機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
side一夏
翌朝、俺はフォーソキウスを伴って監房へと出向いた。
取り立てて特別という程でも無い、ただ単に、答えを聞きに行くだけだ。
セシリアとシャルには部屋で休んで貰っている、連戦に連戦を重ねてる訳だ、少しは休ませてやらないと身体に障る。
まだまだ時期では無いとは言えど、いずれは俺の子を宿す事になるんだ、何かあっては俺は本当に立ち直れんやも知れん。
だから、二人には気を配ろう、今までも、これからも苦労をかけるんなら、俺がしっかりしないとな。
「一夏様、本当によろしいのですか?」
「構わん、俺が頭下げて済むんなら、な。」
「そうですか。」
ははは・・・、相変わらず無愛想な奴だな・・・、慣れきってるとは言っても、もう少し反応があっても良いんじゃないのか?
ま、それを望んだ所で、今の彼等にはそれすら叶わないからな・・・。
けどまぁ・・・、今はそんな事を気にしてる場合じゃないよな、ソキウス達に気を回すのは、またの機会にさせてもらうとしようか・・・。
そんな事を考えている内に、俺達は目的の場所まで辿り着いた。
「よぉ、昨日ぶりだが、気分はどうだい?」
「一夏、か・・・?」
俺に気付いたんだろう、宗吾とかいう男がこちらに向き直り、目の下に隈を作った、あまり眠れていない様子で俺を見ていた。
まぁ、捕えられてる状況下ではそんな簡単には眠れやしないだろう、俺にも経験はある。
「良くはなさそうだな、寝れなかったのか?」
「アイツにベッドを占領されててな・・・、床じゃ寒くて寝てられんさ・・・。」
俺の問いに苦笑しながらも、ベッドの上で爆睡する玲奈を指し、彼は大きな欠伸をしていた。
「ベッドを一つしか用意してなかったのは失念していたな・・・、すまない事をした、次はちゃんとした部屋を用意する。」
「期待させてもらうよ、で・・・、俺はどうすればいい・・・?」
おっと、世間話を暫く続けてから切り出すつもりだったけど、まさか向こうから聞いてくるとはな。
まぁ、答えてやらないと、俺が来た意味も無いしな。
「答えを聞きに来た、ミナに仕えるか、このまま死にゆく旅に出るか・・・、選ぶ権利はお前にある、俺は強制はしないさ。」
もう答えは出ているんだろうが、一応の確認だ、それぐらいしておかないと、彼の意志を尊重出来やしないからな・・・。
「答えは出たさ・・・、生きていてこそ自由がある、その通りだよ。」
「なるほどな、ある程度の制約を受け入れる代わりに生き残る、賢明な判断だ。」
なるほど、制約があってもやりたい事は出来るって気付いたのか・・・、俺には出来なかった事だよな・・・、なんか、羨ましいよ。
「だから、俺達をアメノミハシラに仕えさせてくれ、仇を為した以上の戦果を以て、俺達を受け入れるアンタに恩を返させてくれ。」
「俺の事なんて考えなくていい、アメノミハシラの為を考えろ、それだけでいい。」
彼の想い、仇を為した以上の働きをしてくれるという言葉を、俺は信じてみようじゃないか。
「フォーソキウス、カギを開けてくれ、ミナのトコに連れて行く。」
「かしこまりました。」
ソキウスに指示を出し、彼が牢屋のカギを開けると同時に中に入り、彼の手に一応手錠を掛けておく。
不意打ちでも喰らったら堪ったもんじゃない、これぐらいの用心はさせて貰わないとな。
「すまない、ロンド・ミナに忠誠を誓う所を見るまでは、手錠を掛けさせてくれ、他の者に示しがつかないからな・・・。」
「分かってる、あぁ、忘れる所だった、玲奈を起こさないと・・・。」
あぁ・・・、そう言えばいたな・・・、完全に忘れる所だった。
「起きやがれ、寝坊助女。」
ベッドのシーツを掴み、強引に引っ張る事で床に落としたが、勿論ダメージは少ないように配慮してある。
「ふぎゃっ!?な、何!?地震!?」
飛び跳ねる様に置きあがり、辺りを見渡す女の姿も、ある意味滑稽だが、まだこの世界に慣れ切っていない証と思うと、俺も初心を思い出せるような気がするな。
「宇宙ステーションで地震が起きる訳ないだろ・・・、立て、ミナのトコに行くぞ。」
とりあえず立たせながらも彼女にも手錠を掛け、ソキウスに連れられた宗吾と共に歩き出す。
「本当に、俺達を受け入れてくれるのか・・・?」
「ミナに助命嘆願をする、俺も出来うる限りの弁護をすると約束しよう。」
「放置されてた間に話が進んでる・・・!?説明を要求する~!!」
喧しい女だな・・・、そんなもん、後で幾らでもしてやる、だから今は黙って付いて来るだけで良いのにな・・・。
