機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
sideシャルロット
「ねぇ一夏、あれで本当に良かったの?」
連合軍との交戦から、何とか逃げ延びて潜水艦に着艦した後、僕はストライクの足元にいた一夏に、さっきの戦闘での事を聞いてみた。
折角同じ機体同士での戦いだったのに、まともにやり合わずに逃げる事を重視した戦いなんだ、正直なところ、データは録れたといっても雀の涙ほどで、とてもじゃないけど満足出来るモノじゃなかった。
それは彼も同じだろうし、せめてもう少し戦っていても良かったんじゃないかなって思うんだよね。
「良かったって・・・、撤退した事に怒ってるのか?」
「違うよ、録れたデータがあんな少なくていいのかって事だよ。」
何処か清々したような表情をしながらも、少しおどけた調子で聞き返す彼に、若干の戸惑いを感じながらも、質問の真意を改めて尋ねた。
なんだか・・・、作戦前とは雰囲気が少し違う様な・・・、どういう事なの・・・?
「ま、人命第一で動いたらあぁせざるを得ないさ、それに、俺の目的は大方達成できたから満足さ。」
「目的、ですか・・・?」
僕達の話を聞いてたんだろう、セシリアがこっちに来て彼に尋ねていた。
セシリアも理解出来なかったんだろうね、目的が何なのかってね・・・。
「まぁ、黙ってても仕方ないし、君達には知る権利がある、ちゃんと話すよ。」
問い詰められてるって思ってるんだろうか、彼は降参だと言わんばかりに手を挙げて言葉を紡いでいく。
「さっきのストライクのパイロット、昔の俺に似ていた・・・。」
「えっ・・・?」
だけど、その瞬間に彼は表情を硬くし、何処か憤りが滲む表情で話す。
その雰囲気に、そして、人形と言う単語を連想した僕達は、ただ聞き返す様に言葉を発するしか出来なかった。
もし、彼の言う通り、相手が人形だとしたら、彼は昔の自分と戦った事になる。
それは、直接刃を交わさないと分からない、感覚的なモノだと思うけど・・・。
「悦楽も、憎しみも、何も感じなかった・・・、それが怖かったよ、俺もそうだったと考えると、余計にな・・・。」
「一夏様・・・。」
その気持ち、痛いほどわかるよ・・・。
僕も、そしてセシリアも人形だったから、大切な人にそうならない生き方を教えて貰えたから・・・。
だけど、彼は誰からも教えて貰えなかった。
人間としてどう向き合うか、どう答えを出すか、それを自分で見つけようとしていたから。
「あんな思いを、もう誰にもさせたくない、そう思ったら妙に気分が軽くなった気がするんだ。」
「一夏・・・?」
けど、吹っ切れたと言う様に笑う一夏の表情には前までの張り詰めた様な色は無くて、昔とは違う色の輝きがその瞳に戻った様な気がした。
「怒り任せで戦った事は後悔すべきだったけど、お陰で立ち上がらせてもらう覚悟もできた。」
力強く拳を握り締めて語る彼の言葉には、今までにない力強さが満ちていた。
昔、人形になる前のそれに近い感触に、一抹の寂しさと懐かしさを思い出したけど、今はそんな感覚は後回しにして、彼を見てないとね。
「漸く腹も決まった、あのストライカーのデータを基に新しい翼を作る、それが一番の強化策になるんなら、な?」
「まさか、ノワールを・・・?」
あのデータを使うという事は、、彼は嘗ての自分の象徴を背負って行く事になる。
それは、何よりも辛い事の筈なのに・・・?
「まさか見たのか・・・?あれ、ロックかけてた筈なんだけどなぁ・・・、っと言っても、君達には丸分かりか・・・?」
「どれだけの間、夫婦をやっているとお思いですか?貴方様の事を、一番近くで見て来たのは私達ですわよ?」
「そうだよ、貴方の苦しみを分かるなんて言いやしないけど、貴方の事を一番思ってるのは僕達なんだから。」
彼の事を全部分かるなんて言える訳がない、それが出来たのは人形だった頃だけだ。
今、僕は彼が感じてる痛みを、間接的にしか知る事が出来ない。
もし、彼の痛みも苦悶も全部分かるんなら、それは僕達が人形だからだ。
だから、一番近くで彼を見続けてきた、想ってきたと言う言葉だけが、今の僕達にとっての真実なんだと思う。
「そうだな、その通りだ。」
僕達の言葉を受けて、彼は微笑みながらも背伸びをしていた。
かなりの疲労感があったのか、少し動かしただけで骨が鳴る音がしていた。
「さて、と・・・、一旦部屋に戻って休もう、オーブに戻ったら報告書やら観光やらで忙しいしな?」
「それを目的に組み込んでも良かったの・・・?」
休みたいって言うのが本音だったのかな・・・?
