機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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ドレッドノートが撃った三つの光条は容赦なく突き進み、回避できずにいたハイぺリオンの右腕部、左肩アーマーを破壊した。
パイロットが失神でもしたのだろうか、ハイぺリオンは沈黙したまま、攻撃してこようとはしなかった。
「敵MS沈黙・・・、でも油断しないで。」
ほとんどすべての攻撃手段を奪ったが、油断は出来ない。
なにせ、騙し討ちでも画策されていては、それこそ気を抜いた時に再び攻撃されかねないのだから。
「・・・、うん・・・。」
相当苦しいのだろう、プレアは息も絶え絶えに返答しながらも、敵機への回線を開き、投降を呼びかけた。
「警告します・・・、あなたに勝ち目はありません・・・。」
無益な戦いは御免だと言う様に、彼は敵からの返答を待った・・・。
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『これ以上の戦闘は無意味です・・・。』
「うっ・・・。」
中破したハイぺリオンのコックピット内では、パイロットであるカナードが全身に走る痛みを堪えながらも、ドレッドノートのパイロットからの映像通信を見ていた。
手酷くやられたためか、エマージェンシーを告げる警告音が引っ切り無しに鳴り響き、彼自身も口の中を切ったのか、口元は血に塗れていた。
「アイツ・・・、ジャンク屋の船にいたガキか・・・?」
通信状況が悪く、若干ノイズが混じっている映像ながらも、自分に語りかけてくる敵のパイロットの姿はハッキリと認める事が出来た。
パイロットスーツを着ていても、その顔は見間違えなかった。
その少年は先ほどのジャンク屋の船に乗っていた内の一人だったのだ。
「あんな奴に、この俺とハイぺリオンが・・・、やられたのか・・・!」
撃墜されかけているショックよりも、自分の年齢の半分もいっているかどうかも怪しい少年に負けている事に苛立っているのだろう、彼は画面越しの相手を睨み付けていた。
『どうか・・・、投降してください・・・!』
「投降だと・・・!?」
少年が発った言葉に、カナードは怒りを再燃させたのだろう、バイザーに血が付き、見辛いヘルメットを脱ぎ捨て、口の周りに付いた血を拭いながらも叫んだ。
「この俺に敗けを認めろとでも言うのか!?」
彼にとって、負けを認めるという事はこれまでの人生を否定する様なものだ、たとえ死んだとしても受け入れられぬものなのだろう。
「誰が貴様なんぞに投降などするものか・・・!俺はまだ・・・っ!!」
まだ自分は負けていないと言う様に、彼は計器を操作し、ハイぺリオンを再起動させようと試みた。
『投降しないなら・・・、攻撃を再開します・・・!!』
敵パイロットからの言葉と共に、目の前のMSはビームライフルを再度ハイぺリオンに向けて構えた。
カナードは必死に機体を再起度させようと試みていたが、返ってくるのは無慈悲なアラートと、『SYSTEM ERROR』の表示のみだった。
「再起動しない・・・!?くそっ・・・、俺は・・・、俺はこんなところで死ぬのか・・・?ジャンク屋如きに殺されて・・・?」
あまりにもショックだったのだろう、彼の身体から力が抜け、シートにへたり込んだ。
殺される事が悔しいのではない、戦えぬ事が悔しいのだ。
「キラ・ヤマトを・・・、完全体を超えるなど・・・、所詮は驕った夢だったのか・・・。」
スーパーコーディネィターの実験体である彼は、本物を超える事を唯一の願いとして、望みとして生きてきた。
それなのに、彼はキラではなく、全く関係のない少年に敗れたのだ。
その現実が、彼の胸に突き刺さった・・・。
「殺れよ・・・、一思いに殺れ・・・っ!!」
掠れた声で、彼は叫んだ・・・。
そんな時だった、死んでいた筈のハイぺリオンが唸りを上げた。
「ハイぺリオン!お前も俺と共に戦うと言うのか!!」
エンジンの振動に歓喜しながらも、彼は己の愛機に確認する様に叫んだ。
