機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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Xアストレイ

noside

 

──戦え──

 

誰かが叫んでいる、戦えと・・・。

 

「嫌だ・・・、僕は戦わない・・・!」

 

彼は、プレアは否と答え、聞きたくないとばかりに耳を塞ぎ、蹲る。

 

だが、声は一向に止むことは無い、指の隙間を抉じ開け、彼の耳を毒してゆく。

 

──戦え、お前の敵を殺せ、そうすればお前は苦しまずに済む──

 

敵を殺せば楽になる、戦わなくて済むと、声は彼に語りかけてくる。

 

一人の声ではない、何人もの、老若男女問わず様々な声が戦えと彼を責め立てる。

 

「嫌だ・・・!僕は戦いたくなんかないんだ・・・!!」

 

声から逃れる様に、彼は脇目も振らずに走り出す。

 

だが、そんな彼を暗黒の闇より出でし幾つもの腕が捕えんとばかりに追いかける。

 

「・・・っ!!」

 

彼の服を、腕を、脚を掴み、巨大な闇が蠢く場所へと引きずり込もうとしていた。

 

──殺せ、敵を殺す事がお前の運命だ──

 

「違う・・・!僕はそんな為に生まれたんじゃない・・・!!」

 

戦う為に生まれた訳ではないと、抗う様にもがくが、彼を捕える腕は一向に振りほどけず、もがけばもがくほどに彼を捕えて離さない。

 

──殺せ、ころせ、コロセコロセコロセコロセコロセ──

 

「嫌だ・・・!嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

押しつぶす様な声が聞こえた直後、彼の意識は闇に呑み込まれた・・・。

 

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「嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

絶叫と共に跳ね起きたプレアは、荒い呼吸と共に震える身体を抱きすくめ、自分の周囲を見渡した。

 

そこは、ユーラシア連邦脱走艦、オルテュギアの船室であり、彼に宛がわれた部屋であった。

 

それを確認した彼は、乱れた呼吸を整える様に深呼吸を数度繰り返し、漸く溜め息を吐いた。

 

先程の夢、彼を戦わせようとする呪縛は今に始まった事では無い、彼がこの世に生まれ出でてからずっと続いている、悪夢の様な現実であったのだ。

 

「大丈夫か?」

 

そんな彼に声をかけた者がいた、この艦の実質的な指導者、カナード・パルスであった。

 

プレアはその声に一瞬身体を強張らせるも、それが幻覚ではなくカナードの声だと分かると、僅かに安堵した様な表情を見せながらも彼を見ていた。

 

「心配してくれるんですか・・・?」

 

カナードが自分の体調を気遣ってくれているとは思えないのだろう、彼の声には僅かな戸惑いと、明らかな警戒の色があった。

 

「あぁそうさ、お前に死なれては俺は負けたままになるのだからな、心配ぐらいしてやるさ。」

 

彼の考える通り、彼はプレアと言う人間を心配しているのではない。

 

自分を倒したドレッドノートのパイロットとして、戦って倒すべき敵として見ているのだ、そもそもの心配の度合いが違っているのだ。

 

「僕は・・・、戦ったりしません・・・!!」

 

だが、プレアはカナードと戦うつもりなど無かった。

 

一時は激情に流されかけ、銃を向けはしたが結局は撃たなかった。

 

そもそも、彼はカナードとの戦いを避ける為にここに来たのだ、戦いなど強制されてもする気はないだろう。

 

「ふん、好きにしろ、だが、俺を負けたままにして死ぬのだけは許さんからな!!」

 

戦わないというプレアの言葉を鼻で笑いながらも、彼はあくまでも戦う姿勢を崩そうとはしなかった。

 

彼の、カナードの根底にあるのは勝利と生のみ、負けたままでは死んでいるも同然なのだろう。

 

相容れぬ想いを抱えた二人が睨みあっている最中、突然艦内にアラートが響き渡る。

 

それは、所属不明機の接近を知らせるアラートであり、大方、彼等と敵対する組織を識別する際に用いている物だった。

 

「メリオル!どうした!?」

 

カナードは持っていた端末を取り出し、艦橋にいる副官に通信を繋げていた。

 

『MSが一機、こちらに接近してきます、映像をそちらに送ります。』

 

彼女の言葉と同時に画面が切り替わり、オルテュギアに接近してくる蒼いMSの姿が映し出された。

 

「アイツは・・・。」

 

カナードは接近してくる機体に見覚えがあった。

 

それは一カ月前に、彼と交戦した事のある傭兵のガンダムだった。

 

