機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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ベルナデットが放送を行っていた頃、山岳地帯のそり立った崖に、四機のMSの姿があった。
MSのサイズですら、かなりの高さの崖を、その内の一機はワイヤーを崖の出っ張った部分に引っ掛け、ゆっくりと登っていた。
だが、MSの重みに耐えきれなかったのか、時折落石もあり、思うように進めていないようだ。
「くそっ・・・!マティアスの野郎、いくら空路が使えないからってこんな危なっかしいルートを指示しやがって・・・!!」
崖を伝い登る機体、アウトフレームのコックピットにて、ジャーナリストのジェス・リブルは何を好き好んでこんな場所を通らなくてはならないんだという風に愚痴っていた。
マティアス邸でのやり取りからすでに一週間が経っているが、『8』が注文していたアウトフレーム用の長期取材用パックが届くのを待っていたために出発が遅れ、取材の予定日の二日前となりながらも、今だ目的地には達していなかった。
『スクープのためだよ、我慢しろって。』
そんな彼の愚痴を、ストライク+I.W.S.P.に乗った一夏が苦笑交じりの声で仕方ない事だと窘めていた。
I.W.S.P.を装備したストライクは、増加した重量を補って余りある出力を生かし、自由自在とまではいかずとも、重力下での飛行を可能としているため、アウトフレームが崖から落ちぬように気を配りながらも真横を滞空、上昇していた。
「一夏達の機体はいいよなぁ、今の俺にとっては、空飛べるなんて羨ましい限りだよ。」
『そうでもないさ、コイツは燃費食いなんだ、だから、補給なしで動かそうと思ったらPS装甲をダウンさせっぱなしにしとかなきゃならんのだよ。』
飛べる機体を持つ事への羨望を向けるジェスの言葉に、一夏はそうでもないと苦笑していた。
現に、ストライクはPSダウンを起こし、トリコロールが美しい機体は、現在ダークグレーの装甲色のまま動いていた。
戦闘自体は行えるだろうが、ただでさえ限られているエネルギーをセーブしたいのだろう、彼の言葉からはバッテリー残量を気にしたような気配があった。
「そっか・・・、じゃぁ、俺も文句言ってないで早く登り切るかな!」
仕方ない事なのだと割り切り、さっさと面倒事を終わらせようとしたのだろう、ワイヤーの巻き取り速度を速めた途端、左ワイヤーを固定していた場所の岩が崩れた。
「なにぃぃぃっ!?どわぁぁぁぁぁ!!?」
何とか落下を防ごうと、ジェスは機体を操作して残っていたワイヤーにしがみ付くが、それだけでは落下の速度を殺しきれなかった。
『サブワイヤー発射!!」
しかし、アウトフレームに乗っていたのは、何もジェスだけではなかった。
『8』がコントロール系統に介入、アウトフレームの膝に仕込まれていたワイヤーアンカーを射出し、それを飛んできたレイダーの上に乗ったフォビドゥンブルーがキャッチした。
『大丈夫ですか、ジェスさん?』
『危機一髪だったね、怪我はない?』
少しも焦った様な様子を見せず、フォビドゥンブルーに乗ったセシリアと、レイダーに乗ったシャルロットは、何とか落ちずに済んだジェスに向けて尋ねていた。
「あぁ、助かったよ、セシリア、シャルロット、『8』も・・・、というより、何時こんなワイヤー何て仕込んだんだよ・・・?」
自分を助けてくれた二人と一つに感謝しながらも、ジェスは自分の知らない装備が積まれていたアウトフレームに驚き、改造に携わっていたであろう『8』にため息交じりに尋ねていた。
『備えあれば憂いなしとはこういう事なのだよ、フッフッフッ。』
『・・・、『8』、君そんなキャラだっけ?』
モニターに表示された『8』の台詞に、ロウ達と共にいた頃からの知り合いであるシャルロットは、苦笑というより、呆れた様な表情を浮かべながらもツッコんでいた。
『なんにせよ、助かったから良いじゃないか、先を急ごう、下手すりゃ大遅刻だぞ。』
そんなやり取りをおかしく思ったのだろう、一夏が通信に割り込みながらも、アウトフレームを引き上げる事に参加した。
彼の言葉通り、彼らは大幅に予定が遅れているために少々急がねばならない状態だ、少しの停止も許されぬのだ。
「分かってるよ、後二日で山を越えないとな。」
彼の言葉に頷きながらも、安定したコックピットの中で、ジェスは操縦桿を握り直した。
自分が取材するのだから、彼らに迷惑かけっぱなしにしないように気を付けねばと感じながらも・・・。
sideout
side一夏
「よし、今日はこの辺りで野宿にしようか。」
崖を何とか乗り越えてから数時間後、辺りはすっかり闇に包まれ、時折、野生動物の鳴き声も聞こえてくる森の中の開けた場所に、俺達は機体を止め、キャンプの用意を始めた。
「あうぅ・・・、お尻が痛い・・・。」
