機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

18 / 133
茨の様に

noside

 

地球衛星軌道上に存在する宇宙要塞〈アメノミハシラ〉。

 

そこは、オーブ五大氏族、サハク家出身であるロンド・ミナ・サハクにより治められており、密かに、そして確実に、オーブの再興の時に備え、戦力を蓄えていた。

 

その設備はオノゴロ島のモルゲンレーテに匹敵し、独自にMSの開発、配備を進めているのであった。

 

その格納庫の一角、ガンダムタイプ機が数機置かれている区画が、何やら活気付いていた。

 

「ロンド・ミナの指示で、天の改修計画を実行に移すそうです、先程配らせて頂きましたメモリーディスクに内容が記載されていますので、各自でチェックしてください。」

 

黒髪長身の青年、織斑一夏は自身の目の前に集結した整備士達に向け、指示を出していた。

 

今回は、先の模擬戦で破損したゴールドフレーム天の修復、及び強化改修を実行するよう、彼の直属の主、ロンド・ミナ・サハクから指示が出ていたのだ。

 

彼女は普段から忙しい為に、彼が代理として整備士達にし指示を下す事は、既に珍しい事では無くなっていた。

 

「了解したぜ、よーし、テメーら、仕事だ!!」

 

『応!!』

 

ジャック以下十数名の整備士達は、仕事が与えられた事と、強化改修というある種の実験に心踊らせていた。

 

自分の力を試そうとする者も、機械を弄れる事への悦びを募らせる者も、全員がその表情をイキイキと輝かせていた。

 

「さて、じゃあ俺もコックピットに・・・。」

 

「いや、待て一夏、なんで平然と混ざろうとしてんだよ。」

 

一夏も作業に加わろうと、リフトに乗り込もうとし、ジャックはそれを咄嗟に引き留めていた。

 

それに驚いた彼は目を丸くし、ジャックを凝視していた。

 

「いや、OSとかの調整なら俺も出来ますし、他の整備士達の手を煩わせなくて済むでしょう?」

 

「いやいや、そう言う事じゃなくてだな・・・。」

 

一夏の納得のいく様ないかない様な答えに、彼は呆れた様な表情をありありと浮かべていた。

 

当の本人は何の事か分かっていないのだろうか、怪訝の色が僅かながらも見て取れた。

 

「お前、殆ど休んでないだろ、遅番の奴からも、守備隊の奴からも聞いたが、四六時中、この城の何処かしらでお前と会ってる奴がいるんだよ。」

 

彼の言葉通り、一夏はこのアメノミハシラに仕えて以来、殆ど休む間も無く何かしらの訓練や調整を行っていたのだ。

 

「・・・。」

 

ジャックの言葉に、彼は無言を貫いていた。

 

だが、それは否定ではなく、肯定にも等しい沈黙であったが・・・。

 

「なぁ、頼むから少しは休んでくれ、でないと、いくらお前でも持たない。」

 

彼を休ませようと、ジャックは自分の作業に手を付けずに一夏を説得していた。

 

確かに一夏は強靭な肉体を持ってはいる、だが、それでも疲労の蓄積に耐えられる程、人体は強くはない。

 

睡眠なり休息なりを取れば疲労も回復するだろうが、今の彼はそれどころではない、文字通り休んでいないのだ。

 

「大丈夫ですよ、まだまだ動けますし、それにどうせ・・・、不眠症気味で眠れないんですよ。」

 

「・・・。」

 

大丈夫だと笑い、心配しないでくれという一夏の言葉の間を見逃さなかったジャックは、どう見ても大丈夫では無いと結論付けた。

 

不眠症という言葉に嘘はないのだろう、だが、その裏に何かを隠している事も確かであった。

 

だが、何か引き留める理由が無ければ彼も恐らく引き下がらない事は明白であり、作業に入ってしまうだろう。

 

「(何かあればなぁ・・・、何かねぇか・・・?)」

 

何か良い案は無いかと頭を捻る彼だが、一向に良い考えが浮かぶ気配も無かった。

 

「気を使っていただいてありがとうございます、仕事が終わったら一杯付き合いますよ、休憩がてらに。」

 

そんな彼に礼を言いつつ、一夏はリフトに乗り込み、器機を操作しようとコンソールに手を伸ばす。

 

「それだ!!一夏!良い酒があるんだ、ちょっと付き合えよ!休憩がてらに!!」

 

