機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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明日へ

noside

 

「うっ・・・、くっ・・・。」

 

警報音が鳴り響き、中破した機体の中で、アメノミハシラ中将の神谷宗吾は、呻きながらも身体を捩った。

 

割れたヘルメットバイザーの破片に眉間を傷つけられたか、左目を塞ぐように血が止め処なく流れ落ちているようだった。

 

無理もない。

最前線の中でも特に戦闘が激しい場所で、隠密使用とはいえほぼ近接格闘メインの機体で戦い続ければ、それなり以上の損傷を受けるのもまた必然だったのだ。

 

その証左に、ブリッツスキアーは左腕が半ばより欠落し、右脚はほぼ根元から消失、背面スラスターに至っては完全に使い物にならないと一見して分かるほどに破損していたのだから。

 

「やっと・・・、戦闘が止まった、のか・・・?」

 

痛みを堪えつつ、辛うじて開くことのできる右目を開き、状況を確認する。

 

ジャスティスとアカツキに攻撃されたレクイエムが炎を噴き上げ、フリーダムとエターナルによる一斉射撃によってメサイアは今にも墜ちると言わんばかりに爆発光で彩られていた。

 

周辺宙域にいるザフトもオーブも、その光景を注視するかの如く動きを止め、事の成り行きをただ見守っているばかりだった。

 

勝負は決した、それは誰の目にもすでに明らかなものだった。

 

『宗吾・・・!応答しなさい・・・!生きてるんでしょうね・・・!?』

 

ボロボロのブリッツに、これまた頭部や右腕を欠いたイージスシエロが近寄り、玲奈が彼を案ずるように声を掛けた。

 

「こっちは大丈夫だ・・・!玲奈こそ大丈夫か・・・!?」

 

『アタシの心配より、自分の心配しなさいよ・・・!馬鹿ッ・・・!』

 

モニターに映る宗吾の顔を見たからか、彼女は悪態をつきながらも、どこか泣き笑いのような表情を見せた。

 

そんな彼女に、何を泣いてるんだと苦笑したくなったが、自分も似たような顔しているんだろうなぁと、彼はどこかボーっと考えていた。

 

仕方あるまい、戦闘でヒートアップした熱に、まだ頭が冷めていないのだから。

 

『皆さん・・・!ご無事ですか・・・!?』

 

その空気を切り裂く様に、痛みを堪える声色でセシリアが、仲間の安否確認を叫ぶ。

 

彼女の叫びに、宗吾の意識は現実に揺り戻される。

そうだ、自分たちのこの戦いでの勝利条件は、一機も欠けない事だと。

 

それを認識し直し、宗吾は痛みに軋む身体に鞭打って周囲を見渡した。

 

『こちらガルド・デル・ホクハ・・・!ヤタガラス隊、全機確認・・・!皆生きております・・・!』

 

『こちらリーカ・シェダー!セイバー及びM1A隊、全員無事よ・・・!イズモにも致命傷なし・・・!』

 

それから間もなく、それぞれの隊を仕切っていた者達からの、生存確認報告が返ってくる。

 

その答えはどれも全機無事、傷を負った者もいるが、死んだ者はいないという報告だったのだ。

 

『良かった・・・!良かったっ・・・!!』

 

その報告に、シャルロットは安堵の声と共に泣きじゃくった。

誰も死ななかった、失い続けた彼女達にとっては何よりの慰めだったのだ。

 

自分たちは生き残った。

ただそれだけの事実が、彼等にとっては何よりの戦果だった。

 

「あぁ・・・、だけど、まだ二人足りてない・・・!」

 

だが、それだけで終わりではない。

 

まだ二人、ここに帰って来ていない者達がいる。

 

一夏とコートニー。

限界を超えた戦いを繰り広げているであろう二人を、どちらも死なせること無く帰って来させねば、真の意味でのミッションコンプリートはない。

 

「セシリア、シャルロット、玲奈、リーカ・・・!俺達で迎えに行こう・・・!」

 

痛みを堪えつつ、彼は壊れたヘルメットを脱ぎ、機体に備え付けてある予備のヘルメットを被りながらも声を上げた。

 