『こちらサーペント・テールの叢雲 劾だ、プレア・レヴェリーに用がある、オルテュギア、直ちに停船せよ!』

 

「あの傭兵・・・、コイツに用があるだと・・・?」

 

怪訝の表情で、カナードはベッドから起き上がるプレアを見た。

 

まさか自分が知らぬ所で、この少年は彼の傭兵と繋がりを持っていたのかという思いを抱きながらも、彼は画面を切り替え、待機していたメリオルへと通信を繋げた。

 

「オルテュギア機関停止、あの傭兵の用件とやらを聞いてやろうじゃないか。」

 

『了解しました。』

 

彼の指示に頷き、メリオルは通信を切った。

 

その直後、エンジンを停止させ、制動を掛けているのであろう、僅かな振動が彼等の下に届く。

 

「プレア、お前に客人だ、出迎えてやれ。」

 

「分かりました・・・、格納庫へ行きましょう。」

 

プレアに告げながらも、カナードは彼を伴って船室から出て行き、格納庫を目指した。

 

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『そんな訳で、ドレッドノートの真の力を引き出すパーツを製作中だ!コイツはお前しか使いこなせねぇ、兎も角一旦戻って来い、プレア!!』

 

劾に手渡されたビデオメールに、プレアは何処か懐かしそうな、そして気難しい表情を浮かべていた。

 

劾はロウから預かったビデオメールを、オルテュギアにいるプレアに手渡しに来たついでに、彼の、プレアの覚悟を聞きに来たのだ。

 

「ロウさん・・・、風花ちゃん・・・。」

 

自分に向けてのメッセージを送るロウと、彼の後ろで不安げな表情を向けている風花の姿に、彼は申し訳ない様な表情を浮かべていた。

 

またしても、彼は友に、仲間に心配をかけてしまったのだ、後ろめたい想いがあるのだろう。

 

「こんな物をわざわざ見せるために来たのか?」

 

「そうだ。」

 

彼の手元を覗いていたカナードは、何処か興奮を抑えられないと言った口調で劾に確認を取っていた。

 

まさか、用件がドレッドノートを強化するから戻って来いという物だとは思っても見なかったのだろう、彼にとってはある意味で願ったり叶ったりだった。

 

「面白い!ハイぺリオンも強化されたのだ、ドレッドノートもパワーアップさせてやる!」

 

彼にとって、ドレッドノートは宿敵だ、自分のプライドを傷つけた張本人と呼んでも差し障り無いだろう。

 

彼のハイぺリオンは核の力を手に入れ、光の盾を無限に使用できるという状態にあるが、ドレッドノートは動力的な面はハイぺリオンと変わらないが、武装も少ないために不利なのは火を見るより明らかだ。

 

宿敵との戦いだ、なるべくフェアな状況で決着を着けたいのだろう。

 

「そして俺と戦え、プレア!」

 

「貴方という人は・・・!」

 

最早戦う事に憑り付かれているのだろう、カナードは嬉々とした表情でプレアに言葉を投げかけた。

 

この状況なら彼も断る事はしないだろうと思っているのだろうか・・・?

 

「プレア・レヴェリー、どうするかはお前自身で決めろ、だが、決めたら後悔はするな、それがお前の生き方という物だからな。」

 

カナードを睨むプレアに助け船を出す様に、今まで静観していた劾が口を開いた。

 

戦うか戦わないかも、決めるのはお前次第だ、だが、後悔しない様に選択する自由はお前に有ると・・・。

 

彼の言葉を聞き、暫く考える様子を見せていたプレアだが、何かを決心したかの様に顔を上げた。

 

「分かりました、ジャンク屋の皆さんの所に、僕は戻ります・・・!劾さん、道案内をお願いします。」

 

「了解した、すぐに出るぞ、準備しろ。」

 

彼の決意を受け取ったのだろう、劾は薄く微笑み、一足先に自分の機体の方へと足を向けた。

 

「行け!そして俺と戦うために戻って来い!何処へ逃げても、必ず探し出してやるからな!!」

 

「カナードさん・・・っ!!」

 

彼を追う様に、ドレッドノートへと向かっていったプレアの背に、カナードは戦えという言葉と脅しの様な言葉を投げ掛けていた。

 

あくまでも戦う事に執着する彼のオーラを、プレアは何処か寂しい想いで感じ取っていた。

 

彼は知らないのだ、そういう生き方以外の生き方を・・・。

 

sideout

 

