機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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出撃

noside

 

「ウェイドマン整備士長!」

 

ブリーフィングルームでのやり取りの後、織斑一夏直属かつ、実質的には幹部全員の配下であるファンファルトは、宗吾の命令によってある人物の下に走っていた。

 

「あぁ?ファンファルトの坊主、何しに来やがった?」

 

その要件の相手である整備士長、或いは整備主任であるジャック・ウェイドマンは、少々煩わしそうな目で彼を見た。

 

休憩中だったからだろうか、手元にはコーヒーの入ったマグがあったが、今はそれを取り立てて言う事でもないだろう。

 

ファンファルトは、そんな彼の目に若干負い目の様なものを感じてしまう。

 

それもそうだろう。

彼は、如何にアメノミハシラの№2である織斑一夏の推薦を受けたからとはいえ、自分はまだこの城に参じて半年も経たぬ新参者。

 

それに加えて、佐官待遇ともなると、古参の者達からどう思われているかなど明白だった。

 

無論、幹部である一夏達もこの2年弱で加わった者であるが、それとこれとは違うと感じざるを得なかったのもまた本音と言うモノ。

 

それはさて置き・・・。

 

「か、神谷卿から頼まれた物をお持ちしました!」

 

「宗吾からか?一体全体、今度は何させる気だぁ?」

 

おっかなびっくりながらも、彼はブリーフィングルームから出る間際に宗吾から渡されたと思しきメモをジャックに手渡した。

 

それなりに長くなってきた付き合いから何かを察したか、ジャックは僅かながら渋い表情をしながらもそれを受け取り、内容に目を通す。

 

最初は細められていた目が、徐々に大きく見開かれ、最終的には我が意を得たりと言わんばかりに、その口元に笑みを作った。

 

それを見ていたファンファルトは、メモに書かれていた内容に目を通していなかった事もあって、一体何が書かれているのか分からないと言った様子だった。

 

まぁ仕方あるまい。

宗吾には一夏に見付からない様に動けと言われていた事もあり、なるべく素早く動いていたが故の見落としでもあったのだ。

 

「こうしちゃいられねぇ、ファンファルト、オメェも手伝え!」

 

「えぇぇ!?いや、はいぃ・・・!?」

 

休んでる場合じゃないと言わんばかりに立ち上がったジャックに驚きつつも、彼もまた後を追って動き始めた。

 

仲間の想いを遂げさせてやるために。

その果てに付いて行くために。

 

二人は其々の思惑を以て、密かに動き出していた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・、なるほど、デスティニープランに明確に拒否の声明を発表したのはオーブとスカンジナビア王国だけか・・・。」

 

自室に備え付けられていたコンピューターを用い、一夏はデスティニープランの発表で揺れ動く世界情勢を見ていた。

 

ルキーニを筆頭とする諜報部から送られてくる情報を把握、これからの自分達の出方を決めようとしていた。

 

発表されて間も無くな段階ではあるが、ロゴス狩りによって首脳陣が総入れ替えとなった国家もあり、国家としての体を成していない所も見受けられ、その国々はいち早く導入に傾いていた。

 

その上プラントからの支援を受け入れていた国家は、僅かばかりの戸惑いこそあれど、これまで正義のため、平和の為というスタンスを取って来たデュランダルへの信用を根拠に、デスティニープランを受け入れようとしていた。

 

「まぁ、支援を貰うついでとしてなら、アリな選択なんだろうけどな。」

 

地球圏の国家が採った対応に、彼はやはりなと言う感想しか浮かんでこなかった。

 

デュランダルの提唱するデスティニープランと、その先に待つ世界。

その是非はどうであれ、国家をいち早く安定させるならば、その政策を受け入れ、それが出来る様に支援してもらった方が賢明である。

 

それに、デュランダルはこれまでのスタンスからも、他のどの政治家よりも指示を得ている事に間違いはない。

 

だからこそ、裏の事情や本音を知る事の無い民衆には、彼の言う事が正しく思えるし、指示したいと思う事に何ら不思議はないのだ。

 

「ま、デュランダルもそのために下地作りは欠かさなかったんだろうが・・・、流石としか言えんよ・・・。」

 

民衆にそう思わせるだけの説得力を地道に着けていったデュランダルの、そのやり口は一夏でさえも感心せざるを得ない物だった。

 

だが、急激すぎる動きを嫌う者も当然ながら存在する。

 

密かにロゴス狩りから逃れた、大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランドは連合軍月面基地にその身を寄せ、現在プラントと積極的にコンタクトを取ろうとしている様だった。

 

尤も、それは自分の既得権益の確保が優先的であると考えられる。

 

何せ、デスティニープランの表向きは、遺伝子によって人間の適性を見極め、各々に見合った職業を与えると言うモノだ。

 

それは、生まれやコネクション、献金で成り上がった者には不利益にしかならないため、賛同出来ない者もこの世界には多くいる事だろう。

 

コープランドも所詮そうなのだろうと当たりを着けてはいるが、そんな事など一夏達にとってはどうでも良い話でしかない。

 

それに、大統領とは言っても所詮はロゴスのロード・ジブリールに操られていただけの傀儡に過ぎない。

 

