機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
side一夏
「ハァァァッ!!」
俺は、戦いの中にいた。
何時もと変わらない戦場だと思っていたが、今日は違った。
今、俺を支配するのは僅かな怒りと、大きな憤りと、自己嫌悪のみ。
コートニーと戦う時のような高揚も無ければ快感も無い、只々、不快感だけが付き纏う。
「お前は・・・!お前だけは・・・っ!!」
無我夢中でMSを操り、ビームサーベルで目の前にいる、パープル主体の機体へと斬りかかる。
だが、俺と同じ様な思考回路を持っているからか、奴はいとも容易くそれを回避、持っていた刀でこちらを切り付けてくる。
その度に、嘗ての俺の姿が脳にフラッシュバックし、更に俺を掻き乱す。
何時までも付き纏って消えない、この苛立ちを更に掻き立てる存在、それが今の俺でさえ気に喰わなかった。
「消えろよっ・・・!消えてくれよっ・・・!!このっ、亡霊がぁぁっ!!」
怒りと憤りを乗せ、俺は、何度も刃を振るった・・・。
sideout
noside
一時間程前のアメノミハシラMS格納庫・・・。
「ストライクの改修が予想以上に延びてるな・・・、なんでだ?」
C.E.73年二月頃、一夏は昨年末に中破して以来中々進まない愛機、ストライクの改修計画に疑問を抱き、現場総主任であるジャックに直談判しに来ていた。
とは言え、開発現場のメンバーとて、MS開発だけを手掛けている訳ではない、MS整備から修復、更には戦艦の手入れやアメノミハシラ全体の補修点検なども全て担っているのだ、如何にシフトが余裕を持って組まれているとは言えど、人手が幾らあっても足りない状況には変わりなかった。
「いやぁ・・・、思った以上に内部システムの調整に時間が掛かっちまってんだ・・・、お前、相当ストライクに無茶させてるだろ?」
尋ねてきた一夏の言葉に、ジャックは申し訳なさそうに答えていた。
二か月ほど前のデブリベルトの戦闘で、ストライクは全体の40%近くにに及ぶダメージを受けたが、外見以上に内面にダメージは深刻であり、修復は困難を極めているようだ。
「あぁ・・・、あの一戦で限界を超えたと・・・、なんか、申し訳ないなぁ・・・。」
それを知って、一夏は表情を曇らせた。
自分の実力が愛機を酷使し、そのボディをボロボロにしてしまっている。
その事を負い目と感じているのか、彼の言葉からは心底申し訳ないという様な色が窺えた。
だが、彼等はそのまま立ち止まっている訳では無かった。
「けど、安心しろや、完璧に仕上げてやる、なぁに、完全に御釈迦になった部分は取っ払って最新のに換えておくからよ、お前さんはしっかり頑張ってくれや。」
心配ないと言う様に笑うジャックの言葉に頷き、彼は踵を返して格納庫の一角へと足を踏み入れた。
そこには整然と並ぶM1Aが数機置かれており、その全てがいつでも戦えると言わんばかりの状態だった。
「今日はコイツで出よう、ソードも今は整備中だしな。」
ガンダムタイプは全体性能のアップデートを行う為に、天ミナを除く全機が調整中、デュエルとブリッツに到っては、改修案の完成、及び、データの収集が終了したために一足先に強化改修を施すと言う運びになった。
そのため、今現在使えるMSは、量産機であるM1A、若しくはロングダガ―しか存在していなかった。
そのため、今回の訓練において、彼は使い慣れた量産機であるM1Aを乗機に選び、周辺宙域の警戒に出る手はずだった。
だが、現実とはいつも予定通りに行く事ばかりでは無い、まして、人間が引き起こす事象に、絶対はないのだから。
それを表す様に、格納庫内に敵襲を報せる警報が鳴り響いた。
「ちっ・・・!こうも都合の悪い時に限って敵襲かよ!」
愛機が改修途中であるため、彼が乗れる機体は必然的に限られてくる上に、今は乗り換えの機体の場所まで走る時間さえ惜しい。
故に、彼は舌打ちをしながらもM1Aのコックピットに滑り込み、自分専用のOS設定を施していく。
もっとも、それでさえ急ごしらえに過ぎないのは否めないが・・・。
「管制室!MS隊を発進させろ!俺も出る!」
