時期が少し早いな……
ネタ被りしてたらごめんなさい。
キャラ崩壊してるかも。
時期が少し早いな……?
ネタ被りしてたらごめんなさい。
キャラ崩壊してるかも。
バレンタインデーの数日前の真夜中。グランサイファーはある島に停泊していた。
よく晴れた休日の夜だからだろう、皆ぐっすりと眠りについていた。団長を含めた一部の団員は依頼があった為に戦闘やら取引やらと忙しそうにしていたが、幸いなことに早くに都合を済ませ、船に戻った。残りの仕事などもなく、皆、船で眠りについている。その為、真夜中のこの船で起きているのはごく少数。あまつさえ割り当てられた部屋から出ているものなど、ほとんど居ない。
しかし、人の気配ひとつ無いようにさえ思えるひっそりとした船の中で、厨房に立つ一人の少女と一体の星晶獣が居た。ふたりとも真剣な顔つきで作業台の上をじっと見つめている。
「……ねぇ、デス。これで大丈夫かしら?」
「オソラクハ。……頑張リマショウ」
デスの言葉にニーアは頷く。
彼女の視線の先、台の上には大きな紙袋ががあった。中身はチョコレート、生クリーム、ココアパウダー、ラッピングの紙や袋などなど……。ニーアは街のよろず屋から訳アリ品や型落ち品を安く譲ってもらった。そして、彼女はそれらでバレンタインデーのチョコレートを作ろうとしているのだった。
「頑張レバ、喜ンデ貰エルデショウカラ……」
「うん、デス。そう、そうだよね……!」
普段の衣装が汚れぬよう、ニーアは共用のエプロンを身にまとっていた。飾り気のないエプロンではあったが、彼女の姿は、文字通り、恋する人に手作りの料理を振る舞わんと意気込む少女のそれと同じだった。
ニーアは何故か最初に泡立て器を手にする。
「……で、どうするんだっけ、デス」
「――」
デスはゆっくりと、けれど確実にレシピを思い出していた。だが、ニーアはデスが言葉を選んでいる間すら惜しいと言わんばかりに紙袋からせっせと材料を取り出していた。
「確か、えぇっと――そうね、まずはチョコを刻まないと……」
ニーアは手にしていた泡立て器をテーブルに戻し、紙袋から取り出したチョコレートをデスの前へと運ぶ。
「デス。これを頼んでも良いかしら?」
「望ムママニ」
デスは身に纏う刃を小刻みに動かす。対象が小さい上に力を加減しなくてはならないからか、戦闘の時のような迷いない太刀筋とは言い難い。しかし、中空にはランプの光を反射して煌めく刃の軌跡が幾筋も舞っていた。チョコレートの量は多い。時間は割合にかかるだろう。
「えぇっと後は……どうしたかしら……」
デスにチョコレートを刻んでもらっている間、ニーアは必死にレシピを思い出そうとするが、けれど思い出せない。
「……よろず屋のハーヴィンが教えてくれたものは難しそうだったのよね、メモも頂いたけれど、材料も工程も複雑……そっちじゃなくて、その前のお店で聞いたものなら――」
シェロカルテが彼女に教えたのは、ガトーショコラのレシピだった。それは、料理の経験が浅いニーアに取って、興味こそ引かれるが作るのは今ではないと判断するに足る、立派過ぎるレシピだった。一方でよろず屋に入る前に立ち寄った店で教えてもらったレシピは簡単そうだったのだが、準備も気構えもしていなかったニーアは教えてもらった内容をすっかり忘れてしまっていた。メモのひとつさえ無い。
「終ワッタ」
デスがニーアに向かってそっとささやく。チョコレートの塊は砂と見間違えてしまうほどの細かさに切り砕かれていた。
「ありがとう、デス。――チョコレートと言ったらまずは溶かすわよ、ね……?」
デスは待ってと言いたかったが、ニーアの手は止まらない。彼女はまな板の上に置かれたチョコレートを適当にひとつかみし、鍋にぶち込み、直火にかけはじめる。
わくわくとしながら鍋を見つめるニーアに、不安気にデスが尋ねる。
「ア、ア、……レシピハ、覚エテイナイノデスカ」
ニーアはデスの顔を見つめ、ぼそりと呟く。
「あ、貴方も私を否定すると言うの……?」
「冗談ヲ言ッテイル場合デハ……」
