機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
アメノミハシラの格納庫。
そこはMSを格納しておく場所と言うだけでなく、機体の改修や整備を行えるファクトリーも兼ねた場所であった。
そこは普段より、ジャック・ウェイドマン整備士長を筆頭とした整備士達の熱気に支配された、まさに裏の戦場と呼べる場所だった。
だが、今日の格納庫の内部は、普段にも増して熱が籠っており、整備士達も一様に熱の籠った表情をしながらも各々の作業に打ち込んでいた。
「脚部装甲接合完了!次行っていいぞ!!」
「トリケロス改、装着開始!慎重に行けよ!」
金色のフレームを持った黒い機体に、次々と武装が取り付けられていく。
だが、その機体に元からあった気品を損なう様な鈍重さは何処にもなく、ただただ、その機体の美しさを引き立てる様な装備が装着されていく。
「OSのパラメーター、オールグリーン、接合箇所に異常は見られない、流石の手際だ・・・ハロ、機体のバランスチェック、どうだ?。」
『モンダイナシ!モンダイナシ!!』
その機体のコックピットに座り、キーボードを叩きながらも外にいる整備士達に向けて叫ぶのは、アメノミハシラの実質的なNo.2、織斑一夏であった。
新参者とはいえど、城を治める女王、ロンド・ミナ・サハクに迫る戦闘能力と、整備士達への的確な指示、そして、それを鼻に掛けないという所が、アメノミハシラに仕えるすべての者に好印象を与えていたために、彼がロンド・ミナに代わって指示を出す事に不満を持つ者はいなかった。
「一夏!外装や武装は全部載っけられたぜ!お前も降りて来て見てみろや!」
「分かったよジャック、今降りる、ハロ、引き続き機体のチェックを頼む。」
『ガッテンディ!』
ジャックの呼び掛けに応じた一夏は、ケーブルに繋がれたハロに指示を出しつつコックピットから降り、彼の傍に歩み寄った。
「お疲れさん、ゴールドフレーム天の改修、完了だ。」
「もう完成したのか・・・、予想よりも早かったな・・・。」
彼に釣られ、一夏もその黒い機体を見上げた。
改修されて間もないから当然であるといえるだろうが、その機体には傷一つなく、まさに天空を統べるに足る威厳に満ち満ちていた。
「MBF-P01-Re2 アストレイゴールドフレーム天改・・・、かなり手を加えたもんだな・・・。」
左腕部への鈎爪、腰部へのレイピアの追加、そして破壊された左脚部の改修、および、それに伴う右脚部の改修と、元となった機体から更に改修が施されていた。
当然、機体の表面だけでなく、内部、特にスラスター関連が徹底的に手が加えられており、シュミレーション上では大気圏内での飛行も可能という結果を叩き出していた。
「まぁ・・・、これぐらいせにゃ、長い戦いには勝てないだろうさ。」
彼のしみじみとした呟きに、ジャックは何処か遠い目をしながらも答えていた。
彼も疑問に思っているのだろう、この改修が、世界にとって、自分たちにとって本当に正しい事なのだろうかと・・・。
「天が完成したか?」
そんな時だった、彼等の背後から声が聞こえ、一夏とジャックは揃って振り返った。
そこには三人のソキウスを引き連れたアメノミハシラの女王、ロンド・ミナ・サハクの姿があった。
「こっ、これはミナ様・・・!わざわざ御足労いただきまして光栄であります!!」
まさか彼女がここに出向いて来るとは思わなかったのだろう、ジャックは居住まいを正し、最敬礼をしていた。
いくらこの城に仕えているからと言えど、ロンド・ミナに会える事はそうそう無いため、彼の様な一介の整備士にとって、ミナとの直接話をするのは緊張してしまう事柄なのだろう。
「ウェイドマン整備士長、そんなに気負う事などない、普段通りにしていてくれ。」
そんな彼に苦笑しながらも、ミナは気にするなと言葉を紡いだ。
彼女とて、あまり堅苦しいやり取りは好ましくないのだろう。
「そうだぜジャック、気ぃ遣い過ぎだって。」
