機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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地球の衛星軌道より僅かに高度が低い場所に、光が瞬いていた。
これが大気圏内ならば、雷やオーロラの輝きとも取れただろうが、宇宙でそんなモノは発生しない。
では何か?答えは至って簡単、それは人工の光だったのだ。
「くそっ・・・!!降下カプセルがやられちまった・・・!!」
爆発の中から飛び出したレイダーに乗る、≪切り裂きエド≫ことエドワード・ハレルソンは、自分が大気圏降下用に用意していた降下カプセルが破壊されてしまった事に歯噛みした。
ミサイル基地を大気圏外から強襲するにあたり、宇宙まで出てきた訳なのだが、まさか待ち伏せを喰らうとは予想だにしていなかったのだろう。
「まさかこんな所でアンタに会うなんて、思っても見なかったよ・・・!」
だが、彼はそれをやる人物を知っていた、それも嫌と言うほどに・・・。
現に、彼はやられたと言う表情はしているが、驚いた様子は見受けられなかった。
そして、彼の目の前には、4基のバレルの様な物を背負った105ダガーの姿があり、それは彼がもっとも会いたくなかった人物の一人が乗る機体だったのだ。
「≪月下の狂犬≫、モーガン・シュバリエ!!」
『会えてうれしいよ、エド、ジェーンがちゃんと伝えてくれているかヒヤヒヤしながら待っていたぞ。』
彼の叫びに答える様に、ダガーから初老の男性の声が聞こえてきた。
その男性の名はモーガン・シュバリエ、嘗てはエドの上官であり、共に戦場を駆けた戦友と呼び合う事の出来る仲だった。
「アンタが待ってたって事は、ミサイル攻撃はハッタリ、か・・・。」
『そうだ、俺に有利な場所で戦いたかったからな、少々、策を練らせてもらった。』
「コイツは一本取られたなぁ・・・、参ったぜ・・・。」
自分が罠に嵌められた事を知ったエドは、参ったとばかりに表情を顰め、この窮地をどう脱するべきかと考えを巡らせていた。
『下は灼熱の大気圏、降下カプセルは破壊し、お前は逃げる手段を失った、つまり、ここでお前の手元にある手段は3つ、降伏するか、この俺に討たれるか、灼熱に包まれて死ぬか、だ。』
「・・・。」
彼の口ぶりからして、投降を真っ先に勧めてくると言う事は、モーガンはエドを殺したくはないと心の何処かで思っているのだろう事が伝わってきたが、エドにとってはどの選択肢も採れないモノだった。
何せ、自分がやるべき事の為には、何としても生き残り、南米の地で再び戦う事が必要不可欠なのだから。
『俺だってユーラシアの人間だ、大西洋連邦が支配する今の連合の体制に不満はある、だが、軍人たる者、脱走は許されんのだよ、エド。』
説得をしているのだろうか、モーガンは自分の本音を語りながらも、軍人ならば命令に従うだけだと言い放った。
それは確かに正しい、上からの命令を熟すのが軍人の役目、それ以外の事は求められていないのだから。
だが、今の彼には到底それは受け入れられなかった、何せ・・・。
「そうだな・・・、なら、俺は軍人じゃないな。」
『ほぉ?ではなんだと言うのだ?』
軍人では無いと言い切った彼の答えに興味を持ったのだろう、モーガンは少々声を弾ませながらも尋ねていた。
そう、今のエドは軍人と言う以上に大きな役割がある、それだけが彼を動かす衝動なのだから。
「俺は≪切り裂きエド≫、南米の英雄だ、それで良い!!」
自分の今の役目、それは英雄として戦い続ける事、軍人ではない。
『面白い!ならば私を倒し、それを証明して見せろ、南米の英雄!!』
「くっ・・・!!」
彼の言葉に何かを感じ取ったのだろうか、モーガンはレイダーに向けてビームライフルで撃ちかけながらもガンバレルを展開した。
それを見たエドは光条を回避しながらも、忌々しげに舌打ちをしていた。