ニーアはデスの言葉に、うふふと小さく笑って応じた。時折ある光景なのだ、ニーアをからかう団長を昔の言葉でからかい返すというやり取りは。
「そうだよね、ごめんなさい、デス」
困った顔を浮かべるジータやトカゲ、全部冗談だとわかっているのかくすくすと笑う蒼の少女――そしてジータもニーアもふたりして微笑を浮かべ見つめ合い、言葉を交わし合う。それはニーアにとって大切な日常だった。彼女が意識せずとも、恋い焦がれ求めていた日常――その日常はひとかけらも逃すまいと執心しながら綴った日記帳に、しっかりと書いて残されている。
「でも、レシピは、最初に教えてもらった簡単そうなヤツなら、覚えてなくても作れそうだったし、多分大丈夫よ? 多分――」
そうこう言っている内に鍋から煙が立ち始める。
「アァッ――!」
ニーアはデスの驚いた言葉に即座に反応し、コンロの火を止める。
「……焦げ付いてしまったわね」
「エェ……願イヲ果タセズ、申シ訳アリマセン……」
「貴方の所為じゃない……レシピをちゃんと確認しなかった私が悪いよ……謝らないで、デス。……洗って、作り直しましょう」
ニーアは袖まくりをして、鍋の汚れを落とし始めるのだった。
ニーアががしがしと音を立てて鍋を洗っていると、後ろから声をかけられた。
「あら、貴方、何してるの?」
警戒心を顕にしながら、ニーアは手を止めて振り返る。ニーアは闖入者の気配に気付いていたし、警戒さえしていた。だが、声をかけられると思っていなかった。黙って作業をしていれば勝手に用を済ませ立ち去ると考えていたのだ。
「誰……。賢者の――」
「ハーゼリーラ、覚えなさいよ。同じ賢者のよしみ、ハーゼと呼んで良いわよ」
「……何の用」
可愛らしい小さな手をひらひらさせながら肩をすくめ、彼女は苦笑する。
「貴方に用があって来たのではないわ。お水を頂きに来ただけよ」
ニーアはだんと大きな音を立てて、手近にあったグラスをハーゼリーラの前に置く。そして、顔を流し台に戻し、冷徹に言い放つ。
「用を済ませて、出てって」
「あら、無愛想な給仕ね。ま、ありがとう」
ニーアは言葉を返さず掃除を続ける。
だが、ハーゼリーラは背伸びをしてニーアの手元を不思議そうに覗き込んだり、作業台の上に並んだ材料をしげしげと眺めてみたりして、ひとり得心する。
「ねぇ、貴方――ちょっと、ねぇってば」
ニーアに無視されたハーゼリーラは立腹したのだろう。頬をふくらませる。
「どうでもいいのだけど……エルーンって背中で呼吸しているって本当?」
そう言ってニーアの背中をつんと突く。
「ひゃっ――! ……邪魔するの? 殺されたい? 殺すわね? 殺す」
殺気を帯びた視線をハーゼリーラに向けるニーアだったが、ハーゼリーラは肩をすくめて小さく笑う。
「ふぅ、ようやく返事してくれた。殺さないで貰えると助かるわね。チョコを作っているのよね? ……もしかして、直火で溶かしたのかしら」
彼女の言葉を無視して殺気を放ち続けるニーアは作業台に置かれた包丁に手を伸ばし、握り込む。だが、デスはニーアが殺しの動きをするよりも先にハーゼリーラの言葉に返事をする。
「ソウ。失敗シタ」
「デス……!」
ニーアはデスを咎めたが、デスは首を振る。
「コノ者ハ、料理ニ詳シイカモシレナイ。……助力ヲ乞ウノハ、間違イデハナイ」
ニーアは大きくため息をついて「それもそうね」と呟く。ニーアは握った包丁を元あった場所に置く。苛立ちはまだ収まらないのか、少しばかり乱雑な置き方だったし、すぐに手が届く距離だった。
「お話は終わり?」
「えぇ。……恥ずかしいし、悔しいけれど、全部貴方の言う通り」
「料理は知識と経験がモノを言う、とシェフに聞いたことがありますわ。恥じることはないんじゃないかしら、責任はあるかもしれないけれど」
ハーゼリーラの言葉にニーアはやや気勢を削がれた様子で「そう、なの……?」と呟く。
「そうらしいわよ。ところで、何を作ろうとしていたの? あなた達の期待に沿えるかは知らないけれど、知識は多少ならあるわ」
ニーアはもう一度ため息をついて、ハーゼリーラに語り始める。
