「おいお前ら!聞こえてるか!聞こえてるなら静かにしろ!」
百人以上もいる人間の叫び声をかきけすかのような大声が響き、神殿が大きく揺れる。場はしんと静まりかえり、ついさっきまで大騒ぎしていた者たちは皆声のした方へ注目した。
視線の先には狼狽えているイシュタル、そして身に付けているもの全てが闇のように真っ黒に染め上げられている青年が立っていた。
「いいか?今から俺と、この神官が言うことを耳の穴かっぽじってよく聞け」
一同は一瞬放心状態になるものの、すぐに気を整え直した。青年は確認するかのようにうんと一度だけ頷くと、イシュタルに説明を促す。
「皆様にお伝えします…………」
百人を越える人間から一斉に怒気のこもった視線を向けられる。
「現時点の我々が扱える空間魔法では、皆様が元いた世界を特定して送り帰すことは不可能です…………しかし…………」
ここでイシュタルは一度言葉を切る。目の前に陣取る自分たち以上の強さをもつ人の皮を被った怪物の群れ、そして真横に立つ全てを食い尽くす捕食者の気配。この凄まじい恐怖からくる体の震えをなんとか抑えながら、再び言葉を紡ぐ。
「いつ魔人族の軍勢が人類の領域に侵攻してくるかわからない状況です。皆様が我らの危機を救って頂けるのであれば…………」
「ふざけた物言いをするのも大概にしてくれませんか?」
森羅と同じ格好をした大柄な男、【秋樽桜備】がイシュタルの言葉を遮って声を挙げた。
「何故俺たちがあなた方を守る前提で話を進めるのか、全く理解できません。第一我々の同意もなく突然ここに連れて来た。これは戦争当事国とは関係のない中立国から拐って来た人間に尤もらしい嘘を並べ立てて無理やり戦争に参加させる、あまりにも非人道的なやり方だ!」
アキタルの言葉はまさしく正論だった。
「でも、戦争当事国の兵士全てが中立国の国民と敵対国の兵士を区別できる。そんなことあり得ないんじゃないですか?」
しかし、思わぬ反論がアキタルに返された。
「【光輝】くん……何言ってるの……?」
「何バカなこと言ってるんだお前!?」
【天之河光輝】。18歳にも満たない学生である。
(確かにそうだ……おそらく文化の水準は近代以前で、しかも外見が決定的に異なる人種と敵対している……イシュタルさんたちと同じヒト族である俺たちは、姿を見られた瞬間に殺される可能性も否定できないわけか…………)
飛羽真はアキタルと光輝の発言を分析し、頭に浮かべた幻影の中で、最悪の未来を予想した。光輝の否定は的確であるし、アキタルの主張も筋が通っている。
しかし。
(さっき光輝って呼ばれた子は危険な気配がする……ちょうど、まるでカリバーの……)
飛羽真は光輝の言葉……というよりは存在自体に危険を感じ、彼とは一切コミュニケーションをとらないことを腹に決めた。
「…………わかりました。では皆様が元いた世界へ帰還するための準備をする間、人類の領域から許可なく離れない場合に限り、無条件で衣食住と安全を補償することを諸国に命じて頂きますよう教皇聖下にお伝えします」
最後の言葉に十何人かは違和感を覚えたものの、ある程度の安全を補償されたことで安堵した者が多数。
「待ってください」
「(チッ……)おい、呼ばれたぞ」(クソガキが…………)
黒い服の青年、ルキフィアが説明に入ろうとした時、やはり天之川光輝が首を突っ込んで来た。
「改めて、勇者というのは一体?」
勇者という語にイシュタルが反応し、先ほどまでのおどおどとした態度が一変し、まるで水を得た魚の如くルキフィアを押し退けると、そのまま説明を再開した。
「トータスにおいて唯一なる神エヒト様がお選びになった救世の士のことです!」
(勇者よりも騎士王の方がずっと格好いい)
(勇者よりもヒーローの方がもっと格好いい)
一方【アーサー・ボイル】とシンラは全く無関係なことを考えていた。
その後長々と魔人族と人類との戦争の内容などの説明を終え、一度《神山》から下山することになった。そして時系列は麓の町に到着したところから再び動きだす。
「結局あのクソガキどものせいで説明ができなかった…………」