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「は~い、帰ってきたわよ~。」

 

樹里に連れられ、プレアはアメノミハシラの一角、ロウ達が作業を行っている場所へとやって来ていた。

 

あの後、彼はドレッドノートに搭乗し、劾のブルーフレームの先導を受けてアメノミハシラに辿り着いたのだ。

 

「プレア!」

 

「おっ!帰ってきたな。」

 

『8』を手に持ち、何かの設計図を見ていた風花が彼を見るなり表情を輝かせ彼の下へと駆け寄っていた。

 

そんな彼女を微笑ましく思いながらも、ロウはお帰りと言わんばかりに手を挙げていた。

 

そんなロウの前には作業用のコントロールパネルがあり、彼はその前にプレアを招きよせた。

 

「セシリアさんとシャルロットさんはどうしたんですか?」

 

自身を友と、仲間と接してくれた二人の女性の姿が無い事に気づいたのだろう、彼は辺りを見渡しながらも尋ねていた。

 

誰よりも自分を心配してくれたシャルロットと、自分の背を押してくれたセシリアには、彼は仲間や友としての感情よりも、歳の離れた姉を見ている様な感覚なのだろう、せめてただいまの一言ぐらいは言いたいのだろう。

 

「あの二人なら、ちょっと用事で席を外してるだけさ、またすぐに戻ってくるさ。」

 

「そうですか・・・。」

 

今すぐにでも帰還を告げに行きたい所だが、彼は他に見ておくべき物があると分かっていたために、今はそちらに意識を向ける事にした。

 

彼の視線の先には、ダークグレーの色彩を持った円形のバックパックと、それに取り付けられようとしている四基の砲塔の様なものがあった。

 

一見するだけではそれが何なのかは理解できないだろう、だが、ドレッドノートのパイロットを務めるプレアには、それらが何の意味を持った物なのかハッキリと分かっていた。

 

「ロウさん、これは・・・、ドラグーンですよね・・・。」

 

「あぁ、知り合いから貰ったデータに入ってたんだ、ここでしか造れそうになかったんだよ。」

 

何処か苦い表情をしながらも尋ねる彼に、ロウはその通りだと頷き、ドレッドノート本体への装着作業に入った。

 

恐らく、ドレッドノートが、プレアが到着する以前にパーツ自体は完成していたのだろうが、本体がなければただの鉄屑でしかない、故に彼はそれを待っていたのだろう。

 

「すみません、ロウさん・・・、僕はこれを使って人を傷付ける様な事は・・・。」

 

そんな彼に、プレアは使いたくないという様な気を見せる。

 

カナードと行動を共にし、彼は戦う事の無意味さ、そして空しさを痛感していたのだ。

 

故に、カナードと同じ様に、兵器に乗って戦い、人を傷付け、殺す様な事はしたくないのだろう。

 

「まぁ、そう言わずに付けるだけはさせてくれ、折角造ったんだしな、使うかどうかはお前次第だよ。」

 

「・・・。」

 

使うかどうかはお前次第、そう言われれば何も言い返せないのか、プレアは押し黙り、電源が入れられたままで、PS装甲がONになっているドレッドノートに取り付けられてゆく新規パーツを眺めた。

 

そんな彼の目の前で、接合が終わったのだろう、ダークグレーだったバックパックと、それの四隅に設置されたドラグーンが赤みがかかったオレンジ色へと変色してゆく。

 

恐らく、バックパックやドラグーンにもPS装甲部材が使用されているのだろう事が、その変色から窺い知る事が出来た。

 

「凄く強そうだね!」

 

「これがドレッドノートの・・・、真の姿・・・?」

 

その姿に純粋な思いを抱く風花とは対照的に、プレアは何処か恐怖した様な表情を浮かべていた。

 

ただでさえ強力な機体であるドレッドノートに更なる戦力強化が施されたのだ、その分、破壊力も殺傷能力も上がっていて当然と言うべきだろう。

 

「ロウさん・・・、やっぱり僕はこれに乗る事は出来ません、僕は兵器に乗るなんて、もう耐えきれないんだ・・・!」

 

プレアは隣にいたロウと、風花に向けて、自身の心に抑え込んでいた心情を吐露していた。

 

彼は生まれながらに戦いを宿命づけられた存在ではあったが、彼自身、それを受け入れる事は出来なかった。

 

故に、彼は人殺しの道具である兵器に乗る事に耐え切れなくなったのだ。

 

「そうか・・・、けど、そんな風に思われてたらコイツも可哀想だな。」

 

