宇宙最強の龍神たちが異世界を征く   作:御代川辰

2 / 5
第弐首 勇・者・召・喚

 魔法陣が輝きを失うと同時に、不気味な祈りの歌が()んだ。

 神殿の中を見てみれば、つい先程まで魔法陣が在った場所にはなんと百数十人もの人間が横たわっている。

 服装は皆ばらばらで、それぞれ違う世界、あるいは同じ世界の違う地域からこの神殿に引きずり込まれたとおぼしき人間も確認できる。倒れている人間の中には身に付けているものが少なくほぼ裸という、実に不自然かつ不衛生極まりない姿の者も紛れ込んでいる始末だ。

 彼らを取り囲む白服の神官たちもこれほどの数の人間たちが一斉に召喚されることはさすがに想定外であったようで、ある者は狼狽(うろた)えて(あわ)ただしく動き回り、またある者は放心してしまっている。

 しかし、仮に前列がなかったとしても不測の事態が起こった以上は対処をとる他に手段はない。

 

「皆の者、狼狽えるでない。実行した以上は対処しなければならない」

 

 神殿の奥に鎮座する巨大な大理石の像と同じく大理石を削って造ったであろう白い祭壇を背に、神官長【イシュタル(Ishtar)】自身も想定外の事態に混乱しながらも神官たちに平静を(うなが)す。自らが執り行った赦されざる行為、すなわち異界同士を繋ぐ禁断の魔法を使ったことにより発生するであろう最悪の未来を幻視しながら…………

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

「うっ……っ(たま)(いて)ぇ…………」

 

 最初に目を覚ましたのは東京皇国の第八特殊消防隊所属の消防士、【森羅日下部(シンラ・クサカベ)】二等消防官だった。彼は意識が覚醒した瞬間に自身を襲った、(おも)(にぶ)い頭痛を根性で押さえつけながら、ゆっくりと起き上がる。

 

(……………………っ!なんだ、ここは!?)

 

 光の眩しさに耐えながら目を開いたシンラの視界に飛び込んで来たのは、驚愕の光景だった。白い服を身に付けた人間たちと、白い柱の建物。周囲には第八の仲間だけではなく、拐われて来たのであろう一般人や武装した人間たちが無造作に寝転がされている。シンラにとって、これらから連想されるものはただ一つ。

 

「お前たちは、伝導者なのか!?」

 

 シンラは思わず叫んだ。しかし、自分たちを取り囲む白服たちは答えない。目の前の老人も首をかしげて答えた。

 

「勇者様。不敬を承知して申し上げますが、伝導者というのは存じ上げません」

 

 老人の意味不明な返答に、シンラは絶句せざるを得なかった。

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

 次に目を覚ましたのは、ある時は小説家として活躍し、またある時は本屋の主として店を切り盛りし、またある時は剣士としてメギドと戦う多忙な男、【神山(かみやま)飛羽真(とうま)】だった。

 

(……あれ?ワンダーワールドじゃない…………建物の中なのか?)

 

 疑問を感じつつも飛羽真(とうま)は起き上がった。そして、起き上がるときに触った床の感触から、すでに変身が解除されていることに気付く。

 腰にはソードライバー、《火炎剣烈火》がしっかりと巻かれ、そして足元にはワンダーライドブック《ブレイブドラゴン》が落ちていた。

 

(確か五本角のメギドと戦ったとき気絶したんだっけ…………それに倫太郎(りんたろう)賢人(けんと)たちは…………)

 

 ついさっきまでの戦闘を思い出し、そして仲間たちの安否を願いながら立ち上がろうとした、そのとき。

 

────お前たちは伝導者なのか!?

(えっ!?)

 

 後ろから聞こえた若い男の声に、飛羽真(とうま)は思わず振り向いた。振り向いた先では──────────

 

「なんだ、これ…………」

 

 百人以上の人間が倒れていて、その周囲を二十人以上を数える白い服の人間が囲んでいた。

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

 次に目を開いたのは、自称何でも屋、万事屋(よろずや)銀ちゃんの主たる男、【坂田(さかた)銀時(ぎんとき)】。

 

(なんだ?もう朝かよ……あーなんだよ寝起きからツいてねーな背中も(いて)ぇしなんか床が妙に(つめ)てぇし……)

 

 自分自身が置かれている状況に気付いていないところから見るに、何とも暢気(のんき)な性格であることがわかる。

 

(あーめんどくせぇ……ちょっと二度寝してから……)

────お前たちは伝導者なのか!?

