機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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そして未来へ

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C.E.74年

ユニウス・セブンの地球落下事件より始まったとされるユニウス戦役は、月面で行われたザフトとオーブ連合軍との決戦の末、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの戦死を以て事実上終結した。

 

指導者を失ったプラント評議会は、国内の混乱を抑えるべく、ラクス・クラインに本国への帰還を要請、臨時の最高評議会議長に据えることで地盤を固めた。

 

その一方で、オーブ首長国連合の首長となったカガリ・ユラ・アスハは、事実上瓦解した地球連合をオーブが取り仕切る形とすることで纏め上げていた。

 

その後、国内の混乱をある程度鎮静化させた両国はコペルニクスにて、ユニウス戦役の終結を取り決めた条約を制定した。

 

ここに、長きにわたる戦乱が、一応の終わりを迎えたのだ。

 

だがその裏では、今だに終わることのない争いが続いていた。

 

元々、ナチュラルとコーディネィターとの確執が原因の一つだったのだ。

幾ら条約が締結されたとはいえ、紛争の全てが終わったわけではないのだ。

 

しかし、それを止めようと、変えようとする者は、裏の世界にも確かに存在していた。

 

彼等の戦いはまだ、続いていたのだ。

 

sideout

 

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C.E.74年も終わりに近付こうとしていたある日。

 

地球衛星軌道上に存在する城、アメノミハシラの大広間にて、それは執り行われようとしていた。

 

大広間には、アメノミハシラの兵たる者達、セシリアを始めとする大幹部たち、そして、その上座に座すロンド・ミナ・サハクの姿があった。

 

「よくぞ我が呼びかけに応じ、この場に集ってくれた。」

 

一同を代表するかのように、ミナは目の前に控える二人の少女に声を掛けた。

 

その二人のうちの片方は、サーペント・テールの準隊員である風花・アジャー。

もう一人は、薄オレンジ色の長髪を持つ少女だった。

 

彼女の名は、ラス・ウィンスレット。

年齢は16歳、コーディネィターである。

 

彼女の父は、ウィンスレット・ワールド・コンツェルン社と呼ばれる、連合、プラント双方に対してMSや兵装のパーツを提供していた会社の代表で会った。

 

しかし、C.E.71年にオーブに滞在していた際に連合のオーブ侵攻に巻き込まれる。

そのドサクサに紛れるかのように、彼女の父親は彼女の目の前で襲撃に遭い死亡、会社の経営権を連合に奪われ、彼女も保護という名目で収容施設へと収監されてしまった。

 

その後、数年間を収容所で過ごすが、かつて交流のあったロンド・ミナ・サハクの手により救出され、今はアメノミハシラに身を寄せる事となった。

 

彼女がどれほど過酷な仕打ちを受けたかは想像に難くはない。

だが、今はそれを語る所ではないだろう。

 

何せ、今執り行われているのは、ラスがアメノミハシラの一因になることを知らしめるための集いではないのだ。

 

「先に話していたように、我々アメノミハシラは天空の宣言を実行する者として、永く先まで世界を見つめていかねばならぬ。」

 

彼女たちを前に、ミナは教えを授けるように話を始めた。

 

それは、天空の宣言のこれからの事。

世界が再び、争いによって悲劇に呑み込まれないための、アメノミハシラが負った使命の事だった。

 

「人類が、ナチュラルとコーディネィターの隔てなく生きていけるまで、争いをやめるその時まで、この天空の宣言は続けていかねばならない。」

 

人類が自発的に争いを起こさないようになるその時まで、アメノミハシラは天空の宣言と共に世界を見つめ続けなければならない。

 

それは、今この場にいる全ての者が理解し、共有している事で有った。

 

だが・・・。

 

「しかし、我々人間の寿命はせいぜい100年、現役として戦っていられるのは、その内の三割あれば良いほうだろう。」

 

人類が自発的に争いをやめ、手を取り合えるまでにどれ程の時間がかかるだろうか?