『了解しました!MS隊全機スクランブル!繰り返します!MS隊全機スクランブル!!』
管制室のアナウンスを聞きながらも、彼はヘルメットのバイザーを下ろし、M1Aのコックピットハッチを閉じた。
幾度となく繰り返した発進準備だ、滞りなく進むが、彼は気を抜いてはいなかった。
「織斑一夏、M1A、出撃する!!」
そして、出撃ハッチへと辿り着いた彼は、機体のスラスターを点火し、漆黒の宇宙へと飛び出して行った。
そのままの勢いで、彼は守備隊と合流、先陣を切る様にして部隊の先頭に立った。
「敵は?」
『ザフトの二個中隊クラスが接近中、主にジンタイプとゲイツタイプの混成部隊と思われます。』
索敵能力を強化されたM1Aに乗るパイロットの報告を受け、一夏は自分たちの戦力と相手の戦力比を考慮した作戦の立案を急ぐ。
普段ならば、彼の愛機であるストライクが先行し、敵のフォーメーションを分断、その後に掃討を掛けるという単純極まりない作戦を採れた。
だが、それは一夏自身の高い能力と、ストライクの性能が併立してこそ成り立つ作戦であり、今回の彼の乗機ではとてもではないが実行できた作戦ではない。
それは彼も承知している所ではある、だが、味方に死者は出さないと決めている一夏の事だ、自分が多少の無理をしてでも、仲間や友を護りたいのだろう。
「よし、第六班と第五班は射撃援護、第二班は前衛、第三班は突撃援護だ、誰一人死なずに戻るぞ!」
『了解しました!』
彼は部下のMSパイロット達に通信を入れた直後、乗機のスラスターを吹かし、敵の軍勢へ突っ込んでゆく。
彼の接近を感じ取ったからだろうか、敵からビームやサブマシンガンの弾丸が飛来する。
しかし、彼はそれにすら気にも留めず、まるで泳ぐ様にして隙間を掻い潜って行く。
その直後、彼の後方に控えていたMS隊から援護射撃が発射され、彼を狙っていた敵陣のMSに突き刺さり、宇宙に光芒を煌めかせる。
「今ので二機撃破を確認!!三方向より攻めると思われる!各機警戒を続けろ!!」
彼は部隊に指示を出しながらも、M1Aが出せるトップスピードを維持したまま突撃を掛ける。
その彼を先に仕留めようという魂胆なのか、パープルの機体色を持った三機のジンタイプがビームライフルを連射しながら彼のM1Aへと向かってくる。
その機体は、ZGMF-1072M2 ジンハイマニューバ2型
ジンの改良型であるジンハイマニューバの直系機である。
直線加速における推力は先代機であるハイマニューバに劣るが、MSの利点である姿勢制御や、旋回能力は先代を凌駕している上に、ゲイツで初めて搭載された小型ビームライフルを標準装備しているなど、その性能はかなり高い。
現在開発途中であるザクウォーリアを除けば、制式配備から一年近く経っていてもその性能は高く、主に特殊部隊や精鋭部隊にのみ配備されている。
「そのMSは初めて見る、だが、ジンの形をしている以上、性能は大体分かる!!」
だが、所詮はその程度、週に二度は必ず海賊や正規軍の相手をするアメノミハシラという立場と、普段から質の高いパイロット達と行う訓練や模擬戦、そして、彼自身がこれまで戦ってきた強敵達と比べてしまえば、特殊部隊所属とは言えど、その辺に居る様なエースパイロット程度では彼の相手にはなり得なかった。
彼は接近してくるジンを牽制する様に頭部バルカンを掃射し、回避した一機に急接近してシールド裏に隠し持っていたビームサーベルを発振して両腕を両断した。
そのまま、振り向き様に背後を取ったもう一機の頭部を撃ち抜き、腕を斬ったジンハイマニューバ二型を蹴り、最後の一機へと蹴り飛ばす。
「悪いけど、搦め手だろうがなんだろうが、大切な人を護りたいんでね、御引き取り願おうか!!」
フレンドファイアを恐れて彼への攻撃を躊躇った一瞬の隙を突き、一夏はビームライフルでハイマニューバ二型のライフルと、腰に着けられていた刀の様な物を撃ち抜いて破壊した。
「それで言い訳出来るだろ、さっさと帰りやがれ!」
相手を殺さない訳ではない一夏だが、血が流れる事の痛みを知っているため、意味の無い戦いにおいてはなるべく敵にも味方にも死者は出さない様に心掛けていた。
