機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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蠢く陰謀

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地球連合、ユーラシア連邦所属の宇宙要塞アルテミス。

 

そこは単なる宇宙要塞ではなく、全方位光波防御帯、通称『アルテミスの傘』を展開させる事で高い防御力を有し、陽電子砲の直撃をも防ぎきる事が出来る。

 

そのため、ザフトの侵攻も防ぎ、難攻不落の要塞として存在していたが、

補給の為に寄港したアークエンジェルを追撃してきたザフト軍クルーゼ隊の奇襲を受け、一度陥落した。

 

その後、以前から恨みを持っていた宇宙海賊達に占領され、司令官であるジェラード・ガルシアも捕えられるという大失態を犯している。

 

事態を重く見たユーラシア連邦上層部は傭兵部隊サーペント・テールに奪還を依頼、

叢雲劾とその愛機、ブルーフレームの活躍により奪還され、破壊されていたアルテミスの傘も修復された。

 

余談ではあるが、アルテミスがこれまで陥落しなかったのにはもう一つ理由があった。

 

それは、アルテミス自体が戦略的に有用な場所になかったため、

ザフトは実質上、アルテミスを放置していたため、一度も攻撃を受けることが無かったのである。

 

しかし、その間にも、連合軍最大の国家である大西洋連邦は着実に力を着け、

遂にはMSの開発、量産にも成功し、連合の指揮権を独占していったのだ。

 

ユーラシア連邦と大西洋連邦は水面下での対立が続いており、

ザフトとの戦争が終結した後は、互いに戦争を仕掛けるつもりでいるのが明白であった。

 

遅れを取る事になったユーラシア連邦は、ザフト戦終結後の連合軍部内においての発言力を高めるため、

地球連合協賛企業であるアクタイオン・インダストリー社との共同の下、大西洋連邦で開発されたダガーシリーズとは異なるMSの開発に着手した。

 

アルテミス指令室にて、司令官席に座ったジェラード・ガルシアと、

壁にもたれ掛った青年が何やら話をしていた。

 

「カナード・パルス特務兵、キラ・ヤマトは見つかったのか?」

 

「いや、何の手掛かりも掴めていない。」

 

ガルシアに問いかけられた青年は無表情で返し、どこか不満げな表情すら見せていた。

 

「まったく、役立たずめ!何のために動いているというのだ!」

 

ガルシアは何処か憤慨したかの様に吐き捨て、彼を罵った。

 

何か気に障る様な事があったのだろうか。

 

「分かっている!キラは俺が探し出し、俺が殺してやる!それでいいだろう!」

 

ガルシアの言葉に対し、カナードと呼ばれた青年は殺気を漂わせ、彼を睨みつけた。

 

その殺気に怯んだのか、ガルシアは縮こまってしまった。

司令官と言う立場にある彼が怯えるほどの何かがその青年にはあるのだろうか・・・。

 

「わ、分かっているならそうしてくれ、俺もアイツに恨みがある、

それで、次の任務だ、我がユーラシアの諜報部が入手した情報だが・・・。」

 

気を取り直した彼は、何処からか取り出した情報端末を眺め、次の任務についての指示を出そうとした。

 

ところが、それよりも早くカナードが動き、彼の手から情報端末を奪い取った。

 

「な、何をする!!」

 

「情報だけ寄越せばいい、どう動くかは俺が決める。」

 

「貴様・・・、上官に向かって・・・、いいな!?必ずキラを仕留めるのだぞ!!」

 

「分かっている。」

 

上官に対してのモノとは思えない態度に憤慨しながらも叫んだ彼の言葉を聞いているのかいないのか、カナードは生返事と共に指令室らから去って行った。

 

それを見届けた後、彼は大きく息を吐き、椅子に深くもたれ掛った。

 

「まったく・・・、これだからコーディネィターは扱いに困る・・・、似非人めが・・・、

まぁいい、利用できる内は好きにさせておいてやる、それに本物を消したところで自分が本物になれるわけでもない、人は自分が生まれ持った性質を消す事など出来ぬのだからな。」

 

何かを呟いている彼の表情には、ありありと侮蔑、嘲笑の色が濃く浮かび上がっていた。

 