特に、怨恨から始まってしまっているコズミック・イラの世界でそれを為すには、とても人間が一生を終える程度の時間では足りないことなど明白であった。

 

「だが、我々人間は一人ではない、次の世代へバトンを渡すことも、想いを託すことも出来る、我が子であっても、弟子であっても、役目を繋いで行けるのが我々人類だ。」

 

だが、人間は一人ではない、誰かと共に在り、家族を作り子をなす。

その想いを、役目を後進に伝えていくことで、伝統を、その役目を歴史に、未来に残してきた。

 

天空の宣言もまた、未来へと希望を託すために、次の代へと繋いでいく必要がある。

 

「風花・アジャー、ラス・ウィンスレットの両名を、我が後継者、天空の皇女≪プリンセス≫の候補として、これより世界を巡り、様々な者達からその生きざまを、信念を学んでもらい、相応しい者を選ぶ。」

 

そのために、その資質を持つ者を、ナチュラルとコーディネィターから一名ずつ選び、どちらが選ばれようとも、天空の宣言を正しい方向に導けるように、と・・・。

 

「補佐には幹部の者達を付ける、彼らと共に世界を見て回れ。」

 

「「は、はい・・・!!」」

 

ミナの言葉に、二人は背筋を正し、緊張の色を隠せない上ずった声で返した。

 

そんな二人を、ミナを含め幹部の者達は、何を緊張しているのやらと少しおかしく思いながらも苦笑していた。

 

ラスはともかく、風花とはそれなりに付き合いもある。

何を緊張する必要があるのかと。

 

まぁ、いつもと違う状況に置かれれば、如何に知り合いの前とて身構えてしまうのも無理はあるまい。

 

しかし、今はそれをどうこう言っている訳にも行くまい。

 

幹部たちは互いに目配せし、二人の前に歩み出た。

 

「プリンセス候補たち、我ら幹部7人一同、あなた方の道程を見届けさせていただこう。」

 

一同を代表するように、宗吾が跪いて忠を誓った。

それに倣い、ほかの幹部たちもまた跪き、頭を垂れた。

 

お前たちの生きざまを見届け、その先にあるロンド・ミナの後継者となるその時を待つと。

 

「よ、よろしくねセシリア、シャルロット・・・!!それから皆も・・・!!」

 

宗吾の言葉に、風花は姉とも呼べるセシリアとシャルロットを見つめながらも、他の幹部たちに目をやる。

 

彼女の視線に気づき、リーカと玲奈は笑み返し、宗吾は深く頷いていた。

 

分かっている、そんな暖かい想いが、彼らから伝わってくるようだった。

 

「えっと・・・、7人・・・?」

 

だが、彼らとそこまで交流のないラスは、何処か腑に落ちない顔でセシリア達を見渡しながらも首を傾げていた。

 

「あ、そういえば・・・。」

 

風花も知らないうちに幹部に新顔が一人加わっている事もあるにはあるが、今ここにいるメンバーに欠けている者がいる事を察していた。

 

そう、目の前にいるのは先にアクションを見せた5人に加え、ただ押し黙って二人を見やる金髪の青年しかいなかったのだから。

 

「あぁ、アイツなら地球に降りたよ、どうしてもやりたいことがあるってな。」

 

その疑問に答えるように、宗吾は苦笑しながらも答えていた。

 

式典が始まる一時間ほど前、何かを思い出したその男は、幹部だけにそれを告げてアメノミハシラから出立していたのだ。

 

無論、ミナもそれが何を意味しているか気付いているからこそ、あえて何も言わずに式典を優先させたのだ。

 

「アタシ達も、ちょいとだけ出てくるわ、アイツを追いかけないと。」

 

「どこに行ったか、まだ私にはわからないけど、あの人がいないと締まらないから。」

 

何時も通り、自分が思い立ったら即行動なその男に呆れながらも、玲奈とリーカはしみじみと語った。

 

それは、セシリアもシャルロットも、そして宗吾とその隣に立つ、コートニーも同じ思いだった。

 

彼はメサイア攻防戦後、アメノミハシラの捕虜という扱いでリーカのもとへ戻り、その後はある男と幹部全員の嘆願により、しばしの謹慎と懲罰期間を経て、改めて准将という立場で戦うこととなっていた。

 

とはいえ、謹慎の理由が理由であるため、まだまだ周囲からの冷ややかなものは拭えていないのが実情ではあるが、そんなことなど今のコートニー自身にはどうでもいい事だった。

 

彼は、彼を救ってくれた男と、その周りにいる者たちのために尽くすと決めた。

ならば自分がどう思われようとも、その為に命を使うと。

 

「行先なら俺とセシリア、それにシャルロットなら知っている、アイツにとっても、最後のケジメの場所でもあるはずだ。」

 

風花の疑問の表情を受け、彼は少し感慨深げに答えていた。

 

彼が言う最後のケジメ、それは、それを見た者達にしか分からぬ、その男が抱える問題だったのだ。

 

