宇宙最強の龍神たちが異世界を征く   作:御代川辰

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第壱首 ハジマリ

 《森闇大城宮(しんあんだいじょうきゅう)

 

「御行幸感謝するぜ、エル。龍神の王になっても、相変わらず幼気(いたいけ)で、華奢(きゃしゃ)な体だな」

 

 肌と白眼以外のもの、髪の毛、瞳、身に付けているもの全てが真っ黒な男が塔のように巨大な玉座から神聖萬天龍辰神皇(しんせいばんてんりゅうしんしんおう)という仰々(ぎょうぎょう)しい称号を名乗る青年【エリュシオン】を見下ろし、高圧的な態度で臨んでいる。

 彼は宇宙古神龍皇帝(うちゅうこしんりゅうこうてい)というこれまた見上げた称号を有する青年、【ルキフィア(Luchiphire)】。

 

「久しぶりだね、ルキ。周りの子たち、何か変化はあった?」

 

 エリュシオンの言葉に、いつの間にか椅子から降りていたルキフィアはふるりと肩を震わせる。龍族の一種族、“古神龍”と呼ばれる龍の中でも特に高貴な血統の生まれである彼は、さらにその実力すらも他の神龍を遥かに超越していたため、周囲の古神龍族からは“生まれるべくして生まれた王„と持て(はや)されるようになった。

 物心がついたころには何をさせても出来て当然と成功する度に褒められる生活を送り続けた結果、“他種族を侮蔑しておきながら自分に媚びを売ることしかできない弱い同族„を蔑むようになったという経緯がある。

 つい先ほど、つまりエリュシオンが現れるまで愚か者たちに囲まれていたのだ。

 ストレスが限界の状態という心理状況で指摘されたとなれば、動揺するのは必然である。

 

「恥ずかしながら、相変わらず俺を持ち上げることしかしない…………()()()だけだよ。一個人として、友達として俺を見てくれるのは…………」

 

 言い終わると、ルキフィアはちらりと後ろの窓を見る。窓は開かれ、赤いカーテンは風に揺れ、月明かりを浴びながら一人の女性が立っていた。

 

「遅れてごめんなさいね、テトの所で()()用事が立て込んでたから……」

 

 妖艶なる妖婦(ヴァンプ)。この一言に尽きる。彼女が身につける深く濃い紫色に染め上げられたチャイナドレスの布地には龍や麒麟、鳳凰などと言った瑞祥動物をあしらった様々な色の刺繍が施され、豊満な乳房の上半分が菱形に開けられた穴から顔を覗かせている。これに加えて肉付きが良く(なまめ)かしくも見え、あるいは筋肉質で(たくま)しくも見える美脚をも両側から見せつけているという男の欲望を刺激するために作られた邪淫の塊のような服装で、神聖大龍鳳皇神(しゆせいたいりゅうほうおうしん)というやはり仰々(ぎょうぎょう)しい称号を有する【絲遊(スーヨウ)】言う名の女性が二人に視線を向けている。

 

絲遊(スーヨウ)、いつも玄関から入れって言ってるだろうが」

 

 ルキフィアは呆れたような笑顔でスーヨウに注意をしているが、対してスーヨウは妖艶さを全面に押し出した笑顔のままルキフィアに言う。

 

「早く会いたい人がいる時にわざわざ玄関をくぐらなきゃいけないなんて、すごく無駄なことだと思うの…………」

 

 スーヨウは一度言葉を切り、ゆっくりとルキフィアに近付く。

 

「なんだよ?」

 

 そして、ゆっくりとルキフィアを抱きつき、瞳を潤ませながら続ける。

 

「…………こんなワガママな私は嫌い?」

「…………我儘だから悪いとは言わねえよ」

「うふふっ……嬉しい……」

 

 ルキフィアはスーヨウを強く抱き返しながら答え、スーヨウは妖艶な笑みを崩して幼さの残る明るい笑顔にかわった。エリュシオンはその様子を見てふっと笑みを溢しながらスーヨウに言う。

 

「スーちゃんには、わがままが一番似合うよ」

 

 エリュシオンの言葉でスーヨウの表情はさらに明るくなり、エリュシオンの方へ顔向けながら答えた。

 

「シオンも、ありがとう」

「おっと、忘れるところだった。茶番はここまでにして、本題に入ろう」

 

 そう言いながらルキフィアはスーヨウの腰に添えていた手をそっと離し、スーヨウも名残惜しげにゆっくりと離れる。三人が三角形を描くように等距離をとって離れた瞬間、つい先ほどまでの(なご)やかな空気が嘘のようにはりつめた鋭いものになり、一気に厳しい雰囲気へと変貌していた。

 黒い玉座を背に、ルキフィアは語り始める。

 

「俺が〈陸亀(トータス)〉に広げておいた結界に歪みが生じ始めた。【エヒトルジュエ(Echt Le Jouet)】のバカがまた他所(よそ)の神の縄張りに干渉しようとしているらしい」

 

 ルキフィアは黒いオーロラの輪を作り、一つの恒星系の様子を映し出す。そして恒星から数えて五番目あたりをゆっくりと回る、オーロラのような光球に包まれた惑星にフォーカスが近付けられた。

