機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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アウトフレーム

noside

 

「準備が終わったから俺達はもう行くぜ、一夏、ジェスの兄ちゃん、早くここから離れな。」

 

レッドフレームで出発の最終準備をしていたロウは、リ・ホームの格納庫に戻り、そこで待っていた一夏とジェスに退避するように伝えた。

 

「了解した、ロウ、セシリアとシャルを護ってくれた恩、俺は一生忘れん、本当に感謝している。」

 

ここに来た本当の目的を果たそうと、一夏はロウに歩み寄りながらも右手を差し出した。

 

彼にとって、セシリアとシャルロットの存在は何よりも大きく彼の心を占めていたため、彼女達の生還が、一夏の精神保養にとって大きな支えとなっていたのだ。

 

ただ、愛しい者達というだけでなく、彼にとっては何物にも代えがたい想いがあったのだ。

 

「いいよ、気にするなって、また会えて良かったじゃないか。」

 

「あぁ、ありがとう、長い旅になるとは思うが気を付けてな。」

 

彼の感謝、感激を感じ取ったロウは笑顔を浮かべながらも、別れを惜しむ様に彼の手を握り返していた。

 

「おうよ、早くリ・ホームから出な、また離れ離れになっちまうぞ?」

 

「それは勘弁してほしいな、ジェス、行くぞ・・・?」

 

長居していれば火星まで連れて行くと冗談めいて言うロウの言葉に苦笑し、握手を解いた一夏は自分の傍にいたジェスの方に向き直った。

 

だが、当のジェス本人は眉間に皺を寄せ、ロウを凝視していた。

 

ジェスの表情の理由が分からなかった二人は互いに顔を見合わせつつも、自分達が彼の気に障る様な事をしたのかと訝しんだ。

 

それほどまでに、ジェスが浮かべている表情に合点がいかなかったのだ。

 

「すまん!!」

 

そんな彼等に、いや、正しくはロウに対して、ジェスは勢いよく頭を下げていた。

 

「な、なんだ急に・・・!?」

 

唐突な謝罪に面食らったのだろう、ロウは後退った。

 

「俺はアンタのやろうとしてる事を嗤ってしまった・・・!何も分かったなかったのにだ・・・!!」

 

「な、なんだよ、そんな事で・・・。」

 

「そんな事なんかじゃない!ジャーナリストが先入観でモノを見るなんて事は、絶対にやっちゃいけない事なんだ!だから・・・!!」

 

ジェスは自身が取ってしまったしまった態度を後悔しながらも、ロウに詫びを入れていたのだ。

 

先程の態度はジャーナリストとしての彼にとっては、自分が最も嫌う行動を自分自身が取った事への羞恥にも似た何かがあるのだろう。

 

「う~ん、別に自分自身で気付いたんなら、それで良いんじゃないのか?」

 

「えっ・・・?」

 

だが、当のロウ本人は全く気にした様子も無く、ジェス自身が気付いたのならばそれで良いと笑っていた。

 

思いもしなかった言葉に驚きながらも、ジェスは彼の顔を凝視していた。

 

彼自身、心無い言葉を投げかけてしまったと言う自覚があるのだ、それが何の蟠りも無く許されるとは思っても見なかったのだろう。

 

「アンタ・・・、自分が馬鹿にされたってのに・・・、変わってるな・・・?」

 

「そうか?MSに乗ったジャーナリストって方が変わってるだろ?」

 

「それもそうだ!」

 

思わず零れたジェスの言葉に、ロウは自分と同じく彼も変わり者ではないかと尋ねていた。

 

その自覚があったジェスは、特に何も言い返す事無くその通りだと認め、ロウと拳をぶつけ合っていた。

 

変わり者同士、何か通じ合うモノがあったのだろうか・・・。

 

「だけど、それが俺の誇りなんだ、今じゃ戦場の主役はMSだ、戦場やそこにあるモノを見るには、やっぱり彼等と同じ視点に立つ事が大切だと思う、だから俺はMSに乗って戦場を見てるんだ!」