「丸一日、座りっぱなしでしたものね・・・、あたた・・・。」
レイダーから降りてきたシャルと、フォビドゥンブルーから降りてきたセシリアがそれぞれ尻を摩り、少し苦笑した様に顔を顰めていた。
その気持ちはよくわかるよ、俺もムチャクチャ尻が痛いし・・・。
というより、尻を摩る二人も見ていてなんか、クるな。
何処にとは言わん、察してくれ。
そう思いながらアウトフレームから降りたジェスの方に視線をやると、思いが通じたのだろうか、サムズアップしながらも笑っていた。
そうかそうか、俺の嫁さん二人の魅力、伝わったようで何よりだ。
我が意を得たりと、俺も薄く笑みながらサムズアップを返した。
「一夏、ジェス、変な事やってないでこっちを手伝ってよ。」
「お夕飯抜きにしますわよ?」
そんな俺達の邪な思いを見抜いたのだろうか、セシリアとシャルが俺とジェスをジト目で見ていた。
「悪かった、俺は火を起こすよ、ジェスはレーションを準備しておいてくれ。」
「分かった、飲み物温めといてくれな。」
前の世界では考えられなかった感覚を新鮮に感じながらも、俺は持ってきた着火剤を転がっていた朽ち木に塗りつけ、マッチで火を着けた。
そうこうしている内にテントの設営も終わったらしく、セシリアとシャルが俺の両隣まで戻ってきた。
火の上にセットしておいたポットから、紅茶の茶葉が入ったティーパックを沈めたコップ四つに、俺はゆっくりとお湯を注ぎ、何時もと同じ様に紅茶を作った。
「紅茶も持って来ているとは流石はセシリアだな、こういう所でもこの香りは良いものだな。」
出来上がった紅茶を三人に手渡し、俺は自分のコップに入った紅茶を口に含み、遥か頭上に広がる星空を眺めた。
宇宙から眺める星空とはまた違う、地上から見る星は美しく、それでいてすぐそばに煌めいているようにも見えた。
「これ、セシリアが調合したのか?普通に良いトコの茶葉を使ってるとばっかり思ってたよ・・・。」
「産地に拘りはありませんわ、それぞれ独特の持ち味を持っていますもの、上手に淹れればそれだけ美味しくなりますもの。」
ジェスの驚愕をやんわりと微笑みながらも、セシリアは紅茶に口を付けていた。
紅茶の事に関しては、彼女は俺達の中でも最も詳しい、それは以前の世界での付き合いでよく分かっている。
だからこそ、こういう遠征の時に疲れを癒すための茶葉の調合も上手い、流石だとつくづく思うよ。
そう思いながらも、俺はジェスの傍に置いてあった『8』と、彼に寄り添う様に置かれたハロを眺めた。
『ニーサン。』
『マイブラザー!』
・・・、どうやら、擬似人格コンピュータ同士、意気投合してるみたいだから放っておこうか・・・。
「しかし、長く生きてるが野宿は初めてだな、何か新鮮だ。」
温まった湯にスープの粉末を入れて掻き混ぜながらも、俺はふとそんな事を思い出していた。
「そう言えばそうでしたわね。」
「一日で何か国も回った事もあったけどね。」
セシリアとシャルも、俺の言葉にそう言えばと言うように笑いながらも、何処か慈しむ様な表情を見せていた。
彼女達との付き合いは長く、それなりに多くの事を経験してきたが、こういう風に火を囲んで、誰かとゆっくり話をするなんてした事がなかったっけな・・・。
なんて言うのだろうか、俺が生きてきた中でも、まだまだやった事がない事も、出来なかった事が幾つもあると思い知らされた気分だな。
それだけ、俺が何もかもの可能性を捨ててきたって結果だと言われている様だな・・・。
「そうなのか?なんか、一夏達の事、何にも知らないな、俺。」
「教えてないからな、聞いても信じてもらえやしないだろうし、聞いて気分が良いもんじゃないぞ。」
そんな俺達の言葉に、ジェスは何とも形容し難い表情を見せていた。
そんな彼に、俺はどう答えていいのかと一瞬言葉に詰まるが、語っても、聞いても気分が悪くなる話しか無いんだ、詮索は・・・、止めてもらいたいってのが本音だな。
「そうか、なら聞かない、いくらジャーナリストだからって、言いたくない事まで聞くのは無粋、だよな?」
「そうしてくれると助かるよ、ジェス。」
気を使わせちまったか・・・、ジェスには申し訳ない事しっぱなしだな・・・。
この落とし前は、仕事をキッチリこなす事でしか返せない、な・・・。
「さぁさぁ、そろそろお夕飯と致しましょう?」
「動いてなくても、お腹減ってるしね。」
握りしめた俺の拳を包む様に、セシリアとシャルの手が優しく添えられた。
それはまるで、俺に焦るなと言ってくれているかの様で、俺の中の焦燥を見抜かれている様な感覚にも陥った。
「・・・、そうだな、さっさと食って、明日に備えて寝るとしよう、でなきゃ遅刻だからな。」
そんな彼女達の思いを受け取りながらも、俺は持って来ておいた食料が入った包みからパンとレーションを四つ取り出し、全員に手渡した。
二人の思いを無駄にするつもりはない、むしろ、焦る俺を宥めてくれたんだ、冷静にいかないと、な・・・?