「お前はもう少し私に気を遣え、何回私の酒を強請るつもりだ。」
「だって俺の部屋、酒置いてないし。」
一夏とミナのやり取りに、ジャックは密かに冷や汗を流していた。
一夏が表面的にフランクな事は彼も承知の上だが、仮にも上司であるミナにも普通にタメ口で話している事に、ある種の恐怖を抱いた。
だが、ミナも文句を言いつつもどことなく楽しそうにしているため、これでいいのだと自分に言い聞かせる事にしたようだ。
「まぁよい、天の出撃、出来るか?」
そんな事はいいとばかりに、ミナは思い出したかの様に、要件を尋ねていた。
それに気付いたジャックと一夏も表情を引き締め、機体の状況を告げた。
「機体のパーツの接合、及び、武装の装着は完了しました、出撃する事は可能です。」
「アンタの要望に合わせて改修したんだ、これで満足出来なきゃやり直しだけどな。」
「ご苦労であった、では、試運転でもしてみよう、一夏、デブリベルト付近まで付き合え。」
二人の報告を聞いたミナは満足げに頷いた後、一夏に同行する様に指示した。
ソキウス達でも良い所だろうが、彼女としては一夏の訓練のために付き合わせるのだ、それほど深い意味は無いのだろう。
「了解、ジャック、今回はレイダーで出る、天のスピード、ストライクじゃ追い付けなさそうだ。」
その言葉に了解した後、彼はレイダーが置かれている区画まで歩みを進めた。
どうやら、彼にも別機体にも慣れて置きたいという思いがあったのだろう、一夏にとってもこの申し入れは願ったり叶ったりだったようだ。
「では、私も行くとしよう。」
彼を見送った直後、ミナは天に乗り込むべく機体に近寄り、一夏が出しっぱなしにしていた乗降用のラダーに掴まり、コックピットまで登った。
それを見送ったジャックも、自分の仕事のためにその場を離れようとした、まさにその時だった・・・。
「ウェイドマン整備士長。」
「はっ!なんでしょう?」
唐突にミナに呼び止められた彼は、まさか不備があったものかとヒヤヒヤしながらも彼女の下に駆け寄った。
これから発進という時に、どんな小さなミスでも命の危険を招くものであるために、それを放置する事は許されないのだ。
「なんだこの丸いのは?」
『ハロッ!』
「あっ・・・。」
彼女が差し出した球体、ペットロボであるハロを見た彼は、気の抜けた声を漏らした。
どんなミスがあったのかと気を張っていたために、拍子抜けしたというのもあっただろう。
「こりゃぁ、一夏と自分が作ったペットロボでさぁ、まさか一夏の奴、置いて行きやがったのか・・・。」
「一夏の物か・・・、彼奴も抜けている所があるのだな・・・。」
ジャックの説明に、ミナは少し可笑しそうに笑っていた。
普段、凛とした表情を崩さない彼女の笑う所を見た事が無かった彼は、その表情に釘付けになるも、今はそれどころではないと自分を立ち直らせた。
「自分が預かっておきましょう、後で一夏に渡しておきますので・・・。」
「すまぬな、出撃する、下がっていろ。」
ハロを受け取ったジャックが下がった事を認めた彼女は、今度こそシートに腰掛け、コックピットハッチを閉じた。
機体の電源を入れ、OSのパラメーターを自分に合う物へと再調整し、発進準備を進めてゆく。
『ミナ、レイダーの発進準備は完了だ、いつでも出せるぞ。』
「了解した、少し待て、もうすぐ終わる。」
レイダーに乗り込んだ一夏からの通信が届き、彼女はそれに返事をしつつも機体を立ち上げてゆく。
その手捌きは、いかにコーディネィターとは言え、無駄なく、あまりにも正確なものだった。
「設定完了だ、発進する。」
『オーライ、先に出てくれて良いぜ。』
彼の言葉に短く了解とだけ返し、ミナはカタパルトへ機体を進めた。
別段、緊張などしない、何度もやって来た事なのだから・・・。
『進路クリアー、ゴールドフレーム天改、発進どうぞ!』
「了解、ロンド・ミナ・サハク、ゴールドフレーム天改、出るぞ。」
彼女の宣言と同時に、ゴールドフレームは漆黒の宇宙へと飛び出し、感触を確かめるように動いた。
