機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
side一夏
「一週間お疲れさん、コートニー。」
「こちらこそ、お疲れ様だ。」
宿舎の駐車場にジープを止め、そこから歩いて十分ほどのパブに足を運ぶ。
少し路地裏に入って行く場所でもあるから、軍の関係者も中々来ない場所だ、ゆっくりと寛げる。
そこでまずは何をするでもなく、俺達はバーボンを注文し、カウンター席に並んで座る。
「まずは乾杯と行こうじゃないか。」
「あぁ、ずっとそうしてみたいと思ってた。」
ずっとって何がだよ、という野暮な事は聞かず、俺はコートニーとグラスを掲げ、乾杯して一気に酒を呷る。
度数が高めだからか、空きっ腹に呑むとクラッとクルが、今は気にしない、目の前にいる親友との語らいを楽しもうじゃないか。
「ふぅ・・・、それにしても、まさかこうもスムーズに事が運ぶなんて思ってもみなかった、一体どんな脅し文句を使ったんだ?」
グラスの中の液体を一気に飲み干して、コートニーは探るような笑みを浮かべて尋ねてくる。
それは、俺が最も聞いてほしくないクチの話だ、オーブ首脳を脅したなんて、笑い話にもならん。
「人聞きの悪いことを言うんじゃない・・・、それに、仕事の話は酒の席でしたくない性分なんだ、また後で教えてやるさ。」
「くっくっ・・・、お前にも聞いてほしくない話はあるんだな、まぁいいさ、俺も、最近は自重してるんだ。」
「何をだよ・・・、女にでも怒られたか?」
お前に言われたくないと言わんばかりに、彼は俺の脇腹を小突いてくる。
やめろ、擽ったくて飲めんだろ。
軽口の応酬、それがこんなにも心地好いとはな・・・。
気の置けない距離感、そして、付き合いやすいと思える雰囲気が、今までの、以前の世界からの俺が感じた事が無い様な、新鮮で甘美な物だった。
宗吾や玲奈は、俺の部下であると同時に、既に友人と呼んでいい距離に入っている、だが、彼等は俺に何処か遠慮がちで、俺も彼等に心の何処かで遠慮している。
それは、俺と同じ境遇であり、そして決定的な違いがある為に生まれる、ある種の溝だ、双方が無意識に作ってしまう、謂わば似て非なる者同士とでも言うべきか。
セシリアとシャルは、嘗ては他意無く一個体と呼ぶべき存在だったからか、遠慮は無いが配慮も無い、言ってみれば近すぎるが故の無遠慮、って奴かな・・・?
しかし、コートニーは間違いなくその二つの括りには居ない。
同一ではないし、境遇も違う、そして何より、気を遣わないが配慮はある、だから相手と楽しもうと相手と向き合える。
これが、友人であるって事なのかな・・・?
そうだと、良いんだが・・・。
だからなのか・・・?いつもは気を緩めると不意に出てくるあの光景が、今は浮かんですら来ない。
これが、俺が求めていた安らぎの一つなのか・・・?
