アッシュアームズ―超重の指揮官―   作:趣味の渡り鳥

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わらわの前に障害など有り得ぬのだ。


―Ⅷ号戦車マウス―


【1話】代理人失踪

戦闘に不測の事態とは付き物である。

 

現に優勢だった筈の前線は今にも崩壊しそうな程に混乱していた。

 

敵味方共に多くの被害が出てるが、しかし彼女の率いる部隊は既に建て直しつつあり決着は時間の問題だった。

 

激しい砲撃と光線の応報、その中で声が響く。それは幼くも凛とした指揮の声。それは仲間への信頼と激励。それは敵を滅ぼさんとする破壊の号令。

 

「よいか!お主らで何としてでも制空権を確保するのだ!!」

 

「ラジャー!」

「御意!」

 

二つの光がみるみるうちに上空へと上り、火花を散らした。墜ちて来るのは鉱石の破片、それは空が此方の手中に入った事の証明だった。

戦況は完全に向こうが不利、それでも依然として目標は動くことはなく、触手を地面に打ち込み構え続けている。

 

「…わらわが奴を潰す、援護しろ!」

 

「そんな…危険です!まだ未知数の相手なのに…出来ませんよ!」

 

「この土壇場で四の五の言うでないわ!行くぞ!!」

 

「あっ!待ってください!!◯◯◯!!」

 

鋼鉄の四肢で地面を鳴らし轟音と共に前進する。彼女を止める者は存在しない。

後方からは味方の半ばヤケクソじみた援護射撃が送られてくる。(出来るではないか)と心中で褒め称え、正面に構える「モノ」を睨む。

 

 

 

そこには倒すべき存在がいた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

19世紀初頭、突如としてソレは現れた。

 

ソレは果たして生物であるのかすら不明であり、身体を鉱石群で構成しており、瞬く間に世界中に広がり人類の未来を阻んだ。

 

人類は彼の存在を「災獣(リセッター)」と呼称した。

 

災獣は世界各国の都市部に突如として出現し破壊活動を行い始める。しかしそれは人類を狙っての行動では無く、人類が築き上げてきた歴史や文化、文明の破壊だった。

 

攻勢に出ようとした人類だが、彼奴らは「絶縁層」と呼ばれる障壁を持ち人類の持つ全ての火器を無力化。

 

防戦に徹する事しか出来ない状態が続くも、その頃には国家という枠組みは既に崩れかけていた。

 

国家の崩壊により路頭に迷う人々、それを導く存在として「灰塵教会」と名乗る組織が台頭する。

 

灰塵教会は「city(シティ)」という安息の地に生き残った人々を迎え入れる。そして反撃の手段を与えた。

 

 

それは「少女」だった。

 

 

「Dolls(ドールズ)」と呼ばれる彼女達は「ARMS(アームズ)」という起動兵器を操り、災獣を殲滅すべく人類の前に現れた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

cityではかつての大国を思わせる五つの「学連」が誕生し、Dollsの管理を行った。

ARMSに関してはそれの量産や調整を行う組織「整備会」が設立され、灰塵教会に頼り続ける事なく己の足で再び人類は歩みを進める。

 

―――――――――――――――――――――――

 

Dollsは正に圧倒的だった。

今まで苦戦を強いられていたのがまるで嘘のように災獣を撃破し、cityは生存圏を広げる。

 

しかしそれも一時的な物に過ぎなかった。

 

「共生種」…災獣の新種とも言えるそれは、かつて世界を破壊した時と同じように突然そこに現れた。

 

違う点は今までの災獣よりも更に強力な力を持っている事であり、共生種達は出現したその場の環境を急変させた。

 

 

一つは広大な砂漠に。

 

 

一つは凍てつくの銀世界に。

 

 

一つは灼熱の火山に。

 

 

一つは原生の密林に。

 

 

各学連は共生種の引き起こした異常事態に対応すべくDollsによる討伐部隊を編成するが、この戦闘により多くのDollsが損失する事となる。

この頃の人類はDollsを有効利用した戦略や戦術を持ち合わせてなく、作戦は共生種にDollsを正面から突撃させるという、余りにもお粗末な物だった。

 

更に悲劇は続いた。

 

共生種の出現が「かつての歴史の再現」だとするのなら、その時に発生した「各国の都市部への突発的な攻撃」はどのように再現されるだろうか?