何に対する嘲笑なのか、それを知る者は彼以外、何処にも存在しなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

指令室から出たカナードは、パイロットスーツに着替えた後、

自身の機体が置かれている格納庫に出向いた。

 

その機体とは、ジャンク屋、ロウ・ギュールを襲った機体であった。

 

CAT-X1/3ハイぺリオン

ユーラシア連邦が自国製MS開発計画、通称「Ⅹ」計画に基づき、軍需産業、アクタイオン・インダストリー社からの技術提携を受け、

独自に開発されたMSである。

 

ユーラシア連邦特有の技術、アルテミスの傘をMSに搭載し、絶大な防御力を持った機体を誕生させたのである。

 

ただし、アルテミスの傘はビームシールドであるため、バッテリーで稼働するMSでは稼働させる事の出来る時間は極端に限られてしまう。

 

その短い稼働時間を少しでも確保すべく、ハイぺリオンに搭載されている火器はカートリッジ式や、

出力の低い物が用いられている。

 

ハイぺリオンは形式番号から分かる様に3機製造され、1号機は特務部隊Xで、カナード・パルス特務兵がメインパイロットを務めている。

 

自分の愛機に乗り込んだ彼は、目を閉じ、自分の過去に思いを馳せていた・・・。

 

sideout

 

side回想

 

とある施設の一室に、何本ものケーブルに繋がれた椅子に座った少年がいた。

 

彼の瞳には生気が無く、ただ虚空を眺めている様にも見える。

 

そんな彼を、少し離れた場所から数人の研究者と思しき者達が眺めていた。

 

『これがメンデルで研究されていた実験体ですか?しかし、よく生きていたものですなぁ。』

 

『廃棄処分になるのを、研究員の一人が情けをかけて逃がしたそうです。』

 

『それは心優しい人だ、感謝せねばなりませんな、こうして我々もスーパーコーディネィターの研究が出来るのですからな。』

 

研究員達は口々に言いながらも、どこか興奮を抑えきれないでいた。

 

それもそうだろう、スーパーコーディネィターの研究はユーレン・ヒビキ主導の下行われていたため、

連合軍の研究者である彼等には見当も付かない事だろう。

 

だが、彼が研究していたサンプルが手元にあるなら別だ、自分達も同等の、いや、それ以上の成果が手に入ると信じて疑わなかった。

 

しかし、それを聞いている筈の少年は何のリアクションもすることもなく、

ただただ、人形の様に生気のない瞳を虚空に向けているだけだった。

 

この時から、その少年に地獄の日々が訪れるのであった。

 

それから暫く後、大小様々なケーブルが付けられたロードランナーで、

心拍数や脈拍を図るパッチを身体中に取り付けられた少年が走っていた。

 

そこから少し離れた場所に、モニターに向かい合う研究者達がいたが、

データが納得いくものではないのか表情は曇っていた。

 

『だめだ!!こんなデータではヒントにもならん!!』

 

苛立った研究者の一人が、力任せにキーボードを殴りつけながらも怒鳴った

 

『我々の手でスーパーコーディネィターを作る事は出来ないのか・・・。』

 

『こんな紛い物ではなく本物のスーパーコーディネィターならばよかったものを・・・!!』

 

そんな言葉が聞こえた少年は、研究員の一人を睨みつけた。

 

『なんて目をしやがる!生かしてもらってるだけありがたいと思えモルモットが!!』

 

それに気付いた研究員は手元のスイッチを押し込み、

少年に繋がれているパッチから死なない程度の電流を流した。

 

少年は苦悶の叫びを上げ、床に倒れて荒い息を吐く。

 

『まったく、痛い目に遭わないと解らないのは動物と同じだな!!』

 

研究員は少年に向けて吐き捨てるが、少年の目から敵意にも似た鋭さが消えることは無かった。

 

その後、少年は研究施設から脱走し、

独り砂漠を歩き続けていた。

 

何れ程歩いたのだろうか、身体は鉛が纏わりついているかの様に重く、水分を採っていないために頭がガンガンと痛む。

 

そんな中、彼の目の前に在ったのはジャンク屋組合の詰所だった。

 

