機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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C.E.73年四月某日、オーブ上空の衛星軌道に存在するアメノミハシラは、普段と変わらぬ威厳を誇って聳え立っていた。
その宙域に近づく、幾つものMSの機影を除けば・・・。
「これより、アメノミハシラの攻略を開始する、気合入れてかかれよ、生活が懸かってるんだからな。」
その内の一機、連合の105ダガーの海賊仕様に乗るリーダー格の男は、手下達に指示しながらも、地球の青を背に受けて聳える城を見た。
彼の機体のバックパックには、自作したのだろうか、ランチャーストライカーに無理やりシュベルト・ゲベールをくっ付けた様な装備だった。
一見して不格好だが、手数を増やせればなんでもいいのだろう、突っ込むのは手下たち、ジャンクから直したジンやゲイツが主だった。
「これで失敗すれば、明日からは白飯にはありつけん、無茶をしてでも乗っ取るぞ!」
戦後の軍縮で職にあぶれた彼等は、宇宙空間を漂うMSを自力で掻き集め、動けるMSで略奪を繰り返しながらも漸く海賊軍とでも呼べるような規模の戦力を揃えた。
しかし、できたのはそこまでだった、MSや武器を揃えるのが精一杯で、それで資金が尽きてしまったのだ。
そのため、生活をどうにかするため、彼等は今だ陥落の恐れすら見せないアメノミハシラへと進撃、一気に億万長者への道を駆け上がるつもりなのだろう。
彼らの前に聳えるその城を統べるロンド・ミナ・サハクの優雅さをそのまま体現したかのように、アメノミハシラは地球の青を受けて煌めいていた。
だが、その優雅さとは裏腹に、アメノミハシラはオーブから実質上離脱しているだけではなく、一国が保有する以上の戦力を有し、尚且つそれに見合うだけの技術力を兼ね備えたMS製造ファクトリーを抱えていた。
しかも、そのファクトリーは何処にも所属していないにも関わらず、世界トップクラスの質を誇っている。
そう来れば、連合もザフトも、大戦が終わってから自陣勢力の回復を計るためにMS生産ファクトリーをほしがるのは必至だった。
そのため、世界トップクラスのファクトリーを持つアメノミハシラを何度も襲撃しているが、どれも失敗に終わっている。
それだけではない、連合やザフトから出される賞金や勲章を目当てに、海賊や傭兵が幾度となく奇襲をかけたが、一度たりとも成功した試しはない。
いや、それどころか、逃げる手段を奪われた挙句、壊されたMSを修理してやる代わりに法外な料金をせしめる事も多々あるため、泣きっ面に蜂状態であるのは分かるだろう。
だが、それを推し測っても、アメノミハシラを落とせば勲章と報奨金、もしくは経営の金で孫の代まで潤うとまで言われているのだ、是が非でも手に入れたい要所であるのは変わりないだろう。
故に彼等は無理を承知で、生きる為に進む以外残されていない道を行くしかないのだ。
しかし、正規軍や海賊、手練れの傭兵が幾度となく襲撃を掛けても、天空の城を落とせない事には大きな理由があった。
それは、アメノミハシラには、ロンド・ミナ・サハクの懐刀たる五人の猟犬がいるが故だった。
『頭!MSが一機、こちらに突っ込んできやがりますぜ!!』
手下の通信に目をやると、MSがたった一機で十五機はいるであろう、海賊のほうへと突っ込んでくるのが見えた。
映し出された機影に、彼は見覚えがあった。
「あれは、連合のGタイプか、ちょうどいい手土産になるぜ!」
それはGAT-X102 デュエルに近いフォルムを持っていたが細部が異なっていた、故に、彼はそのMSがデュエルのバリエーションであると推測し、特性を判断した。
「各機、射撃戦で行くぞ!あの機体は格闘戦主体だ、嬲り殺しにすりゃ、PS装甲なんざ意味ねぇ!」
『おうさ!!』
彼の指示に応えるように、部下のMSから一斉にマシンガンやビームが雨霰の様に撃ち出され、蒼い機体へと向かってゆく。
だが、その面の様に思える銃撃の隙間を縫うように、蒼い機体はあっさりと回避してしまう。
「なにっ・・・!?」
彼が驚くよりも早く、その機体は動いていた。
機体の両肩部と腰部から何かが射出される。
「回避っ・・・!?」
彼が散開するように呼びかける間もなく、彼の両サイドにいた二機のMSが、右足を残した手足と、装備されていた武装が瞬く間に寸断されていく。