今の彼の機体であるレイダーは、ミサイル基地を攻撃するために、対要塞戦装備だ、機動力のあるMS相手には不利も甚だしい所だった。
それもモーガンの策略の内だが、今は装備の不利を言い訳にできる場合ではなかった。
レイダーの機動力を以て、四方から撃ちかけられる弾丸を回避しながらも、搭載されているミサイルを、モーガンの乗るガンバレルダガー目がけて撃ち掛けた。
本当は当たって欲しいとことだが、今は少しでも重量を減らし、攻撃を避ける事に専念した方が賢明だと判断したのだろう。
『そんな止まっているマト用の武器がこのガンバレルダガーに通用するものか!!』
予想通り、ミサイルは全てガンバレルからの攻撃に撃ち落された。
爆煙が彼らの視界を一瞬だけ塞いだが、それはなんの支障にもならなかった。
モーガンはレイダーの行く手を塞ぐように弾丸を撃ち掛け、決め手となりうるビームを回避先へと撃ち掛けた。
だが、エドも墜ちてたまるかと、機体を縦横無尽に動かす事で回避していくが、その度に徐々に高度が下がり始め、重力の井戸に引き摺り込まれるのも、既に時間の問題となりつつあった。
『どうした!大気圏もうすぐ下だぞ!?』
「言われなくったって分かってるよ!」
挑発する様なモーガンの言葉に答えながらも、彼は焦りを隠しきれてはいなかった。
一発逆転を狙おうにも、このままではそれすら出来ずに撃墜されてしまう恐れさえある中で、どうすれば良いのかと、彼は機体を必死にコントロールしながらも策を講じていた。
「(もったいねぇけど・・・、これしかないか・・・!!)」
機体を消耗させる様な戦いだけはしたくなかったが、四の五の言っていられる状況ではないため、彼は腹を括った。
そして、彼を墜とす気なのだろう、ガンバレルを直線状に配置し一点集中射撃を行う腹積もりらしい。
だが、それこそが彼にとっての一発逆転を狙える唯一のタイミングだった。
「今だっ!!」
レイダーをMS形態へと戻しながらも、彼は機体下部に設置されていた兵装プラットホームを掴み、ブーメランの様に投擲した。
それは弧を描きながらも突き進み、二基のガンバレルを破壊した。
それを受け、ストライカーが使い物にならないと判断したのだろうか、ダガーがバックパックを排除し、戦闘機へと変形させながらもレイダーの方へと突撃させてきた。
それを何とか回避したエドは、モーガンとの近接戦闘に持ち込もうと機体を動かそうとした。
『かかったな、エド!!』
「なにっ・・・!?なんだ・・!?」
だが、モーガンの勝利を確信した様な声と共に、レイダーが下へと引っ張られていくのが感じ取れた。
一体何が起こったのかと、彼は後方に目を向けると、先程切り離されていたガンバレルストライカーのケーブルがレイダーに絡みつき、引っ張られて大気圏へと墜ちて行くのが見て取れた。
それが戦力を消費させずに、エドを効率的に始末するためのモーガンの策略なのだと、彼は今更ながらに感じていた。
何とかこれ以上の加速を止めようと、機銃でガンバレルストライカーを破壊し、スラスターを全開にして重力からの離脱を試みるが、機体は降下していく一方だった。
『一度付いた落下の速度は容易く止められんぞ!エド、貴様が英雄だと言うならば、再び俺の前に現れろ、そうすればお前を英雄と認めてやる!!』
最早自分が手を下すまでも無いと判断したのだろう、モーガンは何かを言い残し、機体を離脱させていった。
「待てっ!モーガン・・・!!」
自分との決着はまだ着いていないとばかりに彼の名を叫ぶエドだが、すぐに彼のダガーの姿は見えなくなってしまった。
「チクショウ・・・!やってくれるぜあのオッサン・・・!しかし、コイツはヤバいぞ・・・!!レイダーは降下カプセル無しに大気圏突入が出来る様にはなってないってのに・・・!!」
灼熱に包まれ始めたレイダーのコックピット内で、エドは何とか機体を制御しようと操縦桿を動かしたが、内心は焦燥に駆られていた。
それもそうだろう、レイダーはTP装甲で機体を覆っているが、それは全身という訳ではない、バイタルエリアのみの採用の為、機体を完全に耐熱させる事は不可能だ。