「ま、今は男同士で酒を楽しもうじゃないか。」
「あぁ、勿論さコートニー。」
互いに笑い合い、俺達は二杯目のグラスに手を伸ばし、乾杯の意を籠めてグラスを掲げて褐色の液体を呷った。
アルコール度数が高い酒の為、咽が焼けるような熱を帯びてくるが、それすら、親友との酒を楽しむにあたっての一つの刺激にしかならなかった。
なら、楽しむついでに、彼について知ってみるのも良いかもしれんな・・・。
「なぁ、コートニー、前々から思ってた事、聞いても良いか?」
「ん?ウチの新型以外の事なら何でも答えてやるぞ?」
「仕事の話は聞かないさ。」
まぁ、当たらずも遠からず、って奴なんだろうけどな。
というより、まだ新型あるのかよ。
それはさて置き・・・。
「お前は、どうして軍人にならなかったんだ?いや、言い方が悪かったな、どうして技術者になったんだ?」
「藪から棒になんだいきなり・・・、まぁ、話した事、無かったか・・・。」
俺の唐突な質問に、彼は驚いた様に目を丸くしていた。
まぁ、確かにいきなりに過ぎる発言だったとは思っているが、酒の席だ、無礼講で行かせてもらおうじゃないか。
「あぁ、失礼な話かもしれんが、お前ほどの腕前のパイロットが技術者ってのも最初は驚いたもんだよ、そっちメインの方が、地位も給料も高いんじゃないのか?」
技術者の大まかな給料は俺がよく分かっている、決裁書類に目を通すの俺達の仕事だし。
それに、パイロットなら危険手当や武勲を挙げての手当も出る、俺みたいに、戦いから逃れたい理由でも無い限り、前線を志しても良い筈なんだが・・・。
「そうだな・・・、一夏、お前、夢はあるか?」
「夢・・・?」
質問を質問で返してきたコートニーの表情には、何処か少年っぽさが窺えた。
そう、まるで幼い頃、自分の夢を語る少年の様な・・・。
「そうだ、俺には夢があるんだ、だから技術職にいる。」
「話が見えないな・・・、強い兵器でも造りたいのか?」
新しく頼んだアイルランド産スコッチを口に含みつつ返すが、彼は単純な想いを抱く男ではないだろうと考えていた。
何せ、兵器を、言ってしまえば、彼は機械に対してかなりの思い入れを持っていそうな様子だったからな。
「俺はな、戦争をさせない為の兵器を創りたいんだ、誰も傷付かなくて済む様な、争いが起きない世の中に繋がる兵器を。」
「戦争をさせない、兵器・・・。」
アルコールが回ったからか、それとも熱意からか、彼の口から熱を帯びた言葉が飛び出してくる。
その言葉は、俺の心に深々と突き刺さり、耳にこびり付いて離れてはくれなかった。
俺は嘗て、兵器を一方的に悪と決めつけて消し去った事が有る、二つ目の命と大切な女達の命、そして、数え切れぬ程の人間を生贄にして・・・。
今でも信じている、あの行動は決して、無意味じゃ無かったって・・・。
だけど、彼の話を聞いていると、人間のエゴと言う物を思い知らされている様な気分だ。
「絵空事だというのは分かっている、でも、夢なんだ、子供の頃から願った、俺の夢。」
「そうか・・・、夢を、叶える為に、か・・・、良いな、そういうの。」
照れくさそうに、だけど誇らしげに語る彼の表情を見て、俺はまた自己嫌悪に陥って、それを誤魔化す様にグラスに注いだ液体を一気に飲み干した。
誤魔化すために酒を飲むのか・・・、嫌な呑み方だ、セシリアとシャルに当たらない様に気を付けなければ・・・。
「笑わないんだな。」
「人の夢を笑う奴は、夢が無いから嘲笑うんだ、夢が無い事を恥じて、ある事を妬むんだ。」
「なるほどな、違いない。」
試す様に聞いてきた問いに、俺の個人的な感想を返してやると、彼はまた違った笑みを浮かべて酒を呷った。
愉しそうに飲む、浮き沈みが激しい俺とは大違いだ。
「で、人に質問しといて自分も答えないのは不公平だよな、お前の夢は?」
「俺の、夢・・・。」
そんな俺の目を覗く様に、彼は俺に尋ねてくる。
その問いに、俺は返す答えが浮かんでこなかった。
夢、か・・・、生きる事だけに、過去にだけ囚われてるから、目標が無いのか、俺は・・・。
「・・・。」
だからか、俺は彼に返す言葉も無く押し黙ってしまう。
「す、すまない、無理に聞くつもりは・・・。」
俺が押し黙ってしまった事が、気に障ったとでも感じたのだろうか、コートニーが何処か申し訳なさそうに肩を揺さぶってくる。
