機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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来訪者 前編

side一夏

 

「ミナ、今帰った、入るぞ。」

 

格納庫から逃げる様にして、俺は主であるロンド・ミナの部屋にやって来た。

 

数か月ぶりに訪れた訳だが、慣れた場所だ、忘れる筈なんてない。

 

「俺がいない間に、何か新しい事は考え付いたかい?」

 

そんな事を考えながらも扉を開け、中で待っているであろう彼女に声をかける。

 

「よくぞ戻ったな、生憎、私の方は変わらずと言ったところだがな、ロウ・ギュールが示した世界への地図は白紙だ。」

 

何時もと変わらない不敵な笑みを見せながらも、彼女は鏡に投影された世界地図と、そこに示された情報を読んでいた。

 

所々に紛争などが起こっている事を示す炎のマークが付いていることから、その場所に生きる者をどう救うべきかも考えているのだろう

 

相変わらず、世界に目を向けてるんだな、流石だよ・・・。

 

彼女の凄さが、今の俺のダメさを浮き彫りにしてるようで、逃げ出したくなるような自己嫌悪すら覚えるよ・・・。

 

まぁいい、今は任務後の報告が最優先だ、俺個人の感傷よりも、な・・・。

 

「任務報告だ、ジェス・リブル氏は南米での目的を完遂、終戦まで見届けた、俺達のMSも地上戦のデータも録れ、おまけにザフトの新型MSのデータも録れた、良い収穫になったよ。」

 

「想像以上の成果だな、御苦労、暫く休むと良い。」

 

俺の報告に満足げに頷きながらも、彼女は労いの言葉を俺に向けていたが、俺の心は全くと言って良いほど、晴れることは無かった。

 

今もまだ、あの瞬間が目の前に浮かんでは消えていくような錯覚を覚えてるんだ、今の俺には、到底堪えられそうにもない・・・。

 

「ありがたい言葉だけど、まだ休めやしないさ、データの解析だったり色々有るし、な・・・。」

 

「お前、また何かあったな?」

 

苦痛が顔に出てしまったのだろうか、彼女は何処か探るように尋ねてくる。

 

やめろ・・・、話したら、俺が犯した致命的なミスを、彼女を死なせてしまった俺の弱さを見てしまう・・・。

 

「何も、ないさ・・・、何も・・・。」

 

だけど、ミナに吐き出して楽になりたいと思う、嫌な自分も心にいる事が、更に俺の心を乱す。

 

クソッタレめ・・・、俺はこんなにも脆かったのか・・・?

人の死を受け入れられない、現実から逃げ回っている様な奴なのか・・・?

 

「そうか、なら聞かぬ、お前が受け入れられるまでは、な?」

 

「ミナ・・・。」

 

俺の迷いを酌み取ってくれている事に、気を遣わせてしまっている事を申し訳なく思うが、それ以上にありがたいと思ってしまっているのは、俺の嫌な部分なんだろうな・・・。

 

だけど、話さなくていいと言われたんだ、今はその厚意に甘えさせてもらおう・・・。

 

そう思いながらも、俺は彼女に頭を下げ、自室に戻ろうと背を向けた。

 

まさにその時だった、敵襲を告げる警報が鳴り響いた。

 

「敵襲か!?」

 

「何処の手の者だ?」

 

焦りに若干上擦った声を上げる俺とは対照的に、彼女はいつもと変わらぬ冷静さで管制室と通信を繋げていた。

 

『連合の艦影を確認しました!既にMS隊がスクランブル発進しました、間も無く戦闘になるかと思われます!』

 

なんてこった・・・!ストライクが整備に出てる時に限ってこんな・・・!!

 

いや、機体がどうのこうのってよりも、今の俺が戦えるのかって言う不安がある時に限って、だ・・・!!

 

「連合軍か、やはりここに未練があるか・・・、正確な機影を割り出せるか?場合によっては私も出る。」

 

『Nジャマーの影響で正確な数は分かりません、ですが、ダガータイプとは明らかに違う機体が紛れています、機影の照合を急いでいますが、もう暫くは・・・!!』

 

なに・・・!?アンノウンが紛れている・・・!?