彼の言葉に閃いたのか、ジャックは一夏の腕を掴み、リフトから引きずり下ろそうとしていた。

 

「えっ!?ちょっ!まだ作業が!?」

 

「そんなもん、お前じゃなくても出来るっての!」

 

抵抗しようともがくが、ジャックはそうはさせないとばかりに引っ張っていく。

 

他の整備士達も、一夏のオーバーワークは承知していたため、彼等を引き留める様な事はしなかった。

 

将来のアメノミハシラを支えうる逸材をこの様な所で倒れさせるわけにはいかない、そういった雰囲気が彼等の間にはあった。

 

「男同士、腹割って話そうぜ!」

 

「わ、分かりましたから!引き摺らないで!?」

 

格納庫に、引き摺られていく彼の悲鳴が木霊し、それが聞こえなくなったと同時に、整備士達は各々の作業に戻っていった。

 

sideout

 

side一夏

 

ウェイドマン整備士長に引き摺られる事数分、俺は彼の部屋のソファーで荒い息を吐いて寝転んでいた。

 

あまりに勢いよく引っ張るもんだから、付いていくのに必死だったぜ・・・。

 

「わりぃな一夏、ほんの気持ちだ、まずはこれでも飲んで落ち着けよ。」

 

彼に渡された水を被る様に咽に流し込み、俺は溜め息を吐いた。

 

少し落ち着いた事もあり、俺は彼の部屋の内装に目をやった。

 

部屋の殆どが工具や機器、そして作りかけのメカで埋まっており、空いているスペースがあるとすれば冷蔵庫周りと、ソファーの周りぐらいなものだった。

 

非番の時も、何かしらを作っている事が、この部屋の様相が物語っていた。

 

「片付いてない部屋で悪いが、まぁ、寛いでってくれよ。」

 

「お言葉に甘えさせて貰いますよ、やっぱり、身体は誤魔化せないみたいですし。」

 

気を張り詰めていたためか、俺の身体には気怠さと疲労感が圧し掛かってきていた。

 

だが、どうせこのまま眠っても・・・、また悪夢に魘されるだけで、休息にもなりやしない、ここはウェイドマン整備士長に酒を御馳走になっておこう。

 

「ま、最初はビールでいいだろ、無重力だと、缶から飲むなんて出来ないからな。」

 

「そうですね、ここが宇宙ではないと錯覚してしまいそうですよ。」

 

「ははっ、違いねぇ。」

 

乾杯したのち、俺は何時以来飲んでいなかった酒に口を付けた。

 

禁酒してたわけじゃない、だが、当時は酒盛りをしている場合じゃなかった事だけは確かだった。

 

「ふぅ・・・、随分と久しく飲んでなかった気がしますよ、すぐに酔ってしまいそうです。」

 

「なんだよ、この程度で酔っ払うなよ?」

 

軽口を叩くが、アルコールがすぐに回ってきた様で、何とも言えぬ心地よい感覚が俺を包み込んでくれる。

 

「まぁ、あんだけ無理してりゃ当然だな、お前はもう少し自分の身体を労わるべきだぜ?」

 

彼は俺の事を考えて言ってくれたのだろう、その言葉からは優しさが伝わってきた。

 

だが、俺には、俺自身がそれを受ける価値がある人間なのか、疑わしくさえ思えてならなかった。

 

「・・・、それとも、無理をする理由があるのか?」

 

「・・・ッ。」

 

表情に後ろめたい想いが出てしまっていたのだろうか、彼はビールに口を付けながらも真剣な表情になり、俺を見据えてきた。

 

どうやら、隠し事は出来ない様だな・・・、腹を決めて、話すしか無い、か・・・。

 

「そう、ですね・・・、ずっと思ってたんです、俺は・・・、生きてていいのかって事を・・・、ここに来てから、ずっと・・・。」

 

空になった缶を握り潰し、俺は二本目に手を伸ばす。

 

自棄酒にしか思えないが、今は、ただこうする事でしか気を紛らわせなかった・・・。

 

「・・・、出来るなら、ここに来る前の事を、教えてくれるか?」

 

俺が話たがっている事を感じ取ってくれたのだろうか、彼は静かに告げてくれた。

 

「はい・・・、俺は・・・、俺は・・・、愛する人達を見殺しにしたんだ・・・。」

 