 

ジェスは自分の胸に手を当て、自分が掲げている信念を口にしていた。

 

MSに乗ってるからこそ、生身では感じ取れないモノ、見えないモノがある、それを見る為に、彼は己の道を行くのだ、と・・・。

 

「そうか・・・、分かった、良い物やるよ、付いて来な!」

 

「えっ?」

 

ジェスの言葉の中に、自分とは違う道ながらも、己の道を貫くジェスの志をみたロウは我が意を得たりと言う風に頷き、彼を先導する様に別の格納庫への通路へと向かって行った。

 

そんな彼の唐突な行動に驚いたのか、ジェスは訳が分からずに一瞬呆けるが、何かあるのだと結論付け、一夏と共に彼を追って通路を進んで行った。

 

「こっちだ、これをやるよ!」

 

「なっ・・・!?」

 

ロウに追いつき、辿り着いた先にあったモノの存在に、ジェスは息をのんだ。

 

流線的ながらも、何処か戦う事を目的としていたフォルムを持った、全長18mのMSが鎮座し、彼等を見下ろしていた。

 

「アストレイアウトフレーム、規格外のマシンだぜ!!」

 

「こ、コイツを、俺に・・・!?」

 

ロウがアウトフレームと呼んだMSに、ジェスの目は釘付けになった。

 

民生品のレイスタの様な継ぎ接ぎでは無く、最初から一機のMSとしての完成を迎えたMSであり、明らかに何処かの軍需産業が作り出したモノである事は明白だった。

 

「最初は一夏に譲ろうと思ってたんだが、一夏にはコイツよりも良いマシンがあるからな、自分用のMSを持ってない兄ちゃんに譲るよ、自由に使ってくれ。」

 

「そんな・・・、こんな高価なモノをか・・・?」

 

ロウの言葉に、ジェスは信じられないとばかりに言葉を詰まらせていた。

 

出会って間もない自分に、新品のMS一機を何の見返りも無しに譲渡しようとしてくれる事が不思議でならないのだろう。

 

「気にするなって、どうせ拾いモンなんだ、ジェネシスαの中で未完成で放置されてたのを俺が持ってた部材で組み上げたんだ。」

 

「あそこに?それってヤバいものじゃないのか?」

 

「どうかなぁ、確かに何もないとは言い切れないけどな、それを考慮しても御釣りが出るくらいの性能だって事は俺が保証するぜ、おっ!そうだ。」

 

機体の入手経緯に疑問を感じたジェスは、少々不安混じりながらもロウに問い掛けるが、当のロウ本人はにべもない言葉を返しつつ、何かを思い出した様で、アウトフレームのコックピットの方へと近付いて行った。

 

彼の返答に納得した様なしていない様な表情を浮かべながらも、ジェスはロウに付いてコックピットまで向かった。

 

「おい、『8』!!」

 

呼びかける彼の声と同時に、腹部コックピットハッチが開き、コックピット内が明らかになった。

 

「お前、地球に残りたがってたよな?」

 

『そうだ!!火星になんか行けるか!!』

 

コックピットを覗き込んだジェスの目に飛び込んで来たのは、アタッシュケース大の擬似人格コンピュータの姿であり、ロウの言葉に答えながらもストライキ中と言う文字を表示し、何処か不満げな様子が窺えた。

 

「どうせ残るなら、暫くこの兄ちゃんに付いて地球圏を見て回るってのはどうだ?」

 

『それなら構わんぞ!』

 

火星に付いて行かないのならば、ジェスに付いて行くというのはどうかと尋ねられた『8』は、火星に行くよりはマシだと感じたのだろうか、彼との行動を快諾していた。

 

「MSのサポートコンピューターか?」

 

「おいおい、『8』はモノじゃない、自分の意志でお前に力を貸してくれるんだ、口は悪いし頑固だが、頼れる奴なのは間違いなしだぜ!」

 