「少しだけお暇させてもらうね、風花。」

 

「地球に降りてこられた時に、私たちも合流します。」

 

今は彼を追う、その想いを胸に、幹部たちは地球へと向かうつもりだった。

 

自分たちが仲間として、友として、そして家族としてあるために。

 

「うん、分かった、待ってるからね!」

 

今だ腑に落ちぬと言わんばかりのラスを置き去りにしつつ、風花は笑顔で6人を送り出す。

 

彼らが迎えに行く男の姿を、そして、彼らが笑って過ごす未来に想いを馳せながら・・・。

 

sideout

 

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「・・・。」

 

南米大陸の某国。

海が一望できる丘の上に、その男の姿はあった。

 

190cmはあろうかという長身に、癖のある黒髪を潮風に靡かせながらも、その切れ長の瞳は細められ、形の良い唇は固く一文字に結ばれていた。

 

「やっと、ここに来ることが出来たよ。」

 

痛みを堪えるように、そして、念願がかなったと言わんばかりに、その男はしみじみと呟いた。

 

彼の右手には白いバラの花束が、そして、左手にはワインのボトルとグラスが納められたバスケットが握られていた。

 

まるで、誰かに会いに来た、そんな様子が窺えるようだった。

 

彼の名は、織斑一夏。

アメノミハシラの元帥にして、最強のMSパイロットである男だ。

 

本来ならば、彼もまた主であるロンド・ミナが執り行っている後継者選定の場に居なければならなかったのだが、彼はそれよりもやらねばならないことがあった。

 

「随分と長い事、待たせてしまったな。」

 

穏やかな口調で、彼は目線の先にあるモノへ言葉を掛けた。

 

その視線の先には、こじんまりとした白い墓石があった。

 

そう、ここは南米戦争にて命を落とした軍人の集合墓地であり、彼の目の前にあるのは、彼の部隊で戦った女性のものだった。

 

彼は寂しそうに笑みを浮かべた後、花束をまず備え、自分も腰を下ろす。

 

「君とはこうして飲む事さえ出来なかったっけ・・・?だから、こうやって形だけでも付き合ってくれないか?」

 

苦笑するように、彼はグラスを2つ地面に置き、持ってきたワインをそれぞれに注ぐ。

 

自分の分を手に持ち、相手のグラスに軽く乾杯すると、彼はワインを少しだけ口に含み、味わう様に呑み込む。

 

「こうやって向き合うことに、三年近くも掛かってしまった・・・、けどね、まだ胸の奥が痛いんだ、これは、一生消えないかな・・・?」

 

ふぅ・・・、と一息吐きながらも、彼は何か言ってくれよと言わんばかりに話を続ける。

 

答える者はいない。

あるとすれば、潮の香を乗せて薫る風の音ぐらいなものだった。

 

「君を護れなかったことは、今もまだ悔やんでも悔やみきれない・・・、正直、独りじゃ何も出来ないって、思い知らされるよ。」

 

墓石の前に置かれた、減らないワイングラスを眺めながらも、彼は自嘲するように呟く。

 

護れなかった者への後悔、失われた命への嘆き、そのすべてを曝け出す様に・・・。

 

目の前で失われた命を、取り戻せない過去を、彼は嘆いていたのだ。

 

「だけどね、こんな弱い俺を受け入れてくれた人たちがいたんだ、ずっと、俺が乗り越えるのを待ってくれた人がいたんだ。」

 

彼の表情に、明るい色と笑みが浮かんだ。

 

そこにあるのは、希望、夢・・・。

後悔や懺悔ではない、未来へ続いていくものだった。

 

「俺は皆に生かされ、立たされている・・・、それがどれだけ幸せで、どれだけ暖かいか・・・、やっと分かったんだ・・・。」

 

彼の柔らかい笑みには、最早恐怖などはなかった。

 

ただ、自分を待っていてくれた、必要と叫んでくれた、愛を伝えてくれた。

 

彼等の想いに応えるためにも、そして、今度こそ、人間としての未来を、誰かと共に掴むために。

 

「一夏。」

 

「ここにいたんだな。」

 

彼の背後から、優しく温かい声が掛けられる。

 

気配は六つ、どれもが、一夏の事を想う者だ。

 

「あぁ、やっとここに降りようって気になれたからな、プリンセスの事も気になるが、やはり、な・・・。」

 

咎める気配がないことを悟りつつも、彼はどこか苦笑しながら答え、その気配に振り向いた。

 