あぁ、またか・・・、こうされると、また自分が嫌になる、彼は悪くなんかないのにさ・・・。
「いや、謝るのは俺の方だよ・・・、すまない・・・。」
ちゃんと笑えてるかも怪しい笑みを彼に返しながらも、俺はグラスに残っていたスコッチを一気に飲み干す。
呑みやすいが度数の高いそれでも、俺は酔う事が出来なかった。
我ながら、女々しくてめんどくさい男だ・・・、しみったれて、何時までもウダウダして、さ・・・。
くそっ・・・、これじゃ酒が不味くなるだけだ・・・。
「いや、大丈夫だ、気分を変えよう、ついでに場所も。」
「あぁ・・・、浜風に当たりたいよ。」
コートニーの申し出を素直に受け取り、俺はカードで支払いを済ませて連れだって店を出た。
ここ最近切ることをしなかった髪が浜風にさらわれて靡くが、それすら俺の心を宥める事はできなかった。
それをどう思ったのか、コートニーもどこか顔を顰めているように見えて、それも俺を自己嫌悪に陥らせる。
ダメだ・・・、こんな湿気てる事を望んでるわけじゃないのに・・・。
誰か、この空気を換えてくれ・・・。
「「一夏(様)--っ!!」」
「コートニーッ!!」
そう思った時だった、聞こえてきて欲しいが、聞こえてはいけない声が聞こえてきた。
げんなりするより先に、驚きがやってくるが、振り向いた先には予想外の人物とセットになった二人組の姿があった。
「セシリア!シャル!それと・・・、誰?」
「リーカ!?どうしてオーブに!?」
俺の隣でコートニーが目を見開いて驚いている事から、セシリアとシャルと共にいる女は、彼に関わりがあるのだろうと予想できる。
というより、なんで彼女達が地球に居るのか・・・、待機してろと命令しておいた筈なんだが・・・・。
まぁ、さっきまでの空気を殺してくれたのだから、それはそれで良いか、な・・・?
sideout
noside
バーから出てきた一夏達を問い詰める様に、セシリアとシャルロット、そしてリーカが彼等の前に立ち塞がった。
コートニーはまさかの人物達の登場に面食らった様子であったが、一夏は彼自身の妻二人の介入を半ば予想していたのだろう、驚愕と歓喜、そして呆れが混在する様な、何とも言えない表情をしていた。
だが、そんな彼にも予想出来なかったのは、リーカの登場であった。
彼と彼女は、一時同じ宙域に居たのはいたが、顔を合わせた事は一度も無く、話した事も一度たりともない。
故に、どう対処すべきか分からないのだろう。
そのため、コートニーが彼女の知り合いであると目星を付け、一夏は彼に耳打ちするように尋ねた。
「(おい、コートニー、あっちの女、誰?)」
「(ザフトの赤服パイロットのリーカだ、腕は確かだぞ。)」
「(なるほど、お前の女か?)」
「(何言ってるんだ・・・、違うに決まってるだろ・・・。)」
「(ふ~ん・・・。)」
自分の問いに答えたコートニーの答えに、一夏は絶対それだけじゃないだろうなと思いながらも追及は止めた様だ。
恋人関係でも無い女が、男を追いかけて来るなど普通なら考えられないのだ。
いや、一方的な想いゆえの追跡なのかも知れないが、とは一夏は考えなかったようだ。
「コートニー・・・、もしかして、男の人の方が、良いの・・・?」
「な、なんでだよ!?俺にその気は無い!!」
リーカの、コートニーの男色の気を疑う発言に、彼は慌てて弁明する。
確かに一夏とは話をしたいとはずっと想ってはいた、だが、それは友情からくる物であるのは説明するまでも無いと考えていた。
だが、彼は一つ見誤っていた事が有った、それは、その未説明が男同士の間でしか成り立たないという事だ。
恋する女に見向きもせず、男にばっかり感けていれば、女からしてみればそれこそ、同性愛者のそれと見受けられても致し方ないだろう。
「だ、だって・・・!私といる時よりも楽しそうじゃない・・・!」
「い、いや、それは誤解だ・・・!!というか、何言ってるんだ・・・!?」
「この前なんて・・・!私をほったらかしにしてたじゃない・・・!!」
「あれは仕事が入っただけだ・・・!」
だが、今の彼にはそれを一つ一つ解いて行く余裕は無かったのだろう、普段の冷静さからは想像できないぐらいに慌てていた。