無論、それは欺瞞であり無謀であるが、今ある命をみすみす消えさせるなど、彼には到底出来なかった。
だからこそ、彼は自分の力の行使を傲慢と取られても構わないと、彼はその力を振るう。
仲間を、大切な人を護る為に・・・。
その時だった。
――ほう・・・、面白い奴がいる・・・――
「っ・・・!?」
彼の脳裏に言葉が迸った。
周りを見渡しても、そこにあるのはただ煌めく地球と、その手前にあるアメノミハシラだけであり、彼にプレッシャーを与えるモノなど無い筈だった。
「この感じ・・・!まさか、奴か・・・!?」
だが、その声に彼は覚えがあった。
自分自身の中にある、闇の化身の声だと・・・。
「姿を現せ・・・!悪霊が!!」
感覚が一際強くなったところに向けて、彼はライフルで狙撃した。
だが、その光条は目標を捉えることなく素通りし、代わりにビームが彼に向けて迫ってくる。
「きたっ・・・!!」
先程のビームを撃ったジンハイマニューバ2型が彼の方へと向かってくる。
その肩には、エースパイロット搭乗機である事を示す。竜のパーソナルマークが描かれていた。
――中々やる、私の相手に相応しい!!――
そのジンはビームライフルを捨て、腰に着いていた刀の様なものを引き抜き、彼の乗るM1Aに斬りかかる。
だが、その程度でやられる一夏ではなかった。
振るわれる刃を紙一重で躱し、左手に保持していたサーベルで斬り付ける。
しかし、どうやら先程の戦闘を見られていたからか、相手は先読みのごとく機体を伏せて回避し、回し蹴りを叩き込む。
「むんっ・・・!!」
全身が揺さぶられる感覚を堪え、一夏は吹っ飛ばされながらもライフルを投擲し、相手に防がせる事で追撃を回避した。
だが、これで彼は手持ちの武器を一つ失った事になり、残っているものはサーベルが二つと頭部バルカンのみとなった。
「これで充分!当たらないモノを持っててもっ!!」
普段の彼ならば、武器を粗末にするようなことはしないが、強敵と戦う時にそんな事を言ってはいられないのだ。
彼は右腕にも残ったサーベルを保持させ、ビームを発進させながらも、自分の影とも呼べる敵へと迫った。
「ハァァっ!!」
右手に保持するサーベルを振るうが、ジンはシールドで受け流し、刀を振るう。
しかし、それを見越して動いていた一夏はシールドを掲げると同時に逆手に持ち替えたビームサーベルを突き立てようとした。
「これでどうだっ!?」
だが、彼の攻撃を紙一重で躱し、ジンは頭突きをする様に身を乗り出すが、彼はスラスターを強引に吹かす事で機体を前に出し、激突させて相殺した。
「コイツ・・・!強いっ!!」
コートニーと同レベルとまでは行かなかったが、自分と思考が似ている分やり辛いと感じたのだろう、彼は相手の悪さに歯噛みしていた。
戦闘面での思考が似ているという事は、相手が考える手の内も自ずと分かってくるという事であり、決着も着きにくいという事に他ならなかった。
だが、彼は退く事など考えなかった。
護りたい人がいるから、今度こそ、嘗ての自分と決別したいから・・・。
それだけの想いを胸に、彼は再び間合いを詰めた。
sideout
side一夏
「このっ・・・!墜ちろぉぉっ!!」
バルカンを撃ちかけながら死角を取ろうと機体を動かすが、奴はその先を読んで機体を回避させてこっちを誘い込んでいる様に攻撃を仕掛けてくる。
クソッタレ・・・!過去の俺に仕込まれた人格の一つと戦う事になるなんて思いもしなかった・・・!!
――良い!良いぞ!!もっと楽しませてくれ!私に恐怖を感じさせてくれ!!――
接触回線の通信などではない、脳に反芻してくるような声に、俺の怒りが掻き立てられていく。
怒りと憤り、そして、嘗ての所業と救えなかった人たちの最期が俺の頭に浮かんでは心を掻き乱す。
だけど、逃げてたまるものか!
あのまま何もかも考えないで人形のままでいられたらどれほど楽だったか、何も感じずにいられたらどれ程心地の良いモノだったか!
でも、それは俺じゃない、俺の形をした何かにしかならない!
怒りも悲しみも憤りも、人間に戻れたからこうやって感じられる。
友の大切さも、信じてくれる人の想いも、そして、愛する人から向けられる愛を感じられる!