コイツも自分と共に戦いたがっている、機体の損傷など構わない、戦えるのだと・・・。
「そうだ・・・、俺達はまだ負けてない・・・!!生きてる内は負けじゃないっ!!」
共に戦おうとする機体の意志に応える様に、彼はレバーを押し込み、左腕のビームナイフを取り出し、握り締めると同時に、左腕に残されたアルミューレ・リュミエールを展開、一気に加速しながらもドレッドノートへと突っ込んで行く。
『攻撃を止めて下さい!!』
敵機から警告が届くが、彼は構わずにフットペダルを踏み込み、敵を倒すべく突き進む。
『プレア!!撃ってぇっ!!』
敵機に同乗しているのだろう、少女の悲鳴が聞こえると同時に、ドレッドノートは三つの砲門からビームを撃ち掛けてくる。
ビームシールドを展開している為に機体中心への直撃は無いが、逸れたビームが脚部を掠め、その装甲に傷を増やしていく。
「オォォォォォッ!!」
機体へのダメージを無視し、彼は更に速度を上げ、自分の攻撃が届く間合いへと突き進んで行く。
間合いはどんどん縮まり、間合いに入る直前、彼はビームナイフを突きだした。
この距離では回避できまい、そう思っていたが、ドレッドノートは左腕を突き出し、彼の方へと向かってきた。
二機が交錯すると同時に、激しい閃光と衝撃により、カナードの意識は闇に呑まれた・・・。
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交錯した二機が離れた時、交錯前の姿だったのはドレッドノートだけだった。
シールドはビームナイフで切られてしまっていたが、それ以外に損傷は無く、戦闘を続行できる状態だった。
それに対し、ハイぺリオンは残っていた左腕も付け根から切り落とされ、全身からスパークを散らしながらも宇宙空間を漂っているだけだった。
「今よプレア!!トドメを・・・!!」
今が撃墜できる絶好のチャンス、そう判断した風花は彼の方を向きながら叫ぶ。
だが、肝心のプレアからの返答も反応もなく、ただ、苦しそうな粗い呼吸音が聞こえてくるだけだった。
「プレア・・・!?」
彼の身体を揺らして呼びかけるが、意識が朦朧としているのだろう、彼からは返事どころか、ジェスチャーもなかった。
「大変・・・!すぐにお医者さんに診せないと・・・!アタシじゃどうにも出来ない・・・!!」
彼の様子を見た風花は、危険な状態だと直感で判断し、リ・ホームへと戻る事を決めたようだ。
「うん、そうよ・・・!アタシはこの為に来たんだ・・・!今は船に戻らないと!!」
プレアの手を操縦桿から剥がし、彼女が代わりにレバーを押し込み、ドレッドノートの進行方向を変え、リ・ホームに向けて機体を動かした。
ドレッドノートはそれに応え、宙域を離脱しつつあったリ・ホームへと戻っていった。
去り際に、彼女は後ろを漂うハイぺリオンを振り返りながらも確認し、これ以上の追撃がない事に安堵し、大きく息を吐いた。
片腕を捥がれて尚、特攻に近い形で突っ込んできたのだ、今度は自爆覚悟でくる事も十分にあり得たため、気が気でなかったのだろう。
「あのパイロット・・・、一体なんなの・・・?」
戦い方だけでなく、彼が纏っていた異様な雰囲気に、風花はある種の不気味さを覚えた。
まるで、すべてを壊してもまだ足りないと、破壊を求めて彷徨う悪鬼の様な印象を受けたのだろう、彼女の表情は何処か複雑だった。
「また、会う事になるかも・・・。」
また合い見えるかも知れない、そう言った思いを感じながらも、彼女は友を救う為に宙を駆けた・・・。
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「ぐっ・・・!?」
全身に走る痛みに苛まれながらも、カナードの意識は覚醒した。
「カナード、目が覚めましたか?」
彼の覚醒に気付いたのだろう、近くでバイタルデータに目を通していたメリオルが簡易ベッドに横たわる彼に歩み寄ってきた。
「メリオル・・・?ここは・・・。」
「オルテュギアのメディカルルームです、大事がなくて、本当に良かった・・・。」
自分が寝ている場所を尋ねる彼に答えつつも、彼女は心から安堵した様な表情を見せた。