「馬鹿なっ・・・!?この距離でだと・・・!!」
一瞬の内に二機を葬った敵に、彼は得体の知れぬ恐怖を覚えた。
それと同時に確信した、アメノミハシラが落ちぬ、本当の理由も・・・。
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「二日連続の襲撃ですわね、流石、ルキーニさんの情報ですわね、時間も規模も予想の範囲内ですこと。」
蒼の機体のコックピットで、パイロットのセシリア・オルコットは感心したように呟いていた。
自身の機体の仕上がりは勿論の事、それを試す機会にも感激しているのだろうか、その表情は力強い色に満ち満ちていた。
だが、彼女の瞳はその先を見据え、今から押し寄せるであろう敵機に狙いを付けていた。
先ほどの攻撃は、彼女が操る装備の特性を活かした業であり、彼女が最も得意とする戦法だった。
しかし、それだけでは終わらせない、まだまだ調べねばならないスペックは多々残っているのだ、まだほんの小手調べと言っても良いだろう。
故に、彼女は立ち止まらない、今、自分がやるべき事をやるために。
「参りますわ、プレアさん、私を見守っていて下さいませ。」
今は亡き弟への想いを胸に黙祷した後、彼女は決然と前を力強い目で見据えた。
「セシリア・オルコット!デュエルグレイシア、参ります!!」
操縦桿を押し込み、フットペダルを踏み込んだ彼女は、向かい来る敵の只中に向かって愛機、デュエルグレイシアを走らせる。
その機体はデュエルをよりセシリアの適正に合わせて改修した、正にセシリアのためだけのデュエルだった。
A.G.R計画はただ改修するだけではなく、ほかの人間がそのワンオフ機に乗っても性能を引き出せない仕様にすることが当初から盛り込まれていた。
故に、アメノミハシラ構成員で唯一、高度な空間認識能力を持つセシリアに合わせた機体とは、正に計画そのものの本質を表していた。
「行きなさい、クリスタロス!!」
ギリシャ語で澄み切った水を意味する名を持ったソードドラグーンが、まるで激流の様に海賊へと押し寄せ、その戦闘手段を奪ってゆく。
如何に海賊とは言っても、ドラグーンになど滅多に御目に掛かれない兵器には為す術もないのだろう、先程の二機と同じ様に、一瞬で手足と武装が破壊されて沈黙していく。
それならば、近接戦で倒してしまえば良いと言わんばかりに、残った十機ほどの機体が彼女の方へと殺到してゆく。
「そう来ることは織り込み済みですわ、ですので、こちらでお相手致しましょう!」
だが、セシリアはそれを読んでいたのか、敵機を攻撃しやすいように機体を動かして行く。
その際に、デュエルの腕に装備されていたビームガンが回転し、両手に収まった。
どうやら、装甲と一体化させて手を塞がない様にするための試みなのだろう。
接近してきたジンタイプの頭部を撃ち抜き、踏み台代わりにして加速、虚を突かれた敵に接近してビームを連射、腕と武器を全て撃ち抜いて無効化していく。
だが、彼女の背後からゲイツタイプが二機急接近、そのクローで刺し貫こうとしていた。
一機で敵わないなら集団で囲めば良い、そう考えた結果なのだろう。
だが、セシリアは焦る事無く機体を操作し、腕と一体化していた刃を展開し、トンファーの様に構えた。
そして、ビームクローを受け止めるや否や、展開していたソードドラグーンで手足もろとも切り刻む。
まさか、拮抗している所からの背面攻撃が来るなど想ってもみなかったのだろう、ゲイツは何も出来ずに沈黙した。
「御免あそばせ、決め技は何でも構いませんの。」
だが、セシリア自身は勝負を決めるのは自分の腕であり、戦術であると考えている、使える手なら、不意打ちも辞さないのだ。
「か、頭ぁ・・・!」
「わ、分かってる・・・!なんなんだアイツは・・・!?」
まさに悪夢としか言いようがない光景に、海賊達は恐れ慄いた。
僅か一分で味方機の半数が撃墜、しかもコックピットや動力部などを綺麗に避けた攻撃墜としているのだ、格が違いすぎた。
無論、まだ勝てる手が無いとは言えないが、それすら望み薄だろう。
「こ、こうなりゃアグニを使うぜ・・・!お前等、アイツの脚を止めておけ・・・!!」
戦艦すら一撃で沈められる威力を持つアグニで勝負を決めたいのだろう、彼は部下に足止めを命令し、アメノミハシラを狙いながらもデュエルを誘き出そうとしていた。
どうせなら、避けられない状況にしてから撃った方が撃墜できる確率も上がり、アメノミハシラにも損害を与えられると、一石二鳥であるのだ、それを採らない訳が無かった。
