機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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セシリアがサーペント・テールに保護されてから数日後、
劾は格納庫にて、自身の愛機、ブルーフレームセカンドGの調整を行っていた。
ブルーフレームセカンドG、
以前、地球連合所属のコーディネィター、ソキウスが駆る二機のロングダガーに敗れ、バックパック部に甚大な被害を受け、尚且つ頭部まで持ち去られてしまったブルーフレームを、
劾とジャンク屋、ロウ・ギュールが修繕、改修した姿だ。
肩部にフィンスラスターと呼ばれる特殊スラスターを追加し、単体での機動力の向上と、急激な方向転換を可能とする推力の付与がなされた。
また、プロトアストレイシリーズに共通していた追加兵装の交換、混同が容易という点はそのまま継承され、彼の任務遂行の大きな手助けとなっている。
次のミッションは少々手荒な方法を採らねばならないミッションであり、装備の選択と整備を怠る事はあってはならない。
ふと、ブルーフレームの反対側を除いてみると、
そこにはフェイズシフトダウンを示す暗灰色の機体が佇んでいた。
特徴的なブレードアンテナとツインアイを持ち、
余分な一切合切を全て取り払った様にも見えるその機体は、GAT-X102デュエルであった。
セシリアを保護した後、劾は軽いメンテナンスの為、デュエルを確認したが、
これといって問題になりそうな点はなく、エネルギーと推進剤の補給だけで大方の整備は完了していた。
しかし、パイロットであるセシリアが今だ動ける状態では無いため、
この機体を動かす者はいないのだ。
だが、物言わぬその機体は、
ただひたすらに主の帰還を待ち望んでいるかの様にも見える。
「お前は、主を護ったのか?
ブルーフレームが俺を護ってくれた時の様に・・・?」
ふと、そんな言葉が口を突いて飛び出した事に気付き、
劾はらしくないと言わんばかりに頭を振った。
何時から自分は機体に対してそういうセンチメンタルな感情を持つようになったのだろうかと言いたげな表情が、彼の内心での驚きを物語っているだろう。
「そろそろ、起き上がれる頃だな・・・、
せめて、ここに引き留めて置ければいいが・・・。」
そう呟いた後、彼はブルーフレームの装甲を蹴り、慣性に従って居住区画への通路を目指した。
sideout
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「もう起きても大丈夫なの?」
食事を持って、劾と共にセシリアの部屋を訪れたロレッタは、
ベッドから降り、そわそわと落ち着きなく部屋の中を歩き回っているセシリアを見つけ、驚いた様な声をあげた。
彼女の反応はもっともなものだろう、
何せ、数日前まで起き上がる事処か、目覚める事さえなかった者が動き回っているのだ、驚かない筈はない。
「えぇ、寝ているばかりでは、身体が鈍ってしまいますもの、それに、もう全快しましたわ。」
ロレッタの問いに答える様に、セシリアは両手を広げ、快調だと言わんばかりに示していた。
「それもこれも、ロレッタさんやサーペント・テールの皆さんのお陰です、誠に感謝いたします。」
「良いのよ、怪我人を助けるのは当たり前よ?
それに経緯は分からないけど劾達の友達は助けないとね♪」
セシリアがしっかりと頭を下げ、礼をするのに対し、
ロレッタは気にする事は無いと笑い、彼女に顔を挙げさせた。
そんな彼女の笑みに、セシリアは少し照れ臭そうにはにかんだ。
扉の近くで佇んでいる劾も、安堵した様に口許を弛めていた。
「それよりも、これからどうするの?
貴女、帰る場所がないんでしょう?」
「そういえば・・・、そう、でしたわね・・・、
これからどうしましょうか・・・?」
ロレッタの問いに、セシリアは困った様な表情を見せながらも、何も思い付けないのか返答に窮していた。
それもそうだろう、
彼女はこの世界に来て間も無く、MSの扱いも出来なければ、それ以外の知識も圧倒的に不足している。
その様な状態では、この世界で生きていく事は、娼婦に身を堕とす以外不可能であると言えるだろう。
だが、ひとつだけ方法があることを、
ロレッタは既に思い付いていた。
それを提案しようとした時、劾が口を開いた。
「なら、サーペント・テールに入れば良い、
勿論、見習い隊員としてだがな。」
「えっ・・・?ですが、よろしいのですか・・・?」
彼女の困惑は尤もな物だ、
確かに、劾やイライジャとは少なからず繋がりはあっても、此処までしてくれる理由が分からないのだろう。
「構わんさ、それに、お前が乗っていた機体は、
お前と共に在りたがっているからな。」
「私の機体、ですか・・・?」
「あぁ、お前が乗ってやれ、その為にはサーペント・テールにいる事が一番手っ取り早いだろうしな、
それに、やるべき事を見付けられるかも知れんぞ。」
劾の話した内容に、セシリアは暫く考えるような表情を見せた後、何かを決めたような表情をし、顔を上げた。
「分かりました、不束者ですが、サーペントテールでお世話になります、よろしくお願いいたしますわ。」
「あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ、セシリア。」
彼女の返事を受け取った劾は右手を差し出した。
セシリアもそれを受け、彼の右手を握り、
契りは成った。
「ロレッタ、セシリアに服を貸してやってくれ、
何時までも寝間着という訳にもいかんだろうからな。」
「分かってるわ、でも、こんなグラマラスな身体に合う服、合ったかしら?」
セシリアと手を離した劾は、
事の成り行きを見守っていたロレッタに声をかけるが、
当の彼女は、少々苦笑気味で、セシリアの方を見ていた。
「どういうことですの?
