機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「はぁ!?これを超えるストライカーを作れだぁ!?」
C.E.72年7月初旬のある日、アメノミハシラの格納庫に絶叫が一つ響いた。
その声の主は、アメノミハシラの整備士長兼A.G.R計画の技術長、ジャック・ウェイドマンであった。
普段から威勢が良く、それなりに大きな声での指示を飛ばす彼だったが、今回の叫びは普段のそれとは異なった様子であった。
「近くで叫ぶなよ・・・、耳が痛い。」
「喧しい!」
そんな彼の叫びに顔を顰めていたのは、計画の主導者であり、アメノミハシラの№2、織斑一夏だった。
彼等の反応を見るに、ジャックの叫びは一夏からの無理難題を受けた事によるモノだと考える事が出来る。
「お前がこんなデータを何処で手に入れたのかとか、設計できたとかはあえて聞かないがよ、これ以上の性能は無理があるぜ?」
渋面を作りながらも、ジャックは手渡されていた資料に再び目を通していた。
その資料とは、一夏が自身の過去の経験から密かに作成していた、ノワールストライカーの正確な数値を示したデータであった。
その出力は、一夏が現在使用しているI.W.S.P.を優に上回っているのだ、このまま造ったとしても実戦でも十分通用するレベルまで引き上げられるだろう。
だが、そのレベルでは到底満足できないのだろう、一夏は首を横に振りながらもジャックの言葉を否定した。
「これじゃダメなんだよ、ジャック・・・、ストライクレベル以上の量産機がこれから出てくるんだ、最低でも今の二倍のスペックが欲しいんだ。」
「二倍だとぉ!?しかも、ストライクも込みでフルチューンか!?一体どれだけの時間が掛かると思ってんだ!!」
スペックを二倍にする、言葉に出すのは簡単だが、それに要する時間は想像を絶している事は確かだ、今現在では技術力も、そして必要なデータも何もかも不足していたのだ。
「無茶を承知で頼む!後一年半、いや、十四か月で作ってほしい、足りないデータは全員で集めてくる、何が何でもだ!」
「・・・っ!」
何時になく熱心な一夏の表情から何かを感じたのだろうか、ジャックは言葉に詰まりながらも考えを巡らせた。
確かに、先を見越して物を考えると、大きな戦乱が起きていないこの時期、力を着けるには持って来いであり、新型試作機やそれに準ずる機体群も開発される時期なのは明白であった。
特に独自の立場を貫くアメノミハシラの事を考えれば、多少の無理をしてでも開発の歩みを進めなければならないのは自明の理だった。
それに加え、この時期に得られたデータが後々の開発の糧になる事も考えられるため、残された選択肢は一つに絞られてくる。
タメ息を大きく吐き、彼は諦めたように後頭部を手で掻いた。
「分かったよ・・・!試作のパックを造る、まずはそれで様子見だ、他の四機の事もあるんだ、ストライクだけに感けてる訳にもいかんよ。」
「すまない・・・、頼んだよジャック、後でシミュレートした細かいデータを渡すよ。」
何処か焦燥に滲む表情をする一夏に、多少時間が掛かると釘を刺しながらも、ジャックは数名の技術士達を呼びよせ、ノワールのデータを手渡していた。
「なるべく早く頼むぞ!時間はいくら有っても足りないんだからな!」
「任せてくれ、二日以内に持ってくる。」
彼の言葉に頷き、一夏は踵を返して格納庫からシミュレーターが置かれている区画まで去って行った。
「ったく・・・、ぼさっとしてないで、俺達も動くぞ!解析を始めろ!!」
やるしかない、そう覚悟を決めたジャックは、部下の技術士達に号令の激を飛ばし、ストライクの戦闘ログの解析に着手した。
そう、戦争が無くとも、整備や開発の現場は常に戦場なのだから・・・。
sideout
noside
「ドラグーンをどうしましょうか・・・。」
一方その頃、自室に籠ってデュエルの武装類、戦闘データの総見直しを行っていたセシリアは、ある一つの問題に頭を悩ませていた。
それは、彼女が最も得意とするドラグーンの事だった。
既に他の武装の問題点や種類、それから機動力や防御力など、使い慣れた機体の長短を判別する事など造作も無い事であり、粗方片付いた。
しかし、いくら彼女であっても積まれていない武装に疎いのは無理はない。
「ビームはエネルギー効率が良くありませんし・・・、かと言って実弾はPS装甲には効きませんわね・・・。」
大出力ビーム兵器やPS装甲が普及している今の戦場における実弾の優位性は失われたに等しく、配備が残っているとしてもエネルギーの確保のための苦肉の手段でしかないのだ。
しかし、そのビーム兵器やPS装甲も、バッテリー駆動の機体にとっては活動時間を大きく制限されるものであり、そう易々と数を装備できないのが実情だ。