軍部の過激派も、ロゴスがある程度コントロールする事で統制が取れていた様な物なのだ。

その主たるジブリールやロゴスが消滅すればどうなるかなど、最早明白だった。

 

現に、アルザッヘルには元から駐留していた連合宇宙軍の他にも、ダイダロスからの敗走兵などが集結し、デスティニープランに反対する勢力として動こうとしているとの情報も入って来ている。

 

とは言え、アメノミハシラが表だって動く事は無いだろう。

何せ、思想の問題があるとは言っても、受け入れるか、それとも拒むかを選ぶのはこの世界に生きるすべての者だ。

 

選ぶなら止めはしない。

選ばないなら別の道で生きればいい。

 

実にシンプルな考えである事は間違いなかった。

 

「ま・・・、デュランダルが本気で何かしようとしない限りは、な・・・。」

 

とは言え、何か有れば自分達はすぐに動く。

それは何者にも変えられない、アメノミハシラの理念だ。

 

だが、それとは別に、アメノミハシラの思想と異なっていても、彼は自分が動くべき時を待っていた。

 

彼には、自分の命を賭けてでも救いたい者がいるのだ。

自分に無い夢を持ち、それに潰されようとしている友を、救いたいと。

 

その為には、彼と再び向かい合う事が絶対の条件だった。

話を聞いて貰う事は出来ないかもしれないし、それ以前に、彼が自分を殺した事を想い詰めている可能性もある。

 

ならば、その時は・・・。

 

「止めてやるさ・・・、俺が、戦ってでも・・・。」

 

争いを嫌う彼にとって、何とも嫌味なやり方である事は、一夏自身が重々承知している事ではある。

 

だが、それでも止めたかったのだ。

必ず自分達の下に、彼の愛する女の下へ連れて帰ってやる、そんな使命感を抱いていた。

 

もう、自分の手の届く範囲にいる誰をも不幸にしたくなど無かった。

それが、今の彼を成り立たせている、唯一無二の信念だった。

 

無論、それはアメノミハシラの大義では無く、一夏個人の感情によって行われる私闘を意味している。

 

それは一夏もハッキリと認識している事であり、アメノミハシラの兵を使う事は出来る筈も無い。

 

いざとなれば、自分のストライクならば推進剤をほとんど使う事なく戦場に駆けつける事も出来る。

その為に作られた機体と自分の身体だと思っているから、どんな無茶でも押し通して見せると。

 

そして、その機会は近いと、一夏自身の直感が告げていた。

その時に、この世界に転生してきた意味を全て賭ける、と・・・。

 

「待っていろ・・・、俺が、必ず・・・。」

 

声も届かぬ相手に向けて、一夏は小さく呟いた。

 

自分が為すべき事為す、ただそれだけだ・・・。

 

椅子に沈み込むようにもたれながら、彼は小さく息を吐いて目を閉じた。

その時が来るまで、自分は待つだけだと・・・。

 

その時だった。

彼のコンピューターに何か通知が届いたか、少し大きめの通知音が彼を耳朶打った。

 

「なんだ・・・?」

 

少し眠ろうかと思っていた矢先だったからか、彼は少々ウンザリしながらもそれを開き、目を通していく。

 

「ッ・・・!!」

 

だが、内容が簡潔かつ衝撃的なモノだったからか、彼の目は驚愕に見開かれる。

 

「アルザッヘルが、撃たれたか・・・。」

 

呆然と、だが、やっぱりかと言う感想と共に、その言葉は紡ぎだされた。

 

アルザッヘルから出撃した連合軍の反乱部隊は、ザフト軍によって修復されたレクイエムによってアルザッヘル基地ごと壊滅、コープランド大統領も巻き添えを喰らって生死不明、生存は絶望視されていた。

 

撃ったのは間違いなくダイダロスを掌握したザフト軍であり、その目的はデスティニープランに異を唱えた者の粛清とみて間違いないだろう。

 

逆らえばこうなる、自由意志など与えないという意思を示した事に他ならない行為だった。

 

「だがこれは・・・、好機かもしれん・・・!」

 

だが、それはデュランダルが最後の賭けに出たと言う事を意味していた。

 

彼の今現在の最大の敵はクライン派、もとい、ラクス・クラインとその一派だった。

今、デスティニープランの足場を固めるためにも、不安定要素を排するには、丁度良い撒き餌となった事だろう。

 

月のコペルニクスには、例の一団が寄港しているという情報もある。

最早、開戦は秒読みと言っても良いだろう。

 

そこで、彼との決着を着ける。

連れ戻すためにも、目を覚まさせてやるためにも、これが最後のチャンスになると・・・。

 

「待っていろ・・・、今、行く・・・!」

 

故に、彼は自室を飛び出して行った。

友としての、最初の務めを果たすために。

 

自分の命の賭け処を見出した目のままに。

 

sideout

 

noside

 

新調した純白のパイロットスーツに着替え、一夏は一人、格納庫への通路を歩いて行く。

 

急ぎ足ながらも、誰にも悟られる事の無いように、その気配は完全に隠されていた。

 