待っている。

友が、誰よりも大切な者たちが。

 

彼等を迎えに行くのは、自分たちの役目だと。

 

ハッチを開け、イージスシエロの掌に器用に滑り込みつつ、彼は友を、大切な家族を見渡した。

 

「俺達の、家族を・・・!」

 

sideout

 

noside

 

光芒煌めく戦場から僅かに外れた宙域に、その二機の姿はあった。

 

先程まで、誰も手が出せない領域で戦闘を行っていたその機体たちは、今は満身創痍となりて、宇宙を漂っていた。

 

いいや、ただ漂っているだけではない事は、誰の目にも明らかだった。

 

その証左に、そのうちの一機、PSが落ちていないほうの機体のコックピットが開き、パイロットである青年が姿を現した。

 

「コートニー・・・!」

 

大破したデスティニーインパルスの行動が停止したことを確認し、愛機の出力を平常に戻したのちに、彼はインパルスのコックピットに近付いた。

 

エネルギーが枯渇したわけではないだろうが、インパルスはPSが落ち、機能をほぼ完全に停止しているようだった。

 

自分でこの有り様を作っておいてなんだとは思っているが、一夏は逸る気持ちを抑え、コックピットハッチを開閉するコードを入力していく。

 

ゆっくりと音を立てて、インパルスのコックピットが彼を迎えるように開いていく。

 

まるで、閉ざされていたモノが開く様にも見えたが、今の一夏にそれを感じ取れるほどの余裕はなかった。

 

内部からの反撃がないことを確認し、彼はコックピット内をのぞき込み、パイロットである親友を見やる。

 

気絶しているのだろうか、ぐたりとシートに凭れ込むような姿勢ではあったが、パイロットスーツやヘルメットに重大な損傷は見受けられない事を確認し、彼はひとまず安堵の息を漏らす。

 

「コートニー・・・!しっかりしろ・・・!おい・・・!!」

 

彼を目覚めさせるために、一夏はコートニーの肩を掴んで揺さぶった。

 

戻ってこい、その想いを籠めて・・・。

 

「う・・・、ぐっ・・・!!」

 

うめき声をあげながらも、コートニーは身体を捩る。

 

そして、ゆっくりと瞼が開かれ、その瞳が一夏の姿を捉える。

 

「ッ・・・!!」

 

その瞬間、彼の表情は恐怖に引きつり、何とか逃れようと身体をばたつかせていた。

 

まだ、彼は幻から逃れられていないのだ。

 

「落ち着けコートニー・・・!!俺を見ろ・・・!!」

 

我武者羅に暴れ、ついには拳銃まで抜こうとしたことを知覚し、一夏は素早くコートニーの身体を抑え込み、彼の瞳を覗き込むように見やる。

 

落ち着かせるつもりか、それとも現実を直視させるためなのか・・・。

 

「コートニー・・・!お前は俺を殺そうとした・・・!だが、俺はそれをなんとも思っちゃいない・・・!」

 

撃たれそうになったこと、右腕を奪われた事。

そこにもう恨みつらみを言い募るつもりは毛頭ない。

 

「だが・・・!今一度話をさせろ・・・!お前が求めるモノを・・・!夢の話を・・・!!」

 

だが、其れとこれとは話は別。

悪夢に、幻に追われて現実を見れていないコートニーを連れ戻すために、彼らは腹を割って話さねばならないのだ。

 

想いを呼び起こす、それが、今一夏がやろうとしている事だった・・・。

 

「い・・・、一夏・・・!おれは、お前を・・・!!」

 

まだ恐慌状態にあるのだろうか、コートニーは事実を反芻させようとして、それでも心がそれを拒むという事を繰り返していた。

 

逃れるように、引き離すように、彼は一夏の腕を掴み、力を込めた。

 

凄まじい握力で握られているからか、一夏の両腕は軋みを上げ、彼の苦悶の表情を浮かべていた。

 

だが、それでも彼は腕を放そうとはせずに向き合おうとしていた。

 

信じていたから。

コートニーが現実と、自分を呼ぶ友の本当の想いが籠められた声と、必死に向き合おうとしているという事に賭けたのだ。

 