それに応える為に、俺はゆっくりと、俺が犯してきた大罪を呟く様に話し始めた。

 

「俺は、昔、こことは別の世界で、狂った世界を変える為に戦ってきました・・・、だけど、それは押し付けだったのかもしれない・・・、だって、俺は人を欺いて、殺してきたんですから・・・。」

 

「おいおい、もう酒がまわったのか?別の世界ってなんだよ?」

 

俺が酔ったと思ったのだろうか、彼は半分笑いながらも聞き返してきた。

 

そう思うのも仕方ないだろう、誰も自分が生きる世界以外に世界が存在するなど思いもしないのだから。

 

「いいえ、真実です、俺はこの世界で、拾われるまでにミナと会った事はありません、勿論彼女に聞いても同じ答えが返ってくると思います、俺が彼女をしていたのは、嘗ての世界での彼女に会った事があるからなんです。」

 

「なるほどな、だがよ、それが本当なら、どうしてミナ様は会った事も無いお前を知ってたんだ?」

 

俺の語る内容に納得しつつも、彼は疑問に思った点があったのか、指摘する様に尋ねてきた。

 

「えぇ、それについても確証は無いんですが、恐らくはこの世の物以外の力が働いた、とだけ考えて頂ければと、俺もあまりよくわかってないモノで。」

 

そう結論付けた俺の脳裏に次々に浮かび来るのは、俺に殺された者達の臨終の間際、そして、怨嗟の声・・・。

 

「俺はこの手で何百もの命を奪い、何千、何万もの運命を弄んだんだ・・・、だから、誰に恨まれても、憎まれても文句は言えない、それは分かってたつもりなのに・・・。」

 

そう思えていたのは、一重に俺の隣に立っていてくれた彼女達の存在が在ってこそだった。

 

彼女達を外道に引き込んでしまったのは、俺が彼女達に出会ってしまったせいだ・・・、俺と会わなければ、彼女達は普通の人間として、無暗に人を殺める事無く過ごせる筈だったのに・・・。

 

「だけど、今更になって、俺を愛してくれた人を・・・、生きるも死ぬも、ずっと一緒だと誓った人に、俺は何もしてあげられなかった・・・。」

 

そうだ・・・、俺は何もしてやれなかった・・・、その身を穢しても俺を慕い、信じてくれた彼女達だけを死なせてしまったんだ・・・!

 

「俺はこんな所で何をしてるんだ・・・?死ぬべきなのは俺だったのに・・・!俺が・・・、どうして俺が生きてるんだよ・・・っ!!」

 

久しく流す事のなかった、枯れていたと思っていた涙が零れ始め、俺の頬を濡らしていく・・・。

 

「どうして・・・!俺だけが生きてるんだ・・・っ!どうしてっ!!」

 

俺を独りにしたのは、お前達が俺を憎んでいるからなのか・・・?

 

なら、早く俺を取り殺しに来てくれ・・・!

 

俺を独りにしないでくれっ・・・!!

 

「お前は、独りになって辛いのか・・・?」

 

そんな俺に、ウェイドマン整備士長は何か言いたそうに話しかけてきた。

 

その突き放す様な声色でもなければ、俺を慰める様な口調でもなかった。

 

「お前は愛されてたって分かってんだろ?なら、愛されてたと誇りに思わねぇと、お前を慕った奴に失礼じゃないのか?」

 

「・・・ッ!」

 

「俺はお前の言うソイツらに会った事はねぇがよ、お前が想っていた奴等なら、本当にお前を愛してたに違いないさ、寂しいのは分かるが、前を向かなきゃなんねぇ時が今なんじゃないか?」

 

分かってる・・・、もう彼女達はいない・・・、なのに、俺は在りもしない温もりにすがって・・・、今を生きてはいなかった・・・。

 

「俺は・・・、歩いて行けるのでしょうか・・・。」

 

「さぁな、誰かの支えが欲しいなら、頼るのもアリだと思うぜ、人間、誰しも弱いんだしな。」

 

誰かに頼る、か・・・、俺は、今まで色んな奴等の想いを無碍にしてきた様なものだ、そんな俺が、今更どうやって頼れと言うんだ・・・。

 

「お前、友達いなさそうだからな、誰かに頼ったり、甘えたりする事を知らないだけだと思うがなぁ、そこん所どうなんだい?」

 