データに無い敵と戦うのは些かマズイな・・・。

 

如何に手練れが多いアメノミハシラのパイロット達でも、データに無い敵を相手にするのは怖い。

 

絶対的な技量を持つソキウスにしても、相手がナチュラルじゃ殺せないのでは意味が無い・・・。

 

それに、今の俺は戦えるのか・・・!?

身体の震えも収まっていない、こんな惨めな奴が・・・!?

 

どうすればいいんだ・・・、俺は、どうすれば・・・!

 

――隊長・・・どうか――

 

迷いに囚われていた俺の耳に、彼女の声が届いた。

この世にはいない、俺が護れなかった存在の声が・・・。

 

君を護れなかった罪滅ぼしに戦い続けろと、それが俺に出来る事だと言いたいのか・・・?

 

だけど、今はそれでも良い・・・、何か理由を付けてでしか動けないんなら、それでも構わないさ・・・!

 

だから・・・!!

 

「ミナ、俺が出る!」

 

「一夏?」

 

彼女に宣言した直後、俺は彼女の驚いた様な問いかけにも答えずに背を向け、格納庫へとひたすらに走った。

 

使える機体なら在る、俺の気持ち次第でどうとでもなるなら、やってやるさ・・・!

 

だから、もう二度とあんな思いだけは、仲間を失って堪るものか・・・!!

 

sideout

 

noside

 

「シャルロット・デュノア、バスター、行きます!!」

 

他の守備隊に先行して出撃したシャルロットは、久方ぶりに扱う事になった愛機の感触を確かめる様に操縦桿を動かしていた。

 

信頼を置いているジャック達の整備を疑う訳ではないが、やはり自分の身体に馴染んでいるか、パイロットとしてそれ以上の死活問題はないのだ、自分で確かめるまでは確信を持てないのだろう。

 

だが、少し機体を動かしただけで判る、この整備は紛れも無く、自分に合わせて調整され尽くしたモノである事を疑う余地は無かった。

 

「凄いや・・・!前より動かし易くなってる・・・!ロウの調整に上乗せしてくれたのかな?」

 

そして、それが単に自分に合わせた調整ではなかった事も、彼女は見抜いていた。

 

嘗て、ロウ達ジャンク屋と行動していた時に施して貰っていた調整から変更するのではなく、その調整を活かして更に向上させると言った、見事な職人技に感嘆しているのだろう。

 

「これは、前以上に大事に乗らないと怒られちゃうかな、頑張るぞ!!」

 

気合を入れ直し、彼女は目の前に迫ってくる敵MS隊に向け、ガンランチャーとビームライフルを構えた。

 

『シャルさん、牽制をお願いしますわ、私が接近戦を仕掛けます。』

 

「分かったよセシリア、僕達で護ろう!皆を、一夏を!」

 

『勿論ですわ!』

 

隣を進むデュエルからの盟友の言葉に頷きながらも、彼女は自分のやるべき事を見据えていた。

 

今、一夏の精神状態は最悪と言っても過言では無い上、機体も整備中であるため、彼がこの戦場に出てくる事は出来ないだろうと踏んでいるため、今度は自分が、愛しの男を護る番だと意気込んでいるのだ。

 

意気込む彼女の視界には、いくつものスラスター光が煌めきながらも押し寄せてくる様が写り込んでいた。

 

「まったく、連合は節操が無いのかな?自前でどうにかしなよ!!」

 

他国や他者を侵略してまでその力を維持しようとする連合の意地汚さにほとほと嫌気が差しているのだろう、彼女はガンランチャーやミサイルで弾幕を張りながらも、次々とダガーを撃破していった。

 

その手際は見事と言う以外に言葉が無く、ただ、鮮やかな技が光っていた。

 

『愚痴を言っても仕方ありませんわ、あちらも必死なのですから。』

 

シャルロットの愚痴を聞きながらも、セシリアは数機のM1Aを引き連れて突撃、部隊を的確に動かしながらも多くのダガーを相手取り、撃破数を重ねていく。

 

彼女もまた、エースの名に相応しい腕を誇り、雑兵など造作も無く屠れる程の実力を持っていた。

 

そんな彼女達が出れば、戦場に立つ兵士の士気は上がり、敵もそれに押されて、何れは退いてくれる、筈だった。

 