いや、もしかしたらミナさんの指示なのかもしれないね、働き詰の彼に休んで来いって・・・。
まぁ、オーブは政治的に関わるよりも、観光で訪れた方がメリットの多い場所だって言うのは認めるけどね。
そんな事はどうでもいいかな、彼が僕達に何かしてくれるのなら、それを甘んじて受けるのも妻の役目というものだろうし・・・。
一夏とセシリアと、三人で過ごしたいって言うのが僕の想いだから、ね・・・♪
sideout
noside
「か~っ・・・!!やっと終わったぁぁ・・・!!」
モルゲンレーテの応接間に、コンピュータに向かっていた玲奈の歓声にも似た様な叫び声が木霊した。
オーブのオノゴロ島にあるモルゲンレーテ本社に戻った一夏達は、使用した機材や会敵した機種、そして戦闘時間や操作性などを記した報告書を提出する為にコンピュータに向かっていた。
どうやら、エリカからデータを多めに渡して欲しいと言う旨の依頼が入ったらしく、彼等は少々ウンザリしながらもレポートを纏めていた様だ。
「時間が掛かり過ぎだ、お前の半分の時間で終わらせた宗吾を見習え。」
「苦手なモンは仕方ないでしょ~・・・!」
既に報告書の作成を終えた一夏は、別の作業をしながら彼女の叫びを平淡にあしらっていた。
その対応は、集中させてくれと言わんばかりの冷たく突き放す様な物だった。
「で、何を作ってるんだ?それも俺達の分まで・・・?」
報告書をコピーし終えた宗吾は、凄まじい勢いでキーボードを叩く一夏の手元を覗き込みながらも尋ねていた。
彼からは急いで作っている様な気配が見受けられていたが、そこまで切羽詰まった様な色が見受けられなかったために疑問に思ったのだろう。
「待ってろ、もう少しで出来上がりだ、国内での移動手段は持っておくべきだからな。」
「移動手段て・・・、どうしようって言うのよ?」
彼の言葉の真意を測り損ねたのだろう、玲奈が首を傾げながらも宗吾と顔を見合わせていた。
一夏の思惑は何時も見抜けない事が多いが、今回は更にその気が強かったのだろう。
「よっし・・・、出来た、全員、これ持って置け。」
暫くして作業を終えたのだろう、一夏は隣にいたセシリアとシャルロット、そして宗吾と玲奈にもなにやらカードらしきものを手渡していた。
彼等がそれに目を通すと、そこには各々の名前と顔写真が載っていた。
「これって・・・、免許証?」
「あぁ、不法侵入者と間違えられない様にしておく必要があったし、軍用車も借りられるだろうしな。」
「観光の為だけにカードの偽造までする君が凄いよ・・・。」
「そんな事の為だけに、か・・・!?」
観光目的での偽造を平然と行う事に驚いたのだろう、宗吾と玲奈は目を丸くし、開いた口が塞がらないと言わんばかりの表情をしていた。
いや、それ以前に一夏がここまでマルチな才能を発揮できる事に驚いている事も大きいのだろう。
「さぁて、仕事は一先ずお休みだ、三日後の出発まで存分に楽しんでおけ、折角の南国だしな。」
「おい・・・、良いのか・・・?良いのかこんな事で・・・!?」
最早観光気分になっている彼の切り替えの早さに付いて行けないのだろう、宗吾は一夏を引き留めようと声を上げたがまったく意味は無かった。
何せ、切り替えておかなければならない時があると、彼は知っていたのだから・・・。
sideout
side一夏
「ここがオーブ市街か・・・、やっぱり、ひどい有様だ・・・。」
軍施設からバイクを拝借した俺は、他の四人と共にオノゴロ島の市街地にやって来た。
連合軍が仕掛けた戦争からまだ一年も経っていないから当然と言えるのだろうか、それとも軍事施設から然程離れていなかったからか、所々に弾痕や焼け焦げた跡が見て取れた。
そう、廃墟同然で、人も片付けの為に慌ただしく動く作業員と、地面に蹲って動かない浮浪者ぐらいしか見当たらない。
まったく・・・、こんな有様を見るぐらいなら、海に出ておけば良かった・・・。
こんな現実なんて無かったように煌めく海の方が、精神衛生にはよっぽど良い・・・。
「本当に・・・、人が生活していたなんて、嘘の様ですわね・・・。」
「こんな事を・・・、僕達もしていたのかな・・・?」
セシリアは痛ましげに目を伏せ、シャルは何処か過去に思いを馳せながらも震えていた。
無理も無い、俺達の嘗てはこれと似たような事をしていた。
