機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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終曲

noside

 

「コートニーィィィィィ!!」

 

唸るような叫びと共に、ストライクシクザールを駆る一夏は相手へと突っ込んでいく。

 

白銀の機体が纏う光は、燃え盛る炎のような激しさをもって輝きを増し、天を駆ける不死鳥を髣髴とさせた。

 

対艦刀≪アスカロンⅡ≫を振るい、目の前の相手を打倒せんとした。

 

「一夏ァァァァ!!」

 

その相手であるコートニーもまた、自らが夢見る理想を求め、そして、自身の咎から逃げるように、我武者羅と形容できる激しさをもって、ストライクシクザールへと攻撃を仕掛ける。

 

苛烈極まりない斬撃が、ヴォワチュール・リュミエールの光を切り裂き、本体を掠める。

 

だが、お互いがお互いの手の内を読んでいる為に、直撃することはなく、ただただ美しい演舞の様にも思われた。

 

「お前はあの日・・・!心の底から夢を実現したいと言った・・・!だが、それは今の世界での話だ・・・!!」

 

発生させたビームシールドでデスティニーインパルスが振るうエクスカリバーを受け止め、彼はコートニーにその真意を問い詰める。

 

何度でも、届くまで何度でも。

自分の思いをぶつけ、コートニーからの思いを受け止め、そしてぶつけ返す。

 

それが、今の彼と分かり合う唯一の手段だと。

言葉と刃と魂を、今の彼が持てる全てで訴えかけるのだと。

 

「お前がやろうとしていることは・・・!兵器の恐怖を極大化させた下に生まれる、圧政だ・・・!今と、いや今以上に兵器は人を殺める!!」

 

「なにをっ・・・!!」

 

一夏の言葉に、コートニーの語気がわずかに弱まる。

 

図星を突かれたが故の動揺か、それとも、亡霊の言葉を聞いたが故の恐れか。

 

「お前は本当にそれでいいのか・・・!?利用されるだけされて・・・!!結局手に入るのは前以上の虚しさなんだぞ・・・!!」

 

虚しさしか残らない。

友も、最愛の者も全て失う今の選択で得るものは、飾り立てられただけの偽りの夢と、それに伴う虚しさだけ。

 

「黙れっ・・・!お前が言えたことか・・・!!何も知らないくせに・・・!夢を持てないお前が・・・!!」

 

その言葉に激昂し、シールドを破らんばかりに推力を強め、一気に押し込もうとする。

 

お前に何がわかるのだと。

夢を見ることを諦めたお前が、それを否定できるものかと。

 

「あぁそうだ・・・!俺には夢がない・・・!だけどな・・・!夢を叶えようとすることと、縛られることはまるで違うんだよ!!」

 

叫び返しながらも、彼もまた対艦刀を振りかぶる。

仕切りなおす心づもりもあっただろうが、其れだけではなかった

 

「嘗ての俺は、使命に押しつぶされた・・・!だから分かる・・・!夢ってのは、呪いでもあると!!」

 

彼は、それを身を以て知っていたのだ。

 

誰かから与えられた使命を妄信した結果、罪の意識だけを背負い、得られたものなど何も無かった。

 

使命とは、正にコートニーが抱く夢とも変わりはない。

夢もまた、その性質故に人を縛る。

 

縛られていた者と、縛られている者。

形は違えど、両者は、よく似ていたのだ。

 

「夢に囚われるな・・・!お前だってそれは分かっているだろ!!」

 

「ッ・・・!!」

 

その声に何も反論できなかったか、コートニーは一瞬だけ息をのみ、硬直する。

 

一瞬、その僅かな硬直を逃さず、振り下ろされたアスカロンⅡの一閃がデスティニーインパルスの左腕を切り飛ばした。

 

レーザーが推進剤を掠めたからか、誘爆が発生、その衝撃で、両機は磁石が反発しあう様に離れ、再び宙域を縦横無尽に駆け巡りながらも交錯する。

 

「それでも・・・!夢見た何時かに届く、希望だ・・・!」

 

振り切るように、血を吐くように、コートニーは叫びをあげ、

 

譬え、未来がないと、望んだものが手に入らないと分かっていても、あと一歩で夢が叶うと言うところで退くことが出来る者など、そうはいないのだ。

 

「だから、俺はッ・・・!進むしかない・・・!邪魔を、するなぁぁっ!!」

 

素早くエクスカリバーを手放し、パージしたビームブーメラン≪フラッシュエッジ≫に持ち替え、すぐさま投擲する。

 