自分の相棒を、者としてではなくモノとして扱うジェスの言葉を訂正する様に、ロウは『8』が彼自身の意志を持って動いている事を説明していた。

 

そこに軽い非難の色を感じ取ったからか、ジェスは申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

「すまん・・・、だけど、良いのか・・・?こんなにしてもらって・・・?」

 

厚遇してもらって申し訳ないのだろうか、彼はロウの顔を覗き込んでいた。

 

「気が引けるのなら貸しておく事にするよ、そんなに長い事いるわけじゃないからな、そうせすぐに帰ってくるからさ。」

 

「ロウ~!そろそろ行かないと~!」

 

そんな時だった、アウトフレームの足元から少女の声が聞こえてきた。

 

二人が振り向くと、一夏の隣に一人の少女が立ち、彼らを見上げていた。

 

「プロフェッサーとリーアムはサーペント・テールのシャトルに移ったよ。」

 

「おう。」

 

「その子も火星に?」

 

ロウに準備状況を話す少女の姿に、ジェスは軽い驚きを禁じ得なかった。

 

まだ成人もしていないだろう少女が、火星への過酷な旅路に同行するのだ、普通なら考えられないのだろう。

 

「離れ離れになんてなれないよ♪」

 

彼の言葉に頷き、少女、樹里は嬉しそうに微笑みながらもロウの腕に抱きついた。

 

ロウ自身も満更でもなさそうであったため、それなりの関係を築いているのだとジェスは感じ取った。

 

「付いて来るって言ってうるさくってな、まぁ、ジョージもいるし、俺が護るって約束したからな、大丈夫さ。」

 

自分が護る、そう言うロウの表情は照れくさそうにしながらも、何処か決意を籠めたモノの様にも見て取れた。

 

「そうか・・・、気を付けてな!」

 

そんな彼に対し、ジェスは右手を差し出し、見送りの言葉を投げかけていた。

 

「あぁ、アンタもな。」

 

差し出された右手を握り返し、互いの無事を祈り合う様な言葉を交わした。

 

「あっ、そうだ、一枚良いか?」

 

自身のジャーナリストとしての仕事を思い返したのだろう、握手を解いたジェスは左腕のポケットに仕舞っていた小型のカメラを取り出し、ロウと樹里に撮影の許可を求めていた。

 

「あぁ、これでいいか?」

 

彼の申し出に快く応じ、ロウと樹里は寄り添って写真に写る体制を整えていた。

 

「あぁ、ありがとう、・・・、よっし、上手く撮れたな。」

 

「そっか、帰ってきたら見せてくれな。」

 

「あぁ、もちろんさ、じゃぁな!」

 

また会えた時に写真を見せると約束し、ジェスは彼等に別れを告げ、アウトフレームの方へと向かって行った。

 

「相変わらず、思い立ったらすぐ行動、だな・・・、ロウ、樹里、旅の安全を祈っている、じゃぁな。」

 

ジェスの後姿を見ながらも、彼と共に行動するべく、一夏はロウと樹里に旅の無事を祈る言葉を投げ掛け、自身も愛機の下へと戻って行った。

 

「ジェス、アウトフレームを出せるか?調整が終わらんのなら俺が引っ張って行ってやるが?」

 

コックピットに戻った彼は、準備をしているであろうジェスに通信を入れつつも機体を素早く立ち上げて行った。

 

ロウ達の旅立ちを自分達の不手際で台無しにするわけにはいかないと感じているのだろう、彼の言葉からは何処か焦りの色すら窺う事が出来た。

 

『大丈夫だ、『8』がほとんど済ませてくれてたからもう出れるぜ!』

 

そんな一夏の不安を笑う様に、ジェスは興奮を隠しきれずに話していた。

 

どうやら、正真正銘のMSに乗った事が無かったため、レイスタとの完成度の違いに驚いていたのだろう。

 

「流石は『8』だ、仕事が早い、さて、新婚旅行の門出に水を差す訳にもいかん、行くぞ!」

 