ルキフィアは川原に転がっている大きな石に座り、怒りに満ちながらもひどく落ち込んだ様子で愚痴を吐いていた。エリュシオンは苦笑いをしながら釣ったばかりのアユのような川魚の焼き加減を確認しており、絲遊は力なく黄昏ているルキフィアの頭を健気に撫でている。
「まあ、味方になってくれそうな子は少なからずいるし…………ほら、ルキとスーちゃんの分焼けたよ」
エリュシオンは焼けた魚をルキフィアに手渡した。
「ああ…………悪いなエル…………」
ルキフィアは元気のない態度のまま、ゆっくりと焼き魚を受けとる。
「味方になってくれそうな子って?」
スーヨウも焼き魚を受け取りながら、エリュシオンの言葉を追及する。
「うん。ちょっと待ってね…………《汝我心顕表。光霊龍皇名。》」
エリュシオンが詠唱を終えると、ルキフィアの黒いオーロラの如く円形の光が現れた。その光の円の中には、おそらくこのトータスに召喚されたであろう人々の名前が列記されている。
・【南雲ハジメ】 ・【白崎香織】 ・畑山愛子 ・【八重樫雫】
・【真神拓士】 ・森羅日下部 ・アーサー・ボイル ・秋樽桜備
・神山飛羽真 ・【掟上今日子】 ・坂田銀時 ・桂小太郎
・エリザベス ・【志村新八】 ・【神楽】 ・【遠野一二三】
・【遠野オリガ】 ・リムル・テンペスト ・【鳳天馬】
・【八雲紫】 ・【八雲黒】 ・【紺野藍】 ・【紺野木綿季】
・【ハート・ロイミュード】 ・【神威】 ・【竈門炭治郎】
・【竈門禰豆子】 ・【吾妻善逸】 ・【嘴平伊之助】 ・【武久火縄】
・【茉希尾瀬】 ・【アイリス】 ・【環古達】
・【ヴィクトル・リヒト】 ・【伊丹耀司】 ・【ターニャ・デグレチャフ】
・【ン・ダグバ・ゼバ】 ・【天道総司】 ・【中村主水】
・【エレン・イェーガー】 ・【ミカサ・アッカーマン】 ・【烏丸惟臣】
・【一条薫】 ・【ベル・クラネル】
「………………まあ、現時点で目星をつけてるのはこのぐらいかな」
と、エリュシオンはこぼす。
「本当にこれだけの大戦力が確実に私たちの味方になるのなら、苦労はないんだけどね…………」
スーヨウは呆れながら光の円の向こう側に座るエリュシオンを睨みつけ、豪快に焼き魚を頬張る。
「しかし紫と黒がいるのか。よっぽど暇なんだなあの姉弟」
空中に浮かぶ名簿にあった名前に、ルキフィアが反応を示した。その時。
「あら、暇なんて失礼ね」
誰もいないはずの木陰から声が響く。三人が木陰に目をやると、暗闇に無数の目が浮かぶ異空間、“スキマ”から眠ったままの黒を抱き抱えた紫が姿を現した。
「あなたたちこそ、バカンスが目的でここに来たわけじゃないでしょ?」
「やっぱりお見通しなのね」
意味深長な表情で、スーヨウは呟いた。紫はにやりと冷徹な笑みを浮かべ、三人に問う。
「それじゃ聞かせてもらうわ。あなたたちの目的を」
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「消防士なのに炎の超能力って、矛盾してるんじゃないか?」
《ハイリヒ王国》の兵士に案内された王城の一室で、飛羽真はシンラたち特殊消防官が操る能力を、自前の分析力と想像力で演算しながら、目の前の青年に質問した。飛羽真の頭の中には、足から炎を吹きながら空を飛び、上空から消火剤を散布するシンラの姿が浮かんでいる。
この問いに対し、シンラとアーサーは首を横に振って答えた。
「いや、俺たち能力者は伝導者が世界中にばら蒔いた、人体発火現象を起こして人間を焔ビトに変える虫の力に適合した存在なんだ。根っこが同じだから、似た者同士ってことになるんだよ」
「がむしゃらに水をかけるよりも、同じ焔ビトの力を使って無力化する方が遥かに高い効果が得られる。アイリスたちシスターの鎮魂の補助にも、一役買っているというわけだ」
二人の返答に対し、飛羽真はなるほどと頷く。
「何だか仮面ライダーとよく似てるな」