それは弧を描いて飛び、ストライクシクザールへと向かっていく。

 

「そんなものッ・・・!?」

 

とっさに反応し、彼は脚部のラックよりビームナイフを抜刀、フラッシュエッジめがけて投擲し、相殺した。

 

だが、それに気を削がれたが故に、最早制動を無視した加速で突っ込んできたデスティニーインパルスへの対応が僅かに遅れる。

 

素早くエクスカリバーを握り直したデスティニーインパルスの一閃がストライクシクザールの右腕を切り飛ばす。

同時に超加速の勢いも載せたままだったため、両機は激突、ぶつけられたストライクシクザールは錐揉み状態となって吹っ飛ばされた。

 

「ぐぅぅぅっ・・・!!」

 

あまりの勢いと衝撃に呻きながらも、彼は機体を立て直そうと動く。

 

だが、其れよりも早く、彼は視界に相手の次なる動きの一端を捉える。

 

「墜ちろぉぉぉ・・・!!」

 

隙を見せたストライクシクザール目掛け、デスティニーインパルスの背面に装備されるビーム砲を展開、照準を定める。

 

何時かの様に、体勢を崩したストライクを撃つ。

なんとも因果なものだろうか。

 

またしても彼は、過ちを犯そうとしていた。

 

それを知ってか知らずか、彼は指掛けたトリガーを引き絞る。

 

それがどういう意味を持つかも、考える間もなく・・・。

 

「こなくそぉぉぉ・・・!」

 

だがしかし、そうは問屋が卸さねぇと言わんばかりに一夏が吼え、スロットルを全開にしつつ、一気に操縦桿を押し込んだ。

 

ビームが飛んでくる方向にアルミューレ・リュミエールを集中して展開、防御しようと試みた。

 

それとほぼ同時に、大出力ビームが撃ち出され、ストライクシクザールの展開した光の障壁にぶち当たる。

 

「ぐ、くぅぅぅ・・・!!」

 

スラスターを全開にしても、なお押されるような圧力を感じ、一夏は苦悶の声を上げる。

彼の呻きとシンクロするかのように、機体はギシギシと軋む様な音を響かせていた。

 

デストロイの超大出力ビームを防ぎ切ったその光の障壁も、今は発生基の一部が欠け、100%とは言い難い出力だった。

 

心許無い機体状況ではある、だがそれ以上に、伝わってくるプレッシャーに押されている。

一夏はそう感じてならなかった。

 

目の前からいなくなってほしい、消えてほしい。

恐怖にかられた破壊衝動と、強い現実逃避、それがヒシヒシと伝わってきたのだ。

 

だがしかし、それが判っていたとしても、ここで消えてやるわけにはいかない。

 

ここで彼が敗れ、命を落とすような事があれば、それこそすべての終わりだ。

 

コートニーも含め、自分に連なる者たちは二度と立ち上がれぬほどの、その先の未来を物理的に閉ざす結末を齎しかねないと分かっていたのだ。

 

だからこそ倒れるわけにはいかないのだ。

精一杯、足掻くと決めたのだから。

 

「う、おぉぉぉ・・・!!」

 

これ以上抗ってもまずいと判断したか、彼はスラスターを別方向へと噴射、ビームとビームシールドの反発を利用して射線上から逃れ、なんとか体勢を整える。

 

「逃がすかっ!!」

 

だが、それを易々と逃すほどコートニーも愚鈍ではない。

 

すぐさまヴォワチュール・リュミエールを展開、ストライクシクザールに追い縋る。

 

それに対し、一夏もまたヴォワチュール・リュミエールを展開し、対艦刀を振り、再度交錯する。

 

「戦いからは何も生み出せない・・・!だからこそ・・・!俺は賭けたいんだ・・・!!デスティニープランに・・・!議長が描く明日へ・・・!!」

 

追い詰められたように、切羽詰まったように叫び、コートニーは圧を強めていく。

自分の夢を実現するための方法はもうこれしかない、後戻りできない苦痛と、議長に対する疑念に板挟みとなった、混乱した感情の吐露だったのかもしれない。

 

友で有る者を傷つけてしまった罪の意識に潰されながらも、それでも信じた夢を妄信し続ける。

そうすることでしか心を保てない、そう見えてしょうがない程だった。

 

「俺もかつてはそう思っていた・・・、戦いから何かを生み出すなど傲慢だと・・・!だが、戦ってでも得たいモノがあると気付けた・・・!!」

 