彼の言葉を認め、一夏は冗談半分ながらもロウと樹里の門出を邪魔する訳にはいかないと言いつつ、リ・ホームのカタパルトからストライクを発艦させた。

 

『分かったぜ!アウトフレーム、GO!!』

 

彼の発艦を受け、自分も行く時だと感じたのだろう、ジェスは機体の名を叫びながらもアウトフレームで漆黒の宇宙へと飛び出した。

 

「リ・ホームから距離を取れ、下手をすればジェネシスの光線に呑まれてお陀仏だ。」

 

ストライクに追い付いてきたアウトフレームの肩に触れつつ、一夏はリ・ホーム及びジェネシスαから離れるべきだとジェスに伝えていた。

 

彼の言う通り、ジェネシスαの発射シークエンスは既に開始されており、もう間もなく推進器を装備したリ・ホーム目掛け、ガンマ光線が発射される手筈になっているのだ。

 

そんな中で近くにいれば、最悪ジェネシスの光に呑まれ、一貫の終わりなのだ。

 

『了解、撮影しながら下がるよ、一夏は周辺警戒を頼む、もし撃たれたら死んじまうからな!』

 

彼の提言に従って機体をジェネシスから遠ざけつつ、自身の依頼を果たそうとするジェスはリ・ホームが浮かぶ方向へとガンカメラを向け、撮影を続けていた。

 

彼とてその道のプロ、自身のやるべき事は重々承知しているのだ。

 

「そんな事になってミナに叱られるのは困るな、良いぜジェス、俺がお前を護ってやる、その代わり、良い画を期待してるぜ。」

 

『おうよ!任せろって!』

 

彼の思い、そして依頼を受けた一夏は苦笑しながらも了承し、周辺に展開するザフト及び傭兵部隊に気を配った。

 

攻撃をしているのは何も敵部隊だけではない、味方部隊も応戦の為に銃器を使っている、流れ弾など幾らでも飛んでくる恐れがあるのだ。

 

故に、宇宙空間では敵味方両軍の配置に気を配る必要があるため、地上戦以上に戦術が重要になってくるのだ。

 

「ハロ、ジェネシスの発射シークエンスのカウントダウンをこっちに表示してくれ、引き際の判断に使う。」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

ストライクのコックピットに増設されたポッドに収まったハロが、一夏の指示に従ってモニターにジェネシスαの発射シークエンスを表示、残り一分を切ったカウントダウンを開始していた。

 

「いよいよだな・・・、デュエルとバスターの反応は在るか?」

 

『カクニン、ハンノウアリ!ハンノウアリ!』

 

愛しの女達の生存を知り、一夏はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

自分はここまで心配性だったのかと、彼自身思わずにはいられなかったが、それよりも何よりも、セシリアとシャルロットの無事を想っていたのだ。

 

そんな事を考えている内にもカウントダウンは遂に十秒を切り、ジェネシスが発射に向けて動いている事が確認できた。

 

カウントがゼロに近付いてゆく中で、一夏は無意識に操縦桿を握り締め、前代未聞の方法で外宇宙への航海に出る船に見入っていた。

 

そして、カウントがゼロになった刹那、ジェネシスαから眩いばかりの光がリ・ホームに向けて発射され、推進器でその光を受けたリ・ホームは徐々に加速しながらも進み、遂には星々の間に紛れて行った。

 

「ロウ、またいつか会おう・・・!」

 

無事旅立ちが成功した事に感激し、彼は拳を握り締めながらも小さくガッツポーズを作っていた。

 

その姿からは、誰かの偉業達成を喜ぶ色が見て取れ、嘗ての彼の様に他人に無関心と言う気は全く見て取れなかった。

 

「ジェス、良い画は撮れたか?」

 

そんな興奮が冷めやらぬ中、一夏は近くにいたジェスのアウトフレームに通信を入れ、彼の目的が果たせたかと尋ねていた。

 

『あぁ、バッチリ撮れたよ、だけど・・・。』

 