「団長さんにチョコレートを作って渡したいの。作るのは……生チョコレートと言ったわよね、デス」
デスは頷きニーアの言葉に同意する。
ハーゼリーラは「ふむ」とつぶやいて、考え始める。腕を組んで、目を閉じてじっと思案に暮れる彼女の姿は、高貴と傲慢とひとかけらの博愛と題された名画のようだった。ニーアはもとより、星晶獣であるデスすら「サマになっている」という感慨を抱いたほどだ。
「……思い出した。そのお菓子を作るなら、知っているレシピでは火にかけるのはチョコレートじゃなくて、クリームの方だったはずね」
彼女は小さな指で作業台の上に鎮座した生クリームを指差す。
「それと、今回は関係ないけれどチョコは湯煎しなきゃ駄目よ?」
「そう、なの……ね……」
呆れたようにハーゼリーラは息を漏らす。
「はぁ、まったく。……別物だとは言ったけれど、料理と魔術は似た所だってあるわ。適切なものを適切な順番で適切に処理していくという所。貴方、微量の魔力で反応する触媒にいきなり最大出力の魔力ぶつける? 違うわよね。料理も一緒よ」
ニーアはハーゼリーラの言葉にあからさまに気落ちした様子を見せる。返事すら返していない。
「……ごめんなさい、言い過ぎたわ。私も専門じゃないのに、偉そうに言うのは失礼だったわね」
しかし、ニーアはうつむいたままぼそりと呟く。
「私……不器用だから……」
「……ほら、鍋に生クリームを入れて……火にかけましょう? 手伝うわ」
「……」
ハーゼリーラは言葉をかけるが、ニーアは黙り込んでしまう。
どうすれば良いかと思案に暮れるハーゼリーラだったが、彼女の背後から声が聞こえてくる。
「気にするな、娘よ。この者もこれほど偉そうにしていて、絵が描けぬ」
「なっ、ムーン! あんたねぇ!」
ハーゼリーラは後ろを振り向き、ムーンを咎める。
「ふはは」
ムーンは笑ってごまかす。幾らか気を取り直したのか、ニーアはムーンの顔を見つめて尋ねる。
「それ……本当なの……?」
「ちょっと! 下手じゃないったら!」
ハーゼリーラの強弁を無視してムーンはニーアの言葉に頷く。
「好きこそものの、という言葉があるが、この者は下手のなんとやら、だ。前衛的とも言えるかもしれぬが」
へそを曲げたのか、ハーゼリーラはぷいとそっぽを向いていたが、そんな彼女の手をとってニーアは言う。
「ねぇ、今度……見せてもらっても、良い?」
ニーアの顔は、落ち込んだものから立ち直っていた。きっと、ハーゼリーラも得手不得手のある同じヒトなのだ、と思い至ったのだろう。ニーアの表情は多分に好奇心とイタズラっ気に満ちたものではあったが、彼女はしゃがみこんでハーゼリーラと視線をあわせていた。
「下手じゃないわよ? ちょっと、何よその信じてなさそうな顔、下手じゃないったら、次にそんな事言ったら怒るわよ?」
ハーゼリーラはぷりぷりした様子ではあったが、こころなしか楽しげな笑みを浮かべていた。距離感が縮まったふたりを見届けたのか、ムーンはいつの間にか消えている。
楽しそうなニーアの笑みを前に、ハーゼリーラはこれ以上反論する気が起きない。
「はぁ、どっちでもいいわよ、機会があれば好きになさい。……ニーア、続きをしましょう?」
「そうね、ハーゼ」
ニーアはそう言って立ち上がる。立ち上がったニーアに、ハーゼリーラは言葉をかけた。
「しっかりと計量しなさいね。ちゃんと生地にならないかもしれないから」
「流石にそれくらいは。……チョコの量が多いし、ちょっと当てずっぽうになるかもしれないけれど、多めに温めておけば……」
そのまま彼女は鍋に生クリームを入れて、コンロのスイッチを入れるのだった。
「それもそうね、計量しようもなさそうだし、都度足していくのが一番ね」
生クリームが温まるまで手持ち無沙汰なのだろう、ハーゼリーラがニーアに尋ねる。
「ねぇ、ニーア。エルーンって背中で――」
眉間にシワを寄せて、ニーアはハーゼリーラの顔を見る。
「そんなに気になるの……?」
「いいじゃないの、教えて――あ、沸騰しそうになったらボウルに移したチョコにクリームを流し込んで混ぜるのよ」