もし、レイダーがPS装甲製ならば、希望はあったかもしれないが、それでもコックピットを焼く熱に、ナチュラルである彼が耐えきれる保証は何処にも無い。
確かに、PS装甲で身を固めた機体が大気圏を突破した例は幾つかある、だが、それらはすべてパイロットがコーディネィターであったため、その優れた身体能力で熱を耐えていたにすぎないのだ。
「だが・・・!こんな所で諦められるかっ!しかし・・・、この熱じゃナチュラルの俺にはキツイか・・・!くそっ・・・!頭を使うんだエド!何か方法は在るぞ・・・!!」
次第に大きくなってゆく機体が軋む音と、アラートが不協和音を奏で、彼の焦燥を掻き立てていくが、今の彼にこの状況はどうする手立ても無かった。
だが、その時、別の警告音が彼の耳に届く。
「なにっ・・・!?うわっとぉ!?」
機体前方に目を向けると、レイダーよりも更に巨大なデブリが彼目掛けて落ちてくる所だった。
何とか直撃する寸前に回避する事に成功した彼は、冷や汗をかきながらもタメ息を吐いた。
「危ねぇ・・・、あんなのにぶつかられたら燃え尽きる前にバラバラだぜ・・・、っ・・・!そう言えば、大戦中にデブリで大気圏突入に成功したジャンク屋がいたって、ニュースでやってたな・・・、それが本当なら・・・!」
この時、彼の脳内には以前見たニュースの映像の中で映し出されていた、コロニーの外壁だったデブリに身を隠したジャンク屋の船が大気圏へ突入していく場面がフラッシュバックしていた。
偶然の結果だが、彼も今窮地に立たされている、ならばダメ元でもやってみる価値はあるだろう。
「ダメで元々・・・!!やってやるぜ!!」
レイダーの体制を立て直し、デブリの陰に回り込んだ彼は、機体のスラスターで突入角度の調整を始めた。
「頼むぜ、燃え尽きないでくれよ・・・!!」
衝撃で揺れるコックピットの中で、エドは自分が見た報道に感謝していた。
彼は知らなかっただろうが、彼が見たニュースのジャンク屋はロウ・ギュールとその一行であり、その一行は今、南米に来ているジェスの護衛の一人、シャルロット・デュノアと一時ながらも行動を共にしていた事があったのだ。
一見して、何の繋がりも無いように見えた関係が、このように繋がる事もジャーナリズムの側面の一つなのだろう。
「なるほど・・・、ジャーナリストってもんは、報道ってものは人の役に立つんだな・・・、ジェス・・・!俺も信じてみたくなった・・・!!」
行動を共にするジャーナリストの本当の役目に気付いたのだろうか、エドは口元を緩めていた。
そんな彼を連れて、機体はデブリと共に振動しながらも落ちて行く。
少しはマシになったとはいえ、コックピット内の温度はサウナなんて生易しく感じられる程になり、高熱と振動で何度も意識が途切れかけるが、彼は何とか気合でそれを繋いだ。
それがどれほど続いた頃だろうか、身体を押す様な重力が彼の身体に纏わりついた。
外に目をやると、大気圏を何とか突破出来たらしく、雲と、その狭間から海が顔を出していた。
「何とか・・・、生きてはいるな・・・、英雄ってのも、疲れるなぁ・・・。」
コックピット内に籠った熱を逃がすため、ハッチを開けながらも、彼はヘルメットを脱ぎ捨ててタメ息を一つ吐いた。
身体は嫌な汗で濡れており、何とも気持ちが悪かったが、今は海の上だ、せめて陸地に辿り着くまではシャワーすら浴びれない。
「あぁ・・・、早く冷えたビールが飲みてぇ・・・。」
機体を南米大陸へ向けながらも、彼は大きなタメ息を吐き、帰還の途に就いたのであった・・・。
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「マディガン、いるかしら?」
地球のとある場所にあるマティアス邸にて、その屋敷の主、サー・マティアスは電子型地球儀を眺めながらも、雇っているMSパイロット、カイト・マディガンを呼びつけていた。
「いるぜ、あの野次馬とアメノミハシラの兄ちゃんを助けに行けってか?」