コートニーの叫びに、自身の過去の記憶をリフレインしながらも、一夏はそれでもと叫び返した。

 

戦うことは壊すこと、奪うこと。

嘗ての自分が行ったことは、結局は破壊でしかなかった。

 

戦って戦って、その果てに得たものは何もなく、友さえも一度はすべて失った。

 

それでも、戦い続ける事で、戦いの中に身を置き続けたことで、漸く彼は守りたいものを、生きる意味を見つけたのだ。

 

だから、彼は夢を叶えるために戦うことを否定するつもりは更々ない。

戦いの果てに争うことがなくなるのならば、それはそれで良いと納得もするだろう。

 

しかし、だとしても、生まれながらにして決められた道だけを歩むことを強制される世界が正しいとは思わない。

 

夢とは、未来とは、そして人間の生き方とは、誰かから押し付けられるものでも、ましてや生まれ持ったものだけで決められていいものではない。

 

神の駒として、一個人としての生き方を放棄してしまった一夏だからこそ、そう叫びたいのだ。

 

「だから諦めるな・・・!!今までの世界でもやり方は必ずある!!一人でダメなら俺たちがいる・・・!!だからよぉぉ・・・!!」

 

スロットルを全開にし、残像さえ認識させないほどの速さで機体を動かす。

 

機体の全身に装備されているヴォワチュール・リュミエールユニットは既に完全開放されている。

これ以上を求めるのは酷というものだ。

ならばどうするか?

答えは至極単純、力を得るならば、オーバーロードさせて爆発的な推力を得る、シンプルかつ、滅茶苦茶な方法だった。

 

機体の限界など考えない。

ただ一度きりでも上回って倒して止める、その覚悟を以て、彼は機体を奔らせた。

 

今までの戦いで罅が入っていた装甲が軋みを上げ、破片を散らしながらも光の羽をまき散らす。

 

美しくも破滅を連想させる輝きだった。

 

「う・・・!?」

 

急に跳ね上がったストライクのスピードに惑わされたか、コートニーは周囲を警戒しながらも動揺を隠しきれないでいた。

 

残像さえ捉えきれない。たった一機のMSに全方位を囲まれている錯覚を思い起こさせるほどの圧が、ヒシヒシと伝わってきたのだ。

 

「ッ・・・!?」

 

不意に悪寒を感じ、自身から見て七時の方向へ機体を向けようとするが、それと同時に鈍い衝撃がデスティニーインパルスを襲った。

 

気が付けば、バックパックのビーム砲が二機とも切り落とされ、推進剤の引火による爆発を引き起こしていた。

 

「こ、このっ・・・!?」

 

攻撃を仕掛けようと動くも、既にストライクシクザールの姿は掻き消えており、対艦刀の斬撃は空を斬るだけだった。

 

だが、その瞬間にまた、コートニーの背筋に最大級の悪寒が走った。

それに咄嗟に反応するが、既に遅かった。

 

「ッ・・・!!」

 

眼前に対艦刀を振りかぶる白銀の機体が迫っていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

獣のような叫びと共に、一夏は対艦等の一撃を振り下ろし、デスティニーインパルスの残った左腕を斬り飛ばす。

 

「うっ・・・!?」

 

攻撃手段があっという間に断たれた事に、コートニーはただただ呆然と自機の状態を見やる事しかできなかった。

 

覚悟を決め、そして本気となった一夏の、摸擬戦とは違う桁違いの実力に、ただただ圧倒されるばかりだった。

 

「く、くそぉぉぉ・・・!」

 

最早破れかぶれと言わんばかりに、せめて一撃と残った脚部で蹴りつけようと動いた。

 

だが、それよりも早くストライクシクザールの斬撃がそれさえをも切り飛ばし、一切の攻撃手段を奪い去った。

 

「このっ・・・!大バカ野郎がぁぁっ・・・!!」

 

愛と怒りを交えた叫びと共に対艦刀を投げ捨て、光を纏った拳を振りかぶる。

 

戻ってこい、その意思を込めて、彼はその拳をまっすぐデスティニーインパルスのコックピット目掛けて叩き込んだ。

 

「ぐぁぁぁぁぁ・・・!?」

 

強烈な衝撃に全身を揺さぶられ、コートニーの意識は一気に落ちていく。

 

彼を包み込むように指す、光と共に・・・。

 

sideout




次回予告

いつの日か、笑って手を繋げれば…
彼等は見上げる。
ずっと前へ…

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

明日へ

お楽しみに

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