機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
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「くっそ・・・、俺としたことが、ドジッった・・・!」
地球圏のデブリベルト付近を進む小型艇のコックピットで、一人の男が周囲を警戒しながらも毒づいていた。
彼の名はケナフ・ルキーニ、裏の社会では名の知れ渡った凄腕の情報屋であり、その手腕を高く買ってアメノミハシラやサーペント・テールは彼に情報を買いに出る程だった。
普段の彼は不敵な笑みを崩さないが、今の状況が思わしくないのだろう、その表情は硬かった。
レーダーに目をやれば、いくつもの光点が彼を追う様に迫ってくる事も確認できる。
「折角御大将が喜びそうな情報を取り付けられたってのに・・・!あの女狐に勘付かれるとはっ・・・!!」
彼は今に至る前に、プラント側のとある人物から依頼を受けていたのだ。
その人物はアメノミハシラの将軍、織斑一夏の知り合いだと言っていたため、彼は少々警戒しながらもプラント本国に出向いて直接依頼内容を受け、その言葉が事実だと言うことを確認してアジトの一つへと戻ろうとしている最中だったのだ。
しかし、ルキーニが対立している組織の構成員が後を付けていたらしく、プラントを出て間もなく、連合の戦艦とMSに追われる羽目になったのだ。
更にタチの悪いことに、どうやら彼を追跡している部隊は公式部隊ではなく、裏の暗殺をメインに働く部隊のようだ、執拗な追跡やその無駄の無さからそれが窺い知る事が出来た。
尚且つ、ミラージュ・コロイドで姿を隠しているからなのか、辺りには何も見えなくとも光点だけが接近してくるという、嫌なプレッシャーの掛け方だ、優れた情報屋であっても戦闘要員ではないルキーニの体力と精神力はすでに限界に近づいていた。
そんな彼に、もう鬼ごっこはお終いだといわんばかりに、ミラージュ・コロイドを解除した三機の敵機が姿を現した。
その機体は、GAT-S02R NダガーNだった。
連合軍主力MS、105ダガーにGAT-X207 ブリッツのデータを用いてマイナーチェンジさせた機体である。
ブリッツの課題であったミラージュ・コロイドによるエネルギーの圧迫を、条約で禁じられている核エンジンを搭載する事で解消、実質上無限のステルス機能を有した機体へと進化させたのだ。
しかし、条約違反を犯している機体である事は間違いなく、今回のような隠密作戦や、表沙汰にならない暗殺などをメインに活動する裏部隊を中心に配備されている。
しかも、その裏部隊はルキーニと敵対する組織の長の息が強く掛かっており、彼を殺害するように命令を受けてきたに違いないとは、想像に難くなかった。
「くそっ・・・!俺の悪運もここまでか・・・!!」
如何に動きの速い宇宙艇とはいえど、所詮は直線加速のみ、旋回能力はMSのそれよりも遥かに劣る。
つまり、デブリベルトやその付近では、圧倒的にMSのアドバンテージがあった。
それを教えてやるつもりなのか、一機のNダガーNがデブリを蹴って急接近、左腕のクローを展開してその刃を突き立てようとした。
もうだめか、彼が覚悟を決めたその瞬間、何もいなかった空間から突如としてビームライフルの光条が彼らの間目掛けて撃ちかけられた。
それは牽制として放たれた様に見えて、実際は宇宙艇に迫ったNダガーNに向けられており、それを察知した機体はすぐさま機体を宇宙艇から離した。
「助かったっ・・・!?」
彼がその先に目をやると、地球の蒼をバックに佇む漆黒のMSの姿が飛び込んでくる。
「ゴールドフレーム天・・・、いや、違う・・・!?」
彼の記憶の中にある、自分を利害関係の一致で救ってくれるような人間で、黒い機体に乗る者はアメノミハシラのロンド・ミナ・サハク以外考えられなかった。
