機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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PAST

side一夏

 

ここは・・・、何処だ・・・?

 

何も無い、ただ漆黒が支配する空間に、俺はただ独りで立っていた。

 

光も音もなく、無音の世界が広がっているのみで、他には何も見当たらなかった。

 

いつぞやの狭間の世界でもなければ宇宙空間でもない。

 

周囲を見渡してみるが、相変わらず漆黒の空間が続いているだけだった。

 

そんな時だった、突然足場が沈む様な感覚を覚える。

 

何事かと思い、自分の足元に目を向けると、血の色をした泥が俺の身体を飲み込もうとしていた。

 

「・・・っ!!」

 

なんなんだこれは・・・!?

 

抜け出そうと必死にもがくが、まるで身体を何かに掴まれている様で一向に抜ける気配もない、

いや、もがけばもがくほどに俺を捕える力が強まっている様な感覚を覚える。

 

その正体を探ろうと目を凝らすと、足元の泥から何本もの手が俺に向かって伸びてくるのが見える。

 

「ぅっ・・・!!」

 

それだけならよかった、俺にはそれが、誰の物であるのかまで判ってしまう。

 

『織斑一夏・・・!!貴様は私の誇りを踏みにじった・・・!!』

 

『貴様が・・・!!貴様のせいで・・・!!』

 

『お前のせいで私は・・・!!』

 

そうだ・・・、この手は、俺がこれまで殺して来た奴等のものだ・・・。

 

ひとつひとつの手にそれぞれ違った、だが内容はすべて俺への怨嗟、憎悪が込められていることが、俺を押しつぶす様に迫ってきている事ではっきりとわかる。

 

逃れられない過去が、俺の身体を絡め捕ろうとしているのだろう。

 

だが、呑まれてやるわけにもいかない、まだ何も終わらせてねぇんだからな!!

 

『どうしてなのですか・・・?』

 

『どうして僕達まで・・・?』

 

そう思った時、俺は全身の血の気が一気に引いていく様な感覚を覚える。

 

今まで聞こえていたどんな怨嗟の声よりも、ずっと恨みが籠っている。

 

いや、そんな事よりも、この感覚は・・・!!

 

「セシリア・・・!!シャル・・・!!」

 

『どうして私達まで殺したのですか?』

 

『僕達はまだ生きたかったのに・・・。』

 

セシリアとシャルの身体が泥の中から浮かび上がり、俺にしがみついて引きずり込もうと力を込めてくる。

 

表情は窺えなかったが、声の調子から俺への怨みで染まりきっている事は明白だ。

 

「俺は、そんな・・・!!」

 

そんなつもりはなかったと言い切る前に、俺の顔まで伸びてきた手に掴まれた。

 

『カエセ・・・、カエセ・・・!!』

 

その言葉を聞いたと同時に、どんどん身体が沈み、ついには首元まで沈んでしまう。

 

やめろ・・・!!やめてくれ・・・!!

俺は・・・、俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

頭まで飲み込まれた直後、俺の目の前は真っ暗になった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

絶叫と共に跳ね起きた一夏は、恐怖に目を見開き、荒い息を吐いていた。

 

少し落ち着いた彼は、恐怖に震える身体を抱きすくめたまま辺りの様子を見渡す。

 

そこは明かりが付いていないために薄暗いが、間違いなく、彼に与えられた部屋であった。

 

「夢、か・・・、いや、現実か・・・。」

 

それを認めた彼は、自身を落ち着けるかの様に大きく息を吐き、

ベッドの傍に置いていたテーブルの上にあったドリンクボトルを手に取り、頭から水を被る。

 

「(俺は・・・、どうしてあんな事をしたんだろうな・・・。)」

 

水を浴び、髪に付いた水滴を払う様に頭を振りながらも、彼は嘗ての自分に思いを馳せる。

 

嘗ての彼は、彼を転生させた者の依頼とはいえ、残虐の限りを尽くし、敵はおろか、自身の姉まで手に掛け、彼を愛した者達すらも利用していた様なものだった。

 

先程の夢の様に、誰に恨まれていてもおかしくはないのだと、彼は冷めた思考で振り返っていた。

 

