道草屋のひと時~彼女たちと猫又の日常~   作:三華月

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お待たせしました。今回は前回からの続きとなります。

相も変わらずに不慣れなオリジナル展開&スランプにより製作に時間が掛かってしまいました。(近日中とは一体…)
原作重視でオリジナル展開を組み込むと、様々な齟齬が生じるので、いかに収めるようかと試行錯誤したのですが、どんどん書きたいものから遠ざかっていく現象が発生。何度作り直したことか…
何とか形にできたので投稿いたします。

指摘や感想をいただけたら幸いです。
それでは…


命の危機 その2

「なぜ、こうなる前に私たちに声を掛けなかったんですか?」

 

 一人と一匹だけとなった部屋で、はこべら殿の開口一番はそんな言葉であった。

 

 いやいや、声をかけろと言っても私は猫なのだ。喋れないし、熱中症であることにも気が付いていなかったのだから、仕方がないだろう。

 

 そんな私の考えをどうやってか読み取ったようで、はこべら殿は大きなため息を一つ吐くと、私を持ち上げて正面を向かせてくる。

 

「いくら幼いと言っても、これまでのあなたを見聞きしていれば他の猫よりも随分と賢い事は分かっています。そんなあなたがいきなり体調を崩せば、皆さんがどう思うか。特にあなたを一番大切にしているすずなさんが心配しないとでも思いましたか?」

 

 ……それは、そうだ。

 この道草屋に来てから、最も接する機会が多いのは拾い主であり飼い主でもあるすずな殿だ。

 そうでなくとも、私の世話を面倒がらずに笑顔でしてくれる心優しい彼女達が、倒れた私を見て何も思わないはずはないだろう。

 考えれば分かることだが、この日常が当たり前になっていた。

 怠惰に日和った私の頭から何時の間にか大切な事が零れ落ちていたようだ。

 

 自身の行いに悔い俯いている私を見て、はこべら殿が「ふむ…」と小さく唸る。

 

「…もしかしてとは思っていましたけど、クロさん。やっぱり、あなた…私の言葉、分かっていますよね?」

 

 …

 ……

 ………ん?

 

 話の流れが鋭角に変わり過ぎて、一瞬何の事を言っているのか理解できなかった。今まで話の流れから考えて予想だにしていなかった言葉が私の耳孔へ、脳へと滑り込んでくる。

 

 思わず頭を上げてはこべら殿を見上げると、さっきまでの怒ったような表情はどこへ行ったのか、にこやかな笑みをその顔に浮かべていた。

 

「すずなさんを話題()にして、少しカマをかけてみたのですが…、その落ち込んだ顔と驚いた顔、やっぱり言葉が分かるようですねぇ」

 

 …想定はしていた。

 何時かバレてしまうだろうと覚悟もしていたが、まさか今だとは…

 

 しかし、まだ慌てる状況でない!

 せ、世間には利口な猫など五万といる。人間の言葉を理解する猫も一匹や二匹ではないだろぉう!

 

 表面上では白を切りつつ、内心バイブレーションの如く動揺していると、はこべら殿は(おもむろ)に作務衣から手帳とペンを取り出して何かを書き出した。

 三枚の紙にそれぞれ『○』『△』『✕』を書き、私の目の前に差し出してきた。

 

「クロさん、『○』と『△』を見てください」

 

 …決して見るものか、と努力はした。しかし、目は口程に物を言う。

 私は無意識というか、ほぼ条件反射で○と△に目線を走らせてしまっていた。

 

「図形も分かると…」

 

 マズい…。

 いくら利口な猫でも、躾することもなく図形とその名称を理解している個体はいないだろう。

 

「あっ…」

 

 こ、今度はなんだ…?

 私は今度こそ動揺しないようにと身構える。

 これ以上、墓穴を掘るわけにはいかn―――

 

「足元にムカデが…」

 

 なにぃ!ムカデだと!?