「ほう・・・?天の時よりも出力が上がっているのか?」
コントロールスティックやフットペダルを操作し、機体のレスポンスを試しながらも、彼女は天の完成度の高さに改めて驚嘆していた。
「流石、腕の良い者が集まってくれた、と言うべきか・・・。」
自分の期待以上の結果を叩きだしてくれた、アメノミハシラの技術スタッフ達の技量に、彼女は無意識の内にそんな言葉を零し、自分でも少し驚いた様な表情をしていた。
これまでの彼女ならば、やってのけて当然と言う様な感想を抱いたのだろうが、今ではそうは無くなっていた。
ただ純粋に、素晴らしい仕事をやってのけた者への、ある種の敬意とも呼べる様な感覚が、ミナの胸中に渦巻いていたのだ。
『すまん、ミナ、遅くなった。』
そんな彼女の耳に、腹心とも呼べる存在である男の声が届く。
その声に、ミナは困惑から意識を引き戻され、機体のモニターを見た。
天に向かってくる、MA形態のレイダーの姿がそこにはあり、彼女の手前でMS形態に変形し、止まった。
「構わぬよ、機体のレスポンスも掴めたところだ、良い準備運動になったよ。」
『そうかい、アンタの希望通りって所か?まぁ、もっと深く確かめにゃならん所も有りそうだがな。』
「無論だ、着いて来い、置いて行かれたくなければな。」
一夏との短いやり取りの後、ミナはフットペダルを踏み込み、徐々に速度を上げながらも動き始めた。
『やる気満々って事かよ、ったく、推進剤が持つか不安だぜ。』
愚痴を零しながらも、一夏はレイダーをMA形態へと変形させ、彼女の後を追う様に動いた。
二機は螺旋を描く様に入り乱れながらも漆黒の宇宙を駆け抜けた。
しかも、速度もかなりの物が出ている筈であり、本来ならデブリとの衝突の危険性もあるにも関わらず、二機は更に速度を上げながらも、きめ細やかな操縦で機体を動かし、障害物を回避、若しくは破壊しながらも通り過ぎて行った。
「(ほぅ・・・?この私の動きに付いて来れる様になったとは・・・、流石と言うべきか・・・。)」
天に装備されているツムハノタチを引き抜き、機体への直撃コースにあるデブリを破壊しつつも、ミナは自身の動きにぴったりと追随してくる一夏の技量に純粋に感嘆していた。
MSを扱う様になって今だ一月行くか行かぬかの者が、彼女に肉薄できる程の腕を持っていれば当然と言わざるを得ないだろう。
『おい、ミナ、もう少し手加減してくれよ、レイダーは扱い慣れてないんだ、下手すりゃ俺が宇宙の藻屑だ。』
そんな彼女の耳に、何処か呆れた様な、それでいて勘弁してくれとでも言う様な一夏の声が届く。
どうやら、彼も彼で精一杯食らいついていただけの様だった。
だが、そんな言葉とは裏腹に、彼もMA形態のレイダーのクローに装備されている機関砲を用いて進路上のデブリを破壊し、道を作っていた。
「なんだ?だらしないぞ一夏、私の片腕になるのならば、もっと精進せよ。」
彼の言葉に苦笑しつつも、ミナはからかう様に言葉を投げかけた。
尤も、それは彼に対する期待の裏返しでもあるのだが。
『アンタの求めるレベルが高いんだよ、俺はトーシロもいいとこだっての。』
「そう言う割には、なかなかの腕を持っているではないか?」
音声通信の為に表情こそわからないが、一夏はその手厳しい言葉に困惑する様に返した。
その調子からして、彼は苦笑に引き攣り、肩を竦めているだろう。
それを察し、ミナは苦笑交じりにフォローする様に言葉を紡いだ。
『ま、やる事が他に無いんでね、必然的に腕は上がるさ、前みたいな強さは無いけどな。』
やる事が無いから、必然的に自身を鍛える事に時間を割くのだと言う一夏の言葉に、ミナは何とも言えぬ心地を抱いた。
自分を磨く事を悪いとは思わない、寧ろ、彼女の為にその力を着けると公言しているのだ、それ自体は非常に喜ばしい。
だが、一夏の行動にはそれ以外の何かがある様な気がしてならなかった。
休む事を知らず、自分の身体を限界まで追い込み、まるで自分自身を殺そうとしている様な、破滅へと向かっているのではないかとすら思えるのだ。