「お前を・・・!撃った・・・!なのに・・・!お前は・・・!!」

 

なぜ生きているんだ、なぜ自分の前に立つんだ。

そんな戸惑いと喜びが、恐怖から顔を出そうとしていたのだ。

 

「みんなが俺を奮い立たせてくれたんだ・・・!その皆の中に、お前もいた・・・!!」

 

ここに戻ってこれたのは、仲間たちの声と、コートニーの本当の想いだと一夏は叫ぶ。

 

表面だけ取り繕った、絶望した気になっているコートニーの声ではない。

仲間と共に在りたいと語った、あの日の声が聞こえていたのだ・・・。

 

「だから聞かせろ・・・!なぜそうまでしてデスティニープランに拘る・・・!?叶ったとして、それはお前の望む姿なのか・・・!?」

 

その問いに、一夏の腕を掴むコートニーの手の力が、僅かに弱められた。

 

彼も、本当は分かっているのだ。

このまま突き進む先に、自分の望む未来は、友はないと・・・。

 

「やりとげたかった・・・!叶えたかった・・・!だけど・・・!そこにお前は・・・、リーカもいない・・・!分かってたさ・・・!!」

 

分かっていた。

運命を受け入れて、乗せられたまま夢を目指せば、その先に何が待っているのかなど、解り切っていた。

 

友を、愛する者たちを切り捨てて得るのは、結局は鉄の塊だけ。

夢だったとしても、愛する者には代えられぬもののはずだった。

 

なのに、彼はリーカを失ったと思い込み、乗せられるがままに戦い、果てには一夏達まで失うところだった。

 

「だけど・・・!リーカが死んだかもしれないと聞かされて・・・!俺は、何もかも失った気になっていた・・・!」

 

気付いていた。

だが、最早失ったと思っていた彼には、進むという選択肢しか見えなくなっていた。

 

それが、最後まで誤った道を歩ませた、大きな要因だったのだ。

 

その言葉は、一夏にも痛いほど突き刺さった。

 

護りたいと、共に在りたいと願った者たちの死、それは、未来さえ見えなくさせてしまう絶望の只中に墜とされる事に等しいから。

 

それを、一夏はずっと経験してきた。

振り切ることも、受け入れる事さえ出来ず、ズルズルと引き摺ってきた。

 

実のところ、一夏は今でさえ、過去を吹っ切ったとしても、人の死を吹っ切ることなど出来ないでいる。

 

それほどまでに、死別は重い枷となり、彼らを苛むのだ。

 

「俺も、苦しんだ・・・、お前の気持ちは痛いほどわかる・・・、だから・・・。」

 

だから、彼はコートニーの気持ちを理解することが出来た。

 

愛する者を亡くした悲しみ、夢に、使命に駆り立てられ追い詰められる苦しみが、痛いほど理解できたのだ。

 

「だから、俺はお前を責めやしない、俺はお前を許す。」

 

だから、彼はコートニーのしたことを責めるつもりはなかった。

自分がいくら傷ついても、どれ程の苦痛に苛まれようとも、大切な誰かを失うという痛みに比べれば、どうという事などないのだから。

 

故に、彼は望むのだ。

友と、仲間と、家族と生きる、明日という名の未来を。

 

「裏切られたなんて思わない、俺がやってきたことに比べりゃ、こんなもん軽いもんだぜ。」

 

顔をくっつける様に寄せ、力強くも慈愛に満ちた声で語りかけた。

 

帰って来い。

そんな想いが乗せられているようだった。

 

「どうしてだ・・・、一夏・・・。」

 

錯乱から落ち着き、何とか絞り出された声は、疑問に満ちていた。

 

「コートニー・・・?」

 

「なぜお前は・・・、そう強く在れる・・・?何故、そう笑えるんだ・・・?」

 

コートニーは問うた。

何故一夏は強く在れるのか、なぜ、自分を裏切り傷付けた相手を許し、共に笑おうとしようと出来るのか。

 

コートニーの言葉は、赦しを求めるモノでも、拒絶する意志でもなかった。

 