まぁ、俺と同じ境遇だと説明すれば、ミナも受け入れてはくれるだろう。
だから、俺は何としても彼等を救おう、それが俺に出来る、償いであるのなら、な・・・。
sideout
noside
「ミナ、彼等と謁見して話を聞いてやって欲しい、俺からも頼む。」
宗吾と玲奈を連れて部屋に入った一夏は、開口一番に二人の話を聞く様に、自身の主であるロンド・ミナに向けて頭を下げた。
「尋ねて来て早々とは、お前も忙しい男だな。」
そんな彼の焦りを見抜いていたのだろう、彼女は薄く笑みながらも話を聞く様な態度を見せながらもからかう様に尋ねていた。
「そんな事、ねぇよ・・・、だが今は・・・!」
自分のせっかちな部分を見透かされ、彼はバツが悪そうに顔を顰めながらも、今は自分が救うべき存在の為に、その為の姿勢を見せる事が大切なのだとばかりに、彼は言葉を続けようとしていたが、ミナはそれを遮るかのように語り始めた。
「彼等があの二機のパイロットである事は私も承知している、あの機体と共に彼等が我々の力となってくれるやもしれぬと感じている、だが、それ以上に不信もある。」
「分かってる、だけど、それ以上に信じられる奴等だ、昨日話してるだけで分かったんだよ。」
ミナも強き力を取り込めることには賛成している様だったが、いざ懐に入れて裏切られれば堪ったものではないのだろう、その言葉からは、一城の主としての責任からくる不信感がアリアリと伝わってきた。
その事は彼も承知してはいる、だが、みすみす救える命を手放したくないと考えている彼は、それを考慮して尚、食い下がった。
「何故そう信じられる?何故そう思える?その根拠を示せ、そうでなければ納得出来ん。」
「それは、彼等が俺と同じ人間だからだ、生き返ったばかりのヤツを死なせる訳にいくか。」
彼女の目を真っ直ぐ見据えながらも、彼は秘密を明らかにしながらも、二人を保護する必要性を語った。
その瞳には迷いや邪念は何もなく、ただ、純粋な想いだけが宿っていた。
そんな彼の目を見詰めながらも、彼女は真意を酌み取ろうとしている様で、何もアクションを起こす事は無かった。
「(なんだ・・・、この異様な雰囲気は・・・!)」
「(肌が痺れる様な睨み合い・・・!これが本物の・・・!!)」
彼等の間に流れる空気の質が変わった事を察した宗吾と玲奈は、自分達が感じた事の無いほどに痺れる緊張に固唾を呑んだ。
まるで、隙を見せれば次の瞬間には命は無いと言う様な、一色即発と言うべき空気に満ちており、見れば、ミナも一夏も、互いを睨んだままの様にも見えるが、互いの気に当てられているのだろう、僅かに表情が硬くなっていたり、手が震えたりしていた。
そんな息詰まる様な時間がどれほど続いたのだろうか、根負けしたのか、彼の熱意に折れたのか、ミナは表情を緩めた。
「一夏、そなたがそこまで入れ込んでいるのなら、そなたの感覚を信じてみよう。」
「ありがたい、それでこそ助けた意義がある。」
緊張が解けたのだろうか、一夏は盛大にタメ息を吐きながらも冷や汗を流していた。
もし、聞き入れられなかった場合は、最後の手段として自分もアメノミハシラからの離脱、若しくはロンド・ミナと一戦交える気でいたが、どれも成功する確率は半分より低かったため、そうならずに済んで良かったと安堵しているのであろう。
「そなたはもう下がれ、ここ数か月、地球での戦闘から立て続けで休む間も無かったであろう、彼等を引き入れる代わりに、ストライクの整備が終わるまでの間、自室での謹慎を命じる、それで良いな?」
「・・・っ!?アンタ、そんな状態でアタシらに勝ったのかよ・・・!?」
ミナの言葉に、玲奈は信じられない物を見るような目を、斜め前方にいる一夏に向けていた。
それもそうだ、連戦続きで、尚且つ地球から戻ったばかりのパイロットが、今だ未熟とは言えど転生者である自分達をいとも容易く下したのだ。
その彼が、もしも万全の状態で戦闘に臨んでいたのならば、自分達は何も出来ずに殺されても不思議ではないと気付き、愕然としているのであろう。
「わかったよ・・・、休めばいいんだろ、休めば・・・、それじゃあ、失礼する、用があったら呼び出してくれる事を期待しているよ。」
命じられては逆らえないのだろう、彼はわずかに表情を歪めながらも彼女に頭を垂れ、背を向けて部屋を辞した。
「・・・、さて、お前達の名を名乗ってもらうとしよう、よもや、一夏の厚意を無碍にするつもりもあるまい?」
そんな彼を見送った後、彼女は目の前で跪く二名のパイロット達に目をやり、名を尋ねていた。