 

 

cityのとある都市区画、安寧を得た人々が暮らす「平和」があり、それはたったの一晩で崩れ去った。

 

 

city中心部での災獣および共生種の出現、そこはcityの電力を補う地熱発電所が存在する区画であり、生命線とも呼べる物だった。

 

学連は総力を上げて出現した災獣の殲滅を図るも、この作戦すら失敗に終わる。

後にその区画は廃都と呼ばれ、city設立以来初の人類の敗北した地となる。

 

この度重なる共生種との戦闘で失ったDollsは数多く、性能に頼った正面戦闘は余りにも効率が悪い事を覚えた学連は、すぐさま各学連とその所属するDolls達の連携を求めた。

 

しかし腹の探り合いが止まることは無く、誰かが誰かを出し抜こうと動き、己が学連の権益を求めんが為に、人類には連携の「れ」の字すら無かった。

 

 

故に各学連は願った。「どの勢力にも属さない、ただDollsを効率良く運用する人材」そんな都合の良い存在を。

 

 

その願いは叶えられる事となる。

 

 

「代理人(エージェント)」と呼ばれたその人間は瞬く間にDolls達をまとめ上げ、指揮し、効率的に運用して見せた。

 

 

それは正しく人類とDollsにとって救世主だった。代理人を得たDolls達は水を得た魚の如く数々の戦線で勝利を掴み、画期的な戦略、斬新な戦術を以て安定した戦闘を可能とした。

 

代理人の副官となった「とあるDolls」も、その知識を己のが物にせんと様々なDollsと交流を深め、情報の交流に努めた。

 

これを見た学連は両手を挙げて代理人に驚喜。失われた勝利と栄光は再び人類へと輝いたのだ。

 

そして遂に共生種への攻略作戦が現実味を帯びてきた所で…とある問題が発生した。

 

 

 

代理人の失踪

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

日が上りはじめて間もない時刻。

 

既に目を覚ましているDolls達は各々決められた予定を確認し、行動を取り始めている。

 

「入るぞ」

 

それは副官である彼女も例外ではなかったのだが、執務室へ突然訪れた来客に驚き、そして予定が狂った事に少しヘソを曲げたのだった。

部屋に訪れたのは二人の女性。一人はモノクルを掛け、白衣を纏い科学者のような姿をしている。

もう片方はバイザーのような物で目元を隠し、白衣の女性とは対象的に黒い修道女姿を思わせる姿をしていた。

 

「突然来るとは…随分と不躾ではないか?此方にも予定というのがあるのだがな」

 

椅子に深く腰をかけて足を組んでる彼女は如何にも「不機嫌です」という表情で来客を迎えた。

 

「まるでこの部屋の主のように物を言うな貴様は、元より用事など無ければこんな所には来るつもりも無かったんだけどね」

 

白衣の女性、グレーテルは言葉を返し副官を睨む。

 

そこには幼子が座っていた。

 

全身黒ずくめの服に大きな帽子を被り、赤ともピンクとも取れる髪をした少女。

 

【Ⅷ号戦車マウス】、それが彼女の名である。

 

「…ならば手短に話せ、わらわもお主らの相手をするほど暇ではないのだ」

 

そう言うと彼女は座布団で嵩増してる椅子から降りて、マグカップに珈琲を注ぐ。

 

その態度に再びグレーテルは口を開きかけたが、横にいる黒衣の女性、メシアが先に発言する。

 

「代理人の失踪についてです」

 

「それは…既に結果が出たのではないか?」

 

マウスの疑問にグレーテルが答える。

 

「確かに代理人が姿を消してから今日で二週間経つ、失踪した事は確定だろうね、city内を捜索しても手掛かり無しだ」

 

「ならば何故今さら?」

 

「代理人の所有物である筈の貴様達Dollsについて…だ」

 

その言葉を聞き、マウスは待ってましたと言わんばかりに顔を向け。期待混じりの声色で続きを訪う。

 

「それで、どうだったのだ?」

 

「…はぁ……皆折れたよ、学連も、整備会も、貴様の意見を通すとさ。現時点をもって貴様が代理人だ…私は納得してないがね」

 

「この件は教会側も既に了承しています」

 

「そうか…そうか…!ふ…ふははははははは!!あちちっ!」

 

己の思い通りになった事に喜び高笑いをあげる幼女。手元のコーヒーをこぼしかけて焦るが、その顔から笑顔は消えなかった。その姿は年相応と言える…のかもしれない。

 

彼女の願いとは…姿を消した代理人の代わりに部隊の全権を己に譲渡し、今まで通り部隊を運用する事、つまり「代理人の代理」を勤めるという物だった。

 

完全に緩みきったマウスだったが、グレーテルの次の発言に耳を疑う。

 

「ただし、現在保有してる資源や資材は九割を学連に譲渡。そしてDollsも自発的に部隊に残ると発言した者のみを残し、それ以外は全ての学連に戻る事になる」

 

「ブフッ!!!…なっ!?なんだと!?」

 