だが、それに気付いたとて、ミナ自身にはどうしてやる事も出来なかった。
何せ、彼の心を癒せるのは、自分ではないと気付いてしまっているのだから・・・。
「なるほどな、だが、無理はするなよ?」
『承知してるよミナ。』
そんな後ろめたい想いを押し殺し、彼女は自身の右腕とも呼べる男を気遣う様な言葉を投げかけた。
それは上官としてではなく、一人の人間として発せられたものの様にも聞こえた・・・。
「それでは戻るとしよう、機体の感触は掴めた。」
『模擬戦は良いのかよ?』
「構わぬ、此処に来るまでに大まかな感触は掴めた、問題は無かろう。」
『あれで感触を掴めるのかよ、流石だな、羨ましいよ。』
彼女のエース以上の実力と経験に裏打ちされた順応能力の高さに軽口を叩きながらも、彼はレイダーをMS形態に変更しつつも方向転換を行い、その直後に再度MA形態へと戻した。
『乗れ、余計な推進剤を使わなくて済むだろ。』
どうやら、サブフライトシステム代わりにでもなるのだろう、彼は彼女にそう告げた。
「すまぬな。」
彼の言葉に甘える様に、ミナはレイダーの上に機体を乗せ、出張った部分をしっかりと掴んだ。
『そんじゃ、行くぞ。』
「了解した。」
互いに通信を入れた後、二機はアメノミハシラに向けて漆黒の宇宙を駆け抜けて行く。
『そういやさ、その機体の名前、どうするんだ?』
その道中にて、唐突に一夏がミナに尋ねていた。
「何故だ?天改で良いのではないのか?」
彼の問いが腑に落ちなかったのだろう、彼女は首を傾げながらも尋ね返していた。
彼女自身、機体の名など別段気にも留めない、所詮道具にすぎないのだから。
だが、彼女の腹心である一夏は違った。
『アンタにとっては取るに足らないもんだろうけどさ、機体は己の命を預けるモノ、謂わば相棒みたいなもんだ、俺は相棒に何度も救われてきたんだ。』
「命を預けられる相棒、か・・・。」
彼の持論を、ミナは何処か興味深げに聞いていた。
自分の想いを強く持ち、例え精神的に追い込まれている状況でもそれを貫ける彼の強さと、それを共に作り上げてきた彼の愛機への想いが、彼の言葉には満ち溢れていた。
『だからさ、アンタの専用機になるんだ、改なんて他人が着けた便宜上の名前だ、アンタが名付けてやれよ。』
「名、か・・・、そうだな・・・、ギナが乗っていた天とは違い、私が乗るのだから、天ミナ、とでも名付けようか?」
彼に促されるようにして、ミナは自分でも安直すぎるのではないかと思いながらも、自分が考え付いた名を言ってみた。
『へぇ、ギナとは違う、良い名前じゃないか、アンタに似合うエレガントな名だ。』
「そうか・・・?お前に言われると、妙な心地になる物だ・・・。」
『なんか貶された気分だぜ、それ・・・。』
軽口を叩き合いつつも、天ミナとレイダーは、自分達が帰る場所へと戻って行った・・・。
sideout
noside
アメノミハシラへと戻った後、主であるロンド・ミナに呼び出された一夏は、シックスソキウスと共に彼女の自室へと続く通路を進んでいた。
「ったく・・・、少しは休ませてくれてもいいじゃないか、ミナの奴・・・、いや、動かせてくれるのはありがたいんだけどな・・・。」
ぼやきながらも、彼は自身の主の下へと向かっていた。
それもそうだ、帰投してからシャワーすら浴びる暇も無く呼びだされたのだ、彼でなくてもボヤきたくもなるだろう。
だが、そこには嫌そうな表情は何処にも見当たらなかった。
寧ろ、ありがたいと言う様な表情だった。
それもその筈だった、彼は止まっていては過去に囚われ、自殺願望が強くなってしまうのだ、少しでも動いて気を紛らわせておきたいのだろう。
「しかし、用事とか言いやがったか?一体何なんだ・・・?」
要件を全く知らぬ一夏は、自身の半歩後ろを歩くソキウスに尋ねた。
彼を呼びに来たのもシックスソキウスだ、何か知っていると踏んでの問いかけだった。
「詳細までは存じておりません、ミナ様が会わせたい人物がいるとだけ仰っていました。」