「俺は、神谷宗吾・・・、年齢は19、ブリッツのパイロットだ。」
「アタシは、早間玲奈、歳は19、イージスのパイロットだけど・・・、良いの・・・?」
彼女の問いかけに名乗りながらも、宗吾は彼女の気に当てられているのか恐る恐る答え、玲奈は彼らの意図が読めなかったのか、おずおずと尋ねていた。
先ほどのやり取りを見ていれば大体は分かったのだろうが、穏便に解決したとは言い難かったため、本当に自分達が助かるのか不安に思っているのだろう。
「宗吾に玲奈、か・・・、これから我々に忠誠を誓うのであれば、私はお前達を迎え入れよう、それが一夏の頼みであるのならば、尚更だ。」
「アイツ・・・、一体何者なんだ・・・?」
一夏の頼みであると言う言葉に、玲奈は彼がどれほどロンド・ミナに信頼されているのか、そして、何処まで愚直な男であるか測れずにいる様で、目を白黒させていた。
「アイツは脆い男だ、過去に囚われ、受け止めきれずにいる、だから、余計に捨て置けぬ存在なのだ、そなた達にも分かるのではないか?」
「まさか・・・、過去に何か・・・?」
ミナの言う脆さに気付いたのだろう、宗吾はハッとした様に顔をあげ、答えを求めるかのように彼女を見ていた。
監房の前で見せたあの後ろめたい様な、後悔の様な表情は、彼の抱えている闇に起因するものなのかと、彼は勘付いたのだ。
「あぁ、だが、それはプライバシーに関わる、私ですら干渉できん領域だ、知るには、本人、若しくは彼の妻達にでも聞くが良い。」
だが、答えられないと言う様に、彼女は答えをはぐらかしていた。
もっとも、ミナとて知らぬのだ、彼の奥底に宿る闇を、そこから生まれる喪失への恐怖の全貌を・・・。
「そう、か・・・、アイツ・・・、自分の事は気にするなって言うくせに・・・!誰かに頼れないのかよ・・・?」
彼の境遇に、そしてその苦しみの一端を知らされ、宗吾は憤りを隠す事無く表情を顰めた。
彼は、一夏は苦しみ続けているのに、自分の身を粉にしても誰かを救おうとする、その自己犠牲的な危うさを感じてしまったのだろう。
「それが一夏の危うさ、私もどうにかしたいと思っているのだがな・・・、彼は人に頼る方法を知らぬのだ、なまじ力があるが故に、な・・・。」
「そうか・・・、で、アタシらは何すりゃいいんだ?忠誠ったって、何を見せればいいんだよ?身体に爆弾でも仕込めって?」
自身の弟のような存在である腹心を案ずるかのように、彼女は憂いを帯びた表情を浮かべ、それを見ていた玲奈は、自分達が何をすべきかと尋ねていた。
一夏がこの城にとっても重要な人物である事は分かった、だからこそ、ミナが望むのは彼の事だろうと感じたのだろうが、そのためにはまず、自分達への疑念を払拭させる必要があった。
だからこそ、彼女はわざわざ、体内に爆弾を仕掛けても良いと言う様な発言をしたのだ。
「その様な事をする必要はない、ただ、彼の事を裏切らないで欲しい、それだけで充分だ。」
しかし、彼女はその申し出を断り、ただ、姿勢だけを見せてくれれば良いと、これから先に、一夏を救ってやる事だけで良いと語った。
仕えてくれるのならば、彼女は主として使うのみと判断したのだろう、その声からは先ほどからの怪訝の色が消えていた。
「ソキウス、手錠を外してやれ、もう必要ない。」
「かしこまりました。」
彼女の指示に頷き、フォーソキウスは二人の手錠を外し、解放した。
「神谷宗吾、早間玲奈、そなた達はこれより織斑一夏に仕えよ、彼にも直属の部下は在っても良かろう。」
「はっ・・・!ありがとう、ロンド・ミナ・・・!この恩は、命を懸けてでも!」
「拾われたからには、戦い抜くぜ!」
手錠を外された二人は、膝を付き、忠誠を誓う騎士の如く頭を垂れた。
それは、彼らなりの姿勢だったのだろうか、そこからは誠実さだけが伝わってきた。
「うむ、下がって良い、部屋に案内させよう、ゆっくり休むと良い。」
「あぁ、失礼するよ。」
もう用事は済んだとばかりに、ミナは二人に退席を命じ、それに従った宗吾達も、ソキウスの案内に従って部屋を去って行った。
「これで良い、一夏、そなたの未来がどの様なものか、私に見せてくれ・・・。」
彼等を見送り、独りになった部屋の中で、彼女はどこか愉しげに呟いた。
それはまるで、彼がこれから先の運命に抗う事を期待しているかのように・・・。
sideout
次回予告
漆黒の宇宙に二つの彗星が煌めく時、彼等は互いに響き合う。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
好敵手よ 前編
お楽しみに