飲みかけたコーヒーを吹き出して彼女は驚愕する。グレーテルの発言は、代理人になる代わりに全てを捨てろと言っているのと同じだった。

 

「もしこの条件が呑めないのあればこの話は無かった事になるぞ?どうする?決めるのは貴様だ」

 

「ぐぎぎぎ……きょ、教会からは何か要望はあるか?」

 

「いえ、此方は特に何もありません。いつも通りに部隊を動かしていただければそれで」

 

(それが出来なくなるのだ!!)と内心叫ぶマウスは渋々と了承する。既に余裕だった笑みは消え失せ、苦々しく今後について考える指揮官の顔をしていた。

 

「…相応の覚悟は有るみたいだな、なら話はここまでだ邪魔をしたね」

 

「まっ…全くだ、まったく!」

 

言い返す言葉も出せないマウスを尻目にグレーテルは部屋から出ていく、悔しい思いをしてるであろう幼女に少しスッキリしながら。

 

「はぁぁぁ……ところで、お主はどうする?此処に残るのか?」

 

深いため息を吐いて心を落ち着かせ、まだ部屋にいるメシアに問いかける。

彼女は元々代理人の補佐的な存在として教会から訪れた身であり、代理人が消えた今、彼女が残る理由が無いのである。

 

「いえ私も教会に戻るよう命令がありました…短い間でしたが大変お世話になりました」

 

「代理人の世話をしていたのはお主の方だがな…そうか、寂しくなるな」

 

「……私は、今回の失踪は何か意味が有るのではないかと思います。それが何なのかまでは不明ですが…今は貴女の今後の活躍を期待しております」

 

そう話すと彼女も部屋から退出して行った。

 

彼が消えた原因は不明、その意味も不明、しかし必ず何か考えがあるはず、それはマウスもよく理解していた。

 

「あの奇天烈な男がどこまで考えておるのかは知らぬがな……さて、ここから忙しくなるぞ…そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 

「いやぁ…冷蔵庫の中探したけどコーラ切れてた……あっ話終わった?問題無きゃいいけどね~」

 

執務室の影から金髪の少女【P-51Dマスタング】が顔を覗かせる。彼女もDollsでありこの部隊では古参の一人だ。

まるで他人事のように物を言うマスタングに顔をしかめるマウスだったが、いつもの事だとすぐに切り替える。

 

だが頭に突然発生した重量感により再び顔をしかめた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ええい!わらわは肘掛けではないぞ!!」

 

「まぁまぁ、んでこれからどうするの?資源も部隊も没収らしいじゃん」

 

「まだ部隊については決まっとらんわ…まずは今回の話を皆に周知してもらう必要がある、手っ取り早く演説でも行おうか」

 

「みんな残ってくれると良いけどねぇ」

 

「お主はどうなのだ?」

 

「あたし?…あたしは残るよ、だって姉御置いてったら心配だもん。それに学連だと経費でコーラ買えないしねぇ」

 

「そんなことしてたのか貴様は!!?」

 

「冗談だよじょーだん、it's joke!」

 

さらっととんでもない事を口にした彼女に驚愕する、マウスは冗談であることを祈るしか出来なかった。

 

「それに…やるんでしょ?共生種討伐」

 

「…うむ、代理人が残して行った作戦だ…必ずわらわ達で成功させねばなるまい」

 

失踪した代理人、彼が彼女達に残して行った物はこの停滞した世界に一石を投じる代物だった。




人物紹介コーナー

【Ⅷ号戦車マウス】
超重量級幼女。今作の主人公、突然消えた代理人の代わりになる為に各地を奔走し、指揮権を勝ち取る。見た目は幼いがカリスマ性があり「姉御」と呼ばれたりする。
子供扱いされると怒るし泣く。

【P51-Dマスタング】
コーラで動く傑作戦闘機。部隊の中ではマウスと並んで一番の古参、なんだかんだ言って面倒見がいい。残った理由をはぐらかしたが本当にコーラを飲みたいだけかもしれない。
恥ずかしかったり照れるとすぐ手を出すタイプ。

【代理人(エージェント)】
行方不明になった人。ゲームでの主人公、指揮官としての能力をメキメキ伸ばしてきたマウスを見て「後は自分の目で確かめよう!」とファ◯通の攻略本みたいな感じに姿を消した。

【グレーテル】
フルネームはグレーテル・フライヘア・シュテルマー・フォン・ライヘンバッハ(長い)。良い意味でも悪い意味でも技術屋、Dollsへの偏見が激しけど今回の件は折れざるを得なかった。

【メシア】
代理人の世話をするために教会から来た人、でも居なくなっちゃったから蜻蛉返りする羽目になった。上の白いのと違ってDollsとも普通に話せたりする。

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