警備は薄く、侵入しようと思えば直ぐにでも入り込める事が外観からも見てとれた。

 

詰所に侵入した彼は中にいた組合員全員を昏倒させ、

冷蔵庫に冷やされていた水を被る様に飲み干していく。

 

そんな時だった、彼の右腕に取り付けられた金属製の腕輪からけたたましいブザー音が鳴り響く。

 

この腕輪は発信器であり、脱走しても居場所を把握出来るようにと、彼に取り付けられた鎖でもあった。

 

『くそっ・・・!』

 

彼は悪態をつきながらもドリンクボトルを投げ捨て、

室内を見渡し、レーザーカッターの装置を見つけた。

 

その装置の上に自分の腕、正確には腕輪が付けられている部分を置き、レーザーを発生させて切断しようと試みた。

 

レーザーが腕輪に当たり、火花を散らすが、

特殊な素材で作られているのか、傷が付くだけで切断には至らなかった。

 

『駄目か・・・、ならばッ!!』

 

少年は悔しげな表情を浮かべるが、次の瞬間には何かを閃いたかの様に表情を歪ませた。

 

『此方を切り落とすまでッ!!』

 

彼が考え付いた生き延びる策、それは腕輪が付いている腕ごと切り落とすという事だった。

 

少年にとって、逃げ切る事こそ全てなのだろう、

それと腕一本を引き換えにするなら寧ろ安いぐらいだとも思っているのだろうか・・・。

 

『恐ろしい事を考えているな。』

 

『ッ!?』

 

自分以外の者の声が室内に響いた為、

少年は勢いよく声がした方向に身体を向けた。

 

そこには目元を隠すかの様なサングラスを掛けた黒髪の男性が、薄い笑みを浮かべながらも彼を見ていた。

 

『よほど追い詰められていると見受ける。』

 

『くっ・・・!!』

 

その男性に得体の知れない何かを感じた少年は、

地を蹴り、男性の頭部に飛び蹴りを叩き込もうとした。

 

『いきなりだな、君は。』

 

だが、男性は身体を僅かに反らすだけで蹴りを避け、

羽虫を払うかの様に腕を振るい、少年を弾き飛ばした。

 

『くっ・・・!追手か・・・!?』

 

『いいや、ただの通りすがりさ。』

 

自分を射殺す様に睨んでくる少年の視線を受け流しながらも、男性は薄い笑みを浮かべた。

 

『先程の動き、君は並のコーディネーターではないようだ、だがまだまだ若いな、表情から考えている事が筒抜けだ。』

 

男性は少年に指導でもしているかの様な口調で話しかけつつ、彼に対して値踏みでもするかの様な視線を向ける。

 

それに対し、少年は何処か観念したかの様に臨戦態勢を解き、気落ちした様に顔を伏せた。

 

『良い判断だ、賢いな、やはり、君は並のコーディネーターではないようだ、さしずめ、スーパーコーディネーターと言うわけか。』

 

『何故それを知っている!?』

 

自分の本質を言い当てた男性の言葉に、少年は動揺を隠そうともせずに問いただした。

 

『なに、私もメンデルに少々縁があるものでね、

その腕輪、この先にある研究所から逃げ出してきた様だな、君を突き出せば、何アースダラー貰えるだろうか?』

 

少年の腕に付けられている腕輪を見た男性は、少年の反応を窺う様に言葉を紡いだ。

 

男性の言葉に、少年は自分がこれまで過ごしてきた日々を思い返す。

 

自分を研究の対象、新たな何かを作る為だけの実験台として扱う研究者達の表情、自分に取り付けられた様々な器具、それら全てが彼にとっては地獄の責め苦に等しかった。

 

『殺せ・・・、彼処に戻る位なら死んだ方がマシだ・・・。』

 

呻く様な、そして呟く様な声で、彼はその言葉を絞り出した。

 

研究所に戻されるならば死を選ぶ、それほどまでに、彼は苦しめられたいるのだろう・・・。

 

『なるほど、だが、何故君は研究所から逃げ出した?

