機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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交錯する光 後編

sideコートニー

 

これで本当に、叶うのだろうか・・・?

 

数多の光芒が瞬く宇宙空間を映し出すモニターを眺めながらも、俺は機体のコックピットで、何処か人ごとの様な心地でいた。

 

漆黒の闇に瞬く光は、まるで花火の様な浮世離れした美しさを醸し出している。

だがそれは、幾つもの命が散っている事に他ならない。

 

解っていても、俺は、それを現実と受け入れる事も、偽りだと目を逸らす事もせず、ただ茫然と見ているだけだった。

 

命が散っていると言う事にも、俺自身がこれからその中心に身を投じようとしている事にも、まるで自分の事であるという実感が湧かないでいた。

 

『ヒエロニムス隊長。』

 

そんな俺を現世に呼び戻す様に通信が入る。

 

相手は、プラント最高評議会議長にして、特務隊FAITHの直属の指揮官とも呼べる人物、ギルバート・デュランダルだった。

 

『新たに敵軍が現れた、部隊を率いて討滅に当たって欲しい。』

 

やはりと言うべきか、それは俺達に出撃せよという命令に他ならなかった。

 

それに逆らう事など出来やしない。

逆らえばどうなるかなど、もう分かり切っていたから・・・。

 

だけど、それ以上に俺は・・・。

 

議長がやろうとしている事、それは争いを失くす事である。

 

それは、俺が叶えたいと願う兵器の在り様も示していた・・・。

 

恐怖以上に、俺はそれに惹かれてしまった。

だから、逃げる事など出来る筈が無かった。

 

幻想だと切り捨てる事も出来なかった。

 

親友を撃ってしまった事も、間違いだと解っていても・・・。

俺はもう進むしか、無かった・・・。

 

「了解しました・・・。」

 

ただ諾々と従い、俺はそれだけ返して通信を切った。

 

これで良い・・・、これで良いんだ・・・。

 

「ヒエロニムスより各機、これよりミスティルティンは出撃する。」

 

『了解!』

 

部下として与えられた特務隊のメンバーの声を聞きながらも、俺は一人で準備を始める。

 

隊長とは言え、特務隊FAITHの中では所詮飾りでしかない立場だ。

戦場に出れば議長以外の指揮系統を無視して戦う事も出来る部隊であるが故に、隊員同士個人的な付き合いはあったとしても、部隊としてつるむ事は無い。

 

だから、俺は独りで居易かった・・・。

こんな俺を、影に怯える弱い俺を、誰からも見られたくなかったから・・・。

 

『X56S/θ、出撃位置へ!』

 

そんな俺の思考を断ち切るように、オペレーターからの通信が入る。

 

すでに他の機体は出撃しており、部隊は俺を残すだけとなっていた。

 

―――コートニー…―――

 

操縦捍を握り、機体を動かそうとする俺に、またしても声が響いた。

 

やめろ・・・、もう、出てくるな・・・。

 

これ以上、俺にその顔を見せないでくれ・・・!

 

逃げるように頭を振って、俺は目の前にある、開きつつあったハッチだけをにらんだ。

 

行かなければならない。

俺は、行かなければならなかった…。

 

俺の夢を、俺の理想である、戦争をさせない兵器の姿をこの目で見るためにも・・・。

 

『進路クリアー!インパルス、発進どうぞ!』

 

「了解、コートニー・ヒエロニムス、デスティニーインパルス、発進する!」

 

ハッチが完全に開放され、真空の宙が見えた瞬間に、俺は何時もの様に、スロットルを踏み込み、メサイアの外へと飛び出していく。

 

他の部隊員たちの機体であるザクやグフはもう既に月面へと向かっており、今にも残されたオーブ軍に食らいつこうとしている最中だった。

 

彼らも、ザフトの軍人として為すべきことを為すためだけに戦いに赴くのだ。

 

だから、俺も、今はただ何も考えずに、目の前に迫る敵を倒すだけなのだと・・・。

 

俺も、彼らに倣う様に動き、月面を目指す。

大小様々な起伏が覗える無色の大地が視界を埋め尽くすように迫ってくる。

 