 その惑星の大陸は異常に大きなものが一つ、目に見える島は数えられる程度しか存在せず、大陸南西部は河川が網状に入り組んだ不自然な地形、大陸北部は現在進行形で森林が異常な速さで減少しつつあるという有り様だった。

 

「いい加減諦めないのかしらあのゴミクズ…………」

 

 エヒトが地上人に対して(おこな)っているであろうあらゆる非道な行為を想像したスーヨウは、呆れを通り越して憎悪が胸の内を巡りはじめていた。

 

「よほど諦められなくて、急がなきゃいけない理由があるのかもね」

「あいつの行動原理に理由なんてあるの?」

「お前の意見、聞かせてもらおうか?」

 

 一方エリュシオンはエヒトの行為についての考察を語る。

 

「考えられる理由は…………戦争を無理矢理に長期化させたことによる戦死者の増加、そしてエヒト自身の不始末によって予期せぬ災害が発生が重なって予定より多く人口が減ってしまった。それで…………」

「それで人口確保のために違う世界から管理しきれないほどの人間を連れて来ようと?とんだ思い違いだな」

 

 エリュシオンが考察した予想図は上記のようになった。しかし、ルキフィアが否定した通りやはり違和感がある。そもそも如何にエヒトとて自分自身の不手際で世界がめちゃくちゃになるほどの災害を起こすなどまずあり得ないし、人口が減ったならその都度休戦させ、戦間期の間に人口調整をするだけで充分なはずだ。

 エリュシオンは思考を巡らせ、話題に出るたびにルキフィアから散々聴かされた過去のエヒトの行為から今回の件のヒントを探す。

 

(そう言えば解放者が何とか…………なるほど……)

 

 そして、エリュシオンは答えを導き出した。

 

「エヒトは解放者の復活が近いことに焦って、勇者か何かを召喚すると称して戦力の増強を図っている?」

「その線で間違いないだろう。これが何よりの証拠だ」

 

 ルキフィアはうんとうなずき、人族が《神山》と称する山の様子を二人に見せた。

 オーロラには巨大な石造りの神殿に、続々と白い装束を身につけた人間たちが吸い込まれるように入り込んでゆく不気味な様子が映し出されている。

 

「今度ばかりは、奴を見逃すわけにはいかない。なんとしても…………エヒトの野郎をぶっ殺す。協力してくれるか?」

 

 ルキフィアの目には怒気が宿っている。

 

「上等よ。私だってあいつの顔なんか見たくないから。抵抗できないとわかっててテトを散々にいじめてきたクズ野郎だし、今までのツケを払わせるのも兼ねて…………全力で協力するわ」

 

 スーヨウの目には怨恨が宿っている。

 

「もちろん協力するよ。僕も()()()も、エヒトには個人的な怨みがあるから…………協力するよ」

 

 そして、エリュシオンの目には狂気が宿っていた。

 三人の感情に呼応するかのようにオーロラの輪が歪み、神殿内部の様子を映し出す。

 ちょうど、世界と世界を繋ぐ儀式が開始されたようだ。

 

「それじゃ、ひと暴れさせてもらいましょうか」

 

 スーヨウの言葉を合図に、オーロラが三人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

トータス(Teotass) ハイリヒ王国(Caun'nigh Raygh Hay'ligh)

 

「《Ghez'ka.Ghez'ka.(主よ。主よ。)》」

「《Uceltue,Wagro,(我らに大いなる)Aorgh'paosh,Jallme.(救いを与えたまえ。)》」

「《Fuegpor,Dageslk'donvima,(同胞なるものたちに)Tathra'ejutru,(光の道しるべを)Nim'loghia.(示したまえ。)》」

 

 神山の頂きに造られている神殿の祭壇を、真っ白な衣服に身を包んだ人間たちが囲い込み、異界の言語で歌を歌っている。

 言霊(ことだま)に宿る口寄せの力を用いて行う、異界と異界を繋ぐ儀式だ。

 

「《Sebal'gwuinga,(不浄にして邪悪なる)Belofuegpeo,(人ならざるものに)Polmkhab'wodore.(大いなる災いを与えたまえ)》」

 

 叫ばれる文言の内容はまさに唯一人類絶対主義(ヒューマニズム)*1の極みだ。

 神官たちが叫ぶ狂気極まるその言葉は、次第に短くなってゆく。

 

「《Ghez'ha,Sul'Echt.(主たるエヒト神よ。)》」

「《Oaligh'urben,Ghez'ka.(ヒトの王たる主よ。)》」

「《Wagro'paosh.(我らに救いを。)》」

 

 最後の叫びの刹那。石造りの白い床に幾何学模様と文字が魔法陣と共に浮かび上がり、やがて全てを飲み込むような白い輝きを放った。

*1
筆者の造語。現実の白人至上主義(肌の色が白いやつが無条件で偉いというアレ)と人間中心主義(要するに自然は人間にとってゴミみたいなもの)に、ファンタジー系フィクションで描かれることが多いヒト族至上主義(人類のうちヒト以外の生物の特徴を持つ人種を生物として劣るものとし差別する思想)を足して煮詰めたようなクー・クラックス・クランも真っ青になるであろう極端な考え方。

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