「愛していると言っておいて・・・、道連れにする様な事をしておいて・・・、結局二人だけ死なせちまったんだ・・・、恨まれても・・・、憎まれても当たり前だ・・・、いや、呪い殺されても文句は言えないよな・・・。」

 

彼は自嘲気味に呟いた後、僅かだが寂しげに笑った・・・。

 

それはまるで、自分の大切なモノが粉々に砕け散り、手から零れ落ちていく事を嘆いている様に・・・。

 

大きくため息を吐いた後、彼はベッドから降り、

寝間着から普段着用している制服に袖を通し、自室からどこかへと出向いて行った。

 

sideout

 

noside

 

アメノミハシラ、地球の低軌道上に存在する宇宙要塞であり、

オーブ五大氏族、サハク家出身のロンド・ミナ・サハクが所有する、謂わば城の様な場所でもあった。

 

軍需産業にも引けを取らぬほどのファクトリー、

そして、今はそれ程強力ではないながらも、決して軽んじる事の出来ない戦力を有しており、来たるべき戦いの時に備え、目立った行動を起こすことなく息を潜めていた。

 

そのファクトリーの一角、ガンダムタイプの機体が置かれている区画の、さらにその一角、ストライクの前にて、黒髪長身の青年と、数名のメカニック達が端末を見ながら何やら言葉を交わしていた。

 

「装甲の電圧はどうすんだ?初心者用に高めに設定しとくか?」

 

「いえ、機動力にエネルギーを割きたいので、装甲の電圧は極力抑えてください。」

 

「分かった、関節部のチェックしとくぞ。」

 

メカニック達の中でも年長者であるジャック・ウェイドマンの指示に、彼等の周りに控えていたメカニック達は深く頷き、蟻が獲物に群がるようにストライクに取りついた。

 

「それにしても、此処のメカニックは勢いが違いますね、他の現場を見たことがありますが、それ以上だ。」

 

ジャックの隣に立つ青年、織斑一夏はその様子に感心したかの様に呟いていた。

 

今回の起動試験の為の整備には、彼の操縦の癖を知るジャックの監修の下、彼の意見を取り入れる為の集いが持たれていたのだ。

 

「そうだろう?オノゴロのモルゲンレーテにも負けてないさ、ミナ様のお力と、俺達の努力が有ってこそだよ。」

 

「でしょうね、だからこそ、俺も信頼して機体を任せられるというものです、これからロンド・ミナの所に行くので、後はお任せします。」

 

「分かったぜ、完璧に仕上げといてやるよ。」

 

ジャックの言葉に同意する様に答えた後、一夏は彼に行先を先を告げ去って行った。

 

sideout

 

side一夏

 

ウェイドマン整備士長にストライクの整備を頼んだ後、

俺は主であるロンド・ミナの下に足を向けた。

 

彼女の僕になってから既に一週間が過ぎているということもあり、ここのスタッフ達とは大体顔見知りになった。

 

要塞内部の構造も頭に叩き込んだし、近辺宙域の空図も覚えた、なんせ、MSに乗って訓練を行う以外、特にすることもないわけだ、暇を持て余していては、またあの二人の事を思い出してしまいそうになる。

 

忘れたくはない、だけど、その事を思い出す度に、

俺は彼女達に何もしてやれなかった事、死なせてしまった事への罪の意識に苦しめられ、孤独に苛まれてしまいそうになる。

 

だからこそ、覚える事を意図的に増やし、

敢えて思考が向かないようにする事しか、今の俺には出来なかったんだ・・・。

 

まぁ、その結果として様々な知識を吸収できたんだが、

やはり、それとこれとは話が別なんだけどな・・・。

 

そんな感傷に浸っている内に、俺はアメノミハシラの一室、つまりはロンド・ミナの私室へと辿り着いた。

 

流石にこの辺りに来れる人間はかなり限られているのか、人の気配はほとんどない。

 

迷ったら一大事になりそうだと、冗談交じりに思いつつ、

俺は彼女の部屋のインターホンを押した。

 

「ミナ、一夏だ、入っていいか?」

 