同じ力という語から連想されるのは、飛羽真自身、そして友人たちが所属する〈Sword of Logos〉の剣士たちと、敵対する組織〈メギド〉の魔人たちの関係だ。前者はシンラたち特殊消防士にあたり、後者は伝導者たちにあたる。さらにどちらも《大いなる本》の欠片である《ワンダーライドブック》、そして《大いなる本》のコピー品である《アルターライドブック》の力を媒体として戦っていることから、使う力の根源は同じであると断言できる。
「仮面ライダーってなんだ?ヒーローみたいなものか?」
仮面ライダーという言葉にシンラが興味を示し、その悪魔のような表情からは考えられない無邪気な笑顔を見た飛羽真は、いつから持っていたのか大きな鞄から万年筆と真っ白な植物繊維でできた大量の紙、そしてアルバムを取り出し、説明を始める。
「ヒーローと騎士王の良いとこ取りってところかな。何より俺自身が仮面ライダーだから、説明が楽だ」
「なんと!貴殿も騎士王となることを志す同志であったか!これは良いことを聞いた!飛羽真殿、俺と共に騎士王を目指そうぞ!」
「いや、俺は小説家なんだけどな…………」
同志が増えたと勝手に喜んでいるアーサーを他所に、飛羽真は大きなアルバムを開く。アルバムにはメインライダーを始めサブライダー、ダークライダーを問わずあらゆる仮面ライダーたちの写真が、一枚ずつ丁寧に貼られていた。
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(やはり蘇生したのは間違いだったな…………)
ため息を吐きながら、現職自衛官の【真神拓士】、またの名を【フェンリルオルフェノク】はベッドに身を横たえる。
彼は勤務歴15年の陸上自衛隊幹部候補生で現在の階級は一等陸佐、自宅での個人鍛練中に事故死。三途の川の一歩手前で奪衣婆に蘇生させてもらい、その時にオルフェノクとして覚醒したのだ。
が、蘇生して一年も経たない内に異世界に召喚され、しかも無益な戦争に参加すると言い出した頭のおかしい高校生たちを説得らしい説得もできないまま、自身も参戦することになってしまった情けない男でもある。
(ライダーズギアが無い以上、人間態のままで戦闘するしかないか…………)
あったとしても使えるかすらわからないが、と落胆しながら拓士は眠りにつこうとする。が、ノックもなく部屋の扉が開けられ、彼の眠りは妨げられた。
「捜しましたよ真神さん!」
「真神大佐殿!ただいまお迎えにあがりました!」
「伊丹、烏丸……今度はどうした……」
部屋に入って来たのは防衛大学校の後輩であり、三等陸尉の伊丹耀司。そして、同窓生で同じく一等陸佐の烏丸惟臣の二人。伊丹は〔食う、寝る、遊ぶ。その間にちょっとの人生〕を座右の銘としており、烏丸と拓士の二人とはまるで正反対な自由人である。
「いえ、実は俺の友人の息子さんがこっちにいるんですよ。それで真神一佐の話をしたら、もう目の色変えて実際に会いたいって聞かなくて…………」
「たかが子供の望みを叶えるために俺の寿命を削るのか伊丹…………」
「たかがとは何ですか、たかがとは!」
「おまえ、本当に【両津】さんに似てきたな…………」
伊丹はあきれる烏丸を他所に、拓士を無理やり起き上がらせて南雲ハジメのもとへ連行しようと歩みを進めるのだった。
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王城のまた別の部屋には、四人の男女が集まっていた。
「ほう?お前も“神”を自称する者に出会ったのか?それも三人?」
「戦争に巻き込まれて左手無くして異世界召喚が三度目って……そりゃとんでもない災難だね……」
一二三の話を聞いたターニャはいかにも不機嫌な表情で、その隣のリムルは驚愕一色の表情でそれぞれ反応を示す。一方一二三の隣に座るオリガは、二人の反応を楽しむように、口元を鋭く磨かれた鉄扇で隠しながら狂気染みた笑顔を浮かべている。
「まあ、俺自身欲望の赴くままに人間を殺せる世界ならどこにでも行きたいと思っていた矢先だからな。力をくれた神たちには感謝してる。死神の態度を除けばだが」
リムルはあっさりと本音を吐いた一二三に恐怖を覚える。
「願ったり叶ったりってことだね…………」
(遠野一二三…………その狂気、気に入った!)