だが、彼の目の前にいる機体には、その特徴的な翼がなく、左腕が肥大化したかのような独特な姿をしていた。
だが、それ以外の機体外観に、彼は見覚えがあった。
その機体の名は・・・。
「ブリッツ・・・?」
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「あっぶねぇ・・・、何とか間にあって良かったぜ・・・。」
ルキーニの窮地を救ったMSのコックピットに座しているパイロット、神谷宗吾は自分の射撃が護衛対象であるルキーニが乗る宇宙艇に当たらずに済んだ事に安堵し、盛大なため息を吐いた。
彼の射撃の腕はお世辞にも抜群とは言い難いものであり、射撃は苦手と自称する一夏と同レベルという程度だったならば尚更だ。
とはいえ、その一夏や主のミナのスペックが高すぎる事と、射撃専門のシャルロットに囲まれてしまえば、必然的に自分の腕を信じられなくなってもおかしくはない。
だが、彼も紛う事無きスーパーエースに近い存在であることは疑う余地もない。
「さてと・・・、キッチリ護らなくちゃ、あの計画もおじゃんになる、何としてもな・・・!」
自分を救ってくれたロンド・ミナと、友人であり、救いたい相手である一夏の姿を思い浮かべ、彼は操縦桿を握りなおし、決意と共に前を向く。
進みたい明日を、そのカギとなる者を護るために。
「神谷宗吾!ブリッツスキアー、いくぜっ!!」
漆黒の烏が今、その爪を突き立てるべく動き出したのだ。
「NダガーNか!コイツのテスト相手には打って付けだな!」
宗吾は巧みにデブリを蹴ってスラスターをなるべく使わない移動法を用い、牽制の為のビームライフルを撃ちかける。
しかし、敵も腕利きを集めた特殊部隊だ、そんなもの苦もなく回避し、宗吾の愛機、ブリッツスキアーへと迫る。
同じタイプの機体同士、しかもこちら側が数が多い、更に言えば核動力も持っているというこれほどまでに無いアドバンテージを持っている、これで負ける筈があるだろうかとばかりに、三機のNダガーNはビームライフルを撃ちかける。
「そんな攻撃!当たるかっ!!」
だが、相手の射撃がそれ程巧くないと判断した宗吾は機体を逸らすだけで回避、自身の愛機を奔らせる。
散開した内の一機に急接近し、右腕に装備しているトリケロス改Ⅱで切りつける、と見せかけて、ガードの体制を取ったNダガーNを蹴り飛ばし、ビームを撃ちかける。
「少し大人しくしといてくれ、核機体は爆発すると厄介なんでね。」
この近距離で核分裂炉が爆発すれば、自分も危険だと判断し、彼は武装が集中する右腕を肘から撃ち抜いた。
だが、それだけではない、彼は如何に敵でも生きる命を奪いたくはないのだ。
一夏の様に心にこびり付いて剥がれないトラウマを持っていなければ、今だ人を殺すような覚悟も持てない。
いや、だからこそかもしれない、誓いを立てればそこから逸脱することも無くなり、その信念の下に戦うことが出来る。
故に、彼は戦う、仲間も、友も、そして、生きる者すべてを守りたいと誓ったから。
だが、敵にはそんな彼の信念など知った事ではない、ブリッツスキアーを囲う様に二機のNダガーNが忍者刀を構えて迫ってくる。
所謂、挟み撃ちで確実に葬る心算なのだろう。
「見えてるぜっ!お前からだっ!!」
しかし、普段から戦闘能力の高いメンバーと刃を交える事の多い宗吾は怯むことなく、前方から迫る一機に向けて突進、今まで隠していた左腕を展開した。
丸められた拳に見えたそれは、展開することで猛禽類を思わせるクローへと変化し、敵の腕を刀ごと捕縛した。
その武装の名はハービヒト・ネーゲル、グレイプ・ニールから発展した大型クローである。
本来ならば、そのままマガノイクタチでエネルギーをすべて奪うところだが、相手は核エンジン機だ、幾らエネルギーを奪っても意味がない上に、接触したままでは攻撃を避けることも出来ない。