「半数を落としても、まだ向かって来ますか!クリスタロス!」
その作戦を知らぬセシリアは、鬼気迫る勢いで向かってくる敵に対し、ソードドラグーンで敵を切り裂きつつも、攻撃を回避していく。
だが、彼女は知らない故に徐々に誘い出されていたのだ。
嘗ての一夏でさえ滅多に使用しなかった、絶大な破壊力を持ったアグニの射線上に。
「これで十三っ・・・!?」
そこで気付いた、リーダー格の一機がアグニを構え、彼女を、厳密にはその後ろにあるアメノミハシラを狙っている事に・・・。
ここで自分が回避してしまったら、アメノミハシラは甚大な被害を被ってしまう、そうなれば、アメノミハシラの構成員の誰かが命を落とす恐れもあった。
「そんなことっ・・・!させません!!」
ならば、残された道は一つ、一歩も退かずに敵を討つ、それだけだった。
彼女はトンファーの様に大型の実体ソードを構えながらも、一直線に距離を詰めて行く。
「こっ、これで終わりだぁぁ!!」
実体を持った死が近付いてくる事に恐怖しているのか、海賊の長は上擦った声を上げながらも、アグニのトリガーを引いた。
砲口から迸る大出力ビームの奔流は何にも阻害される事なく突き進み、デュエルに直撃した。
アグニの直撃を受ければ、幾らワンオフ機でもひとたまりもないないだろう。
「や、やったか・・・!?」
勝利を確信しかけた彼の目に、信じられない光景が飛び込んで来た。
なんと、デュエルを避ける様にアグニの奔流が真っ二つに分かれて逸れてしまっていたのだ。
いや、逸れているのではない、斬られているのだ。
「そんな馬鹿な・・・!?アグニを切り裂いただとっ・・・!?」
如何に実体があり、切れ味が鋭い刃でも、所詮はその程度でしかない。
刀身に耐ビームコーティングでも施されていないのであれば、ただの打撃装備でしかないのだ。
「まさか、ラミネート装甲で出来ているのかっ・・・!?」
だが、彼は耐ビーム性を持つ装甲ラミネート装甲を思い出した。
ラミネート装甲はビームの直撃を排熱によって無効化できる代物だった。
しかし、それもC.E.71年現在での話であり、二年も経ったこのC.E.73年ではザフト、連合など正規軍のみならず、ラミネート装甲を一撃で貫通できるビーム兵器が民間にも出回っている為に、実質装備していても只の金食い虫にしかならない物でしかなかった。
「・・・っ!アメノミハシラっ・・・!!恐るべしっ・・・!!」
だが、彼は気付いてしまった、その機体が所属している場所を、その技術力を。
アグニを切り払ったデュエルは脇目も振らずに一直線に彼の方へと突っ込んでくる。
アグニは連射の利かない武器だ、このままではやられる。
そう考えるより早く、彼はシュベルト・ゲベールを抜き放ち、デュエルの刃を受け止めようとした。
だが、デュエルは左足の外側に着いていたスラスター兼用ラックから何かを引き抜き、ダガーに向けて投擲した。
それは、ダガーの右腕の付け根に突き刺さり、盛大に爆発した。
「ぐぁぁぁぁっ・・・!?」
切り結ぶつもりも無いとでも言うように爆ぜた勢いで体勢を崩した彼に、蒼い悪魔は距離を一気に詰めて両断した。
シュベルト・ゲベールを握り直す間もない、まさに一瞬の内に事は終わっていた。
あまりに美しい太刀筋に、スパークすら散らさない、まさに豆腐を斬ったかのようにダガーの両の腕は断ち切られた居た。
だが、幸いにも脚部と背面スラスターだけは無傷だ、逃げかえる事は出来るだろう。
「こ、こんなバケモノに勝てる訳がねぇ・・・!!」
勝てる見込みは何一つない、だが、ここで諦めれば明日からの生活は無い。
だが、戦いを続ける意思を見せれば、それこそこの場で未来どころか今すら消し去られる事は確かだった。
どうすれば良いのか、彼は決断を迫られていた、命を取るか、プライドを取るか・・・。
しかし、そんな彼等に最早興味を失ったのか、若しくは見逃してやるとでも言いたげなのか、デュエルは展開していたソードを折りたたんで格納、背を向けてアメノミハシラへと帰って行った。
だが、それと入れ代わるかのように、無数のMSのスラスター光が接近してくる。
「っ・・・!!」
その瞬間、彼は悟った、アメノミハシラのMS隊で、掃討、若しくは鹵獲の後、法外な料金をふんだくるつもりなのだと。
「は、破産する・・・!!お、オメェ等!に、逃げるぞぉぉ・・・!!」
『へ、へい・・・!!』
