機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
side一夏
また、ここか・・・。
何時ぞやの廃墟、最後の戦いとなったあの場所に、俺は只一人で立ち尽くしていた。
暗雲が立ち込め、時折雷鳴も聞こえる中でも、一際耳を劈く音が俺の耳を打ち続ける。
自然に発生している音では無い、金属と金属がぶつかり合う、途轍もなく不愉快な音・・・。
その発生源のすぐそばに、俺は立っていた。
白と黒の機体が刀を振るい、相手を切り殺さんと戦っていた。
どちらからも必殺の意志が見え、相手の心臓や頭を狙って斬撃を打っていた。
知らない訳がない・・・、俺が犯した大罪・・・、俺の、消せない過去・・・。
「こんなものを、俺に見せて何がしたいんだ・・・?」
だが、今更こんなものを見たところで、俺には何も変えられない、取り戻せないじゃないか・・・?
そうしている間に、黒い機体は左腕を落とされ、胸に刃を突き立てられて倒れた。
「俺が負け犬だとでも言いたいのか?俺には、何も出来ないと・・・?」
そんな事ぐらい、この俺が一番よく分かっている、だが、それだけだ。
俺はそうならない道を選ぶ事が出来る事を、今の世界で生きる事を、もう一度許されたのかもしれないのだから。
――本当にそうか?――
「誰だ・・・!?」
いきなりの声に辺りを見渡すが、そこにあるのは地に倒れ伏した黒い悪魔、ストライクノワールしかなかった。
いや、その声の正体を、俺は知っていた、気付いてもいた。
静かに黒い悪魔に歩み寄ると、ソイツは音も無く立ち上がり、俺の目の前に佇んだ。
――お前は人形、ただの道具だ――
「そんな事を言うためだけに俺の前に来たのか?いい加減消えてくれないか、俺は昔とは違うんだ。」
分かり切っているのに、もう整理のついたモノが俺の前にしつこく現れては、俺の感情をかき乱す。
それは、目障り以外の何物でもない。
――俺に消えて欲しいのなら、なぜ貴様は戦う?――
「なんだと!?」
俺の言葉に問う形で発せられた言葉と同時に、その悪魔はその姿を変えた。
「っ!!」
それは見紛う事の無い、俺自身の嘗ての姿・・・。
――過去を嫌っているのならば、戦いから逃げれば苦しまないのに、何故お前は戦い続けている?――
「それは・・・!!」
その問いに、俺は何も答える事が出来なかった。
そうだ・・・、人殺しの戦いから逃れる方法は幾らでもあった筈だ、なのに、俺は戦い続けている。
それは、今も人を殺めていると言う現実でしかなかった。
「だが・・・!昔とは違う!!俺は・・・!」
――やる事がある、か?それなら、何故俺を認めない?――
「っ・・・!?」
俺の言葉を遮る様に発せられた言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。
正しくは無いとは、もう二度と御免だとは思っていても、善悪の観点からみればあれは必要な犠牲だった事には変わりはない。
ただ、俺が受け入れられないだけであると、改めて突き付けられてしまうと反論のしようが無かった。
――お前は弱くなったよ、誰にも勝てない、誰も護れない、そんな愚かな人間に戻っちまってさぁ?――
「なんだと・・・!?」
弱くなっただと・・・!?俺が・・・!?
そんな事がある訳ない・・・、有り得るか・・・!!
知らぬ間に纏っていたIS、ストライクの腰から対艦刀を引き抜きながらも飛び掛り、その憎たらしい顔を切り飛ばそうとした。
だが、奴は俺が振るう対艦刀をいともたやすく回避し、こちらに反撃とばかりにビームブレイドの刃で切り付けてくる。
使い慣れ、自分の体の一部同然に扱えるストライクでも、相手はその上を行っていた、攻撃が全く当たらない。
これほどの差があるのか・・・!?今と、昔じゃ・・・!?
「くっ・・・!!」
――俺はこの程度じゃない筈だぞ?もっと強く、鋭かった、それが見る影もない――
そんな筈があるか・・・!機体の違いはあったとしても、俺はお前と同じ人形だった・・・!