故に、彼はマガノイクタチを発動させながらも間髪入れずに右腕で右腰に装備していた直刀を引き抜き、シルト・ゲベールで切り付けてきたNダガーNの右腕を根元から断った。
「次っ!!」
そして、背後から斬りかかる最後の一機に振り向きながらも、彼は掴んでいたNダガーNを放り投げて両機の動きを封じようとした。
それは見事功を奏し、二機のNダガーNは激突して僅かに体勢を崩す。
それに狙いを付け、宗吾はトリケロス改Ⅱ裏に装備していたピストルを左手に握らせてトリガーを引く。
その銃口から弾丸が発射される直前、僚機を蹴り飛ばしたNダガーNはその射線から離脱した。
だが、蹴り飛ばされ避けることもままならない機体は頭部と武装の集中する右腕をピンポイントで撃ち抜かれる。
「チッ!味方を犠牲にしてまで任務が大事かよ!」
味方の命をも投げ捨てるその戦術に憤り、彼は舌打ちしながらも吐き捨てた。
彼にとって、味方とは、仲間とは何者にも代えがたい存在であるのだ、それを犠牲にする行為は、何よりも許し難い。
だが、そんな事など知った事かといわんばかりに、NダガーNはミラージュ・コロイドを展開、その姿を隠して攻撃を仕掛けようとした。
同じ機種とはいえ、エネルギー的に大きなアドバンテージをNダガーNは持っている、ならば、徐々にいたぶって精神をすり減らし、弱ったところを壊せばいいと考えたのだろう。
しかし、その手は宗吾も既に読んでいる、いや、それ以上のものを彼は隠し持っていた。
「甘いっ!俺だって何回もやった戦法だぜ!!」
すかさず彼はトリケロス改Ⅱから何やらミサイルのようなものを発射し、それは十メートルほど進んだところで爆ぜた。
すると、すぐ傍にいたNダガーNのミラージュ・コロイドが解除され、その姿を現した。
「掛かったな!それは対MC特殊弾頭だ!これでもう隠れられんぞ!!」
それはどうやらミラージュ・コロイドを一時的に無効化する効力があるらしい、言ってみれば、アンチ・ミラージュ・コロイドのフィールドを張った様な物だ。
それを見越していた宗吾はすぐさま直刀を抜刀し、一気に間合いを詰めていく。
あまりの事態に硬直してしまったNダガーNが動こうとした時には既に避けられない間合いにまで詰められており、もはや為す術は失われていた。
そして、彼の華麗な刃がNダガーNの手足を、豆腐でも切り裂くようにして切り落とした。
核爆発させても危険だと考えた彼は、ひとまず目的を果たすことを優先することにしたようだ、直刀を腰の鞘に納め、先に行った小型艇を追う様にデブリの中へと消えていった・・・。
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side宗吾
「宗吾、ルキーニの護衛任務、ご苦労であった、ここまで早く戻って来れるとは思いもしなかった。」
アメノミハシラに戻った俺を出迎えたのは、一夏では無く主であるロンド・ミナだった。
珍しい事もあるもんだが、今回の護衛対象の事を考えればそうでもないんだろうな。
「お褒めに預かり光栄だ、まぁ、情報屋を匿うにはちょうどいい時期だろうからな。」
ミナに軽く頭を垂れて、俺は後ろにいた情報屋、ケナフ・ルキーニを彼女の前に立たせた。
今回のメインは彼だ、俺は単なる護衛人でしかないんだから。
ちなみに、彼が使っていたシャトルは攪乱の為にデブリベルト外縁で破壊させてもらった。
事故ったか、若しくは別の勢力が襲撃したかのように見せかける事が出来たらベストという体でやっって来た。
勿論、それらしくみせて来たし、上手く誤魔化せると良いんだが、期待しないで過ごしますかね。
「助かったぜ、ロンド・ミナ、それから、忍びの旦那もな、これからは力の限り協力させてもらうぜ。」
「頼りにしている、一夏にも会ってやってくれ、今回はそのために来たのだろう?」
一夏に用事・・・?一体何の事だ?