「どうした?」

 

写真は撮れたと言いつつも、何処か戸惑っている様な口調で話すジェスの言葉に、一夏は怪訝の表情を浮かべながらも彼に尋ねた。

 

『どうしてまだ戦うんだ・・・?もうロウ達は行ったのに・・・。』

 

どうやら、ジェネシスが発射されて尚、戦い続ける事に疑問を感じているのだろう、彼の言葉には憤りの色が濃く滲み出ていた。

 

「仕方ないさ、こっちはロウを送り出す事が仕事、あちらさんはジェネシスαの破壊が仕事だ、最初っから目的が違うんだ、あちらさんが退くまで戦いは終わらんさ。」

 

『そんな・・・、何とかして止められないのか・・・?』

 

ジェスに現状を説明しながらも、彼は内心であまり良くない状況だと毒づいていた。

 

それもその筈、サーペント・テール等は既にロウ・ギュールが発進するまでの間、ジェネシスαの護衛を依頼され、その間だけ戦う事になっている筈だ。

 

そして、予想以上に戦闘時間が延びつつあり、ザフト側もまず先に彼等の排除に動き出している為に撤退が出来ていないのだ。

 

それはつまり、今は戦線を支えられていても、時間が経てば経つほどにこちら側が不利になると言う事であり、彼等の敗北の可能性が色濃くなっていくのだ、せめて今すぐにでも戦いを終えて欲しいと、一夏自身思わずにはいられなかった。

 

自分が助太刀に入っても良いのだろうが、そうなればジェスが危険に晒される為に、自分が彼の傍を離れる訳にもいかないため、彼に打てる手立ては無かったのだ。

 

『どうしたんだ『8』?・・・、なるほど、その手が有ったか!!』

 

「ジェス?どうした?」

 

何かを閃いたとばかりに声をあげるジェスに、何がどうしたのかさっぱりな一夏は怪訝の表情を浮かべるが、そんな彼を置き去りにして、ジェスは行動を起こしていた。

 

『ツウシン!ツウシン!!』

 

「何?映像に出せ!」

 

その直後にハロが受信した通信が機体のモニターに映し出され、そこに映されたジェネシスαの映像が流れていた。

 

『こちらはジャーナリストのジェス・リブル!!ジェネシスαは撮影した!ザフト兵は退くんだ!!』

 

それと同時に、ザフトに撤退を勧告するジェスの言葉が流れ始め、一夏は彼の意図を悟った。

 

ジェネシスの存在を公表してしまえば、証拠隠滅の為に戦っているザフトは戦闘目的を失うと・・・。

 

「まさか、折角撮影したモノを全周波通信と光通信で送信しているのか・・・!?」

 

口ではそう呟きながらも、一夏はなんて無謀な行為なんだと肝を冷やした。

 

確かに兵を退かせるには十分すぎる材料だ、何せ、この通信は全周波と光通信を使っている為に、例え地球に居ようが月に居ようが、通信を受信できる手段があれば容易く読み取れる手段なのだから。

 

だが、それで容易く退いてくれるほど、ザフトも物分りの良い人間ばかりではないかもしれない、公表された事に怒り、ジェスを攻撃してくる恐れもあるのだ、到底自分一人の腕では護り切れない。

 

その可能性に辿り着いたために、一夏はⅠ.W.S.P.の対艦刀をいつでも引き抜ける様にとストライクの手を柄に添えた。

 

息が詰まった様な錯覚を覚える緊張の後、幾つものスラスター光が遠ざかって行くのが確認できた。

 

『やったぞ!ザフトが引き上げていく!!』

 

ジェスの言葉に、一夏は盛大な溜め息を吐きながらもシートに沈み込んだ。

 

その表情からはやれやれと言った色が濃く滲み出ており、彼の苦心ぶりを窺わせていた。

 

攻撃の一つや二つされても何もおかしく無い状況だったのだ、彼でなくとも一息吐きたくなるだろう。

 

