機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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最後の力

noside

 

「「うぉぉぉ!!」」

 

月面、ダイダロスから少し移動した宙域にて、二機のMSが乱舞する。

はた目には、何か光り輝くものが駆け抜けていったようにしか見えぬほど、その速度は凄まじいものだった。

 

白と青、二機は目まぐるしい速さで交錯し、それぞれが両手に保持する対艦刀を振るう。

そこに一切合切の加減はなく、ただ相手を仕留めんと言わんばかりの気迫が籠められていた。

 

白金の機体、織斑一夏の駆るストライクシクザールは、射撃能力をほぼゼロとする代わりに、最高峰の加速力と絶対的とも呼べる防御力を得るに至った機体だ。

 

緊急推進システム≪ヴォワチュール・リュミエール≫を背面に装備されるシクザールストライカー及び、機体各所に新造したVLユニットに搭載している。

その加速力は凄まじく、同時に散布されるミラージュ・コロイドによる残像も相まって、燃える翼を広げ戦場を飛び回る不死鳥の如き勇壮さを持っていた。

 

それに対する青い機体、コートニー・ヒエロニムスが駆るデスティニーインパルスは、換装型汎用機であるインパルスに、全領域対応型シルエット≪デスティニーシルエット≫を装備させた機体である。

 

機体の安定性や、バッテリー機であるという点を除けば、最新鋭機かつ上位互換機であるデスティニーにも引けを取らない性能を有している。

 

また、試験的ではあるが、デスティニーインパルスにはヴォワチュール・リュミエールが搭載され、機動力の面で言えば、一般的に高機動と言われるMSを遥かに凌ぐモノを持っている。

 

不安定ながらも光り輝く翼を羽ばたかせ、戦場を舞う様に飛び回る姿は、不死鳥を駆る青龍のごとし。

 

両者とも、一部武装に違いはあれど、超高速で相手に接近し、叩き切るという戦法を取っており、パイロットである一夏とコートニーの力量はほぼ同じ、性能及び武装面における差はほぼ皆無という様相だった。

 

さらに言えば、この二人は二年前の南米から幾度となく刃を交えてきた間柄、互いの手の内など最早知り尽くしたも同然だった。

 

だが、それがどうしたと言わんばかりに、二機の纏う光は一層輝きを増し、相手を打倒せんとスロットルを更に上げ切、必中の意志を込めた斬撃を打ち込み、回避していく。

 

対艦刀の斬撃が両機を掠め、時にはバイタルエリアを掠める。

だが、それでも二機が怯む事は一切なく、更に加速していく。

 

それは正に、二つの斬撃の嵐がぶつかり合っているような錯覚さえ感じる程であり、巻き込まれれば最後、二つの嵐に切り刻まれるのがオチだった。

 

その証拠に、二機が争う近辺に展開していたMS隊は、ザフト、オーブの隔てなく後退、巻き込まれるのを徹底して避けていた。

 

それも致し方あるまい。

それほどまでに、其の二機の戦闘は苛烈であり、最早エネルギー節約など全く考えない動きだったのだから。

 

それもその筈だ、ストライクシクザールはシクザールストライカーに核エンジンを搭載しているために、実質的にエネルギー切れはないと言える。

つまりは、一夏はバッテリー切れによるガス欠を気にする事無く、戦闘を続行できるのだ。

 

だが、通常バッテリー機であるデスティニーインパルスまでもが、バッテリーを気にしない戦闘を続けているのか?

 

それには二つの理由が存在していた。

 

一つには、ヴォワチュール・リュミエールが大きな要因となっていた。

 

ヴォワチュール・リュミエール―――以降VL―――は元々深宇宙開発機構≪D.S.S.D.≫が開発した推進システムであり、大雑把に説明するならば、太陽風を光の帆で受け止めて進むシステムである。

 

理屈としては太陽風を光圧へと変換、推進力とすることで加速するシステムである。

尤も、その推力への変換効率はそこまで良いとは言い難く、一瞬で急激な加速力を得るのではなく、徐々に加速していくものだったが・・・。

 

これは純粋な外宇宙進出の足掛かりとなるべく生み出されたジェネシスによく似ているが、関連性はいまだ不明であるとしている。

 

だが、とある事件を機にデータが流出、様々な陣営にそのデータが渡った。

尤も、それ以前にも同名の推進システムは存在していたため、一概にそれが原因とは言えないが、今はそれは関係のないことだ。

 