「基本思想はドレッドノートがありますから、どうとでも成りますが・・・、後は私の好みと機体の活動的余裕ですか・・・、設計と言うのも難しいモノですわね・・・。」
テーブルに置いておいた紅茶を啜りながらも、彼女はこれまで経験したことが無かったMSの設計や武装の設計を行った事が無いんだ。
「しかし・・・、ビームや実弾も今では絶対的な破壊力はなさそうですわね・・・、ハイぺリオンのシールドはどちらも効きませんし・・・。」
それに加え、今はビームをシールドにしたシールドも開発され、実用化されているのだ、多面的攻撃を行える武装すら弾かれてしまうのだ。
そのため、アルミューレ・リュミエールなどの純粋なエネルギーで構成された兵装にも対応できる装備が必要となってくるのだ。
「あら・・・?突貫できる兵器・・・、何かあった様な・・・?」
だが、彼女の脳内では既にその問題に対処できる装備が思い返されていた。
それは、嘗て共に行動していた最強の傭兵が使い、数々の戦果を挙げた武装・・・。
「タクティカル・アームズ・・・!そうですわ・・・!ラミネート装甲で刀身を構成すれば・・・!」
タクティカル・アームズはその刀身をラミネート装甲で構成されており、ビームサーベルと切り結ぶ事も出来る。
そして、その原理を応用すればビームで構成されたアルミューレ・リュミエールなどのシールドにも対応できる理想的な実体剣だ、使わない手は無い。
「ビームサーベルを発振させればPS装甲も貫く事が出来る・・・!これですわ・・・!!」
何かを閃いたのだろう、セシリアの指がキーボードを直走り、何かを構築していく。
そして、無我夢中で仕上げた武装は・・・。
「ソードドラグーン・・・、これならば近接戦でも使えますわね。」
自身が得意とする二つの戦い方を実現できる武装、それはセシリアにとっては是が非でも欲しいモノだろう。
生き残る為に、今度こそ信念の下で戦うためにも。
弟が抱いた夢と希望、そしてその輝かしい想いを継ぐ事を決めたセシリアは、データをコピーした後、部屋を飛び出して行った。
次こそ、間違えないためにも・・・。
sideout
noside
「まただ・・・、まだ遅い・・・!」
同じ頃、シミュレーターの前で軽い苛立ちを浮かべているシャルロットの姿があった。
見た限り、結果が思わしくないのだろう、INCOMPIETEの文字が表示されていた。
「バスター自体は良い動き出来るのに・・・、武装が追い付いてない、か・・・。」
スラスターの数は少ないが、適切な箇所に配置されている為に、AMBAC機能などを使えばそれなりに動ける。
だが、問題はその偏り切った武装類に問題があった。
「前後連結式のビームライフルとガンランチャー・・・、好きなんだけど使い勝手悪いなぁ・・・。」
そう、バスターはその設計思想上、長物が多く、取り回しがあまり良くない装備のみで構成されている。
無論、運用上は近付かれない事を大前提とされている為にこの装備に落ち着いた訳なのだが、彼女の立場上、一機でオールラウンドを熟す必要があるのだ、少しでも多くの戦況に対応できる武装が何よりも望まれる。
「うーん・・・、それに、バルカン砲が無いのもねぇ・・・、せめてイーゲルシュテルンみたいなのがあれば牽制にもなるんだけどなぁ・・・。」
シャルロット自身は射撃寄りのオールラウンダーであり、それなりに格闘戦も熟せる、そのため、近接戦装備も少しは欲しいと言うのが本音なのだろう。
「せめて、連結のタイムロスだけは何とかしないと・・・、無駄も多いし・・・。」
自分の好みである大火力は潰したくはない、だが、要らない時間のロスで身を危険に晒したくはない、そんなジレンマに焦がれながらも、シャルロットは精一杯頭を捻った。
「あれ・・・、そう言えば、銃剣を使った事、あったよね・・・?」
しかし、シャルロットも幾度となく激戦を潜り抜けた来た猛者だ、様々な武器を使用し、見て来てもいた。
そして、彼女はそれに対処できる武装を使っていた事を思い出したのだ。
「そうだ・・・!ヴェルデバスターのあのビームライフルならラグが少ないし、近接戦にも対処できる・・・!使わない手は無いね!!」
彼女が嘗て使った武器の中に、近接戦も武装連結によるタイムラグも解決できるものが有ったのだ。
虐殺に用いた武器を使うのは些か気が引けるが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。
寧ろ、嘗てと全く同じでは無く、そこから更に発展させればいい、そう考えたのだろう。
「早く仕上げないとね、時間は限られてるんだし、皆の足手纏いにはなりたくないしね。」