怒る事こそすれど、非難する権利なんて有る筈が無いんだ。
「っ・・・。」
「無理して付いて来る必要は無かったんだ、モルゲンレーテの社員用プールにでも入ってても良かったんだぞ?」
その惨状は、今だこの世界に来て、戦い始めて間もない宗吾と玲奈にはまだ刺激が強すぎたようだ、二人とも表情が蒼褪めており、今にも倒れそうなほど震えていた。
俺は二人に、これから行く所に付いて来ることは無いと釘を刺しておいたが、二人はそれを断って付いて来た。
「大丈夫だ・・・、慣れておかないと・・・、咄嗟の時に死ぬだろ・・・?」
「こういう所も、戦争の内でしょ・・・?」
だが、二人は俺を心配させないつもりか、引き攣った笑みを浮かべて俺の提案を蹴った。
どうやら、戦うためにはこういう場面こそ見なきゃいけないとでも思っているのだろうか・・・。
「これが戦争か・・・?関係の無い人間まで巻き込んで、逃げる人間も巻き込んでいく事が戦争か?俺達がやろうとしている事は、こうならせない様にする事だ、よく覚えておこう。」
それは、二人に向けて言ったつもりでも、自分に言い聞かせる様な言葉になっていた。
二度とあんな事をして堪るものかと、あんな裏切りをして堪るかと言い聞かせる様に・・・。
「場所を変えよう、こんな所じゃ気分も変えられない・・・。」
此処に居るのが嫌になった俺は、メットを被り直してバイクに跨った。
せめて、何もない場所で心を落ち着けられれば、と・・・。
俺に倣うかのようにセシリア達もバイクに跨って俺の後を追ってくる。
しかし、ひどいモノだ、施設が自爆したからと言うのも大きな要因の一つだとは思うが、ここまで被害が大きいとはな・・・。
国のトップの一存で破壊したは良い、だが、後の事を考えてはいたんだろうか?
確かに、あの時の状況から、連合との戦闘は避けられても、次はザフトが攻めてきていただろう。
運が無かったと言えばそれまでだが、果たして抗戦が、自決が正しい道だったのだろうか?
嘗て、俺がやっていた戦いは、一体何の為にあったんだろう・・・。
世界を変えると言いながらも、その実、戦いを楽しんでいたに過ぎないんじゃないか?
あぁいう風に、路頭に迷って苦しむ人達の事も考えていたんだろうか?
俺は、何がしたかったんだ・・・?
悩んでも、悔やんでも遅い事なのに、俺は嘗てに想いを馳せていた。
全てを救う事なんて出来やしないのは分かっているつもりだ、なのに、少しでも多くの人を助けたいと思っている事は傲慢か何かなのだろうか?
結局、幾ら悩んだ所で答えなんて出せるはずが無いのに、俺は答えを求め続けている。
その意味すらも、既に分からなくなりつつある中で・・・。
気が付けば、俺達は湾岸線沿いを走っていた。
この辺りは一番の激戦地だったのだろう、先程いた市街地よりも酷い有様だった。
「ここも・・・、安らぎを求められる場所じゃないのか・・・?」
一体何処に行けば俺は苦しまずに済むんだ?
一体何をすれば、この苦しみは終わるんだ?
救いを求める様に視線を彷徨わせた先に、俺はあるモノを見付けた。
その場所だけ新しく整備されたかのように、周りの殺風景さとは浮いた印象を受ける足場に、海を見渡す崖の際にひっそりと建つ石碑があった。
「あれは・・・?」
離れていては詳しく分からないとでも思ったか、俺は道の端にバイクを止め、その石碑へと歩み寄った。
出来てまだ真新しいのだろうか、オーブの公用語である日本語で記されており日系人の俺には苦も無く読み取れた。
「戦没者慰霊碑・・・、か・・・、手向けの花束ぐらい、持って来れば良かったかな・・・。」
手向けになる物も、捧げるモノも用意できずに来てしまった事に申し訳なさが頭を過ぎった。
死んだ人達に、せめてもの手向けとして何かをしたかったんだけどな・・・。
「一夏様・・・?」
「これって・・・、オーブ侵攻の時の・・・?」
「あぁ、新しさから考えて、そうだろうな・・・。」
追い付いてきたセシリア達の言葉に答えつつも、俺はせめて黙祷だけでもと、俯いて瞳を閉じた。
戦った者も、巻き込まれた者も、安らかに眠れるように祈りながら・・・。
俺に倣って全員が黙祷を始めた時だった、背後から誰かが近付いてくるような気配が感じ取れた。
足音としては二人か三人といったところか・・・?