順調に戦線を押し返してゆく彼女達の耳に、別のMS反応が近づいて来ている事を告げるアラートが届く。

 

「新手・・・!?」

 

『ですが、どこから・・・!?』

 

慌てて周囲を見渡すが、何処にもそれらしき機影は見当たらないのだ、彼女達は背中合わせになりながらも索敵を続けた。

 

その時、彼女達の近くにいた一機のM1Aの肩部が何かに破壊された。

 

『うわぁぁっ・・・!!』

 

「『ユウさん!!』」

 

僚機の被弾に声を上げ、彼女達は損傷機を庇う様にフォーメーションを組む様に指示、自分達は辺りに散弾やバルカンを撃ちかける。

 

すると、それを避ける為か身を護るためか、その機体は空間の揺らめきと共に姿を現した。

 

「あれは・・・!!」

 

『鈴さんが乗っていた・・・!?色が違う・・・!!』

 

その黒き機体の姿に、二人は驚愕の声を上げた。

 

右腕に特徴的な盾を装備し、左腕にはクローの様な物を装備した漆黒の機体、それは彼女達が乗る機体達の兄弟機、GAT―X207 ブリッツ。

 

その機体は、嘗て彼女達と共に戦った異世界の者が駆った機体に酷似しており、彼女達の記憶にも深く刻まれたものであり、その特性も弱点も熟知していた。

 

「仲間を撃たせやしないよ!!」

 

『その機体を撃つのは偲びないですが、敵ならば致し方ありませんわね!!』

 

だが、今の自分達の仲間を傷付けるのならば、感傷を捨て、心を鬼にしてでも倒す、そう誓った彼女達は己の武器を構えて向かってゆく。

 

二対一ならば、コンビネーションプレイに磨きをかけてきた自分達ならば負けはしない、そう言った確信を以て、彼女達はブリッツを挟み込む様に展開しながらも攻撃を仕掛ける。

 

バスターがガンランチャーをばら撒き、それを回避した所にビームサーベルを構えたデュエルが突っ込み、斬りかかってゆく。

 

しかし、そんな単調かつオーソドックスな攻めでヤラれる程ブリッツのパイロットも愚鈍ではない、機体のスラスターを巧みに吹かし、見事に回避してゆく。

 

「中々やる・・・!!」

 

『ですが・・・!!まだ甘い!!』

 

だが、彼女たちの観察眼はそこに存在する僅かな綻びを見逃さなかった。

 

僅かだが、回避した際に一瞬だけ体制を立て直せていない瞬間があり、そこを突けば撃墜も可能だと判断した様だ。

 

「これで決める!!」

 

これ以上構っている暇は無いとばかりに、シャルロットはビームライフルとガンランチャーを連結させ、対装甲炸弾砲による高威力散弾を撃ちかけるべく構えた。

 

だが、それを妨害するかの如く、何処からか高出力ビームが飛来、シャルロットは何とか機体を動かす事で回避した。

 

「まだいたの・・・!?」

 

そのビームが飛んで来た方へ目を向けると、そこには四本のクローを広げ、ビーム砲の発射体勢を採っていたMAの姿があった。

 

『MA・・・!?火力だけで落とせるとでも・・・!!』

 

それを確認したセシリアは、デュエルのビームライフルを赤いMAに向け、トリガーを引いた。

 

だが、その赤い機体は瞬時にMSへと形状を変え、高い機動性であっさりとその光条を回避した。

 

二人は知らなかったが、その機体はGAT-X303 イージスであり、ブリッツと同じく彼女達の機体の兄弟機だった。

 

イージスは仲間であるブリッツを援護しようと、両腕にビームサーベルを展開、スラスターを吹かして彼女達に向けて突っ込んでくる。

 

「可変機・・・!?あんな機体まで持ってくるなんて・・・!!」

 

自分が見た事の無い機体の登場に歯噛みしながらも、シャルロットはこの状況をどう脱するべきかと思考を巡らせた。

 

ブリッツの対処法は兎も角、イージスへの対処法やデータは全く無く、手探りで戦闘を行わなければならない状況、一瞬でも気を抜けば殺される戦場で、そんな悠長にデータを採っている暇も無ければ退く事も出来ない。