『待っていたぞ、入れ。』

 

彼女の返事と同時に扉が開かれ、俺は部屋の中に足を踏み入れた。

 

俺を迎え入れた部屋は、豪華絢爛と言うほどではないが、中世貴族の一室を思わせる様な造りになっており、

中でも圧巻なのが鏡に見せかけた大型のモニターであり、その装飾も相まって、ある種の荘厳さを醸し出していた。

 

「先程まで整備士達と話していたみたいだな?熱心な事だな。」

 

「あぁ、機体の出力と装甲の強度についてだ、やはり、

自分が使う機体なんだ、俺の癖を機体に反映させたくてな。」

 

彼女に勧められ、俺は彼女と向かい合う形で席に着き、

差し出されたワインに口を付ける。

 

葡萄の酸味とアルコールの香りが口の中に広がり、何とも言えぬ心地よい感覚を覚える。

 

「フッ、お前らしいな、だが、エースともなればそれぐらいの希望はあって当然だ。」

 

「まるで、俺の事を何でも知っている様な言い方だな、それに、俺はまだまだ駆け出しだ、エースなんていう大層な者じゃない。」

 

「謙遜しすぎだ、過ぎた謙虚は己の力量を過小評価することになる。」

 

俺の話をどこか愉しげに聞きつつ、彼女はコンソールパネルを操作し、モニターにある映像を映し出した。

 

そこにはハンガーに固定され、修復作業を受けている金色のフレームを持った機体、ゴールドフレーム天の姿があった。

 

戦闘で受けたと聞いた傷も既に修復され、ほぼ新造時に近い形で佇むその姿は、天空に佇む者としての威厳に満ち満ちていた。

 

これを見せるということは、俺を呼び出した理由は一つに絞られる。

 

「天の修復はほぼ完了したという報告を受けている、お前のストライクの整備が終わり次第、模擬戦を行いたい。」

 

やはりな、俺が聞く限り、ゴールドフレームはロンド・ギナがメインパイロットだった事もあり、彼女自身はあの機体に乗ったことが無い。

 

だからこそ、ストライクに今だ搭乗していない俺を、模擬戦の相手に誘ったというわけだ。

 

「なるほど、機体の調子を確かめるつもりか。」

 

「そうだ、お前にとっても良い訓練になることだ、悪くはないだろう?」

 

ごもっともだな、ロンド・ミナに相手してもらったのは最初の一回だけだった。

 

それ以降、俺は暇があればM1Aやロングダガ―を借り受け、大気圏に落ちないように気を付けながら機体を動かし、独りで訓練に精を出していた。

 

つまり、彼女は知りたがっているのだろう、

俺の今現在の実力を、そして自分がこれから使うことになる機体の事を。

 

「悪くない、寧ろ好都合だ、是非とも頼む。」

 

「良いだろう、明朝より試験稼働を開始する、それまで十分に休んでおけ。」

 

「分かった、ミナ、アンタも休めよ、コーディネィターとは言え、俺達は人間だ、身体が万全でないとまともに動けんからな。」

 

余計なお世話だとでも言いたげなミナの様子に苦笑しつつ、俺は席を立ち、部屋から退室した。

 

さて、俺は何処まで戦えるか、

もう一度確認できる絶好の機会だ、逃す手は無い。

 

I.W.S.P.の調整も完了したとウェイドマン整備士長に聞いたし、ストライクのOSは完璧なまでに俺に追従出来るレベルに設定しておいた。

 

俺がやるべき事はもう無いに等しい、

とは言え、最終調整でもしておくとするか。

 

どうせ、眠っても悪夢に魘されるだけだからな・・・。

 

「俺は・・・、やはり弱い、な・・・。」

 

偽りの仮面を被り、人としての感情を捨てた人形として生きていた時は、こんな気持ちにはならなかった。

 

それは、俺が受け入れきれない事実から逃げていた証なんだと思う・・・。

 

罪悪感から逃れるために、自分を使命と言う鎖で縛りつけていたに過ぎないのだ。

 

「俺は何がしたかったんだろうな・・・。」

 

分からない・・・、俺は何の為に戦ったのか、

何のためにこれから戦うのか・・・。

 

このまま進めば答えは出るのか?