「・・・っ!?な、何を言ってるんですか・・・?」

 

一応いると思いた・・・、かったけどやっぱいなかった・・・。

 

うん・・・、仕方ないよね・・・、そうしなければならなかったんだし・・・。

 

だが、改めて考えると、何というかクるものがあるな・・・。

 

「ほら、いねぇんじゃねぇか、だからか、お前は何でも一人で抱え込んじまうんだ。」

 

痛い所を突かれている気分だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

年上に自分の若さ、甘さを見抜かれている事に対する恥も無ければ、それに伴う怒りもなかった・・・。

 

「ははっ・・・、まるで、俺の事を何でも知ってる様な言い方ですね。」

 

「そんだけ顔に出てりゃぁ、分かってくれと言ってる様なもんだぜ、気付いてなかったのかよ?」

 

気付かない、か・・・、そう言えば、俺は自分自身の事なんて考えてみた事もなかったな・・・。

 

だから、自分が何を感じていたのかも、どう想われていたのかも客観的になって考える事も無かった。

 

「(俺は・・・、馬鹿野郎だな・・・。)」

 

何が世界を変える為に選ばれた者だよ、自分の事も分かってなかった奴がそんな事を語っていい理由なんてないのにな・・・。

 

「えぇ・・・、気付きませんでしたよ、何せ、今まで指摘してくれる友がいなかったんでね。」

 

「はっ、開き直ったのか?嘘が吐けない男だな。」

 

「昔は嘘吐きと呼ばれてましたけどね、こんな事で嘘吐いてもしょうがないですし。」

 

ウェイドマン整備士長のからかいに返しつつ、俺はビールを一気に咽に流し込む。

 

無性にそうしたかったからなんだが、それが今の俺には妙に心地よかった。

 

それと同時に分かった事もある、あの時、本当に正しかったのは俺ではなく、秋良達だった事を・・・。

 

俺は自分のやった事に誇りを持ち続けてはいる、だが、それでも急ぎ過ぎたのではないかと、今更ながらに突き付けられた気分だ。

 

誰かと手を取り合い、未来を目指して行く・・・、自分でそういう世界を目指したにも関わらず、俺は誰かと繋がる事をしなかった・・・。

 

それを悔やんでも、もう遅い、俺はあの世界から消えた、後は、彼等に任せるしかないのだから・・・。

 

「違いねぇな、よしっ、なら俺がお前のダチ一号になってやるよ、それでもかまわないよな?」

 

「いいんですか?俺なんかと・・・?」

 

「おうよ、お前は難しく考えてるかもしれんがな、案外簡単な事なんだぜ、お前が望みさえすれば何時だって出来るんだからよ。」

 

難しく考えすぎ、か・・・、そんな事、思った事もなかったな・・・。

 

気楽に生きられれば、どれ程楽な事だろうか・・・。

 

まぁ、難しく考えるのは程々にしておこう・・・、折角の好意を、またしても無碍にはしたくないからな。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ、ジャック、俺とダチになってくれ。」

 

「おうよ、改めてよろしくな、一夏、そうとなりゃ飲もうぜ、どんだけ愚痴っても聞いてやるからよ。」

 

拳をぶつけ合った後、ジャックは俺にジョッキに入った清酒を渡してくる。

 

というか、俺が愚痴る事前提で飲む事を確定させるのは正直やめてほしい。

 

彼女達以外の事は割り切れたつもりでいるし・・・。

 

「頂くとするか、ジャックも愚痴っていいんだぞ、ダチなんだし。」

 

「言うじゃねぇか、さっきまでベソかいてた奴がよぉ?」

 

「うるせぇ。」

 

こんな軽口の叩き合いを、同性との関わりなどいつ振りだろうか・・・。

 

懐かしさと楽しさ、二つの感情が浮かび上がってくる。

 

こういうのも、たまにはいいもんだな・・・。

 

「ま、何はともあれ、飲み明かそうぜ、一晩は付き合えよ?」

 

「望む所だ、ジャックこそ、潰れるなよ?」

 

互いに挑発的な笑みを浮かべつつ、俺達は全く同時にジョッキを傾けた・・・。

 

sideout

 




次回予告

宴会は続くよ何処までも、暴走する彼等は止まらない・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

番外編 降臨、丸いヤツ

お楽しみに~。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。