黙祷を止め、後ろを振り向くと、そこには花束を抱えたピンク色の長い髪を持った少女と、少女に付き添われるように立っている、何処か心に傷を負った様な雰囲気を漂わせた茶髪の少年が立っていた。
二人からは、何処か浮世離れした様な印象を受けたが、後々考えればそれは錯覚でもなんでも無かった様な気がした事を、今の俺は知らなかった。
「あら?観光の方ですか?」
この辺で見かけない顔だとでも感じたのか、少女は不思議そうな顔をしながらも俺達の方へと歩み寄ってくる。
「まぁ、そんな所だよ、コペルニクスから降りてきたばっかりでね。」
曖昧に誤魔化したつもりなのか、宗吾はコペルニクスからやって来たと言う嘘を吐いていた。
まぁ、俺達の本拠を知られても困ると言うのがあるからどうこう言わんが・・・。
「そうですか・・・、此処へ来られるのは初めてですか?」
「あぁ・・・、偶然見つけて、手向ける花も用意できなかったけどな・・・。」
俺達の雰囲気に何かを察したんだろう、少年は憂いを帯びた目で俺を見てきた。
この感じ・・・、何か苦しみを抱えて生きている人間の・・・。
と言う事は・・・、彼も何かに苦しんでいるのだろうか・・・?
いや、そんな詮索をしたって無意味だ、俺は彼じゃない、苦しみを分かる事なんて出来ないんだから・・・。
「でしたら、このお花とご一緒でも、よろしいですか?」
「すまない、助かるよ。」
少女の申し出をありがたく受け取り、俺は彼女が花を手向ける所を見ていた。
小さな音を立てて花が慰霊碑の前に手向けられ、俺達はもう一度黙祷を捧げる事にした。
暫くの間、祷りを捧げた後、俺達は誰がそうする訳でも無く向き合っていた。
ピンクの少女は俺達を真っ直ぐな、だけど真意を悟らせない瞳で俺達を見据え、俺は俯く少年を見た。
「君達は・・・、よくここに来るのか・・・?」
「いいえ、私達もここに来るのは初めてですわ、貴方方もそうでしょう?」
俺の質問の真意に気付いたんだろうか、それともただ額面通りに受け止めたんだろうか、彼女は何処か笑みながらも答えていた。
この少女・・・、只者じゃないな。
普通の人間ならば引き込まれる様な何かを持っているのだろうが、生憎、それなりの場数を踏んで来ている分、自分を見失っても何かに縋る様な真似はしないし、したくない。
せめて、答えは自分自身で見つけたいから。
「そうだな、少年、君もそうか・・・?」
「はい・・・、でも、実感が湧かなくて・・・、どうして、なのかも・・・。」
まだ、傷が癒えないと言うわけ、か・・・。
俺も人の事を言えた立場じゃ無いけど、何時までも引き摺る訳にもいかないから・・・。
「なるほどな・・・、ありがとう、それを聞けただけでも、ここに来た意義はあったよ。」
「それは何よりですわ、私達も、貴方方とこうして出会えて嬉しく思いますわ。」
お辞儀を返す少女に頭を下げつつも、俺は何処か値踏みする様な感触を感じた。
少年からでは無い、目の前にいる少女からだ。
彼女は恐らく、数々の修羅場を潜り抜けている、自分が引き込んだ人物たちの手によってな・・・。
彼女とはあまり付き合いたくはない、近付いてはならないと本能が警鐘を鳴らしているような気がした。
「それじゃあ、俺達は行くよ、今日中に回りたい所があるんでな。」
「あら、それではお見送りさせて頂きますわ。」
「あぁ、縁があればまた会おう。」
車道まで出て来てくれた二人に手を振ってから、俺達は再び道を走り出した。
さて・・・、時間はまだ少しだけある、海にでも行ってから、帰るとするかな・・・。
そんな事を考えながらも俺は行く。
戦いにどう向き合うか、その答えを求めながらも・・・。
sideout
次回予告
宇宙に戻った一夏達は、己が力を着ける為に戦い続ける、それが如何なる道へと続こうとも・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
BEGINNING
お楽しみに