彼の問い掛けに平淡に答えつつも、ソキウスは無表情を崩す事は無かった。
いや、崩す事が出来なかったと言うべきなのだろうが・・・。
「会わせたい奴だと?まぁいい、今から顔を突き合わせるんだ直接会ってみるさ。」
「そうですか。」
自分の判断に素っ気なく答えるソキウスに苦笑しつつも、一夏は前にもこんな事有ったなと思い返すのだった。
そんな事を思っている内に、彼等はロンド・ミナが待つ部屋の前に辿り着いていた。
「ミナ、俺だ、入っていいか?」
インターフォンを鳴らし、彼は中にいるであろうロンド・ミナに問いかけていた。
『来たか、入れ。』
それに気付いたのだろう、スピーカーより彼女の涼やかな声が聞こえてきた。
音声が途切れると同時に、彼等を迎え入れる様に扉が開かれる。
それを認めた一夏は、ソキウスに先じて部屋の中へと足を踏み入れた。
「良く来たな、待っていたぞ。」
「何の用だよミナ、少しは休ませて欲しいんだが?」
彼女の姿を認めた一夏は、文句を言う様に問いかけた。
だが、そこには非難の色は何一つ見当たらなかった。
「そう怒るな、お前に会わせたい男がいるんだ、お前も嘗て会った事があるやもしれん。」
「誰だよ、もったいぶらずに教えてくれても良いんじゃないのか?」
はぐらかす様な彼女の言葉に、焦らさないでくれと言う様に返していた。
彼とて、ハッキリしていないままでは気が気でないのだろう。
「分かった、今通信が入っている、繋げよう。」
彼の様子に苦笑しながらも、ミナはコントロールパネルを操作し、鏡に見立てたモニターに映像を映し出した。
その映像に映し出されたのは、特徴的な眉毛を持ち、いかにも自信家と言う様な男性だった。
『よぉロンド・ミナ・サハク、今日はとっておきの情報を持ってきたぜ。』
その男の名はケナフ・ルキーニ、裏社会では名の売れた超一流の情報屋である。
彼は自分が提供した情報で世界が動く事を至上の悦びとしており、雇われ方次第ではどのような組織の情報であろうが入手し、それを売りつける事を生業としているのだ。
「ルキーニ、久しいな、今日はお前に会わせたい男がいる。」
そして現在は、自分の能力を高く評価してくれるアメノミハシラに優先的に情報を卸しているのだ。
『会わせたい野郎だ?美人な女ならともかく、野郎に興味は無いぞ?』
ミナの言葉に、ルキーニは勘弁してくれとでも言いたげな表情を見せていた。
まぁ、彼でなくとも見知らぬ相手を紹介される時に、麗しき美女を紹介されたいと思うのは男の悲しき性と言うべきなのだろう・・・。
「なに、違うお前が会っていればお前も思い出すさ。」
『サッパリ意味が分からんな・・・、まぁいい、アンタが会わせたいと言うんだ、この俺が会ってやろうじゃないか。』
雇い主の紹介する人物に会わない訳にはいかないと判断したのだろう、彼は怪訝の表情を崩さぬままその人物について尋ねていた。
だが、それを聞いていた一夏の表情には、何処か懐かしむ様な表情が浮かんでいた。
何せ、一夏はルキーニの事を知っているのだから・・・。
「久しぶりだな、ルキーニ、その言い方はこの世界でも変わらないんだな・・・。」
自身の姿を見せる為に、ミナの傍に歩み寄った一夏の姿を見たルキーニは一瞬だけ怪訝の表情を浮かべていたが、すぐさま、それは驚愕に彩られる事となった。
『お・・・、御大将・・・!?なんでアンタが・・・!?』
「ふむ・・・、やはり、お前もか・・・。」
ルキーニの反応に、ミナは何処か感慨深げに呟いていた。
それは、異世界で一夏と関わりがあった人物が他にもいたと言う、彼への慰めにも似た感情だったのかもしれないが・・・。
『いや・・・、それよりも、なんだ・・・?どうして俺は、アンタを知って・・・!?』
「理解できないのも無理はないさ、この世界でのアンタは俺に会った事が無いからな、俺は別のアンタと会ったんだからな・・・。」
『なんだよ・・・、だが、悪い気は、しない・・・。』