「やれやれ・・・、上手い事退いてはくれたが、情報をばら撒くと言う行為は、ジャーナリストとしてはどうなんだ・・・?」

 

折角の情報をタダでばら撒いたジェスの行為は、確かにジャーナリストにとっては有るまじき行動なのだが、その結果として、自分達の側には犠牲者が出る事も無く戦闘が終結したのだ、感謝すべきか咎めておくべきか悩んだ彼であったが、此処は敢えて独り呟くだけで済ませておくようだ。

 

これで帰れると思い、一夏はストライクを動かそうとした。

 

だが、現実はそう単純では無かった。

 

『ケイコク!ケイコク!!』

 

「なにっ!?」

 

ハロが発した警告と共に、ストライクのモニターにスナイパーライフルを構える長距離強行偵察複座型ジンの姿が映し出された。

 

どうやら、乗っているパイロットが物分りの良い人物ではなかったようだ、非戦闘員であるジェスを撃っても、ザフトの不利益になる様な事を行ったのだ、特に咎められる理由も無いために攻撃すると言う手段を選んだのだろう。

 

「くそっ・・・!!この距離を狙えるか・・・!?」

 

咄嗟にジェスのアウトフレームを突き飛ばしながらも、彼はレールガンの照準を定めつつも毒づいていた。

 

決して狙えない距離ではないのだが、一夏自身、それほど射撃、主に狙撃が得意ではなく、距離が離れれば離れるだけ命中率は極端に低くなっている。

 

それは彼自身がゼロ距離格闘をメインとするインファイターである事を物語っており、射撃は牽制、及びゼロ距離での発砲用としているが、今はそうは言っていられない状況だ、何としても外す事だけは許されない。

 

「えぇい・・・!ままよっ・・・!!」

 

覚悟を決め、トリガーを引こうとしたまさにその時だった。

 

彼等を狙っていたジンの頭部があらぬ方向から飛んで来た弾丸に撃ち抜かれた。

 

「なにっ!?誰だ・・・!?」

 

彼の困惑に答える様に、頭部を撃ち抜かれたジンのスナイパーライフルを取り上げ、ナイフが装備された拳銃を持った一機のジンのカスタム機が現れた。

 

「あれはジンアサルト・・・?誰が・・・?」

 

ジェスを狙っていたジンを撃とうとした敵を倒したのだ、味方ではないが敵とも思えなかったが、目的が明らかになっていないために、彼は何時でも攻撃に移れる様に意識を外さなかった。

 

暫しの睨み合いの後、用は済んだとばかりに踵を返し、地球がある方向へと去って行った。

 

「さっきのジン、一体何者なんだ・・・。」

 

刃を交えて察した訳ではないが、その佇まいから強者の風格を感じ取ったのだろう、彼は盛大な溜め息を吐きつつも周囲を見渡した。

 

ザフトは完全に撤退し、傭兵達も既に撤退していった後の様だ、セシリアのデュエルとシャルロットのバスターが彼等の傍まで戻って来ているのが見て取れた。

 

『一夏~、終わったよ~。』

 

『劾さん達も撤退しました、私達も御暇致しましょう?』

 

戻ってくると同時に、ストライクのコックピットに通信が入り、何処か満足げな表情をした二人の顔が映し出された。

 

どうやら、彼女達の望みはある程度果たされたのだろう、その表情からはそんな色が見て取れた。

 

「了解、アメノミハシラに帰投する、ジェス、補給もいるだろうから付いて来いよ。」

 

『あぁ、頼むよ!』

 

恋人達の帰還を喜びつつも、ジェスに向けて帰還する旨を報告、三機に先行してストライクを走らせた。

 

彼の後を追い、アウトフレーム、デュエル、そしてバスターも追随し、アメノミハシラへと戻って行った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「折角手に入れた情報をタダでばら撒くなんて・・・、なんてもったいないコトしてくれてるのよ・・・。」

 