手下たちもマズイと思ったのだろう、彼の指示が出るや否や、すぐさま残ったスラスターを点火、一目散に撤退していった。
「も、もう海賊稼業なんて御免だぁ・・・!!あんな恐ろしい奴がいるなんて聞いてねぇよ・・・!!」
もうこんな危ない賭けは、それも負けが見えた賭けは懲り懲りだと言う様に、彼等は脇目も振らずに逃げ帰った。
余談だが、その後今回の海賊たちはあまりの恐怖からか廃業し、今は地球圏の何処かでデブリの清掃作業を請け負う業務をジャンク屋組合から依頼される事になったというらしい・・・。
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sideセシリア
「セシリア、海賊退治ご苦労さん、グレイシアの初陣にしちゃイマイチな相手だったかな?」
「一夏様・・・、御出迎えありがとうございます♪」
愛機から降りた私を出迎えて下さったのは、私の愛しの旦那さまでした。
戦闘後の軽い疲労感はありましたが、ある種の高揚を抑えきれずに、私は一夏様に跳び付くようにして抱擁を交わします。
何時もなら人目を憚る所なのですが、たまにこうやって愛を確かめるのも、夫婦としての務めでしょう♪
「おっと、セシリアは甘えん坊だな、ま、後でたっぷり甘えさせてやるから、今は報告よろしく。」
まぁ♪でしたら、足腰立たなくなるまで可愛がって頂きましょうか♪
しかしながら、今はお仕事を優先させていただきましょう。
「デュエルグレイシア、とても素晴らしい機体ですわ、思うより先に機体が動きましたもの。」
一夏様から身体を離し、私の愛機の姿を見ながらも先ほどの戦闘を思い出しました。
私の目の前に聳えるのは、型式番号AG-GAT-X102 デュエルグレイシア。
英語で氷河という意味を持つ、私のデュエルを特殊近距離戦特化型へと改修した姿です。
デュエルのネックであった火力と防御力の不足を補うために、PS装甲で製作されたフォルテストラⅡを、本体のPS装甲と交換する形で装備し、増大した重量を補うための大出力スラスターを装備した姿です。
大きな特徴といえば、やはり肩部と腰部に二基ずつ装備されたドラグーンが大きいでしょう。
開発スタッフの皆さんの尽力のおかげもありまして、バッテリー機であるデュエルでもドラグーンをメインウェポンとして使用できるまでに低燃費仕様へと改良してくださったものを搭載しております。
とはいえ、高度な空間認識能力を保持していなければ使いこなせないという欠点はそのまま残っておりますが、私以外の人がこの機体に乗り込む事はないでしょうし、大した問題ではないでしょう。
さらに、近接戦能力を強化するために装備されたのが、私の意見を反映して製作されたビームピストル搭載型耐ビームソード クロイツルゼルです。
刃に特殊な加工を施したレアメタルを使用することにより、ラミネート装甲以上の耐ビーム性の確保と、宗吾さんがグレイブ・ヤードから持ち帰ったガーベラ・ストレートのデータを参考にした切れ味を誇る、この機体の最大の武器といえる装備です。
かつての私が好んで使ったビームピストルも持ち替えの隙を生まないために一体化したために、構造は複雑になりましたが、私としては満足のいく仕上がりとなっていました。
内面にもかなり手を加えてはおりますが、特筆すべき点ではないでしょう。
「本当に・・・、良い機体ですわ、私の想いを、どこまでも届けてくれるような・・・。」
嘗てのドラグーンにも、私は願いを籠めていたでしょう、ですが、今のドラグーンに託す願いは、機体に対する想いは、あの時とは全く違うものになるでしょう。
倒すためでも、滅ぼすためでもない、護るための想いと願いを、私は愛機に籠めます。
「そうだな・・・、願い続ければ、いつかきっと届くさ。」
いつか、きっといつの日にか、氷河は解けてグレイセス(尊きもの)へと変わっていくことでしょう。
人の祈りに善悪はない、それを悪しきものにしない事こそ、私のすべき事なのです。
人を信じ、人の温もりを愛して、人としての愛を信じて生き抜いた、彼の想いを、私は継いで行ける、これからも。ずっと・・・。
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次回予告
影に生き、影として闇を払う、それが未来へと繋がると信じて。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
スキアー
お楽しみに