それもそうだ。

何せ、これから彼が向かう戦場は、彼の私闘の場となる。

 

そこに、愛する者や大切な部下を巻き込むわけにはいかない。

 

死ぬつもりなどハナからありはしないが、それでも、自分と同格以上のパイロットを相手に、自分以外の誰かを護りながら戦う事など出来やしない。

 

だからこそ、彼は独りで戦うと決めたのだ。

 

故に、誰かに見付かる訳にもいかない。

そう決め込んで・・・。

 

「皆・・・、すまない・・・。」

 

信じてくれた者達に声も掛けずに出て行くとなると、彼の心はちくりと痛みを覚える。

 

その痛みが、彼が今人間として生きている証だと考えると、少し歓びを感じる所ではあるが、今は感傷など切り捨てるだけだ。

 

一つの目的を見据え、彼はその足を進めた。

 

暫く進み、彼は遂に格納庫に脚を踏み入れた。

 

「ッ・・・!」

 

その瞬間、彼の目に飛び込んで来た光景に、一夏は息を呑んだ。

 

「お待ちしておりました、織斑卿!!」

 

そこには、宗吾を中心とした幹部全員と、ソキウスやガルド達を中心とするアメノミハシラのパイロット達、整備士達が彼に向けて一斉に敬礼し、待ち構えている様子だった。

 

皆、表情を引き締め、何時でも出撃できると言わんばかりだった。

 

「な・・・!?お前等・・・!?」

 

漸く状況を理解したか、一夏は驚愕に震える声で問う。

 

一体これは何のマネだと問う事も出来ず、ただただ、自分の行動が読まれていた事に対する混乱がアリアリと浮かび上がっていた。

 

「悪いが一夏、俺が皆に集まって貰った、命令じゃ無く、有志志願って形でな。」

 

「宗吾っ・・・!」

 

「ロンド・ミナの許可は得ている、後はアンタの号令で出撃だ。」

 

その困惑に答える様に話す宗吾の言葉に、一夏は歯がみしながらも彼を見た。

 

一夏の射抜く様な目を受けても、宗吾は一切動じる事無く、彼に覚悟を籠めた目を向けた。

 

「これは、俺の私闘だ・・・!そんな事に皆を巻き込む訳にはいかない・・・!」

 

「だから何だ、それでも俺達は着いて行くぜ、ストライクSⅡもイズモに搬入している。」

 

「ッ・・・!!」

 

私闘である事を強調し、独りで行こうとする一夏の先手を、宗吾は悉く打っていた。

 

数日前の、ファンファルトとジャックに行わせていた準備とは、一夏の自殺紛いの出奔を諌める為の物だった。

 

とは言え、アメノミハシラとしてもデスティニープランに抗する道も選択肢の一つとしてあったからこそ、こうして戦闘準備を進めていたともいえるが・・・。

 

「一夏、水臭いぜ・・・、折角アンタは俺達に本音を打ち明けてくれたってのに、皆置いてけぼりにするつもりかよ。」

 

逡巡する彼に、宗吾は少しだけ残念そうに、それでいて寂しそうに言葉を紡いだ。

 

一夏の想いを、その本音を聞いた時から、自分は一夏に一生かけて付いて行くと決めた。

 

どれ程過酷な死地だろうと、喜び勇んで向かう心積りだった。

 

だと言うのに、一夏は独りで行こうとしている。

それは、自分達が足手まといになるからと解釈したとしても不思議では無い。

 

だが・・・。

 

「お前はもう一人じゃない、俺達全員、織斑一夏って男に付いて行くぜ。」

 

それでも、宗吾達は置いて行かれる気など更々無かった。

一夏が連れていかねばならない状況を作り出してしまえばいい、それが彼の出した、彼なりの答えだった。

 

「ッ・・・。」

 

その言葉に、彼は何も言えなくなった。

 

彼等の想いは本物だと。

それを無碍にする事など、今の一夏には出来なかった。

 

「さぁ閣下、俺達に道をお示しください。」

 

待っているぞと頭を垂れる宗吾の肩に手を置き、目の前に控える兵達に向き直った。

 

「アメノミハシラ元帥としてでは無く、皆の友人として言わせてもらう。」

 

真剣そのものとなった一夏の表情に、皆が表情を引き締めて彼を注視する。

 

どんな言葉も聞き逃さないと。

その決意を受け止めると。

 

「皆の力を、俺に貸してくれ!」

 

『了解!!』

 

短いながらも、付いて来いと言う意思を籠めて放たれた言葉に、幹部を含めた兵は皆、一斉に敬礼を返した。

 

逃げるつもりなど無い。

その気概を籠めて、彼に応じたのだ。

 

「月へ行くぞ、付いて来い!!」

 

皆を率いるかの如く、彼は先頭に立ってイズモへと乗り込んで行った。

 

最後の戦いの地へ乗り込むために。

そこで待つ、もう一人の友と向き合う為に・・・。

 

sideout

 




次回予告

最後の戦場へと赴くイズモの艦内で、一夏は友に言葉を残した。
それが、最後の言葉になってしまうのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTARY X INFINITY

告白

お楽しみに

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