ツートップの思惑はあまりよく分からんことも多いが、後で感心させられる事も多々あるから、俺は突っ込まない様にしてる。
けど、裏で色々やってるんだろうなぁとは思ったりもする。
今回は何処をどんな風に強請るのやら・・・。
「あぁ、渡したい伝言が有ったんだ、それを届けに行くとするか。」
「うむ、では宗吾、そなたもゆっくりと休め、次があるぞ。」
「了解した!」
ミナとルキーニを敬礼して見送り、俺は改めて愛機の方へと向き直った。
今はPSを落としているから暗灰色の装甲をした機体は、先程まで陰に紛れて戦った最高の機体だ。
型式番号はAσ-GAT-X207、その名はブリッツスキアー。
A.G.R計画に基いて、ブリッツを更に隠密戦及び、奇襲戦用に特化させた俺専用のブリッツだ。
基本コンセプトは極力変えずに、不足していた火力の強化と稼働時間の延長を主な改良点に据えて開発が続けられ、俺の意見も多分に反映して完成させたんだ。
左腕の肘から下は一見して巨大な握りこぶしの様な物に置き換わっているが、それはクローの収納状態でしかない。
展開すればそれは正に大鷹の爪の如く敵を捕えて離さない強力な武装になるモノだ。
外見で他に変更した点があるとするなら、頭部のセンサーアンテナが一回り巨大化された事と、スラスターカバーが更に大型化して、推力も上がった事ぐらいだろうか。
一番変わったのが武装だよな、イーゲルシュテルンの改良型が胸部に装備されたり、両腰に刀一本ずつ着けてるし、トリケロスは実体剣としての機能を持たせたり、ハンドガン隠したりしてるし、更にえげつなくなったよ。
まぁ、俺の意見が一番反映されたのは、対MC特殊弾だな。
あれをランサーダートの代わりに二発装備してるから、一回の戦闘で二回は隠れた敵の存在を炙り出せる。
尤も、こっちもミラージュ・コロイドを使えなくなるっていう欠点もあるから遣いどころは考えないとすぐにやられちまうな。
ま、味方護れるなら少しの苦労ぐらい背負ってやらないとな。
じゃないと、一夏と肩を並べられねぇから・・・。
この機体を完成させるにあたって、一夏から言われた事は、俺はあまり表に出さないという事だった。
ユニウス条約が締結された今、古い機体の改修型とはいってもミラージュ・コロイドをMSやその他兵器に使用する事は禁じられている。
アメノミハシラは何処の国家にも属していないとは言っても、それを破れば独立国家では無くただのテロリスト認定されてしまいかねない。
故に、彼は散々悩んだ挙句に俺を裏の重要な仕事のみに当たらせる事にしたんだそうだ。
まったく・・・、言ってくれりゃ俺も一緒に考えたのにな、妙な所で律儀な男だよ・・・。
「なーに黄昏てんの?そんなにブリッツが好きなの?」
そんな事を考えていた時だった、玲奈が俺の傍に歩み寄り、肩を叩いて意識を呼び戻してくれる。
彼女も、随分と刺々しさが消えて女らしくなったもんだ、一部分以外は。
「まぁな、玲奈の次位には好きだ。」
「はいはい、アタシもアンタが好きよ。」
こんな感じで軽口を言い合える様になったもんだ、昔はもっと固い感じでピリピリしてたしなぁ。
そりゃそうか、今とやる事は変わらなくても、昔は明日命があるか分かったもんじゃなかったしな。
明日を考える余裕が出来るってのは、本当に良い事なんだな・・・。
ま、今は彼女を見つめるとしようかな、俺の大切な生涯の相棒をな。
「なんなら、機体の報告会兼ねて飯でも食うか?酒も用意するし。」
「ん、そうね、一夏達抜きで二人っきりで呑みましょ。」
俺の言葉に頷いて、玲奈は何処か楽しげにスキップして先に行ってしまう。
やれやれ、可愛らしいお嬢様は気紛れだこって。
そんな事を考えつつも、俺はブリッツスキアーにもう一度向き直り、軽く敬礼した後に彼女を追う。
これからも、影として生きて、未来を作ろうと心に誓って・・・。
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次回予告
一夏に届けられた情報と、とある依頼が彼をまた進ませる。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
空を駆ける
お楽しみに