「うおっ!?」

 

 突然枕元(まくらもと)で響いた叫び声に、銀時は思わず飛び起きた。そして、自らの視界いっぱいに広がる惨状を見て、やっと異変に気付く。

 

「おい……こいつぁ一体どういうことなんだ…………」

 

 答えを出せる者がいないと理解していながらも、小さく呟くしかない銀時であった。

 

 

───────────────────────────────────────

 

 

 その後、一人、また一人と神殿に集められた人々が目覚めていった。当然ながら人によって反応は様々で、驚愕のあまり放心する者、パニック状態に陥り暴れだす者、冷静に場の状況を分析する者、理由はわからないが興奮した様子の者もいる。

 

「皆様方、今一度お(しず)まりください」

 

 神殿の奥から発された声が響き渡る。一同が声のした方へ振り向けば、真っ白な大理石の彫像(ちょうぞう)と祭壇を背後に、一人の老いた男が立っていた。

 

「イシュタルって名前だったか?お前、勇者がどうとか言ってたな。それが一体どういう意味なのか、詳細に説明してくれないか?」

 

 袖、裾、襟に青い(ライン)、黒く分厚い服を身に付けた年若い青年森羅(シンラ)日下部(クサカベ)が、イシュタルと名乗る老人に問いかけた。

 

()()()()、我々はトータスと呼称していますが、今我々人類(ヒト族)が滅亡の窮地に立たされているのです」

 

 イシュタルの返答にざわめきが広がる。

 

天人(あまんと)の撃退ならこの攘夷(じょうい)志士(しし)(かつら)小太郎(こたろう)】にお任せあれ!」

「『天人(あまんと)を見つけたら攘夷党党首(かつら)小太郎(こたろう)にご連絡ください』」

 

 長髪に和服の青年と、ペンギンとアヒルを足して二で割ったような着ぐるみを被った謎の人型生物、【エリザベス(Elizabeth)】がここぞとばかりに大声と巨大な看板を使い宣伝を始めた。

 突然わけのわからない展開になったことで()()()()を除き皆頭がこんがらがっている。

 

「ヅラお前何でここに居んだよオイ!」

「おお銀時ではないか!そして私はヅラじゃない!(かつら)だ!」

 

 イシュタルの説明を無視して口論を始めた二人を他所(よそ)に、青い髪の少年、【リムル(Riml)テンペスト(Tempest)】が冷めきった態度で問う。

 

「僕からも質問…………まあ続きを聞くだけなんだけどさ、どうして君たち()()()が滅びかけているんだい?」

 

 こちらの真意を悟られていることに気付いたイシュタルは、冷や汗をかいているのを何とか誤魔化すように答える。

 

「我々人類(ヒト族)と南方の魔人(まじん)族、そして北東の亜人族とは長年(ながねん)対立しているのです……ですからその……」

 

 リムルは冷徹な態度を崩さずに彼を睨み付ける。視線から発される圧は、気を抜けば押し潰されるほどの物である。

 

「差し支えなければ、皆様方のお力添えを(いただ)きたく召喚いたした所存でございます…………」

「待ってくれ。()()というのはどれ程の年月なのか、説明してくれないか?」

(年若く扱いの容易(たやす)い少年少女を三十人ばかりだと?話が違うどころかとんだ大嘘ではないか!なぜこのような化け物ばかりを百何十人も寄越(よこ)した!?)

 

 シンラの鋭い問いに、イシュタルは内心だけで主神(エヒト)への怨みを吐きながら答えた。

 

「最古の記録から数えても、5000年以上になります」

 

 再びどよめきが走る。そして、リムルはイシュタルに問うた。

 

「それで?戦う意思のない人に拒否権はあるんだろうね?それとも………………」

────無理やり連れて来ておいて、帰す(すべ)はないとでも言うつもりかな?

 

 リムルの言葉に、場の混乱は極みに至った。

 

「嘘だろおいっ!頼む!嘘だと言ってくれ!」

「嫌だぁっ!もう戦争は嫌だぁっ!」

「ふざけるなクズ野郎!」

(ばあ)ちゃああああん!」

「落ち着いて!皆さん落ち着いてください!」

 

 突然知らない場所に連れて来られ、故郷(こきょう)に帰ることはできない。この衝撃的な事実を、自分たちと同じ()()()に突き付けられたのだ。絶望するのは必然である。

 

「これからどうすんだよ!?」

「一旦落ち着いてください!聞こえてますか!?」

 

 どことなく大人しい印象の女性、【畑山(はたやま)愛子(あいこ)】があたふたと静止を促すが、聞こえていないのか騒ぎは静まらない。

 

「ダマッテナイデナントカイエヨッ!」

「帰れないってどういうことなの!?」

 

 騒ぎの声は大きくなっていく一方だった。

 

 

 

 

 

 

「…………結局、こうなるんだね。めちゃくちゃじゃないか…………」

 

 混乱した人間が(わめ)きまわる混沌とした神殿内の様子を見て、エリュシオンはため息を()く。

 

「エル、絲遊(スーヨウ)、少し待ってろ。静かにさせてくる」

「うん、ごめん。任せるよ」

「最初の最初で何も手伝えなくてごめんね…………」

「いや、謝らなくていい。俺がお前らを巻き込んだんだ。お前らが責任を感じることはねえよ」

 

 そう言って、ルキフィアは二人の頭に優しく手を置く。そして改めて立ち上がり、神殿の奥、(エヒト)の彫像が立つ祭壇へと歩みを進めて行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。