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その後、ジェス・リブル一行は何とか山岳地帯を抜け、目的の時間までに目的地まで到達する事が出来た。
指定された場所は南アメリカ軍第12基地、大西洋連邦並みとまではいかずとも、航空機が離着陸出来る程の距離の滑走路が目を引く場所だった。
ここにたどり着くまでの道中、連合、ザフト両軍に会敵する事もなく、戦闘にならずに済んで助かったと、後に織斑一夏は語っている。
それもその筈だった、戦闘を行うだけのバッテリーの余裕が無かったのだから・・・。
「着いたぁ・・・!」
そう言いながらも、シャルロットはMS形態に戻したレイダーのコックピットから降り、外の空気を思いっきり吸い込んでいた。
「長かったですわね・・・、それにしても、こんな山奥に基地があるなんて、思いもしませんでしたわね・・・。」
ストライクを挟んだ場所にフォビドゥンブルーを立たせ、コックピットから降りたセシリアは、眼前に広がる広大な基地の姿に驚嘆していた。
彼女達は実質、この世界の軍事拠点で見た事があるのはアメノミハシラだけであったために、かつての世界とはまるでスケールの違う基地の姿に困惑と驚愕、両方の感情を抱えているのだろう。
そんな彼女達の上空を、何かの影が通過していった。
それに釣られて見上げると、そこにはザフトの輸送用VTOLが滑走路の方へと降りていくのが見て取れた。
「あれはザフトの・・・?なんでだ・・・!?」
ザフトの輸送機が、何の用事があって南米軍の基地にやって来たのだろうか、そんな困惑がジェスの表情から読み取る事ができた。
「さぁな、だが、何かあっては困るな、穏便にいけよ。」
そんな彼の背を押しつつも、戦闘は御免だと言う様に一夏は笑っていた。
彼とて、ザフトと敵対した事は幾度となく有った為に、そう容易く気を許す事は出来ないのだろう。
そんな彼等の前でVTOLが着陸、中から数名が地上に降り立った。
「あら?連合のMSと・・・、見た事の無いMSね、どこの人達?」
そんな中、彼等に気が付いた女性がストライクやアウトフレームを見比べながらも彼等の方へとやって来た。
金髪と見紛う様な色彩をした髪を持った長身の女性は、どこかのモデルとでも言える様な雰囲気を纏っていたが、ジェスは彼女に見覚えがあった。
「アンタ・・・、確かザフト系列のキャスターだったよな?」
「えぇ、ベルナデット・ルルーよ、正しくはジャーナリストだけどね、貴方は?」
彼が尋ねると、ベルナデットはその通りだと頷き、自らの名を名乗っていた。
「俺はジェス・リブル、アンタの同業者だよ。」
自分が尋ねた手前、職業も明かすべきだと感じたのだろう、ジェスは名乗りながらも彼女に握手を求めていた。
「あら、と言う事は貴方もエドの取材に?」
その言葉を聞くや否や、ベルナデットは明らかに分かる様に態度を悪くした。
まるで、お前なんかによくも取材許可が出たな、とでも言う様に・・・。
その色が露骨に伝わってきたために、ジェスはムッと顔を顰めるが、この女にはそんな事言っても無意味だとばかりに溜め息を一つ吐き、話を続ける事にした様だ。
「しかし、どうして空路が使えたんだよ?」
「私達はプラント政府の代理人として取材に来たのよ、ザフトが特別に空路を開けてくれたのよ。」
「なにぃ、ズルいなぁ~!」
自分の質問に答えた彼女の言葉に、ジェスは自分の苦労は何だったと言わんばかりに声を上げた。
彼の反応は当然と言えるだろう、何せ、彼等はここに辿り着くのに二日以上の時間をかけて険しい陸路を進んできたのだから・・・。
だが、それはもう過ぎた事だ、今更幾ら愚痴った所で何も始まらないのだ、それぐらい彼にも分かっていた。
「しかし・・・、アンタ。」
「何?サインなら後にして頂戴ね?」
ベルナデットを見ながらも、ジェスは何処か感心した様に呟いていた。
