ていない様だったが、ファンファルトは頷きながらも一夏の目を掻い潜って動き出す。

 

宗吾もまた、密かに暗躍を始める。

一夏の望む事を成せる様に動きやすいようにと・・・。

 

sideout




次回予告

デュランダルの思惑通りに揺れ動く世界。
終局に向かいし表側の世界へ、彼はその身を晒す。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

出撃

お楽しみに

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