機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
真空の冷たさと、底無しの闇が支配する広大な宇宙に浮かぶ、
廃棄コロニー群〈グレイブヤード〉より、一隻の宇宙船が、星の大海原に出港していった。
その船とは、ジャンク屋ギルド所属のジャンク船〈リ・ホーム〉である。
この船は、連合軍製の戦艦であるコーネリア級をベースに製造されており、
推力は民間で使用されている他の船よりも高く、彼等の航行の大きな助けになっている。
その艦橋では、四人の男女とホログラム体、
そしてトランクケース程の大きさの機械が、一堂に集結していた。
「グレイブヤードでは色々あって泣いちゃったけど、
ガーベラが直って良かったね。」
その内の一人である金髪の少女、山吹樹里は、
今だ僅かに涙の跡が残る顔をしながらも、隣の席に座っているロウに声をかけた。
先程、グレイブヤードにて、彼女達とも面識のあった老人、蘊・奥の死に際を見届け、
彼を埋葬した直後であるために、彼女達の間には沈鬱な空気が漂っているのだ。
「あぁ・・・、だけどさ、俺、これから何をすればいいのかわかんなくなっちまった・・・。」
彼女の言葉に答えながらも、彼は何処か思いつめた様な表情で呟いていた。
彼の脳裏には、彼の師である蘊・奥の最期と、その前に起こったザフト軍の襲撃がリフレインされていた。
実は、グレイブヤードにザフトが攻撃を仕掛けたのには訳があった。
その理由は、ロウ達がかつて地球の海中で発見したレアメタルであり、
それはザフトが開発した新素材金属であったのだ。
戦局が悪い方面へと流れていくのを防ぐため、少しでも自軍に有利な材料を揃えるために、
グレイブヤードに寄港していたロウ達を襲撃、レアメタルを奪還しようとしたのだ。
結果的には、ロウが愛機、レッドフレームを駆り、ザフト軍を撃退したが、
ただでさえ弱っていた蘊・奥老人は危篤となり、弟子であるロウに看取られてこの世を去った。
それ故に、彼は自分のせいで蘊・奥老人を巻き込んでしまったと、自責の念に囚われているのだ。
自分が関わることが事がなければ、彼はもっと静かに往生出来たのではないか?
問いかけても一向に答えが出る事の無い苦しみが、彼を苛む。
そんな彼に掛ける言葉が見当たらないのか、彼の仲間達は一様に彼を案ずるような表情をしていた。
「何よりも、まずは自分に出来る事をする、それでいいんじゃないかな?」
そんな空気を破るかのように、艦橋に新たな人物の声が響く。
その声に弾かれたかの様に、一同が艦橋の出入り口に目を向けると、
そこにはパイロットスーツに身を包んだシャルロットの姿があった。
「もう起きて大丈夫なの!?」
彼女の姿に驚いたのか、樹里は席から立ち上がり、
身体を宙に浮かべ、彼女の傍まで移動した。
「うん、あれだけ眠っていれば大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、樹里。」
樹里の問いかけに微笑み、シャルロットは彼女に例を述べ、
艦橋内の全員を見渡してから頭を下げた。
「ロウ、リーアムさん、プロフェッサーさん、ジョージ、それから『8』、
僕を助けて下さってありがとうございます、おかげで命拾いしました。」
「いいのよ、気にしないで。」
「それよりも、御体に大事が無い様で何よりです。」
プロフェッサーとリーアムはそれぞれに言いながらも、彼女に対して微笑みかけていた。
「良かったなシャルロット、
でもよ、お前これからどうするんだ?行く宛て無いんだろ?」
健康そのものと言わんばかりの彼女の姿に安堵しつつも、
ロウはこれからの身の置き方について尋ねた。
そう、彼女はこの世界の住人ではない、戸籍も無ければ、当然戻るべき場所も存在しない。
そんな状況で独り放り出されてしまえば生きていける保証など無い。
「そうなんだよね・・・、娼婦にでもなろうかな?