その表情は、部下としての物ではなく、ただ、無茶をする男を心配する女の表情に似ていた。
「・・・っ!!奴は!?ジャンク屋はどうした!?」
彼女の言葉に、気を失う前の事を思い出したのだろう、跳ね起きながらも状況を確認するためにカナードは叫んだ。
「撤退しました、一応追跡はしていますが・・・。」
自分の身体などどうでもいいと言う風な彼を、どこか悲しげな表情で見ながらも、彼女は状況を説明していた。
「くそっ・・・!」
自身の腕に付けられていた点滴用の針を乱暴に引き抜きながらも、彼は立ち上がろうとしていたが、身体が思う様に動かないのだろう、ベッドから転げ落ちた。
「カナード!!」
そんな彼の様子に、彼女は思わず駆け寄り、彼を支えようと手を伸ばすが、その手はカナードに払われてしまった。
「追撃するぞ・・・!準備しろ・・・!!」
「そんな・・・!無茶です!!」
彼の口から飛び出した言葉に、彼女は驚愕しながらも彼を引き留めるべく言葉を紡ぐ。
「ハイペリオンだって、起動不可能な状態ですし・・・、それに、貴方の体調だって・・・。」
そう、彼女の言葉通り、彼の搭乗機であるハイぺリオンは先程の戦闘で大破し、回収できた左腕やバインダーの一部を使っての修繕作業が続けられているが、パーツが足りないために完全修復は難しい状況である事に変わりはない。
「俺は・・・、スーパーコーディネィターになるのだ・・・、そのためにも、キラ・ヤマトと戦うまでは、誰にも負けられないんだ・・・!!」
ベッドの縁を掴み、何とか立ち上がったカナードは、絞り出す様に話した。
それは、執念とでも言うべき感情が籠められ、彼の想いの強さが伝わってくる。
「そのためにも、まずはあのガンダムを・・・!あのパイロットを倒さねば前に進めないのだ・・・!!生き抜き、勝ち抜き・・・!俺はキラの前に立たねばならぬのだ・・・!!」
「カナード・・・。」
その強すぎる執念を思い知らされたのだろう、メリオルは悲しげな表情を僅かに覗かせるも、すぐに副官としての表情を取り繕った。
「分かりました、我々は核エンジン搭載のMSの確保指令を受けています、止める事はしません、すぐにジャンク屋の状況を分析し、我々が動かせる戦力で襲撃可能か調べましょう、ですから・・・、無理はなさらないでください・・・、カナード・・・。」
自分に背を向けているカナードに告げながらも、彼女は彼が振り向かない事を願っていた。
もし、彼が今振り返れば、今の自分の表情を見られてしまうから・・・。
そう、悲しみに歪んだ、一人の弱い女の顔を・・・。
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sideシャルロット
「おっ、補給ステーションが見えてきたな。」
戦闘宙域から何とか逃げ延びた僕達は、ジャンク屋組合の宇宙ステーションに辿り着いた。
さっきの戦闘での被害はリーアムの負傷と、レッドフレームの解体、それとドレッドノートのシールドが壊された位で何とか助かった。
あ、それとプレアが体調を崩した事もあるね、本格的な医療設備とドッグがあるところに行かなくちゃいけなくて、僕達はここまで来たって訳なんだ。
ちなみに、セシリアと風花ちゃんはプレアの様子を見ていると言って、今は医務室に行ってるんだって。
僕は機体の様子見とかあったから行けなかったんだけどね。
「はぁ~・・・、一時はどうなるかと思ったわよ~。」
艦橋の窓から見える宇宙ステーションの姿に緊張の糸が切れたのか、樹里は床にへたり込みそうになっていた。
まぁ、それは仕方ないよね、連合軍に囲まれてたんだ、生き延びられた事がもう奇跡みたいなものだもの。
「はいはい、お疲れのところ悪いけど、着いたら直ぐに仕事よ、リーアムの分まで働いて頂戴。」
「うぇ~・・・、休ませてよ~・・・。」
休む暇は無いとばかりに急かすプロフェッサーの言葉に、樹里はもう疲れたと言う風な表情をしていた。
まぁ、あんな事があったら、せめて眠る時間ぐらいは欲しいよね、肉体的な疲れもそうだけど、やっぱり精神的な疲労の方もあるわけだし・・・。
でも、今はそんな事言ってる場合じゃないのも分かってるからね、取り敢えずやる気を出させとかないとね?