それを分かってまだ戦うしかない俺が・・・!
幾ら否定しようにも、攻撃は届かぬばかりか、カウンターの様に放たれた斬撃がストライクの胸部装甲を抉り、その拍子に体勢を崩した俺の腹にレールガンが立て続けに撃ちこまれた。
「ぐぅあぁぁっ・・・!?」
それを回避する事が出来ずに大きく吹き飛ばされ、俺は背中から地に叩き付けられてしまう。
夢なら、早く醒めて欲しいものだ・・・、こんな事が・・・!!
起き上がろうと顔を上げると、そこには嘲笑を浮かべた奴の顔があった。
――そんな事にも気付けない様じゃ、本当に墜ち切った様だ、無様な男だな・・・、クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!――
「待て・・・!俺は・・・、俺は・・・!!」
呼びとめる俺の声に返す事も無く、奴は哄笑と共に闇の中へと溶けて行った。
何が・・・、俺が弱いだと・・・!?
何が弱い理由なんだ・・・!?
殺しを率先してやらなくなったのが要因だとでも・・・!?
だが、あんな事は、もう二度と・・・!!
「くそっ・・・!くそぉぉぉぉ!!」
何が答えなのか、何が正しいのか・・・、その理由すら分からなくなった今の俺には、憤りを吐き出すかのようにただ叫ぶ事しか出来なかった・・・。
sideout
noside
「っ・・・!!」
自身の叫びで目が覚めた一夏は、荒い息を吐きながらも目だけ辺りを見渡していた。
そこは彼が宛がわれた部屋であり、就寝時間の為に暗く、枕元の小さな明かりだけが部屋を彼等を照らしていた、
「俺が・・・、弱いだと・・・?そんなはずが・・・。」
起き上がる事無く、そして、隣で眠っている最愛の妻達を起こさない様に、彼は小さく自問するように呟いてた。
そんな筈はないと否定したかった、だが、現実はどうだ?
嘗ての様な絶対的なまでの力は失せ、今は部下一人さえ護れなかった彼が、自分は弱くなってないと言えないのも用然と言えば当然だった。
「・・・、くそっ・・・、あの力が正しかったとでも言うのか・・・?」
自分の腕に縋る様に眠るセシリアとシャルロットの身体を離し、彼は静かにベッドから降り、少し離れた所に設けられた備え付けのコンピュータの前に腰掛け、キーボードを静かに叩き始めた。
だが、その手は小刻みに震えており、苦しげな様子が伝わってくるようでもあった。
「今まで頼る気はなかったが・・・、やはり、この呪縛からは逃れられないのか・・・?」
コンピュータの中にあるファイルの内の一つ、彼が任されたガンダム改修計画の予想図、設計図が入ったファイルを開き、彼はその中にある、更に認証が必要なデータをパスワードを入力する事で開示した。
そこには、新型のストライカーの設計図が記されており、所々に正確な数値までもが記載されていた。
「プランN・・・、ノワールストライカー・・・、コイツだけは、もう見たくも無かったんだけどな・・・。」
自分が嘗て好んで使用し、大量の血を浴びる為だけに使用した、彼にとっての悪魔のストライカー、それがこの装備だったのだ。
この時代にはまだ設計すら開始されていない、データ収集段階の装備なのだが、彼の記憶から導き出した出力は、シミュレート上では強化された天ミナをも超える出力を叩きだしていた。
無論、使いたくないとは言えど、このストライカーは今も彼がもっとも好む武装類が装備されており、ベースにするには打って付けのモノである事には変わりなかった。
「これを使えば・・・、強さを取り戻せるのか・・・?」
強さを取り戻せたところで、過去の自分に戻ってしまうのならば願い下げなのだろうが、今の自分では護れなかった者がいる以上、このままという訳にもいかないと言うのが実情であるために、気持ちが揺らいでしまっているのだろう。
「ふっ・・・、らしくないぞ・・・、織斑一夏・・・、迷いに迷う、それが人間だろ・・・、そうだろ・・・?」