本当はやりたくないんだけどさ・・・、生きてくためにはそれしか・・・。」
生きていくためには仕方ない、そう話すシャルロットの表情は暗く、諦念すら窺えた。
そんな彼女の様子に、樹里達は何も言う事が出来ず、
ただただ、複雑な表情を浮かべる事しか出来なかった。
「なら、俺達と来いよ、歓迎するぜ!」
そんな中、ロウはいつも以上の笑顔で彼女に向けて言った。
「えっ・・・?」
その言葉にもっとも驚いたのは、リ・ホームのメンバーではなく、
言葉を投げかけられたシャルロットであった。
「行く宛が無いなら俺達と来ればいい、仲間なら助けあわねぇとな。」
「ロウの言う通りね、貴女の機体は用心棒には打って付けだし、
ここで会ったのも何かの縁、私は歓迎するわ。」
ロウの言葉に同意するようにプロフェッサーも言い、
僅かだが微笑みを浮かべていた。
「そうですね、行く宛がない方を見放す訳にもいきませんし、
共に行動してもらうのが効率的ですね。」
『歓迎するぞ!』
リーアムも、そして『8』も、彼女がリ・ホームの一員に加わる事を歓迎している様であった。
「来いよシャルロット、それとも俺達と一緒じゃ不満か?」
「ううん、とっても嬉しいよ、未熟者ですが、皆さんとご一緒させて下さい。」
ロウのからかう様な問いかけを否定しつつ、
彼女は深々と頭を下げ、彼等の提案を受け入れた。
「よっしゃ!よろしくなシャルロット!」
彼女の返答に、彼は満面の笑みを浮かべ、彼女に対して右手を差し出した。
「うん、またお世話になるね、ロウ。」
頭を上げた彼女は、差し出された手を微笑みながらも掴み、しっかりと握った。
まるで、何かの約束をするかのようにも見えたが、そんな事は今の彼等には関係の無いことだろう。
「よし、シャルロットも目覚めた事だし、あの機体を返さなきゃな。」
「あの機体?何の事?」
ロウの言葉の意味を察せなかった彼女は、僅かに首を傾げていた。
「まぁ、説明するよりも見て貰ったほうが分かり易いな、格納庫まで付いて来てくれ。」
シャルロットの肩を軽く叩き、彼は艦橋から先に出て行った。
残された彼女はと言えば、如何すべきかわからないと言う様に立ち尽くしていた。
「ロウに付いて行けば分かるよ、シャルロット。」
「そうだね、ありがとう樹里。」
そんな彼女の背を押すかのように、樹里は言い、
それを受けたシャルロットは微笑みながらも礼を述べた。
「あ、それと、シャルロットの方が年上みたいだけど、呼び方どうしたらいいかな?」
「へっ?僕と樹里って同い年位じゃ・・・、ッ!?」
樹里に言われ、それに言い返そうとした彼女は、
艦橋の遮光ガラスに映った自分の姿に絶句した。
嘗ての世界にいた時よりも背が伸び、身体の全体的なプロポーションは以前よりも均整のとれた美しいモノになり、女性らしさを表す胸の膨らみは自己主張の度合いをより一層強くし、少女から女性へと成長しきった事を示していた。
「(どういうこと・・・!?僕は確か、十六位だった筈なのに・・・!?)」
自身の身体の大きな変化に、流石のシャルロットも驚きを禁じ得なかった。
何故自分の姿が変わっているのか、それを理解することは至難の業であろう。
「どうしたの?」
そんな彼女の様子を不思議に思ったのか、樹里は彼女の顔を覗き込んでいた。
「あっ、何でもないよ、ちょっと髪伸びたかなって思っただけだから。」
そんな彼女に気が付いたのか、シャルロットは平静を装い、
彼女を心配させまいと笑みを取り繕った。
彼女は理解できたのだ、自分の姿が本当の姿で無いと言っても樹里達には分からないだろう、と、
何せ、彼女達が出会ったのはこの姿の自分であり、かつての自分ではないのだ。
「そう?なんだかびっくりしてたみたいだけど・・・?」
「ううん、何でもないよ心配してくれてありがと、
呼び方だけど、シャルロットでいいよ、じゃぁ、またあとでね。」
樹里に微笑みかけた後、シャルロットは先に出て行ったロウの後を追い、艦橋から出て行った。
「なにか、後ろめたいことでもあるのかしら・・・、それとも・・・。」
シャルロットの様子に、言葉に出来ぬ何かを感じたプロフェッサーは、
何かを思案する様な表情を見せる。
彼女が抱える何かを感じ取ったのだろうが、それが何なのかまでは、マッドサイエンティストである彼女にもわからなかった・・・。
sideout
sideシャルロット
ロウの先導に従い、僕は無重力フロアの廊下を進んでいた。
ホントに身体が浮き上がるんだね、重力があった居住ブロックにいたから実感が無かったけど、
宇宙にいるんだっていう実感が湧いてきたよ。
それにしても、身体が浮いてるって、なんだか不思議だね、
艦橋に行くまで随分と苦労したけど、慣れれば何とかなりそうだよ。
それよりもなによりも、今は気になる事がある。
「ねぇ、僕の機体ってどういう事なの?」
そう、さっき彼が言っていた僕の機体についてだ。
僕が乗っていた機体は、あの戦いで完全に破壊された筈なんだけど、
それのことなのかな?