ジェネシスαの一件から数日後、

地球上にあるとある邸宅にて、何かの報告書を読みながらも何処か不満げな表情を浮かべる男性の姿があった。

 

その男性はサー・マティアス、表社会のみならず、情報の面においてはかのケナフ・ルキーニを凌ぐ情報収集能力を持った者であり、一説には国家予算並みの資産を持つとも言われている。

 

「いや・・・、これは、その・・・。」

 

マティアスの前にはジャーナリストのジェス・リブルと、金髪の男性、マディガンが立っていた。

 

ジェスの表情は苦い物であり、失敗を咎められるのではないかと気が気でないようだが、マディガンは我関せずとばかりに事の趨勢を見ているだけだった。

 

少しは助けてくれてもいいんじゃないかと恨めしく思ったりするジェスだったが、戦いを止める為とは言えど情報を何の断りも無くばら撒いたのは彼の判断であり、彼の責任だ、誰も助け船を出す事は出来ぬのだ。

 

「まぁ、別に構わないわ、これで条約協定は連合側有利で進むだけだし・・・。」

 

呆れ顔ながらも、意図せず歴史に対して大きな転換を与えたジェスの事をある意味で評価しているのだろうか、マティアスは彼の独断を水に流したようだ。

 

違約金やそれに付随する何かしらを要求されると思い、生きた心地がしなかったであろう彼は、張り詰めていた緊張が解けたのだろうか、かなり緩み切った表情になっていた。

 

「って、それよりもコイツは誰なんだ?」

 

だが、今はそれよりも気になる事があったのだろう、気を取り直したジェスは隣に立つマディガンを指しながらも、マティアスに尋ねていた。

 

自分が知らずとも、此処に居ると言う事はマティアスの関係者である事は明白であるし、彼に尋ねた方が答えに近付けると判断したのだろう。

 

「カイト・マディガン、プロのMS乗りよ、君の護衛を頼んでいたの。」

 

「ま、俺の仕事は写真回収だ、お前はそののついでだ。」

 

紹介するマティアスの言葉に補足する様に、カイトはジェネシスαの写真回収が目的だったと話した。

 

「そうかよ・・・!そりゃありがとな!」

 

カイトの嫌味っぽい言い方にムッとしたのだろう、ジェスは顔を顰めながらも全然ありがたくなさそうに礼を返していた。

 

いくら自分を助けてくれたのだとしても、流石に嫌味を言われれば素直に礼を言いたくなくなるのも致し方ないだろう。

 

「さて、帰ってきて早々悪いけど、次の仕事よ、ジェス。」

 

「いきなりか!?ここ最近出ずっぱりだな・・・。」

 

彼等の雰囲気を微笑ましく見ながらも、マティアスは仕事の依頼があると告げた。

 

その言葉に驚いたのだろう、ジェスは少しは休ませてくれとばかりに声をあげた。

 

ここ一か月の間、彼は宇宙とマティアス邸の往復ばかりだったのだ、休暇も欲しくなって当然と言えるだろう。

 

「この仕事が終わったら休ませてあげるわ、だから、手に入れたMSで行って来て頂戴、貴方にしか出来ない仕事よ。」

 

仕事を依頼し続けているだけに、彼が働きづめで会った事を知っているマティアスは苦笑しながらも休暇を与える事を約束し、この仕事を依頼するようだ。

 

「あぁ、分かった!で、何処に行けばいいんだ?」

 

自分にしかできないと言う言葉に痺れたのであろう、ジェスは目を輝かせながらも行き先を尋ねていた。

 

良くも悪くも、ジェス・リブルと言う男は素直な人物であるのだ。

 

だが、続くマティアスの言葉に驚愕し、彼は絶句してしまった。

 

何せ、そこは・・・。

 

「場所は南米、ターゲットは連合の脱走兵、通称≪切り裂きエド≫よ。」

 

noside




次回予告

目的地を告げられたジェスは、協力者と共に英雄が戦う地に向かう。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

南米の英雄 前編

お楽しみに。
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