「わかったわ」
そうして二人の作業は進んで行く。
ハーゼリーラは黙ってニーアの作業を見つめていた。然程の時間を要さずに、生クリームは沸騰寸前まで温まった。そして、それがボウルに注がれ、砕かれたチョコレートに混ぜられる。真っ白なクリームの中に黒いチョコレートが浮かび、それらはニーアの手によって混ぜられる度、混ざり合っていく。白と黒が乱雑に入り混じったボウルは、次第にマーブルの渦となり、渦は溶け、伸びていく。
一安心と息をつくハーゼリーラはふと思い至る。
「レシピ本が無いか見てくるわ。この先の確認をしたいの」
ハーゼリーラは厨房の隅にある本棚を指差す。
「わかった。しばらく、混ぜるだけ……よね?」
ハーゼリーラは頷く。
「そうだった筈よ。他に何かあるなら溶かし直せばなんとかなると思うし、頑張って頂戴ね」
ニーアは「うん」と小さく呟く。それを見たハーゼリーラは本棚に向かい、一旦離れる。……のだがニーアはボウルを混ぜる手を止めて考え込む。
「ドウシマシタカ……」
デスの顔を見て、ニーアは言う。
「普通に作って渡すのだと……印象に残らない気がするの……」
「一理アリマス」
ニーアの顔はますます深刻さを増していく。
「もっと思いを伝えたい……記憶に残ってもらいたい……」
デスは言葉に詰まっていたが、ニーアはどんどんと顔に影がかかっていくようだった。
「でも、材料は……これだけ……今から用意なんて無理……」
ぶつぶつとああでもないこうでもないと繰り替えすニーアの元に、ハーゼリーラが戻る。
「あったわよ、レシピ。これからはこっちを――って、どうしたの?」
ハーゼリーラの問いかけに、ニーアは答えない。完全に自分の中で自問自答を繰り返し、負の思考に囚われていた。ぶつぶつと呟いてこそ居るがハーゼリーラもデスも、その内容を聞き取れずに居た。
「デス、と言ったかしら、どうしたの? 彼女」
デスはハーゼリーラを見つめ返す。
「イエ、材料ニ不満ガアルヨウデ……」
ハーゼリーラはデスが何を言っているのか判然とせず、首をかしげる。材料は揃っているのに何が不満なのだろうという、当然の疑問だった。ニーアの様子を見ている内、ハーゼリーラの胸の中には嫌な予感とも言える違和感が積み重なっていった。
突然、ニーアは顔を晴れやかにし、呟く。
「そうだ……!」
ハーゼリーラの手はその言葉を聞いた瞬間に、自然とニーアの腕をつかみ、引き止めていた。気づけば引き止められたニーアの手は包丁に伸びている。
「邪魔しないで……!」
「すとっぷ! すとっぷ!」
無言で視線を交わして牽制し合う両者だったが、最初に口を開いたのはハーゼリーラだった。
「ねぇ、ニーア。何を……一体何を入れようとしているの?」
ハーゼリーラの背中には冷たい汗が流れていた。彼女はなんとなく答えを察しては居たが、それは常識的でなさすぎた。彼女の本心は、それを否定したがっている。
ニーアはハーゼリーラの問に迷いなく答える。
「血……」
ニーアの言葉を聞いたハーゼリーラは視界がくらりと揺れるように感じた。
「そんなことだろうと――動かない! ちょっと、落ち着きなさいって、ニーア、ねえってば!」
「でも、普通じゃダメ――」
「普通でいいの! ちょっと! デス!」
この一瞬の間、契約も何もしていない筈のハーゼリーラとデスの意思は通じ合っていた。デスはニーアの手から包丁を弾き落とす。弾き落とされた包丁は艷やかな光沢を放ちながら床に落ちていった。
「……!」
「落チ着イテ、愛シイ人」
デスの言葉もあって、ニーアは腕から力を抜く。
「はぁ……どうしてそんなもの入れようと……」
ハーゼリーラの言葉に、一瞬だけ間を置いて、ニーアは答える。
「団長さん、いっぱいプレゼントをもらうだろうから、印象が薄くなると思ったの」
「えぇ、私もそうじゃないかと思うわ」
「そうよね。……それで、少しでも多くの思いが通じるにはどうすればいいのか考えたの」
ニーアの思考が、頭の中で繋がりきらないのか、ハーゼは言葉に困っていたが、しばらくしてようやく口を開く。