そこまで太くは無いと思いますが・・・、って!?
何ですのこれはぁ!?」
自分の身体に目を落としたセシリアは、
自分の体型の変化に驚愕、絶叫した。
と言っても、太っているのではなく、
背が約175㎝になり、全体的なプロポーションは以前より均整が取れた美しいモノに成長し、女性らしさを現す胸の膨らみは、自己主張の度合いをより一層強くし、少女から女性へと成長しきった事を、その身体は示していた。
「そんな・・・、私は、どうしてしまったのでしょうか・・・。」
他の者には、何故彼女が動揺しているのかと、
理解が及ばないであろう。
だが、彼女の元々の年齢は16であり、
いきなり20前後の身体着きになった事を理解しきれずにいたのだ。
「どうした?」
「い、いえ、何でもありませんわ・・・。」
彼女の様子を不審に思ったのか、劾は声を掛ける。
それを察したセシリアは、何事も無いと思わせる為に、直ぐ様平静を装った。
それもその筈、彼等にとって、今の自分の姿こそがセシリア・オルコットという人間の姿であり、此処でどう騒ごうとも、本当の自分の姿ではないと信じてもらえる筈もない。
そう結論付けた為である。
「そうか、これがお前が着ていたパイロットスーツだ、
代わりの服が手に入るまでは、すまないがこれを着てくれ。」
「分かりましたわ、何から何までありがとうございます、それから・・・、
よろしければ劾さんは席を外しては頂けませんか・・・?」
劾にパイロットスーツを受け取ったセシリアは、
何処か恥ずかしそうに、彼が部屋から去るように頼む。
「分かっている、恋人でもない男に、肌を見せるモノじゃないぞ。」
「っ・・・、ありがとうございます・・・。」
何気なく言った劾の言葉に、セシリアは表情を一瞬だけ曇らせたが、直ぐ様笑顔を取り繕い、彼に礼を返した。
劾もロレッタも、その一瞬を見逃しはしなかったが、
掛ける言葉が見付からなかった為に、敢えて何も言わずにいた。
愛しい男と女と離れ離れになってしまった彼女の心の痛みなど、
事情を知らぬ彼等には察することも出来ぬ事だろう。
劾は無表情を貫き通し、部屋から退室して行った。
「(好きな男・・・、もう、あの方はいらっしゃらない・・・、
でも、この気持ちは、捨てることは出来ませんわね・・・。)」
胸の内に走る痛みを堪えながらも、彼女は病人服に手をかけ、着替えていく。
ロレッタから渡されたインナーを着込み、
その上からパイロットスーツを着用し、準備万端と言わんばかりに手を叩く。
「準備出来たかしら?劾が外で待ってるわ、彼に着いていきなさい?」
「ありがとうございます、ロレッタさん、それでは、行って参りますわ。」
部屋から出たセシリアは、部屋の前の廊下で待機していた劾とアイコンタクトし、
彼等は格納庫の方へと歩いて行った。
sideout
sideセシリア
病人服から着替えた後、私は劾さんに連れられて、
無重力エリアまでやって来ました。
ISを使用しても感じる事の出来ない、
身体が水の中にいるような浮遊感は、当然の事ながら今までの経験の中にはありません。
本当に宇宙なんですね・・・。
今まで重力ブロックにいたためか、
なにかと宇宙にいるという感覚ではなく、地上にいる感覚のままでしたので、余計にそう感じます。
「劾さん、お尋ねしたいことがあります、
私の機体とは一体なんですの?」
先程、私に掛けて頂いた言葉、
私の機体と仰られていたでしょうか?