それが俺の罪ならば、俺は逃げない!今度こそ、闇と向き合ってみせる!!
決別の意志を籠め、俺はジンのコックピット目掛けてサーベルを振るい続ける。
コイツに手加減なんてしていられる状況じゃない、だったら、俺は全力でコイツを討ち取るだけだ!!
――良いぞ!それで良い!私を楽しませてくれ!!――
「こんな事が楽しいもんか!!お前なんかと戦っても、楽しくもなんともねぇ!!」
奴が振るってくる刀を何とかシールドで防ぐが、これも何時まで持つか・・・!
向こうは実体剣を使ってくる以上、M1Aのシールドでは何時か叩き斬られてしまう事は何よりも明らかだ。
だが、アレを何時までも捌けるほどエネルギーや推進剤にも余裕がある訳じゃ無い。
奴は俺をある程度消耗するまで戦わせてから仕留める積りだったんだろう、仲間を嗾けて来た時から何となくかんじた。
その捨て駒的な戦法、ムカつくなぁ・・・!!
無人機ならばともかく、この俺ですら生きてる友軍を捨て駒にした事は無い。
コイツ、相当戦いに飢えているのか・・・!
だとすれば、尚更捨て置けない!!
「ここで因縁を終わらせるっ!!」
左腕のサーベルを振り抜きつつ、その場で一回転した勢いを付けて右腕のサーベルを振り抜く。
だが、それは奴のシールドを捉え、切り裂いただけだった。
「しまった・・・!?」
誘い込まれたのかっ!
そう感じた時には既に遅い、奴は刀を振り抜いてM1Aのシールドごと左腕を持って行く。
――終わりだっ!!――
「くっ・・・!!」
体勢を崩した俺目掛け、奴は刀をコックピットに突き立てようと迫ってくる。
ここで・・・、ここで終わるのか・・・!?
何も出来ないで・・・、なにも残せないで・・・!
まだ、やりたい事だってっ・・・!!
幾ら悔やんでも、時が止まってくれよう筈も無い、刀は真っ直ぐ俺の方へと突っ込んで来て・・・。
『一夏卿!!』
その時だった、何処からともなくビームが飛来し、それと同時に通信が入る。
――なにっ・・・!?――
不意打ちに驚き、奴は攻撃の手を一瞬止める。
だが、それは俺にとっては生への好機っ!!
「おぉぉぉぉっ!!」
ビームサーベルを横薙ぎし、奴の右手首を切り落とす事だけは叶った。
もっとも、体制も崩れ崩れだったから、それが精一杯ってのもあったが・・・。
改めて振り返ると、幾つかのスラスター光がこちらへと向かって来てる。
恐らくは、アメノミハシラのMS隊なんだろう。
――くっ・・・!これでは戦えんかっ・・・!!――
損傷状況と数の振りから戦闘続行は不可能と判断したのだろう、奴はスラスターを吹かして宙域を離脱していった。
「何とか退いてくれたか・・・。」
安堵すると同時に、俺はヘルメットを脱いで籠った熱を逃がす。
あぁ、嫌な汗で濡れちまってる・・・、早い事シャワー浴びてぇ・・・。
『一夏卿!御無事ですか!?』
そんな事を考えていると、俺の下へM1Aの一個小隊が合流してきた。
さっきのビームも、彼等に助けられた形なんだろう。
「あぁ、助かったよ、お陰で命拾いしたよ、味方の損害は?」
『負傷者ゼロ!全機無事です!!』
俺は、護れたのかな・・・、いや、護って貰ったのかな・・・。
誰かに慕ってもらえる事が、これほどにない歓びになるなんて、昔は考えもしなかったな・・・・。
「ありがとう、さ、戻ろうか、俺が一杯奢ろう。」
『了解!!』
その心地いい感覚を胸に抱き、俺は機体を我が家へと向けた。
何時かは、この闇も晴らせるように、光を掴めるように、と・・・。
sideout
はいどーもです。
私ごとですが、今月からとある国家試験に向けての対策講座が始まるため、更新ペースをまたしても落とさなければならない状況になってしまいました。
今度こそ、不定期更新になってしまうかもしれませんが、今後とも私どもの小説をよろしくお願いいたします。
それでは次回予告
氷河の奥に秘められし想い、それは十字に籠められし希望か・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
グレイシア
お楽しみに