何を言われるか分かっていたのだろうか、カイトは何処か諦めた表情をしながらも、自分がやるべき事を尋ねていた。
「あら、察しが良いわね、さてはずっと心配してたでしょ?ジェスと、アメノミハシラの色男クンを?」
「まさか!止してくれよ!」
からかう様に言うマティアスの言葉に、勘弁してくれと言う様に手を振りながらも、彼は否定するような素振りを見せなかった。
彼も、自分が関わってきた人物の護衛だ、出来る事なら最初から付いて行きたかったのだろう。
「あらそう、だけど、南米が大変な事になるわよ、クイーンの登場で、ね・・・。」
「クイーン・・・、なるほど・・・、ソイツはあの兄ちゃんでも手に余るな・・・、分かった、俺も向こうで合流する。」
クイーンと評する者の登場に、カイトの目の色が変わった。
どうやら、それほどヤバい人物なのだろうか・・・。
「えぇ、頼んだわ、報酬は弾ませておくから♪」
「了解、それじゃ、行ってくる。」
念を押す様なマティアスの声を背に受けながらも、彼は部屋から早足に出て行った。
どうやら、彼も彼で気が急いていたようだ。
「(クイーンとは言ったけど、それだけでは済まないわよ、何せ、チェスなら単体だけで突っ込ませるのは愚策だもの・・・。)」
チェスの駒、クイーンを掌で弄びながらも、彼は傍らに置いてあったチェスボードに目を向けながらも思った。
この状況、連合はエース二人を投入して敗れた。
これでもう、体裁を保つためには圧倒的な戦力を示すしかなくなったのだ。
「(さぁ、ジェス、一夏卿、貴方達はこの状況を、どう切り抜けるのか、見せて頂戴。)」
ジェスと、その傍らに付き添う一夏の事を思い浮かべながらも、彼はその先の未来に想いを馳せたのであった・・・。
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北米、デトロイトの工業地帯にある格納庫のひとつに、とある人物の姿があった。
その人物とは、元カリフォルニア士官学校教官、レナ・イメリアだった。
≪切り裂きエド≫討伐の指令を受けた彼女だったが、それを命じられた同僚達は脱走や討伐失敗の愚を犯していた。
――何が≪白鯨≫だ、何が≪月下の狂犬≫だ、役立たず共め・・・――
その格納庫の最奥に置かれている、ある機体を目指しながらも、彼女は先程まで顔を突き合わせていた将校の言葉を思い返していた。
仲間を、それも本心ではエドと戦う事に躊躇いを覚えている身だった彼等を嘲る様な言葉には、少々憤りを隠せなかった彼女だったが、それよりも何よりも、今だ戦いを続けようとするエドの事が、彼女は許せなかったのだ。
――君だけが頼りだ、≪乱れ桜≫、こうなったら、目には目を、刃には刃だ・・・、あの裏切り者と同じ機体を君に託す、何としても≪切り裂きエド≫を討て!――
エドを倒す事で、争いを一つ止められるのならば、嘗ての教え子だろうが容赦はしない、彼女の表情からはそんな意志が見て取れた。
そして、格納庫の奥、ソードストライカーが装備された105ダガーが置かれている区画を通り抜け、彼女はその機体の前に立った。
ライトが照らすのは、毒々しい青が基本配色ながらも、肩や胸部ビーム砲の周りが赤橙に塗り替えられた機体、GAT-X131 カラミティの改修型・・・。
「GAT-X133-1 ソードカラミティ初号機・・・、これであなたの運もこれまでよ、エド。」
機体を眺めながらも、彼女は決然たる意志を籠めて呟いた。
そして、この日より、南米の戦いは更に大きく動いていく事になるのであった・・・。
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次回予告
激化の一途を辿る南米の戦争の中にも、希望は芽生え、それを紡ぐ者達は手を携えて行く。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
南米に集いし英雄
お楽しみにー。