VLのデータを各陣営は軍事転用し、本来は緩慢な加速しか行えなかった本システムにレーザー推進の技術を盛り込み、MSの加速装置として搭載することに成功、劇的な加速を付与することに寄与していた。

 

しかし、その結果、消費する電力はそれこそ膨大なものとなり、バッテリー機ではとてもではないが戦闘など出来たものではなく、モノの数分でバッテリーが枯渇してしまうという欠陥を抱える事となった。

 

現に、本来ならばデスティニーインパルスも、一度の出撃の度に数度のデュートリオン送電を受ける必要があったほどだ。

それを解決するためには核エンジンから与えられる無限のパワー以外ない、筈だった。

 

だが、これを解決するのもまた、VLだった。

 

二つ目の理由に、ストライクシクザールに搭載されているVLのシステムがあった。

 

以前のデスティニーインパルスとの戦闘で中破したストライクSを、ストライクシクザールへと改修した際、VLを登載することになった。

この時に用いられたデータは、デルタアストレイとターンデルタに搭載されていた物であった。

 

ターンデルタはデスティニーインパルス同様、核エンジンを持たないバッテリー機であった。

さらに言えば、アルミューレ・リュミエールと併用し、防御帯として使用する事も想定されているため、稼働時間は大幅に削られることは自明の理であった。

 

だが、ターンデルタにはほかの機体とは一線を画するシステムが、ジャンク屋のロウ・ギュールの手によって組み込まれていたのだ。

 

そのシステムとは、VL同士の相互干渉を利用した無線エネルギー供給だった。

 

諸般の事情で、大破したデルタアストレイから核エンジンを取り出せなかったため、ターンデルタを安定稼働させるために取り入れられたシステムであり、接触するほどのゼロ距離から、それこそ目視できる距離程度ならばエネルギー供給を可能としたものである。

 

これがストライクシクザールにも、改良すべき点がそこまで見当たらなかったという理由で、ほぼそのまま搭載されることとなった。

結果としてはうまくシステムが機能しているおかげで、ストライクシクザールは一夏の手足となり宙をかけているのだが、それが思わぬ副次効果を呼び込んでいた。

 

以上の事から解る様に、両者ともVLを搭載しており、尚且つストライクシクザールは核エンジンを搭載、そして発生するVL同士の相互干渉。

早い話が、ストライクシクザールが生み出したエネルギーの一部が、デスティニーインパルスに供給されている十いう事だった。

 

その結果が、二機とも自機のエネルギー消費を一切考えない、ほぼ捨て身と言わんばかりの戦いを続ける事となったのだ。

 

だが、そんな長々とした理屈など、今の二人には何も関係のないことだった。

 

今の彼らには、目の前にいる相手がすべてだったのだから。

 

「コートニー・・・!こんなやり方が正義だとでもいうのか・・・!?」

 

斬撃を躱し、時にはシールドで受け流しながらも、一夏は親友の意を問うために叫んだ。

 

コートニーの願いは聞き及んでいるし、それが現在の世界では難しい事であることも承知している。

 

だがしかし、だからと言って、デスティニープラン下で実現するかと言われれば首をかしげるところだ。

 

人が役割を与えられる。

それを逸脱させないための抑止力として、兵器は存在することとなる。

 

戦争をさせない兵器の姿であることは確かだ。

だがそれが、果たして彼が望む世界での兵器の在り方だと言えるのか?

 

一夏個人は否と言いたいところだ。

譬え、本当にそうであったとしても、今のコートニーは罪の意識に囚われ、錯乱している事に変わりはない。

 

故に、正しい判断を下せているとは、到底思えなかったのだ。

 

「黙れっ・・・!必ず辿り着かねばならないんだ・・・!」

 

血を吐くような叫びと共に、対艦刀が振り下ろされる。

 

その一撃を逸らし、懐に入ろうと試みるが、接近を妨げるようにもう一閃、対艦刀の剣戟が迫る。

 

「ちっ・・・!」

 

舌打ちしつつ後退し、対艦刀を一本格納しながらも、左手にビームピストルを保持、牽制として撃ちかける。

 

そのこと如くは避けられるか切り払われるかしてダメージを与えることは叶わなかったが、それでも距離を開くことには成功したようだ。

 

「デスティニープランには・・・!俺の夢を叶えられる可能性がある・・・!ならば悔いなどない・・・!!」

 

血を吐くような叫びながらも言い切った言葉。

 

だが、そこにはただ張り上げただけの、感情が乗せられていないようにも感じられた。

 

「ふざけるな・・・!この暴力が、理由のない悪意をまき散らすものが!本当に争いを失くす兵器だとでもいうのか!?」

 