自身の困惑を、にべもない言葉ではぐらかした一夏の言葉に苦笑しながらも、ルキーニは何処か納得した様な表情をしていた。
それは、思考が後で来る、謂わば本能の様な物で感じ取ったからなのかも知れない。
『まぁいい、御大将もいる事だ、仕入れた情報を提供させてもらうぜ。』
「あぁ、頼む。」
だが、何時までも感傷に浸っているルキーニでは無かった、彼とてその道のプロ、仕事をしに来たのだからオンとオフは容易に切り替える事が出来るのだ。
『今回の情報はザフトの新技術についてだ、しかも、世界が荒れる程の規模のな。』
「ほう・・・?して、どれほどのものだ・・・?」
彼のもったいぶる様な言葉に興味をそそられたのだろう、ミナはその麗しき顔に愉悦を湛えた様な表情を造った。
まるで、待ち望んでいた何かが漸く訪れたかの様に・・・。
『その名もNジャマーキャンセラー、名称から分かると思うが、Nジャマーを無力化する新技術だとよ。』
「ほう、Nジャマーを無効にするか・・・、これで戦局はどう傾くか分からなくなったな。」
ルキーニが齎した情報に、ミナは口元を三日月型に歪めた。
それはまさに、自分が望んでいたシナリオが叶った時の物であるかのように・・・。
『あぁ、ザフトが造ったが、既に連合にも流れているそうだ、戦争も、思ったより早くカタが着くかもしれんぞ。』
彼の言葉通り、Nジャマーが無効化されたと言う事は核の力が使えると言う事になったのだ。
それが意味する事とは、戦争の切っ掛けとなった核ミサイルが、そして、それを応用した大量殺戮兵器が生み出される事を意味している。
それほどまでに、世界は終末に向かって加速しているのだ。
「そうか、面白い情報を感謝する。」
『あぁ、お買い得な情報だっただろう?それと御大将。』
ミナとやり取りした後、彼は視線を彼女の隣に控える一夏に目を向けた。
それに気付いた彼は、ルキーニの目を覗き込む様に居住まいを正し、続く言葉を待っていた。
『今度はアンタが喜びそうな情報を持ってくる、またよろしく頼むよ。』
「あぁ、その時はまた頼むよ、アンタの手腕、俺は信じているからな。」
この世界でも自分の為に情報を寄越すと約束してくれたルキーニの想いに触れたのか、一夏は微笑みながらも頷き、次の時を待つと言った。
それは、記憶でも経験でもない、心に刻まれた絆故なのだろうか・・・。
『あいよ、ではな。』
了解する旨の言葉を残して、通信は途切れた。
「ふふふっ・・・、これで私も動きやすくなる・・・、一夏。」
「はっ。」
その直後、ミナは何かを決意したかのように笑いながらも、傍らに立つ腹心に言葉を投げた。
それに反応した一夏も、普段の軽薄さを潜めさせながらも続く言葉を待っていた。
「もうじき戦争が終わる、それも両者とも相打ちに近い形でな、間もなくだ、間もなく世界は我々のモノだ。」
「そうだな、連合もザフトも滅び、俺達が漁夫の利を得る、まさに理想的だな。」
全く苦労せずに、彼等は世界を手に入れる場所まで来ていた。
誰の思惑か、世界は滅びの一途をたどって行く、だが、それは人類の終わりではない、国が滅んでも人間は生きている、それらを支配する事で、彼等は新たな国を、世界を作り出せるのだ。
「そうだ、我々が動く時がもうじき訪れる、我々がNジャマーキャンセラー、核の力を使わずとも、愚か者共は最早戦う力すら持ち合わせていないのだからな。」
彼の言葉に頷き、彼女は最早勝ちが決まったとばかりに笑い、祝い酒のつもりなのだろう、グラスにワインを注ぎ、彼に差し出していた。
「祝い酒か・・・?気が早いな。」
「これを祝わずにいられるか、これほどまでの行幸をな・・・?」
「そうかい、なら、俺も頂くとしようか。」
ミナから差し出されたグラスを受け取り、自分の顔の高さに掲げていた。
「では、祝うとしよう、我等真のオーブの旗揚げを、な・・・?」
彼と同じくグラスを掲げ、グラスの淵と淵を合わせ乾杯した後、彼等は全く同時にワインを咽に流し込んで行く。
それはまるで、この世のすべてを取り込んで行くかの様に見えた・・・。
sideout