自分が中心になるという心積もりで、シャルロットはキーボードに指を走らせ、武器のデータを構築していく。
少し時間は掛かるだろうが、彼女はやり遂げるだろう。
自分の為に、愛する夫の為に、愛する盟友の為に、そして、掛け替えの無い友の為に・・・。
sideout
noside
そのまた同じ頃、格納庫に置かれているブリッツのコックピットでは、メインパイロットである宗吾がデータとにらめっこをしながらも頭を抱えていた。
「ブリッツの機動性は兎も角として・・・、問題は武装とミラージュ・コロイドの応用だよなぁ・・・、天ミナのデータも貰えればそれで良いんだけど・・・。」
自身の機体の問題点と言うより、活かし切れていない自分の不甲斐無さと、闇討ち同然の戦い方に苦手意識を感じているのだろう、彼の表情からはブリッツの方向性を転換しようかと言う様な色さえ窺う事が出来た。
ブリッツは元々試作機と言う事もあり、ストライク等X100系フレームに特殊機能を詰め込んだX200系フレームに属している。
そのため、特殊機能であるミラージュ・コロイドを無視すれば、X100系となんら変わる事の無い機体である事になる。
それ故に、武装の追加とスラスターの改良だけで済ませてしまいたい所だったが、折角ミラージュ・コロイドを搭載しているのだ、活かしたいと言うのも彼自身の本音だった。
「俺に扱いきれる自信ないし、少ない装備でどう戦うかを考えるべきかなぁ・・・?」
扱いきれないのなら切り捨てても構わないとは思えど、折角の特色を潰すのはあまりにも惜しい。
そこが彼の頭を悩ませる最も大きな要因だった。
「けどまぁ・・・、暗器は欲しいよな、ナイフの一本や二本は有っても良いかね?」
「さぁね、でも、ブリッツには御似合いかもね。」
自分の言葉にかぶせる様にして発せられた言葉に顔を上げると、そこにはパイロットスーツを着込んだ玲奈がハッチの縁を持ちながらも彼を見下ろしていた。
「いきなりだな、玲奈、お疲れ様。」
「ん、お疲れ、お互い大変ね、こんな事になるなんてね・・・。」
玲奈から手渡されたドリンクボトルを受け取りながらも互いに労い合う
そこには信頼感に満ちており、彼等の仲の良さが窺えた。
「そう嘆いても仕方ないさ、運命だと割り切って戦ってくしかないだろ?」
「そう言われちゃそうなんだけどねぇ・・・。」
自分達が生きる為とはいえど戦いに身を投じているのだ、彼等の上司である一夏達とはまた違う葛藤があるのだろう、彼等の表情には苦いものが有った。
「ま、俺のブリッツは武装の追加だけで何とかなる、イージスは?」
しかし、湿っぽい話はしたくないとばかりに、宗吾は両手を挙げながらもおどけた風に返していた。
「ん・・・、さっきまでレイダーを借りて動かして分かったわ、参考には出来るけどベースには出来ないわね。」
「やっぱりな・・・、一夏の言った通りって訳か?」
それを察したのだろう、玲奈はうんざりとしたような表情を見せながらも話し、それを聞いた宗吾もげんなりとした様子を見せた。
「旋回性能は悪くないけど、お陰で速度が出ないし、飛べたところで意味ないってのが本音よね。」
「確かになぁ、貶したくはないけど、所詮は量産機ってとこか?」
欠点を挙げていく彼女の言葉に、彼もまた自分の事の様に悩んでいた。
イージスは可変機であり、その機構上、他の機体を参考にする事は難しい。
そのため、同じX300系統であるレイダーに望みが託されたわけだが、量産機故の癖の無さが仇となり、彼女の求める速さが実現できないという始末だったのだろう。
「それに、装備の配置も参考に出来やしないわ、あれ、外付けが基本だもの。」
「可変機の外付けはデッドウェイトになるしな、イージスは殆ど組み込み式だったっけ?」
「そうなのよ・・・、まぁ、飛べなかったら武装なんて何の意味も無いけどね・・・。」
自分には好きか嫌いかを分けるぐらいしか出来ない事への不甲斐なさに嘆いているのだろうか、玲奈は肩を落として呟いた。
もっと、自分の手で愛機を活かしてやりたい、共に空を駆けてみたいと思えど、彼女は無力だったのだ。
「まぁ、考えても仕方ない、今分かった事だけでも報告しよう、それが一番の近道かもしれないしな。」
「そうね・・・、それが一番よねっ。」
分かること、出来ることを優先しようとする二人には、進むしかないというある種の覚悟も見てとれた。
自分に出来る事を確実に熟し、何時かは誰かに頼って貰える様にと・・・。
sideout
次回予告
闇に潜む者として、彼は戦う、力尽きるまで・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
遺物を求めて
お楽しみに