弱弱しい苦笑を零しながらも、彼は嫌な汗を流すために席を立ち、シャワールームへと入って行った。
故に気付いてはいなかったのだろう、ベッドで眠っていたセシリアとシャルロットがほんの少しだけ身体を起こし、彼を見ていた事に・・・。
「一夏・・・、また、あの時の夢を見てたんだね・・・。」
彼の後姿を見ていたシャルロットは、彼が感じている苦しみを、その根源である過去に想いを馳せながらも、何もしてやれない自分の無力を嘆くかのような表情を浮かべていた。
自分達も彼と同じ業を経験して来た身であり、それ故にどうする事も出来ないのだ、何故ならば、彼は彼女達もその道に引き込んでしまったと言う苦しみがあるのだから・・・。
「あれは・・・、ノワールの・・・?」
ベッドから降り、一夏が着けっぱなしにしていたコンピュータの画面を覗き見たセシリアは、そこに表示されていたデータに、軽い驚愕の表情を浮かべていた。
それは、彼が苦しむ過去を体現したモノであり、忌避していた物でもあった。
「これを御使いになられる御積りなのでしょうか・・・、ですが・・・。」
「うん・・・、また、あの時の苦しみに苛まれるだけ、だよね・・・。」
忌避していたモノにまですがる思いで、彼は自分の弱さを打ち消そうとしてるのだろう、彼女達には彼のそんな想いが痛いほどに伝わって来ていた。
だからこそ、自分達も何かしてやれないものかと、彼の苦しみの種を摘んでやれない物かと思っているのだろう。
だが、答えはいまだ見える事無く、彼女達もまた、彼と同じ様に苦しみの中でもがいているだけだった・・・。
かつて犯した罪に苛まれながらも・・・。
sideout
noside
「・・・、以上が次のミッション内容だ、諸君達には各々の機体のデータを集めてくる事を目的とする、質問はあるか?」
『ありません。』
北米大陸、カリフォルニアにある連合軍基地のとある部屋にて、一人の連合軍指揮官と、その部下と思しき五名の若者たちの姿がそこにはあった。
司令官と思しき中年の男は、若者達に指示がいきわたった事を確認し、満足そうに頷きながらも席を立ち、さっさと部屋を出て行ってしまう。
一連の動作を窺うに、彼は自分の部下と言えど、兵士の事など何とも思っていないのだろう。
ただ使える戦力であるから使っている、そんな雰囲気が見て取れた。
「またテロリストの殲滅かぁ?俺らも忙しいねぇ~。」
「ほんと~、裏の部隊の筈なのに最近出ずっぱりよね~。」
そんな若者たちの内の、黒人の青年と濃い化粧の女性はどこか呆れた様な声で話していた。
裏の部隊、その言葉が意味するところは全くもって計り知れないのだが、彼等の言葉から察するに相当な意味を持っているのだろう。
「俺は戦えればそれで良いさ、テロリストだろうとコーディネィターだろうと、潰す時の悲鳴は格別さね。」
「ふん、お前らしい、コーディネィターは人類の敵だ、命令が無くとも、俺は潰しに行く。」
そんな彼等の会話を聞いていた黒髪を伸ばしっぱなしにした青年と、赤髪の青年はそんな事よりも優先すべきモノがあると、その雰囲気が物語っていた。
「お前も戦いたいんだろう?空を見上げてるのも、潰したムシの数を数えてるんだろうなぁ?」
「・・・、どうだろうな・・・、だが、準備は必要だ、俺は失礼する。」
黒髪の青年は、隣にいた灰色の髪を持った青年に尋ねていたが、彼は素っ気なく返した後、そそくさと部屋を後にした。
「へっ・・・、無愛想な奴だぜ、だがまぁ、やる事やってるだけ良いか・・・?」
そんな彼を見送った後、黒髪の青年は苦笑しながらも呟き、交戦的な笑みを浮かべた。
これから自分達が行う破壊を、心待ちにしているかの様に・・・。
sideout
次回予告
目的のため、再び地球へと降りる一夏達、そこで待つ新たなる試練とは・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
重力の底へ
お楽しみに~