「お前に何がわかるっ・・・!?」

 

一夏の憤慨に満ちた問いに、コートニーは黙っていろと言わんばかりに叫び返した。

 

夢を、それを追いかける事の何が悪いと、お前に俺の何がわかると。

 

「解るに決まっている・・・!今のお前は逃げているだけだッ!」

 

逃げているだけ。

一夏は嘗ての自分自身の姿を、もう一度今のコートニーと重ね合わせ、向き合っていた。

 

神の言いなりとなって罪を犯し、人間として果たすべき責任から目を背けた愚かな男。

 

それが彼が抱えていた闇であり、夢へと一歩踏み出せなかった根源だったのだ。

 

だが、今の彼はそれを真正面から受け止め、立ち向かう覚悟で今ここにいる。

 

罪から目を背けて、ただ言われるがまま踊らされるばかりのコートニーを、見捨てるわけにはいかなかったのだ。

 

ビームピストルを撃ちかけながらも、彼は叫ぶことをやめなかった。

 

帰ってきてほしいから。

あの時の、夢を語る時の熱と輝きを持ったコートニーに、自分のそばに戻ってきてほしいから。

 

「それでもっ・・・!それでも俺は・・・!!俺は進むしか、ないんだぁぁぁ!!」

 

もう後戻りなど出来るはずがない。

悲痛にゆがむ叫びと共に、彼は両の腕にビームシールドを展開、ビームピストルの光条を防御、そのままの勢いで一気にストライクシクザールへと突っ込み、体当たりを仕掛けた。

 

しかし、光の障壁を展開するストライクシクザールのアルミューレ・リュミエールとぶつかり、再び拮抗状態へともつれ込んだ。

 

「ッ・・・!そうかよ・・・!なら、俺も進ませてもらうぞ・・・!俺の望む、本当の明日へッ!!」

 

その意思を汲んだ一夏もまた咆える。

 

自分も、自分自身の願いの元で戦うと。

そのためにも、今のお前を一発ぶん殴ってやる。

 

その想いを込め、彼は再び対艦刀を振るう。

 

友を想い、自分自身の未来を、その刃に賭けて・・・。

 

sideout

 

noside

 

「各機!損害状況報せ!!」」

 

向かってくるザクウォーリアの頭部と右腕を切り飛ばしながら、ブリッツスキアーを駆る宗吾は味方全機に報告を求める。

 

一夏より現場の指揮権を預けられた身として、彼は戦場すべての気配に気を配っていた。

 

既に戦闘を開始してからかなりの時間が経過しており、オーブ軍を庇いながらも最前線で戦う彼の機体には、今だ目立った損傷は見て取れなかった。

 

艦隊の直援に回っているリーカのプロトセイバーはともかくとして、他の幹部機は最前線の中でも最も苛烈な攻めを仕掛けてくる、ゴンドワナやメサイアからの部隊を相手取っている。

 

今回の戦い、リーカは祖国であるプラントに弓を引くことになる。

 

如何に裏切りを受けたとはいえ、その痛みは、故郷を持たぬ一夏達にも容易に想像に易いものだった。

 

故に、その痛みを少しでも和らげるために、宗吾は一夏の出撃後、リーカにはイズモの直援を任せていた。

 

向かい来る敵の数はそれこそ多くはなる。

だが、どちらかといえば防御の側面が強い役回りに加え、プロトセイバーの加速力なら離れた距離にいる敵にも対応ができると踏んだフォーメーションだったのだ。

 

リーカもそれを受け、せめて自分ができることをと、迫りくる敵MSと交戦を続けていたのだ。

 

自分のために、そして、帰ってくるはずの彼のためにも・・・。

 

そんな彼女の思いとは裏腹に、遠近、そして奇襲型のMSがバランスよく揃っており、尚且つガンダムタイプを筆頭とする高性能MSを有するアメノミハシラのMS隊ではあるが、それでも数の上での不利は当然ながら存在する。

 

それを補っているのは、一重にアメノミハシラMS隊の練度の高さに他ならないが、それで凌げるほどザフトも甘くは無い。

 

故に、誰かが傷ついていればフォローに回る。

一夏から全員で生きて帰ると決められているならば、自分達はそれぐらいの無茶はやってのけて当然だと。

 

「こちらイージス!機体に損傷なし!!」

 

宗吾のすぐ近くで戦っていた玲奈が真っ先に反応し、彼の機体と背中合わせになりながらも、両手に保持するビームライフルを撃ち掛け、敵を牽制する。

 