 

援軍を頼みたいところだが、他の部隊は敵の大軍と交戦中、一夏もまた、戦場に出て来れるかどうか・・・。

 

だが、弱音を吐いている暇は無い、何としても生きのこり、守り抜いてもう一度彼の隣へ・・・。

 

背水の戦いは、まだ始まったばかり・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ジャック!!ソードカラミティを出せるか!?」

 

パイロットスーツに着替え、格納庫に入った一夏は他の整備士に指示を出していたジャックに叫ぶ様に尋ねていた。

 

自分の愛機が使えない事ぐらいは分かっており、今彼が使えるガンダムタイプはソードカラミティ以外にない状況だった。

 

「フォーソキウスが乗って行っちまったよ!ストライクも整備中だ、M1Aしか使える機体はねぇぞ!!」

 

「くそっ・・・!遅かったか・・・!M1Aじゃ今来てる敵に太刀打ち出来る訳ない・・・!!」

 

だが、それも今しがた発進したところだと告げられ、彼は焦りを隠せずに悪態を吐いた。

 

彼自身、自分の力量が機体性能の差を埋められる程高いとは夢にも思っていない。

それ故、防衛線には少しでも性能の良い、自分の特性と合致した使い勝手の良い機体を選びたかったのだが、その目論見は崩れてしまったのだ。

 

「何か・・・!何か使える機体は無いのか・・・!?」

 

こうしている間にも、仲間が撃たれているかもしれない、愛しき妻達が危険に晒されているかもしれないと考えると、彼の鼓動は早鐘を打ち、引っ切り無しに焦りを駆りたてて行く。

 

焦りに囚われる彼が顔を上げると、そこには彼を見下ろす金色の機体の姿があった。

 

「ゴールドフレーム・・・、コイツなら・・・!!」

 

ゴールドフレーム天ミナならば、アメノミハシラトップの性能を持つその機体ならば、どんな敵にも負けはしない、その力で、仲間を護れる。

 

そう考えた彼は、足早に天ミナの足元にあったリフトに駆け込んだ。

 

「一夏!?お前何やってんだ!?その機体は・・・!?」

 

彼がやろうとしている事に気付いたジャックは、驚愕の表情を浮かべながらも一夏を止めるべく駆け寄るがそれよりも早く、彼はリフトを上昇させてコックピットまで登ってしまった。

 

「俺がミナの代わりに出る!」

 

「バカ言ってんじゃねぇよ!ミナ様に叱られんぞ!!」

 

「分かってる!傷一つ付けやしない!説教なんて後で幾らでも受けてやるさ!!」

 

そういう問題じゃないと言いたげなジャックの制止を振り切り、彼はゴールドフレームのコックピットに滑り込み、OSを自分用に設定し直す。

 

「(後で戻せば良い、今は仲間を・・・!!だから、今だけは俺に力を貸してくれ、天!!)」

 

自分に出来る事は戦う事だけ、それでも、破壊だけを繰り返すよりは仲間を護るためと思い込めば幾らかは気が楽、そう考えているのだろう、彼は鋭い意志を瞳に宿し、機体の操縦桿を握り締めた。

 

「管制室、天ミナを出す!ミナに伝えておいてくれ!」

 

『了解しました、一夏卿、御武運を!!』

 

彼が管制室に報告する間にも、機体はカタパルトへと運ばれてゆき、発進の体制が着々と整えられてゆく。

 

ヘルメットを被り、バイザーを下ろした一夏は、カタパルトの先にある暗闇を睨み、敵を討つべく戦う者の表情を作った。

 

「今は戦う、今いる、大切な人達を護るために・・・!」

 

決意を籠めた言葉と共に、彼はカウントダウンを聞いた。

 

『進路クリアー、天ミナ、発進どうぞ!!』

 

「織斑一夏、ゴールドフレーム天ミナ、出るぞ!!」

 

決意を籠めて彼は行く、今だ癒えぬ苦しみと迷いを抱えたままに・・・。

 

sideout




次回予告

先に来た者と後に来た者、彼等の道は交わり始めた・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

来訪者 後編

お楽しみに~
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