それは、これはストーキングされた事による恐怖が上回った結果なのだろうか、それとも、リーカには色々と負い目があるからなのかは、誰にも分からなかった。
「一夏様も一夏様ですわっ!」
「どうして何もなしに一か月も留守にするのさっ!?」
一方、一夏に対して依存度が高いセシリアとシャルロットは彼を鬼の形相で問い詰めたが、当の本人は煩わし気ながらもじゃれ合い程度にしか思っていないのだろう、ある種の柔らかさが見て取れた。
どうやら、彼も彼で傍らに彼女達がいない事に思う処が有ったのだと考えられる。
「それは、まぁ・・・、悪かったな・・・、ホントはもっと早く帰るつもりだったんだ、色々とたて込んじまってな、というより、あの女止めてやれよ、コートニーとは付き合ってすらないんだと。」
「「えっ?」」
だが、一夏が弁解よりも先に詫びを入れた事で頭に昇っていた血が降りて冷静になったのだろう、セシリアとシャルロットが気の抜けた返事を返した。
「えっ・・・?僕達、まさか・・・?」
「まさか、早とちり、でしたの・・・?」
「うん、ストーキングの片棒担いだだけ、だな・・・。」
まさかリーカとコートニーが自分達の様な関係では無いとは思わなかったのだろう、二人は愕然とした様な表情を見せ、一夏は二人の恋愛面での短絡思考を呆れる様な表情を浮かべていた。
普段、彼女達が冷静な時の判断能力は一夏に勝るとも劣らない程に優れているが、彼等がこの世界に来てからと言う物、一夏も含めて少々直情的になっている為、一旦熱くなると外部から覚ましてくれる横槍が無い限り暴走し続けてしまうのだ。
だが、それだけならば良かったが今回はリーカと言うオマケまで付いて来ているのだ、手が付けられなくなってしまった。
「そ、それよりも、なんでここに来たんだ!?ザフトの仕事はどうしたんだ・・・?」
「は、話を逸らさないでっ・・・!私・・・っ!!」
そんな彼等のすぐ脇で、コートニーとリーカの口論、もとい痴話喧嘩はヒートアップしていく一方だった。
理由を説明してほしいコートニーと、自分と一夏とどっちが大事か聞きたいリーカでは、そもそも論点がずれていた。
そんな二人を見て、自分達では止められないと思った一夏達三人は如何すべきか手を拱いていた。
まさにその時だった、突如として強烈な光が五人を照らした。
『っ!?』
「はーい、痴話喧嘩はそこまで、近所迷惑よ?」
「良い歳した大人が何やってんだ・・・、落ち着いてくれよ・・・。」
驚いてその光の発生源に目をやると、そこには大型の懐中電灯を持った茶髪の女と、長い黒髪を持った男性が呆れた顔をして立っていた。
「まさか・・・?玲奈・・・、宗吾もか・・・?何故ここに?」
光に目が慣れた一夏は、その二人が自分の部下である早間玲奈と、神谷宗吾であると気付いたのだろう、軽い驚愕と共に尋ねていた。
「ミナからアンタの嫁二人の追跡を命じられてねぇ。」
「そこの二人、ミナの命令無視ってここに来てるんだよ。」
「なんだと・・・?」
彼の問いに、二人は肩を竦めてやれやれとでも言う様に答えた。
それを聞いた一夏は、半目になってセシリアとシャルロットを睨む。
すると、二人は悪戯がバレた子供のようにそっぽを向き、口笛を吹いて誤魔化そうとしていた。
どうやら、今になって自分達の行動の重大さに気付いたのだろう。
もっと巧い誤魔化し方は無いのかと思った一夏だったが、もういいやと言わんばかりにタメ息を一つ吐いて全員を見渡した。
その場にいる全員が、宗吾と玲奈の介入によって本来の冷静さを取り戻していた。
「まぁ、取り敢えず立ち話も何だからさ、どっかで軽く呑みながら話しないか?説明する事色々あるし、な?」
このままでは埒が明かないと判断したのだろう、宗吾は自分が持っていたクーラーボックスを掲げながらも全員に提案していた。
どうやら、合流する前に用意していた酒類が入っているのだろう。
そんな彼の提案に全員が頷き、それぞれ相手と腕を組んだり手を引っ張りしながらも連れだって歩き始めた。
それぞれが、様々な想いを胸に抱えて・・・。
sideout
次回予告
夜の海岸で巡り会った七人の若人達は、その瞳に何を見る?
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
夢
お楽しみに