そこで乱れ飛ぶオーブ軍MS、ムラサメがこちらに気付き、振り向こうとする。

 

だが、遅い。

気づけば俺は、意識することなくトリガーを引いていた。

 

ライフルから放たれたビームの光条がムラサメを貫き、反撃の暇さえ与えることなく爆散させた。

 

またしてもその機体に、俺が撃ってしまった機体の影がダブる。

 

「ッ・・・!!」

 

声にならぬ声を上げたところで、現実は何も変わりはしない。

 

そう、これが現実・・・。

戦場では有り触れた、生と死のやり取り・・・。

 

俺がやっていることは紛れもない、戦争に加担するということ・・・。

 

わかっていた・・・、解っていたじゃないか・・・。

今までも同じようにやってきたはずなのに、なんでこうも苦しくなるんだ・・・?

 

解っている。

ただ受け入れることを拒んでいるだけだと・・・。

 

アイツを撃った罪を、受け入れたくないと・・・。

 

「仕方ないんだ・・・、これも、戦争をさせないための・・・!」

 

無理やり自分を正当化させても、こみ上げてくるような苦さと、窒息してしまいそうになるほどの息苦しさは消えてはくれない。

 

だが、今は戦うしかない。

敵は目の前にいる、それを討たなければ、この争いは終わらない。

 

この戦争を終わらせて、議長の目指す世で、争いを生み出さない兵器を創るためにも・・・!!

 

それが、俺が幼い頃から夢見て、今まさに叶おうとしている、願い・・・。

 

そのためにも止まるわけにはいかない。

何のために戦い続けてきたんだ?

その望みのためなんだろう・・・!?

 

だから、今はこれでいい・・・、これでいいんだ・・・!!

 

戦うことで、とにかく動き続ける事で、この苦しみを一時でも忘れようと、デスティニーインパルスを動かそうとした、まさにその時だった・・・。

 

「これは・・・、この、感じは・・・!?」

 

突如として走る、稲妻のような感覚。

焼けるように熱い、だというのに不快感はなく、ただただ高揚感を感じさせるような、あの感覚・・・。

 

これは、アイツと相対した時の・・・。

 

「違う・・・そんな筈はない・・・!アイツは、アイツは・・・!!」

 

認めたくなどなかった。

彼は、俺が・・・、俺が手にかけた・・・!!

 

この感覚も、錯覚なんだ・・・!!

 

そう思い込もうとしても、感覚はより一層に強さを増し、俺を呼ぶかのように鳴動する。

 

まさか・・・。

 

その感情に突き動かされるかのように、俺はいつの間にかその感覚が強くなる方向へと機体を動かしていた。

 

俺の気のせいであってくれと思うと同時に、間違いじゃないと思う心があった。

 

期待を抱いたところで、俺がやったことには変わりはない。

だというのに・・・。

 

だというのに、俺は引き返す事が出来なかった。

彼がそこまで来ているという、幻想にしがみ付きたかったから・・・。

 

どれぐらい進んだ頃だろうか、その感覚がひと際強くなったところで、その機体を目視する。

 

漆黒の宙を染め上げる程に輝く翼を広げ、こちらに向かってくる一揆のガンダムタイプを視認する。

 

プラチナと見紛うほどに輝く白を基調としたMSを、俺は知っている。

 

背負うストライカーと、細部に追加された装備などは違っても、シルエットとそこから発せられるプレッシャーは何一つ変わらない。

 

あれはストライクSの改修型・・・、そのパイロットは・・・。

 

『こちら、アメノミハシラの織斑一夏・・・、応答してくれ、コートニー。』

 

通信機より発せられた声は、どこまでも穏やかで、どこまでも優しい響きを持って俺を揺さぶった。

 

そうだ・・・俺はこの声を知っている。

何度も戦い、何度も酒を酌み交わした親友で、俺が手にかけてしまった、彼は・・・。

 

「い、一夏・・・?一夏なのか・・・!?」

 

そんな筈はない・・・。

彼は俺が撃ってしまった・・・!!