「手紙とかじゃないの……? 普通……」
「普通じゃダメだと思わない?」
「きょ、極端ね……」
困惑するハーゼリーラをよそに、ニーアの表情は至って普通というものだった。
「ニーア、それは料理じゃなくて呪いじゃ――」
ニーアの表情がより曇る。それを見てハーゼリーラは言葉を変える。
「――じゃなくて、えぇっと、そ、そうよ! 団長さんのことだから、貴方が傷ついてまで作ったチョコは望まないと思うわ!」
ニーアは「あっ」となにかに気付いたように呟く。
「それもそうね……優しい方だから……手紙の方がいいわよね……」
「同感デス。戦イナラバトモカク、アノ方モ、オ菓子デハ喜バナイデショウ」
デスも頷いていた。
「つ、続き、作りましょうか……」
ハーゼリーラが音頭を取る形で作業は再開したのだった。
そして、作業が終わる。
バットに満ちた生チョコレートの生地を前にして、ニーアは満面の笑みを浮かべていた。
「うふふ、これで団長さんに、うふふ、ふふっ」
「……やっぱり変なもの入れるんじゃないのかしら、惚れ薬とか」
若干引き気味のハーゼリーラは軽口を叩くが、ニーアは真面目な様子で返事をする。
「そんな必要ない。……相思相愛だから。私と団長さんは思い合ってるもの。ねぇ、デス」
デスは頷く。言葉がないのはニーアの抱く圧倒的なまでの自信がデスにも伝わっている為だろうか。彼女たちの所作は、それが言葉を弄する必要のない厳然たる事実であると言わんばかりだった。
「そ、そう……」
一方でハーゼリーラの内心では、アイドルの娘や錬金術師の末裔、姉ぶるドラフ、十天衆のハーヴィン、占い師のハーヴィンなどなどの姿が浮かんでは消えていた。しかしそれを口に出すと大惨事に繋がるという直感(或いは危機感)が働いてもいた。
「よ、喜んでもらえると良いわね……」
復讐狂いの自分が言うのも変だがこいつも大概狂っている、とハーゼリーラは感じていた。それを知らずに、ニーアはハーゼリーラに言う。
「今日はありがとう。ハーゼ。結構楽しかったわ。何かお返しを――」
ニーアは本心からハーゼリーラに感謝の言葉を伝えていた。
ニーアの言葉を遮って、ハーゼは言う。
「それならいつか貴方の力も必要になるだろうから、団長も、私も。借りはその時に返して頂戴。それに――」
ハーゼリーラは復讐の為なら何でも使うと決めた。そうである以上、使えそうな存在には親切にしておくに越したことは無い。彼女の行動はすべて打算と損得の上での行動なのだが……
「――私も楽しかったわよ、お疲れ様、ニーア」
ハーゼリーラは本心から、ニーアの労をねぎらう。
「あぁ、渡すまではしっかり冷やして保存しないさいね。後の作業は全部本に書いてある筈よ。それと、手紙は書きすぎないこと! 簡潔にしなさいね」
おせっかいとも言える言葉達に、ニーアは感謝の念を抱いてゆっくりと頷くのだった。
「それじゃ、私は寝るわね、おやすみ」
そう言って、ハーゼリーラは厨房から出ていく。
「……ねぇ、ハーゼ」
部屋から出かかったハーゼリーラの背中に、ニーアの物怖じ気味の言葉がかけられる。
「なに?」
「その、本当にありがとう。あと、その……殺そうとして……ごめんなさい……」
「気にしてないわよ。そんな簡単に殺されてたまるもんですか」
ハーゼリーラの軽口に軽く笑ったニーアは、やはり少し迷った素振りをする。だが、意を決したのか、ハーゼリーラに尋ねる。
「それでね、お詫び……なんだけど、今から余った材料でココアを淹れようと思うの。付き合ってくれる……?」
ハーゼリーラは振り返って、あざとくも可愛らしい素振りで考えて、言う。
「夜も遅いわ。……一杯だけよ?」
こうして賢者達の夜は過ぎていった。
……のだが、手紙の文面が異様に長くなりハーゼリーラが添削する羽目になること、他の団員達から贈られた大量のプレゼントを前にして茫然自失としているジータをニーアが見かけること、そして、それを見たニーアがチョコを渡すかどうかでひと騒動起こることを、彼女たちはまだ知らない。