私の機体と言われましても、
以前の世界での愛機は既に壊されてしまった訳でして、私の機体と言うものは存在しない筈です。
「お前が漂流時に乗っていた機体だ、
俺達が使うわけにもいないから、お前に返そうと思う。」
あまり要領を得ない答えですが、今ある情報では答えに辿り着ける筈もありません。
ここはその機体を確認して置くことが、
私が答えへと辿り着ける近道なのでしょう。
暫く無重力エリアの通路を進んでいくと、
格納庫へと辿り着きました。
格納庫に入り、まず最初に私の目に飛び込んで来たのは、
私の10倍程の大きさを持った、人の形をした巨大な物体でした。
V字に伸びるブレードアンテナ、人間の眼の様なツインアイ、
その姿は、私にとって見覚えのある姿でした。
「ブルーフレーム・・・。」
「知っているのか?」
知っているなんてものじゃありません、
その姿と大きさは違えど、幾度となく刃を交えた事のある機体です。
パイロットとは、私が偽りの仮面を被っていた事もあり、反目しあっていましたが、
私が本心をさらけ出せていたのならば、よき友となれた事でしょう。
「はい、何度も戦った事があります、
この様な姿ではありませんでしたが・・・。」
「そうか、深く聞かない方がお互いの為だな。」
劾さんは納得したかのように、先導を続けるように宙を進んでいきます。
そこから少し進んだ場所には、
別の機体が佇んでいました。
ダークグレーの装甲色を持ち、細身ながらもどこかずんぐりとした体躯を持つガンダムタイプの機体・・・。
「これは、デュエル・・・?」
かつての姿とは異なる部分もありますが、
その面構え、特徴的なガンダムフェイスは見紛う筈もありません。
「お前が漂流時に乗っていた機体だ、確認するが、お前の機体で間違いないか?」
劾さんが確認するように私に尋ねられているのは分かっていましたが、
私の視線は目の前に佇む愛機に釘付けになっていました。
「間違いありません、私の機体ですわ。」
ですが、答えないことも失礼に値します、
劾さんに向き直りながらも答えました。
そんな私の様子を見て納得したのか、彼は深く頷いていらっしゃいました。
「貴方は、私について来てくれたのですか?」
気が付けば、私は慣性に任せて浮き上がり、
デュエルのヘッド部分まで行き、アンテナ部に触れながら、語りかけていました。
機体は意志を持たぬ無機物だと頭では理解していますが、
どうしてか、その言葉が口を突いて出ていました。
お二人がいなくなって、私は一人ぼっちになったと思っていましたが、
この機体だけでも、こんな私と共に在ってくれていることが、何よりの慰めになってくれました。
何故私がこの世界に飛ばされ、生かされているのか、
何故独りになっているのか、わからないこと尽くめで混乱していた思考が、ほんの僅かですが、
クリアになった様な気がします。
もう、かつての世界には戻れない、
ですが、この世界で目覚めたということは、私はこの世界でなすべき事があるのでしょう。
ならば、今は何も考えずに、ただただ、己の腕を磨く事のみに専念いたしましょう。
「劾さん、不躾で申し訳ありませんが、すぐにとは申しません、
どうか今一度、私に戦闘のご指南をお願いできませんか?」
「勿論だ、まずは計器の見方や操作方法を覚えてもらおう、
実際に操縦するのはまだまだ先だ、いいな?」
「勿論ですわ、いきなり乗れと言われても、不可能だと分かっていますもの。」
寧ろ、これから操る事になる機体の事を学べるのです、
これ以上に好都合な事はありません。
学んで活かし、そして強くなる、これまでやってきたこととなんら変わる事は無いでしょう。
やってみせましょう、立ち止まっていても分かることなんてありませんもの。
一夏様、シャルさん、其方に逝くのはまだまだ先になりそうです、
ですから、遅れて逝く無礼、ご容赦下さいませ、決して貴方方を忘れる訳ではありませんから・・・。
「付いて来い、人に物を教えるのは苦手だが、善処しよう。」
「はい、精一杯努力致しますわ。」
劾さんに呼ばれましたため、意識を回想から現実へと呼び戻し、
彼の後を追いました。
どれほどの事が出来るかなど分かるはずもありませんが、
生き抜くため、生きる意味を見出すため、足掻かせていただきましょう。
デュエル、申し訳ありませんがもう少しお待ち下さいね、
貴方とは、もう一度宙を駆ける事になります、
その時が来たならば、もう一度、私の命をお預けいたしますわ。
心の内で愛機に語りかけながらも、私の意識は既に別のモノへと向いておりました。
もう一度、自分の意志で立ち上がり、飛ぶためにも・・・。
sideout
次回予告
戻らぬ者、戻らぬ時、それは時として刃となり心に突き刺さる、その最中で、彼女は何を見るのだろうか。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
始動。
お楽しみに~。