互いの背を護る。

乱戦状態にある戦場では、背を任せられる仲間との連携が何よりも重要となる。

 

それは、如何な彼らでも当て嵌まる事だったのだ。

 

「ただし、ワイドとファンファルトの機体がライフルをロスト!サースの機体は右足を被弾!長くは持たないわよ!」

 

自分たち幹部がどうもなくとも、技量的に劣る部下たちが押され始めた事を知り、彼は歯噛みする以外なかった。

 

徐々に、そう徐々にではあるが、ザフトが戦線を押し上げてきていたのだ。

奇襲が成功し、不意を突くことは出来たものの、相手もゲリラや傭兵ではなく、正規の訓練を経て実戦に立つ軍人だったのだ。

 

動揺を突いたとて、優勢だったのはザフト側だったのだ。

元から持っていた勢いのままに、彼らを討ち取らんと唸りを上げていたのだ。

 

現に、最前線に近い場所で戦っていたヤタガラス隊は、撃墜者こそ出てはいないものの、武装を破壊された者もいれば、機体の一部が欠けた者も出始めていた。

 

自分たちの様に類まれな戦闘能力を持っているならば、これぐらいの窮地など幾らでも乗り越えて見せる。

だが、部下たちはそうはいくまい、機体の性能、パイロットの技量、そのすべてで劣る彼らが、このまま耐え凌げるとは思えなかった。

 

そしていつか、その綻びが決定的となってしまった時にこそ、戦死者が出てしまうのは火を見るより明らかだったのだ。

 

それは、宗吾も玲奈も、そしてなにより一夏が望まない。

絶対に、この戦に参加した全員で、自分たちの家に帰るのだと。

 

「ちっ・・・!ガルドとフォーソキウスを向かわせろ!!ここは俺たちで抑え込む!!」

 

故に、彼は自分自身が無茶をする以外にないという、ある種で一夏が実践してきた事を、そっくりそのまま行うという荒業に打って出た。

 

それも致し方あるまい、誰も死なせないのならば、この場で力を持つ者が何倍も力を振るわねばならないのだから。

 

「あいよっ・・・!無茶させてもらうわよ・・・!!」

 

最愛の恋人の意思をくみ取り、玲奈もまた、愛機をMA形態へと変形させ、雪崩の様に迫ってくるザフト軍艦隊、およびMS隊へと突っ込んでいく。

 

アメノミハシラ随一の加速を誇るイージスシエロだが、それでも雨あられと撃ちかけられる攻撃を完全に回避するのは難しいのか、時折機体を掠める攻撃も見受けられた。

 

PSとはいえ無限ではないし、そもそもビーム兵器への脆弱性はある。

攻撃を受け続ければ、何れ墜とされてしまうことだって有り得るのだ。

 

だが、それでも彼女は止まることはなかった。

大切な家族とも呼べる者達との未来を守るためにも、止まることなどハナから無かった。

 

「各機!一夏が戻るまで死ぬんじゃないぞ・・・!!今度もまた、俺たちが勝つんだ!!」

 

宗吾もまた、手近にいたザクのライフルを奪い、すぐさま使用出来るように設定を変更、仲間の援護と近づいてきたグフの頭部を撃ちぬいて退かせた。

 

そこに一切の迷いや澱みはない。

やるべきことをやる、ただそれだけを遂行する意思の強さが光っていた。

 

「その通り、だね・・・!!」

 

「最後の最後まで、戦い抜きましょう・・・!!」

 

シャルロットとセシリアもまた、己が愛機に搭載されている武装の全てをフルに使い、展開するMS隊に攻撃を仕掛ける。

 

ビームを、レールガンを、ガトリングを、ドラグーンを、其のすべてを今この瞬間に使い果たしても構わなとばかりに、少しでも時間を稼ぐために攻撃を仕掛ける。

 

その攻撃はまさに壁と言わんばかりの圧となってザフト軍へと迫り、次々に艦隊の中で大輪の華を咲かせた。

 

正に圧倒的、そう言い表すことが正しい様子に、ザフトのMS隊は再び怯んだ様子を見せ始めた。

 

「そうだ・・・!俺たちは、必ず生き残るんだ・・・!!」

 

雄たけびを上げながらも、宗吾もまた敵陣へと突っ込んでいく。

 

生きるために戦うために、友の本願を遂げさせてやるためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

果てなき剣戟の応酬、想いと想いのぶつかり合い。
その果てに待つ結末とは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

終曲

お楽しみに

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