「あぁ、お前が漂流時に乗ってた機体だよ、
俺達が使うわけにもいかないしな、お前に返すよ。」
確かに生身で漂流してたら、
間違いなく僕は死んでただろうね、そう考えたらどんな機体かは知らないけど、感謝しないとね。
しばらく進んで行った所にあった扉を抜けると、僕達は大きく開けた空間に出た。
「ここが格納庫だ、色々と部品が浮いてるから気ぃ付けてな。」
ロウの言葉通り、格納庫の中には大量のパーツが浮遊してて、
気を抜いたら、間違いなく頭をぶつけそうになってしまいそうだった。
そこから更に奥へと進んで行くと、僕達の目の前に僕の背丈の何倍もの大きさを持った鋼鉄の巨人が姿を現した。
「これは・・・、レッドフレーム・・・?」
大きさや形は違えど、その特徴的なガンダムフェイスに露出している赤いフレーム、
かつての世界では同志として共に戦った機体だ、見紛う筈はない、
それに、この機体に乗っていた少女の事も、忘れる事なんてできない記憶だ。
「おっ、やっぱり知ってたか、別の世界のこいつにも会ってたんだな。」
ロウは何処か誇らしげに言って、そこから更に先に進んで行こうとしていた。
何処に行くのかは知らないけど、そこに僕を待ってる何かがある事だけは確かなんだ。
「着いたぜ、お前を守った機体だ。」
彼が立ち止まり、彼が見上げた先に佇んでいたのは、
僕にとって馴染みが深いなんてモノじゃない機体だった。
砲撃手を思わせる様な力強いフォルムに、背面に背負われている二門の砲塔、
そして、何よりも印象に残るのが、頭部ブレードアンテナとツインアイ・・・。
見紛う筈がない、この機体は・・・。
「バスター・・・、だよね、間違いないよ、僕の機体だ。」
間違いない、姿や大きさが変わっても、この機体はかつての世界での相棒だ・・・。
「そうか、なら、ちゃんと持ち主に返さないとな。」
ロウが何か言ってるけど、その言葉の意味が頭の中に入ってこないぐらい、僕の意識は目の前の機体に向けられていた。
「君は、僕に着いてきてくれたの・・・?」
気が付けば、僕は宙に身体を浮かばせ、
バスターの頭部まで近寄っていた。
この世界に来て、僕は独りぼっちになったと思った、
でも、そうじゃないんだよね・・・?
バスター・・・、君がいてくれてるからそう思えるよ。
「それと、ありがとなシャルロット。」
僕がバスターを見つめていると、何故かは分からないけど、
ロウが唐突に礼を言ってきた。
「えっ?僕何かしたっけ?」
取り立てて何かをしたわけでも、何かを言ったわけでも無いから、
どうして言われたのかが見当も付かない。
「さっき、艦橋で出来ることをするだけだって、
お前が言ってくれたんじゃないか。」
そう言えばそんなこと言ったっけ?
僕はそうすべきだって思ってたから、ついつい言葉に出ちゃうんだよね。
「俺さ、さっきまでどうしたら良いか悩んでてさ、
でも、お前に言われて気付いたよ、出来ることしか出来ないんだからその中で出来ることをする、それで良いんだってな!」
「そう言う事なんだ、それで良いんじゃないかな?
悩んでる間にも時間は進んでる、なら、自分も進まないと、だよね?」
ロウに言った言葉だけど、それは僕自身にも向けた言葉だ。
無いものはない、いない人はもういない、
だったら、今いる人達と全力で今を生きないと意味がない。
だから、一夏、セシリア、ゴメンね、
そっちに逝くのはもっと後になりそうだよ・・・、
永い間待たせちゃうけど、赦してね。
二人を忘れる訳じゃないから・・・。
「ロウ、次の目的地に着くまでに色々教えてよ、
僕も出来る事をしないといけないからね。」
「良いぜ、これから一緒に頑張ろうぜ!」
そう言いつつ、彼は艦橋へ戻ろうとしていた、
恐らくは次の目的地を聞きに行くんだろう。
彼の後を追いながらも、僕はバスターを肩越しに見る。
僕を守り、僕について来てくれた大切な仲間・・・、
もう少し待っててね、君とはもう一度宙を駆ける事になるから、
その時はもう一度、僕の命を君に預けるよ、だから・・・。
「その時は、よろしくね。」
誰に向けて言ったわけでも無いけど、そんな言葉が口を突いて出ていた。
やる事はいっぱいある、でもするべき事は何一つ変わらない、
だから僕は僕の出来ること、やるべきことをやり遂げる、それでいいんだよね・・・。
sideout
次回予告
進むべき道は決して一つではない、目指すものは違えども、己の道を歩む者達が巡り会う。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
邂逅
お楽しみに。