そこには、彼に歩み寄ってくるセシリア、シャルロット、宗吾、玲奈、リーカ、そして、コートニーの姿があった。

 

皆、一様に穏やかな笑みを浮かべ、立ち上がった彼の隣に並び立った。

 

「フィーネルシアの墓参り、してやれなかったからな・・・、迷ったままで来ていいのかも分からなかったから。」

 

気心知れた、弱さを見せられる者達の前だからだろうか、彼は先程よりもより素直に語り始めた。

 

迷い、それは自分の在り方と過去への恐怖、そこから生まれるジレンマが元となったもの。

 

独りでは生きていけないと分かりつつも、誰かに頼ろうとすることが出来ない弱さ。

矛盾に苦しみ、余裕のない状態では、とてもではないが構うことなど出来ないというのが本音だった。

 

だが・・・。

 

「でも、今は違う・・・、俺にはセシリアも、シャルも、宗吾も玲奈も、コートニーもリーカもいてくれる・・・、それだけで、立ち直れる勇気を貰えた。」

 

全員に視線を向け、そして、彼女の眠る墓石に皆が目を向けた。

 

自分を支えてくれる者が居た、護りたいという想いを奮い立たせてくれる者が居た。

 

ただそれだけで、彼は立ち上がることが出来た、生きて行こうと思うことが出来た。

 

「散々遠回りして、散々苦しんだけど・・・、漸く答えを・・・、生きていける意味を見つけたんだ、今日はただ、それだけを言いたくてね。」

 

仲間を、友を、最高の家族とも呼べる者達を見つめ、彼は笑む。

 

共に歩むと決めた者達、それが今、彼の目の前に居てくれる。

それが、彼にとってどれほどの幸福か、どれほどの希望か。

 

たったそれだけでも、生きる意味には十分すぎるモノだった。

 

「もう行くよ、お姫様見習い達をほったらかしにしておくわけにもいかなくてね。」

 

墓に暫く手を合わせ、彼はまた寂しそうに笑んだ後、踵を返して歩き始めた。

 

彼の友たちもまた、彼を追って歩き始める。

 

―――隊長・・・、どうか・・・―――

 

その時だった。

一夏にだけ、何処か願うような声が耳朶打った。

 

その声に、一夏は歩みを止め、今一度その方向へと振り返る。

 

それは嘗て、彼が聞いた最後の言葉・・・。

だが、その声が持つ色は異なり、ただただ、一夏のこれからを願う、優しく温かいものだった。

 

振り返れども、そこにあるのは白い墓石と、その背後に広がる蒼穹のみ。

 

だけど、彼には見えた気がした。

自分に向けて優しく微笑む、女性の姿が・・・。

 

幻だろうが、彼には関係なかった。

自分の新たな一歩を、彼女は応援してくれている。

 

それが彼には嬉しく、誇らしいものだった。

 

「どうかしたか、一夏?」

 

いきなり歩みを止めた彼を訝しんだコートニーが声を掛けてくる。

 

彼には見えていない、だが、一夏が何かを感じ、それを受けて安らかな心地でいる事だけははっきりと分かった。

 

「何でもない、行こうか。」

 

自分を見つめる家族に笑みを返し、彼は一度だけその方向へと頷き返した後に、今度こそ本当にそこから離れていく。

 

過去は消せない。

 

だが、それでも未来を創ることは出来る。

 

「俺たちの未来へ、この絆を繋げに・・・。」

 

彼は、彼らは行くだろう。

どれ程の困難が待っていようとも、仲間を、友を、家族を信じて。

 

本当に欲しかった未来を、その手に掴むために・・・。

 

 

 

ここに、天の傀儡から解放された男の物語が終わり、新たな一歩を記していくことになる。

 

彼は求め、歩み続けて行くだろう。

新たな明日を、己が進むべきASTRAYを、その胸に抱いて・・・。

 

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推奨エンディングBGM
聖飢魔II<世界一のくちづけを>

はいどーもです!
これにて、長きに渡る本小説、アストレイからの一夏達の話は完結致しました。
先にifの続編書いたり、色々やらかしたりして時間がかかりましたが、なんとか完結させる事が出来て感無量です。

作品の評価自体は色々とあるかも知れませんが、個人的には一夏の話に一区切りを付けられて満足しています。

最後に、この作品を最後まで読んでくださった皆様、五年間にも及ぶ応援ありがとうございました。
これからは他の二作品をどうぞよろしくお願い致します。

それでは、また~

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