 ムカデの毒はスズメバチの毒に良く似ている。人間でも危険なのに、猫の身体では一体どうなるか。

 

 私はまだ上手く動かない身体で飛び退き、足をバタつかせる。

 しかし、私の足元にはムカデは居らず、元いた場所にもムカデの姿はない。

 

 そして、気が付く。

 にこやかに微笑んでいたはこべら殿の口角がゆっくりとつり上がっていくことに…

 

「これはもう、確定…でしょうか?」

 

 やられた…

 これは非常にマズい…

 はこべら殿といる時間が経てば経つほどボロが出てしまう。

 すでに手遅れ感はありありと感じてはいるが、何とかこの場を切り抜けなくては…

 

 私が戦々恐々していると、はこべら殿は小さく笑みを溢す。

 

「ふふっ…、そんなに怯えないでくださいな。確かに、ここまで頭が良いとは予想していませんでしたけど、追い出そうなんて考えていませんから」

 

 な、何故だ?

 自分で言うのもなんだが、いくら猫でも、これだけ異常な存在なら追い出そうとするのが普通でないのか?

 人間とは元来、未知のモノや理解不能なモノに対して強い拒否感を感じる生き物だ。はこべら殿は何とも思わないのだろうか…

 

「ん?首を傾げて、どうかしましたか?……あぁ、なぜ追い出さないか分からないって感じですね。簡単ですよ。そんなことをしたら、すずなさんに嫌われてしまいますから…」

 

 なるほど、納得だ。

 しかし、それだけなのだろうか?

 

「それに、元々動物は好きですし、何より皆さんの反応に一喜一憂するあなたを見ていると、まるで人っぽくて面白いですから」

 

 まさか、猫と人間を結びつけるとは…

 はこべら殿、あなたの勘は凄まじいな。

 

 しかし、はこべら殿が良くても他の彼女達はどう思うだろうか。

 芹殿やすずしろ殿、すずな殿に拒絶でもされたら私は果たして立ち直れるだろうか?

 …覚悟はできているが、自信はない。はこべら殿には悪いが、それならばいっそのこと自分から出ていくべきか。

 

 そんな事を考えると、自然に項垂れてしまう。

 すると、はこべら殿は「まぁ、でも…」と口にする。

 

「芹さんや他の皆さんもあなたを追い出そうとはしないと思いますよ?」

 

 これまた可笑しなことを言う。

 再三言うが、私は異常なのだ。今は気が付いていないにしても、発覚した時にそんな猫を置いておく理由があるのだろうか?

 

 意気消沈する私を尻目に、はこべら殿はつらつらと語り続ける。

 

「芹さんは元々犬派なんですけど、今では部屋にあなたの写真を飾ってありますし、割烹着にだって黒猫のアップリケを付け始めたんですよ?それに、最近ではよくあなたの事を『うちの自慢の子』って良く言い張ってますからねぇ。気が付きませんでしたか?」

 

 し、知らなかった…

 犬派というのは昔の話からも薄々感じてはいたが、そんな嬉しいことを言ってくれていたとは…

 

「すずしろさんだって、デパートへ行く度にあなたのおやつや玩具を買ってきてるんですよ?でも、飼い主のすずなさんがあなたにあげてない手前、いつ使おうかとソワソワしてますし…」

 

 それは、私に教えてしまってもいいのだろうか?

 確かに、最近すずしろ殿からよく目線を感じることがあったのが、あれはそういう事だったのか…

 というか、はこべら殿はよく知っているな…

 

「すずなさんなんて、あなたと遊んでいるときの笑顔と言ったら、もう、ふふふ…」

 

 あぁ、それは大いに分かる。

 彼女の蕩けるような表情は何物にも代えがたい。だから、少しも曇らせたくはないのだ…

 

「…あなたも色々と思うことがあるとは思いますけど、案外どうにかなるものですよ?」

 

 そう、なんだろうか?