本当にそれで良いのか・・・?

 

いくら悩んでも、今の俺には、その答えすら出せそうにもなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

翌日、アメノミハシラの格納庫の一角にて、

ダークグレーの機体と、漆黒の機体が出撃準備を行っていた。

 

「ミナ様、出撃準備完了しました。」

 

「ご苦労だった、出撃するぞ。」

 

漆黒の機体、ゴールドフレーム天のパイロット、ロンド・ミナ・サハクは、自身の反応にOSを適応させるべく、キーボードを叩き、数値を入力していく。

 

今回がゴールドフレーム初搭乗の彼女は、

この戦いに万全の状態で臨むべく、入念な微調整を行っているのだ。

 

「一夏!何時でも行けるぜ!」

 

「ありがとうございます、出撃します。」

 

ジャックの言葉に礼を交えて返しつつ、ダークグレーの機体、ストライクに乗り込んだ一夏は、

コックピットハッチを閉じながらも、凄まじい勢いでキーボードを叩き、OSの再調整を行っていた。

 

彼もロンド・ミナと同じく、ストライクで出撃するのは今回が初めてであり、

気合十分と言わんばかりの様子であった。

 

「待たせてしまったな、ストライク、もう一度宙を駆けるぞ、昔みたいにな。」

 

嘗ての相棒と再び宙を駆ける事が出来るという高揚が、自然と彼の表情と緊張を綻ばせていく。

 

『楽しそうにしているな、それほどX105に愛着があるのか?』

 

ストライクと天の間でチャンネルを開いていたため、ロンド・ミナは彼に対し尋ねていた。

 

「まぁな、コイツとは幾度となく共に戦ってきたからな。」

 

それほどまでに自分の表情に出ていたかと思いつつも、彼は彼女に返した。

 

だが、彼にとってストライクと言う機体はただの相棒と言うだけでなく、

最早半身と言っても良いほどの思い入れと、様々な思い出があるのだろう。

 

だからこそ、彼は一刻も早くストライクに乗る事を望み、

一心不乱とも呼べる姿勢でMS操縦技術を習得していったのだ。

 

「それに、天と戦えるんだ、楽しみじゃないわけないだろ。」

 

『私はどうでもいいという風に聞こえるぞ?』

 

意地悪く返すミナの言葉に、気のせいだと返しつつ、彼はヘルメットのバイザーを下した。

 

「さーてと、早く行こうぜ、ミナ。」

 

『うむ、先に行かせてもらうぞ。』

 

軽口を叩き合った後、ミナは先行して機体を動かし、カタパルトに機体を固定させる。

 

『進路クリアー、天、発進どうぞ!』

 

『了解した、ロンド・ミナ・サハク、ゴールドフレーム天、発進する。』

 

オペレートが聞こえた後、彼女は機体を駆って漆黒の宙へと飛び出していった。

 

「なんだよ、ミナもノリノリじゃねぇか、ま、俺も人の事は言えんな、

さーて、今から付き合ってもらうぜ、相棒。」

 

ミナが出撃していくのを見届けた彼は、口元に薄い笑みを浮かべながら操縦桿を操作し、

ストライクをカタパルトまで移動させた。

 

「(久しぶりだな、こうしてお前と宙を駆けるのもな・・・、

なんだよ、ちゃんと扱えるのかって?心配すんなって、壊さねぇ様に気を付けるからよ。)」

 

自身の心に語りかけてくるストライクに対し、彼は何処か軽妙に答えながらも、

共に宙を駆ける事が出来る喜びに打ち震えていた。

 

嘗て、異界の宙を共に駆けた関係、それがこの世界でも叶おうとしている事への歓喜だろう。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!!』

 

『了解!織斑一夏、ストライク+I. W. S. P.、出るぞ!!』

 

アナウンスと同時に、彼は機体のスラスターを吹かし、星の大海へと飛び出した・・・。

 

sideout

 




次回予告

ロンド・ミナ・サハクが掲げる世界支配の野望、それが行われるのは何時の日か・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

カウントダウン

お楽しみに。
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