ただ分からないと。

何故そう強く在れるのか・・・、その答えを知りたかったのだ。

 

「俺は、ちっとも強くなんかないさ、コートニー・・・。」

 

自分を強いというコートニーの言葉を否定し、一夏は自分が弱いと自嘲する。

 

その表情には憂いと苦しみ、今だに振り切れない、死した愛しき者への想いが滲んでいた。

 

「誰かの助けがなかったら、俺は立ち上がることも、目覚めることも出来なかった・・・、取り返せないものを求めて、今を見ていなかった事さえあった・・・。」

 

自分は一人で立っていられるほど強くなどないと。

 

何百、何千と人の命を奪っておいて、たった一人の部下の死さえ受け止めきれずにいた男で、その事に絡めとられて未来を望めないでいた。

 

そんな男が強いなど、彼は露ほどにも思っていなかった。

 

「でも・・・、そんな弱い俺を求めてくれた、共に在りたいと言ってくれた仲間がいてくれた・・・、俺が求めていたものが、手を伸ばせば届くところに在ったって気付けたんだ。」

 

自分は誰かに生かされ立たせてもらっている、ともすれば折れてしまいそうになる心を、隣に寄り添い共に歩もうとしてくれる者達が繋げてくれている。

 

そんな簡単で、それでもこれ以上ないほどに大切な物だと気付かせてくれた事に、彼は心からの感謝と、自分が生きる意味を抱くことが出来たのだ。

 

セシリア、シャルロット、宗吾、玲奈にリーカ・・・。

 

そして・・・。

 

「コートニー、お前だってその一人だ、俺たちは、ずっと友達だっただろ?」

 

「っ・・・!!」

 

なんの打算も裏もない、ただひたすらに真っすぐなその言葉に、コートニーの頬を涙が伝い、零れ落ちた。

 

暖かくも強い想い、それに包まれている事が、一夏という男の友で在れた事の誇らしさが、彼の心を震わせていたのだ。

 

「さぁ、帰ろう・・・、俺達の仲間の・・・、家族のところへ。」

 

躊躇うことなく、一夏はコートニーに手を差し伸べた。

 

二度と間違えないために、二度と失わないために。

もう二度と、その手を離さないと誓って。

 

「あぁ・・・、あぁっ・・・!!」

 

その想いを受け、コートニーは大粒の涙を零しながらも頷き、差し伸べられた手を取った。

 

しっかりと、もう離さないと・・・。

 

ダメージが残るコートニーに肩を貸し、外に出た二人の目に、光が飛び込んできた。

 

「これは・・・。」

 

その光は、帰還命令を意味する信号弾であり、この宙域における全ての戦闘が終結したことを表していたのだ。

 

「なんて美しい・・・。」

 

その光はまるで、彼らを導く様に輝き、まるで満天の星空の様に煌めき照らしているようだった。

 

「あぁ、あの時、みんなで見た星空だ・・・。」

 

その光景に目を奪われている彼らの視界に、ひと際輝き、彼らに向かってくる光が写り込んできた。

 

その光は、彼らの友であり、家族とも呼べる者達、セシリア、シャルロット、玲奈、リーカ、そして宗吾の者だった。

 

宗吾はイージスシエロの掌から身を乗り出し、彼らに向けて大きく手を振っていた。

無事でよかった、遠くに見える彼の様子からは、安堵がにじみ出ているようだった。

 

「一夏・・・、俺は・・・、歩けるかな・・・?」

 

それを見たコートニーもまた笑みをこぼし、一夏に問いかけた。

 

共に歩めるかと、生きていけるかと。

不安を吐露するような声色だったのは、彼の本音であると言えるだろう。

 

「きっと歩いて行けるさ・・・、みんなで一緒になら、な・・・。」

 

肩を組み、一夏は力強く答えた。

 

自分達ならばきっと歩いて行ける。

 

共に夢を語ったあの時と同じように、同じ方向を向いて行けると・・・。

 

sideout




次回予告

過去を抱き、今を愛し、未来を願う
彼等の旅路はまだ、始まったばかりなのだ

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

最終回 そして未来へ

お楽しみに
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