 彼女達に迷惑を掛けないだろうか?

 

「まぁ、遅かれ早かれ、皆さん気付きそうなものですので、私からあれこれと言いふらすつもりもありません。それに、もしも追い出されるようなら、私が引き取ってさしあげますよ」

 

 だから…と、はこべら殿は私の頭を優しい手遣いで軽く撫でる。

 まだ熱中症の名残か、はたまたさっきまでの怒涛の暴露(ストレス)による知恵熱なのか、煮詰まった頭に触れる手が気心地よい。

 

「次こそは、悪い状況になる前に、私…いえ、私達に一声掛けてくださいな」

 

 …はぁ。

 これもう、はこべら殿には頭が上がらないな。

 第二の飼い主(暫定)になって頂いたのだ。これ以上、うじうじと悩んでいても仕方ないのだろう。

 私は一声鳴いてから、私を撫で続けている掌に頭を擦り付ける。

 

 今できる最大限の意思表示。

 はこべら殿も感じ取ってくれたのか、少し驚いた顔を浮かべた後に「約束ですよ」と優しく微笑んだ。

 

「では、私は戻りますね。そろそろ行かないと芹さんに怒られてしまいますので…」

 

 そうだ、あまりの出来事に忘れていたが、今は掃除中だった。

 これ以上、足止めをしてはいけないな。

 

 私ははこべら殿から離れて一鳴きしようとした。

 すると、廊下の先からパタパタッと小走りの足音が聞こえてきた。

 ん?子の足音は…

 

「はこべらさーん、クロちゃんの様子、どうですか?」

「もう動けるようにはなったみたいですので、大分良くなったと思いますよ?」

「わぁ、よかったです」

 

 現れたの掃除へ戻って行ったはずのすずな殿であった。

 戻ってきたという事は、掃除の目処が立ったのだろうか?

 

 すずな殿は私に駆け寄ると、「心配したんですから」と頭を撫でてくれる。

 いやはや、いらない心配を掛けてしまってすまなかった、すずな殿。

 気持ち良さに目を細めていると、頭を撫でていた手がピタリと止まる。

 

「あ、そうだ。えっと、芹さんとすずしろさんがかくれんぼをしようって…」

 

 …掃除をしていたのではないのか?

 まぁ、息抜きも兼ねての遊びと言うところか。

 この暑さでも遊ぶ体力があるとは、やはり人間は強いのだな…

 

「あら、懐かしいですね」

「かくれんぼは子供の遊びですよ。大人になってまでそんn「面白そうですねぇ」―――ぇ?」

 

 どうやらはこべら殿も参戦するらしい。

 すずな殿は子供の遊びと考えているようだが、大人だからこそ子供のように遊びたい時があるのだ。

 しかし、まだ子供の域を出ないのすずな殿には分からない様子。

 

 予想外の返答にすずな殿が呆然としていると、廊下から足音が二つ。

 すずな殿を追うようにして現れたのは、芹殿とすずしろ殿であった。

 

「はこー?あんたも一緒にかくれんぼしない?」

「えぇ、是非」

「結構楽しそうですねー」

「エッ!?」

 

 参加:三、保留:一。

 成人組が全員参加する中、唯一の未成年がソワソワとしている。

 大方、すずな殿も参加はしたいが、自身の思い描いている『理想の大人の対応』が邪魔をしているのだろ。

 

 葛藤するすずな殿を尻目に、はこべら殿が薄く口角を上げつつ「すずなさんは大人のようですので…」と芹殿を促す。

 

「よーし!じゃあ参加は子供三人ということででやりましょうか」

「わ、私もやりますっ!!」

 

 高らかに参加を表明する後ろ姿に、呆気ない理想の陥落が私には見えた。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。

本当は今回でまとめたかったのですが、予想以上に長くなってしまったため、次回も続きとなります。
次回で目途が着く予定ですので、温かい目で見守って頂ければ幸いです。
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