「え・・・?」

 

自分の言葉を聞きつつも、ドレッドノートを見つめて語られたロウの言葉に、彼は僅かな驚愕と共に彼を見た。

 

今の言葉はまるで、ドレッドノートが兵器でないという風に聞こえたのだろう、彼の表情は怪訝の色が濃く滲み出ていた。

 

「道具ってのはさ、乗る人間が、使う人間がどう使うかによってどうなるかが決まるんだ、兵器として生まれたからって、何も人殺しに使われなきゃならないって事もないんだ。」

 

ロウは、困惑するプレアに向けて持論を、自身の経験を語っていた。

 

彼が乗るレッドフレームも、元々は戦闘用に作られたMSだ、しかし、それはロウがパイロットとなった事で、戦闘よりも、それ以外の用途に使われる事の方が圧倒的に多い、故に彼は、使い方は色々あるのだと伝えたいのだろう。

 

「だから、お前が人殺しをしないって決心があるなら、ドレッドノートは兵器にはならないさ、お前がそうさせないんだからよ。」

 

「兵器として生まれても・・・、それ以外の活き方がある・・・。」

 

大丈夫だと笑うロウの言葉に、彼は小さく、そして自分に言い聞かせる様に呟いていた。

 

その言葉は、確認というよりも、彼の中にある過去を思い返し、そうならないともう一度決心している様にも見えた。

 

 

「ロウさん、僕はこのMSで・・・、ドレッドノートであの人を救えるでしょうか・・・?」

 

あの人とは、結局分かり合えないまま今に至るカナードの事なのだろう、彼の言葉からは何よりの重さが感じ取れた。

 

「さぁな、だけど、俺はメカと乗り手との運命みたいなのを感じるよ、あの兄ちゃんの機体、ハイぺリオンは強力なバリアに守られてる、あの兄ちゃんの心も同じだ、殻に閉じ籠って、人との間に隔たりを作ってる、だけど、お前はその逆だな、ドレッドノートと同じ勇敢な奴だ、想いを何処までも飛ばせるドラグーンを、力を持ってる、乗り手とメカは似るんだってな。」

 

乗り手とメカの運命、それはジャンク屋であるロウにしか言い得ない言葉だった。

 

ドレッドノートも、そしてハイぺリオンも、図らずもパイロットと同じ道を歩んでいる、そして、性質まで似てくるのだと・・・。

 

「ドレッドノート・・・、僕はあの人を助ける為に君に乗る・・・、だから、僕に君の勇気をもう一度だけ貸してくれるかい・・・?」

 

ロウの言葉を聞きつつ、プレアは自分を見下ろす様に佇むドレッドノートを見上げ、問いかける様に呟いた。

 

メカに意志が在るかどうかは別として、勇敢な者という名のMSの勇気と共に駆ける事を、彼は決心しつつあるのだろう。

 

「コイツも、アストレイだな。」

 

「アストレイ・・・?」

 

ドレッドノートを見上げながら呟くロウの言葉の意味を理解できなかった彼は、僅かな困惑と怪訝の色を浮かべながらも彼を見た。

 

「≪王道じゃない≫って意味さ、兵器として生まれたのに人助けの為に使われるんだ、背中にデケェXを背負ってるから、さしずめXアストレイってとこだな。」

 

「王道じゃない・・・、Xアストレイ・・・!」

 

彼の言葉を反芻する様に、プレアは再度ドレッドノートを、Xアストレイを見上げながらも頷く。

 

自分がやろうとしている事は王道ではない、だが、それで良いではないか、何せ、それこそが人の生きる意味と言う物なのだから・・・。

 

「ま、どう生きるのも自分次第って事さ、お前の思うままにやれ、プレア。」

 

「はいっ!」

 

自分の心に従え、そう告げるロウに、もう迷いは無いとばかりに力強く返答し、彼は戦いに囚われている一人の男を思い浮かべていた。

 

「(カナードさん、僕は貴方を、戦いの呪縛から解き放ってみせます、このXアストレイで・・・!)」

 

自分と同じ様な境遇ながらも、自身とは違う環境にいた為に戦う事に憑りつかれた男・・・。

 

それはさながら、合わせ鏡の様であり、自分の影を映し出している様だったから・・・。

 

故に、彼はその男を救いたいと願う。

 

彼が知らぬ生き方があると告げるためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

最後の戦いに赴くプレアから、セシリアとシャルロットは彼に秘められた真実を知る。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

決戦にむけて・・・。

お楽しみに~。
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