そんな彼の様子を見た彼女は、有名人にサインを強請る物だと思ったのだろう、相変わらず見下した様子ながらも悪い気はしていない様だった。
「思ったより大きいな。」
「っ・・・!!」
ジェスが何の気なしに放った言葉に、その周囲の空間に亀裂が入ったような感覚を全員が覚えた。
その言葉に一番反応したのは、そう言われたベルナデットだった。
何を隠そうか、彼女は170㎝オーバーという、女性にしては長身と言うある種のコンプレックスを抱えているのだ。
無論、その長身も見方を変えれば抜群のプロポーションを引き立てているのであるが、それとこれとは話が違うらしい。
現に、彼女の額にはくっきりと青筋が浮き出ているのだから・・・。
「テレビで見た時も背が高いとは思ってたけど、まさか俺と同じぐらいとは思わなかっ・・・、あだぁっ!!?」
「ジェス、それ以上はいけない、セクハラになる。」
それに気付かない彼を、一夏は溜め息を吐きながらも後頭部に手刀を入れる事で制止していた。
一夏は元々、空気を読む事に長けている上に、セシリアとシャルロットと言う二人の妻がいる、女性の心の機微にそれなりの理解と洞察力を持っているのだ。
そのため、これ以上彼に話させ続けても良い事は何もないと判断したため、強制力を以て止めたのだ。
「すまないルルー女史、このバカの失礼な発言、俺が謝るよ。」
「ど、どうも・・・、って、貴方は?」
彼の対処に若干引いているのだろう、ベルナデットは困惑しながらも彼に名を尋ねていた。
「俺は織斑一夏、ストライクのパイロットだよ、誤解されない様に言っておくが、今回はコイツの護衛に付いて来ただけだ、こんな恰好をしているが俺達は連合軍じゃない。」
彼は自分の名を名乗った後、自身の両隣にいた二人の妻を、自己紹介でもしておけと言わんばかりに自分の前に出した。
そんな彼の意図を察したのだろう、彼女達は彼に向けて微笑んだのち、ベルナデットに向けて自己紹介を始めた。
「私はセシリア・オルコットと申します、よろしくお願いいたしますわね。」
「僕はシャルロット・デュノア、よろしくね、ベル。」
「べ、ベル・・・?」
自己紹介を受ける最中、シャルロットが放ったベルという言葉に、彼女はどうして初対面でそう呼ぶのかと言う風に困惑している様だった。
「え?ベルナデットじゃ長いし、他人行儀じゃない?だから、親しみを込めてそう呼びたいんだけど、ダメ、かな・・・?」
シャルロットの屈託のない、人懐っこい笑みを向けられた彼女は助けを求める様に一夏に目を向けるが、彼が自分は何も出来ないと言う様に笑っているのを見て、暫く考え込む様な表情を見せた後、観念したかのように溜め息を一つ吐いた。
「もう、分かったわよ・・・、好きに呼んで頂戴・・・。」
「ありがと、ベル♪」
彼女の許可に微笑んだシャルロットは、ベルナデット改め、ベルの手を取り、握手を交わしていた。
「あっ、じゃあ俺もベルって呼んでいいのか?」
「貴方に許可した覚えはないわよ。」
一夏からのダメージから持ち直したジェスは、それに便乗して呼ぼうとしていたが、即座にあしらわれてしまい、口をつぐんだ。
それと同時に思った事だろう、俺、何かしたか、と・・・。
「さぁさぁ、自己紹介はここまでだ、折角インタビューを許可してくれた人を待たせるのも失礼だ、さっさと行こうぜ。」
そんな彼らのやり取りを微笑ましく眺めながらも、一夏は時間が惜しいと言うように彼が待つであろう建物の方へと歩いて行った。
そんな彼の言葉に、各々が自分のやるべき事を思い返し、先ほどまでの和やかな雰囲気を押し殺して彼に続いたのであった・・・。
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次回予告
遂に切り裂きエドと対面を果たすジェスは、彼の人柄と、その思いに触れる。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
南米の英雄 後編
お楽しみに