何かやりたい事でもあるのかね?』

 

その言葉に頷き、彼は少年に向けて脱走の真意を問うた。

 

『分からない・・・、俺が何の為に生まれたのかも・・・、俺は俺を生み出した奴の考えなんて知らない、俺の願いが何なのかも・・・。』

 

『なるほど・・・。』

 

少年の独白に、男性は浮かべていた笑みを更に得体の知れぬ物へと変貌していく。

 

それはまるで、人の運命を弄ぶ存在が浮かべる残酷な笑みだった。

 

『ならば、本物になれば良い、君が偽りの存在だとしても、君が本物を消せば、君が本物の存在になれるのだよ。』

 

『お、俺が、本物に・・・、本物になれるのか・・・!?』

 

男性の言葉に、少年の瞳の色が変わった。

 

それはまるで、今まで気付けなかった何かに気付いたかの様だった。

 

『それと一つ、君に警告しておこう、鎖に繋がれる事を恐れるな、

逆に君を縛る鎖でその爪を、その牙を研ぎ澄ませ、そうすればその鎖から解き放たれる時、君は今よりも遥かに強くなっているだろう。』

 

男性は言う、鎖は自らを縛る枷ではない、それらは研磨の為の道具、

繋がれるのではなく、それを利用して自身の力を研ぎ澄ませるための物だ、と。

 

少年と男性が向かい合ってどれほどの時間が流れた時だろうか、

外からけたたましいヘリのローター音が聞こえてきた。

 

恐らくは少年を捕らえるために研究所から差し向けられた特殊部隊と言うところだろう。

 

『どうやら、君のお迎えが来た様だな、私はなるべく人と会いたくないのでね、この辺で御暇させてもらうよ。』

 

『俺が、本物になれる・・・。』

 

男性が少年に背を向け建物の外に向かって行く中、少年は男性が語った言葉を反芻する様に呟いていた。

 

『キラ・ヤマトだ。』

 

『え・・・?』

 

去り際に投げかけられた言葉の意味を理解出来ずに、彼は男性に向けて聞き返した。

 

『君が倒すべき本物のスーパーコーディネィターの名だ、覚えておくと良い。』

 

『キラ・・・ヤマト・・・。』

 

その言葉を呟いた時、既に男性は室内にはおらず、代わりに銃を抱えた大勢の男達が室内に突入し、少年を床に押し倒していた。

 

だが、少年の瞳には、そんな男達は映らない、

何故ならば、彼の瞳が見据えているのは、顔も知らぬき標的だけだった。

 

『キラ・ヤマト・・・!キラ・ヤマトぉぉッ!!』

 

この時から、少年、カナード・パルスに生きる目的が見つかった。

 

果たして、それが正しい目的なのかは、誰にもわからないままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「パルス特務兵。」

 

「ん・・・?」

 

自分の名と階級を呼ぶ声に、カナードは回想の海から現実へと引き戻された。

 

コックピットの外に目を向けると、そこには中を覗き込む眼鏡をかけた女性の姿があった。

 

彼女の名はメリオル・ピスティス、カナードが属する特務部隊Ⅹの隊員であり、作戦の立案を行う指揮官に近いポジションに立っている。

 

もっとも、彼女はカナードの意見を尊重している為、上層部からの命令を彼に伝達し、彼が進む方針を基に隊全体に指示を出すという役目に徹している。

 

「ハイぺリオン一号機、発進準備完了しました、何時でも出せます。」

 

「了解した、出撃する。」

 

メリオルの言葉に答えつつ、彼は伸ばしっぱなしにしている髪を纏め、その上からヘルメットを被り、機器を操作してコックピットハッチを閉じた。

 

機体に火を入れつつ、彼はキーボードを叩いてOSを立ち上げていく。

 

それと連動し、ハイぺリオンの機体はリフトでカタパルトまで移動し、発進体勢を整えていた。

 

彼は操縦桿を握り、発進ゲートの先の宇宙を、いや、正しくはこの宇宙のどこかにいる本物を見据えていた。

 

「カナード・パルス、ハイぺリオン、出すぞ。」

 

彼の宣言と同時に、白灰色の機体は星の大海へと飛び出していった。

 

パイロットの大願を、現実のものにするためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

コズミック・イラの宇宙で、彼等は歴史の裏側で動き出す歯車の存在に近付く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

動き出す歯車
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