 

止めようとしたリーカごと、俺が・・・!

 

『あぁ、俺だよ、コートニー。』

 

「っ・・・!!」

 

怒りも憎しみも感じない、いつも話すような調子の声は、俺を落ち着かせるために放たれたものだっただろう。

 

だが、俺にはそれがいつも聞こえてくるあの声と重なるように聞こえてくる。

 

―――コートニー―――

 

眠る時も、出撃する時も・・・!

何時も俺を責めるかのように耳朶打つ声・・・!

 

「やめろ・・・!そんなわけがない・・・!お前は・・・!!」

 

受け入れられなかった。

一夏が生きていることではない。

 

俺が一夏を殺したという事実を、受け入れられない。

 

『落ち着け、コートニー!俺はここにいる、ここにいるぞ!!』

 

俺を抑えようとしてくるのか、ストライクSが手を伸ばしてくる。

 

しかし、俺に見えたのは鋼鉄の巨人ではない。

全身から血を流し、まるで救いを求めるかのように手を伸ばす、彼の苦悶に満ちた姿・・・。

 

「よせ・・・!来るな・・・!来るなぁッ・・・!!」

 

もう無我夢中だった。

俺は気づいた時には、すでにライフルのトリガーを引き絞っていた。

 

「ッ・・・!!」

 

止めようとしても、逸らそうとしてももう遅い。

放たれた光条は漆黒の宙を突き進み、ストライクSへと向かっていく。

 

やめろ・・・!

逃げてくれ、一夏・・・!!

 

声に出すこともできず、その光景を瞬きさえ出来ずに直視する他なかった。

 

だが、ストライクSは微動だにすることなく、全身を光の翼で包み込む事でビームを防ぎ、霧散させていた。

 

どうやらビームシールドを展開している状態なのだろうと、頭のどこか冷静な部分でぼんやりとアタリを付けていた。

 

『コートニー!!俺の声を聴け!!』

 

彼が無事なことに安堵するよりも先に、一夏の声が俺に突き刺さる。

 

俺に対する怒り、というよりも憤りが強い声を上げながらも、機体をこちらに寄せてくる。

 

「やめろ・・・!!やめてくれ・・・!!」

 

それを近寄らせまいと、俺は機体を後退させながらも、背中のビーム砲を展開、最早狙いなど直感で定めて引き金を引き絞る。

 

無我夢中だった。

目の前にある現実とも,夢現かも分からないものを消してしまいたいと。

 

放たれたビームは、その出力に見合う成果を上げることなく、ストライクSの手前で霧散、一切の傷さえ付けることはなかった・・・。

 

『コートニーッ!!お前!自分が何をしているのか、解っているのかっ!?』

 

「黙れっ・・・!!俺はッ・・・!戦争を・・・!兵器を、争いから解放するために・・・!」

 

その叫びに、俺は意味をなさない声で叫び返す事しかできていなかった。

 

兵器を争いから解放する、自分でも口にしたことのない、俺自身の望みと似て非なる解釈の言葉を叫んでいた。

 

『そうかよ・・・!お前も囚われているんだな・・・!ならば俺が、その闇を祓う!!』

 

奴の宣言と共に、ストライクSは対艦刀を二本とも抜き放ち、背中の翼をより一層雄々しく輝かせながらも、こちらに向けて突っ込んでくる。

 

「黙れっ・・・!黙れぇぇっ!!」

 

俺もまた、エクスカリバーを二本とも抜刀、その白い機体に向けて突っ込んでいく。

 

もうなりふり構ってなどいられなかった。

ただ、目の前にある悪夢と形容したくなるような現実を、かき消したい一心だった・・・。

 

その行為が、以前自分が犯した罪と同じであると、気付かぬままに・・・。

 

sideout




次回予告

ぶつかり合う想いと願い。
そこに籠められし執念の強さは、運命をどのように手繰り寄せるだろうか?
そして、それを見守る彼らもまた、主がために戦い続けるのだ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

最後の力

お楽しみに
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