対してターニャは一二三の心の内に秘められた狂気に魅了されつつあった。
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「ブレン、メディック、みんな…………本当にごめんな……また俺だけが…………」
王城の一室で大粒の涙を流しながら、ハートはロイミュードたちの遺影に謝罪の言葉を投げ掛けていた。万事屋のメンバーと小太郎、エリザベスはその様子を神妙な様子で見ていたが、新八だけは疑問を覚えずにはいられなかった。
「…………あの、銀さん?僕たち、ハートさんのお友達の供養をしてるんですよね?どうして、ハートさんは懺悔を?」
銀時は新八の肩にぽんと手を置くと、呆れたように説明する。
「(新八、見てわからねぇか?あいつにとって友達は、死んでもなお自分の命以上に大切な存在みてぇなんだよ)」
銀時の口から告げられた事実に、新八は驚きのあまり一瞬言葉を失う。ハートの背中とハートが見つめる107個の遺影、そして銀時の顔を見比べ、我にかえって言葉を繋げようとする。
「(えっ!?それってつまり…………)」
「(それ以上は言うな。私どもの言葉は、彼の耳にもにもしっかりと聴こえている。今は葬儀中だからな、悲しい気持ちは胸の内にしまっておけ)」
しかし、銀時と小太郎は新八の発言を遮る。短い説教を終えると、全員でハートの後ろに座り、合掌して黙祷を捧げた。
(成仏……してくれよ)
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「へえ…………そのエヒトルジュエって神、聞けば聞くほど何も学ぶ気のない老害だってことがよぉくわかるわ」
紫は黒い笑みを浮かべ、未だぐっすりと眠っている黒の頭を撫でながら呟く。
「やってることがアホすぎるんだよ。よりにもよって大御寳にまで手を出しやがって…………」
ルキフィアは何度目かもわからないため息を吐き、ロングコートのポケットから煙草とライターを取り出した。
「ちょっと待ってルキ!大御寳がいるってどういうことなの!?」
煙草に吸い始めたルキフィアに、スーヨウが慌てた様子で迫った。
ルキフィアは機嫌の悪さが一目でわかる態度で煙草の煙を吐き、怒気を孕んだ口調で答える。
「つまるところ、人質だ」
エリュシオン、紫、スーヨウは戦慄する。
「エヒトは恐らく、國つ祇と人間の混血を得ようとしているんだろう」
ルキフィアの仮説はこうだ。
まず、天皇がいる世界線から異民族と混血していない、つまり純粋な天つ神、または國つ祇である日本国民を探し出し、それらをまとめて拉致させる。
次に、脅迫した上で煽て上げて復活した解放者と戦わせ、生き残った者に配偶者を宛がい、帰還の意思を奪って子を作らせる。
一定数の子と地球の軍事力に関わるものなどの知識が得られれば充分であるため、用済みになった生き残りを皆殺しにし、証拠を隠滅する。
最終的にトータスのヒトと日本の天神地祇の混血種族を支配層とする国家を建てさせ、ゆくゆくは地球をもエヒトルジュエの勢力圏とするというもの。
「それは無茶苦茶が過ぎるんじゃないの?」
エリュシオンはそのあまりにもおおげさな仮説に苦言を呈した。しかし、ルキフィアは真剣な表情を崩さず、冷徹に言い放つ。
「確かに大袈裟すぎると自覚してる。が、折り紙つきの実力者が百人近くこの世界に呼ばれているんだ。あいつが何もしないと言い切れるのか?」
ルキフィアの言葉から、スーヨウはテトの言葉を思い出していた。
((たった一度だけ、復讐をすることが許されるなら、僕はあいつを地獄に連れて行きたい。殺された人たちの苦しみを理解させてやるんだ。たとえそれが自分自身を滅ぼす結果になったとしても、あいつだけは許せないから))
涙ながらに復讐の代行を懇願してきた、神としての威厳など皆無の幼い少年。
かつての自分の姿と重なる。
(テト…………待ってて。必ず約束を果たすから)
「さて、トータス征伐の作戦会議といくか」
改めてルキフィアは宣言した。