「(仕方ないよ樹里、今ならロウと二人っきりで作業できるかもしれないよ?)」
「な、なななななな、シャルロットぉぉぉ!?」
僕の耳打ちに、彼女は耳まで真っ赤にして、手を大きく振り回していた。
どうやら、それには気付いてなかったみたいだね、初心すぎるね。
まぁ、そこが樹里の可愛いトコでもあるんだけどね~。
「どうしたんだ樹里?何慌ててんだ?」
「ふぇっ!?」
そんな彼女の慌て振りに、ロウは頭の上に?マークを浮かべて樹里に尋ねていた。
そんな彼に、樹里は可愛らしい声をあげて、顔をトマトより赤くしていた。
あー・・・、あれは想像してるんだろうなぁ、ロウと二人っきりで作業してる様子を・・・。
僕も昔はそんな気があったからよく分かるよ、あれって案外恥ずかしいんだよねぇ・・・。
「な、何でもないわよぉ!気合よ、気合を入れてたのよ!!」
「そうなのか?まぁ、いいけどよ。」
照れ隠しなのか、樹里は腕を大きく振って誤魔化していた。
まぁ、今の状況じゃ誤魔化すのが精一杯だろうね、もったいないなぁ。
「はいはい、ラブコメはその辺にしておきなさい、もうすぐ着岸よ、準備して頂戴。」
騒がしい周りの様子を楽しそうに見ながらも、プロフェッサーが僕達に作業の準備を促してきた。
それじゃあ、一働きしようかな。
そんな事を考えている内に、リ・ホームはステーションの船舶固定アームに接続され、ステーションとの連絡用通路も取り付けられていた。
「よっしゃ、行くか!!」
接岸と同時に、ロウは待ち切れないと言う様に艦橋から飛び出して行こうとしていた。
その時だった、今まで姿を消していたジョージがホログラム化し、彼の前に現れた。
『ロウ、組合を介しての通信が君宛に入っているぞ。』
「俺に?誰からだ?」
ジョージの言葉に思い当たる節が無いんだろうか、彼は首を傾げながらも通信を入れてきた人物を尋ねていた。
まさかサーペント・テールの劾さんからなんて事は無いだろう。
ドレッドノートに関する彼の依頼は、別方面からのNジャマーキャンセラーの流失と言う形で達成されているんだ、今更連絡してくる意味は無い。
有るとすれば、こっちに居るセシリアと風花ちゃんの様子の確認ぐらいだろうけど、彼程の人物が仲間を束縛する様な事は無いと思うけど・・・。
まぁ、僕がどうこう考えても意味は無いと思うけどね。
『エターナルのマーチン・ダコスタからだ、話があるからエターナルに来て欲しいらしい。』
「ダコスタが?補給か何かか?」
エターナルって、この前補給に行った船の名前だったっけ・・・?
ダコスタって人がどんな人かは分からないけど、三隻同盟に関わりのある人なのは確かだろうね。
『補給ではないらしい、ただ来てくれという通信だったな、どうするかね?』
「何か有りそうだな・・・、まぁ、行ってみれば分かるか。」
そう言いながらも、彼は右手に『8』を握り、艦橋から出て行こうとして、どういう訳か、僕の方を見ていた。
どうしたんだろ?
「シャルロット、何か有るかも知れないし、ちょっと付いて来てくれるか?」
「僕は構わないけど、どうして急に?」
護衛か何かかと思うけど、そこまで気を張らなくても良い気がするんだけどなぁ・・・?
「顔見知りになっといた方がいい奴等が色々いるんだよ、シャルロットも顔ぐらい見せとくといいかも、って思っただけなんだけどよ。」
そういう事か、まぁ、どういう人達が三隻同盟を構成してるのかって気になるところだし、今のところ大きな依頼も無いみたいだから行ってみようかな。
それに、僕の新しい目的も果たせるかも知れないしね。
「うん、お願いするよ、もしかしたら一夏がいるかもしれないし、色々見て回りたいな。」
「分かった、それじゃ、行こうぜ。」
僕の返事を聞くと同時に、彼は先に艦橋から出て行った。
恐らくは格納庫にあった小型艇の用意に行ったんだと思う。
「樹里、悪いけどロウを借りてくね、それと、セシリアにも教えてあげてね。」
「うん・・・、大切な人、見つかるといいね。」
ロウと一緒に入れない事が寂しいのか、樹里は何処か影のある笑みで僕を送り出してくれた。
なんだか申し訳ないなぁ・・・。
出入り口に向かう途中、プロフェッサーが僕に追いすがり、耳打ちしてきた。
「(シャルロット、樹里の事は任せなさい、何とか言っとくわ。)」
「(ごめんなさい、プロフェッサー・・・、お願いします。)」
皆に気を使わせちゃってるのって、申し訳なさ過ぎてアレだね・・・、心が痛むよ。
でも、後ろめたい事ばっかり考えてても始まらない、僕は僕のやるべき事をやろう、今はそれでいいんだ・・・。
自分自身にそう言い聞かせ、僕はロウの後を追った・・・。
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次回予告
プレアが魘される悪夢と、現実に迫り来る脅威、その狭間で彼は何を思うのだろうか・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
巡り会うASTRAY
お楽しみに~。