何とかエタる(意味合ってる?)ことなく着陸することができました。胴体着陸でも着陸には変わりありませんよね?
何時の間にか原作とは異なる路線を歩んでいるような感じがヒシヒシとしますが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
それでは……
どのくらい時間が経っただろうか。
彼女達がかくれんぼに勤しんでいる頃、ようやく熱が下がり、動けるようになった私はゆっくりと廊下を歩いていた。
まだ本調子とは言えないが、室内で動く分には問題はないだろう。
しかし、無理は禁物だ。はこべら殿と交わした約束もある。
次に体調が悪くなったなら、一声掛けてみるとしよう。
廊下を進んでいくと、こちらへと歩いて来るすずしろ殿と遭遇した。
辺りを見回していることから、どうやらかくれんぼの鬼になったのだろう。
近くによれば、すずしろ殿も私に気が付いたようだ。
「あれ、クロちゃん。熱中症になったかもって聞いたけど……もう大丈夫なの?」
はこべら殿かすずな殿が伝えてくれたのか?
いやはや、心配をかけてしまって申し訳ない。すずしろ殿が知っているという事は芹殿にも伝わっているのだろう。後で顔を見せに行かねばな……
私が一鳴きすると、何となく伝わったのか「そっか、気を付けなよ?」と頭を撫でてくれた。
すると、すずしろ殿は何かを思いついたように声を上げる。
「ねぇ、クロちゃん。この辺ですずなちゃん見なかった?」
いや、見てはないが……それを猫である私に聞くのか?
第一、それはズルと言うものではないのだろうか?
私が頭を振れば「そっかー」とため息を吐くすずしろ殿。
「じゃあ、匂い!すずなちゃんの匂いは辿れないかな?」
あ、諦めたんじゃないのか?
待て、すずしろ殿。匂いで探れるのは犬で、私は猫だ。ましてや、訓練もしていない犬猫が指示通りに匂いを辿ることなんてできるはずがないだろう!?
これでもかと頭を振ってみるが、何故かこれは伝わらない。
どうやら、すずしろ殿との通信状況はあまり良くないようだ。
何故だ!さっきは伝わったではないか!?
いくら応援されても出来ないものは出来ないのだが、ここまで期待の眼差しを向けられてはどうしようもない。
私は小さく唸りながらも、仕方なく鼻を引くつかせてみる。
すると、廊下を抜ける風に乗って数多の匂いが鼻腔を擽った。
―――縁側で干されている布団の香り。
―――強い日差しに照らされたイグサ畳の香り。
―――風に巻き上げられたのか土の香り。
―――今日の昼食だろうか、出汁の香り。
―――そして、嗅ぎ慣れたどこか落ち着く香り。
―――ん?
近くに知っている匂いを感じて辿ってみれば、そこは襖の閉まっている客室だった。
気のせいかと思い、もう一度嗅げば更に強くなる落ち着く香り。
いや、まさか、そんな……
私は犬ではなく猫なのだ。猫又でもあるが、鼻の短い猫が犬並みの鋭い嗅覚を持っていることなんてあり得るのだろうか?
私は慄きながらも、すずしろ殿へと目線を向ける。
目線に気付いたすずしろ殿が開けた客室の中は一見誰も隠れていない様子。
しかし、依然として鼻腔を擽る落ち着く香り。
その出所は……
「わ、本当にいた!すずなちゃん、みっけー」
「み、見つかっちゃいました」
……居ちゃったよ。
積まれた布団の後ろから、ひょっこりと出てくるすずな殿。
「すずしろさん、強いです…」
「ふっふっふっ……まぁ、今回のお手柄はクロちゃんなんだけどね」
「え?クロちゃん?」
「そ、すずなちゃんの匂いを探してって頼んだら本当に探し当てちゃったからびっくり」
すまぬ、すずな殿。
「……クロちゃん、嫌いです」
―――グァハッ!?
クロ は こうかばつぐん の こうげき を うけた 。
ち、違うんだすずな殿!いや、何も違わないのだが……
悪気があったわけではないのだ。私もここまで鼻が利くとは思ってもみなかったのだ!
何とか弁明しようと鳴喚き、すずな殿の足元に頭を擦り付ける。
我ながら必死である。
しかし、すずな殿から嫌われるよりは断然いい。
前世で孫から「おじいちゃん、きらい」と言われたあの絶望感はもう味わいたくないのだ。
何度鳴いただろうか。
不意に優しく抱えられ、温もりと落ち着く香りが私を包んだ。
「もう……次は教えないでくださいね」
先程までの拗ねたような表情とは打って変わり、優しく微笑むすずな殿が私の目に映る。
許してくれるのだろうか?
私が教えてしまった謝罪を込めて不安気に一鳴きすると、すずな殿は小さく笑う。
「ふふ、分かりました。許してあげますね」
……よかった。
若干、頼んできたすずしろ殿に思うところもあるが、今はどうでもいい。
私は寄せてきたすずな殿の頬に軽く頭を擦り付けるのであった。
◇◇◇
さて、かくれんぼも終盤戦。
どうやらすずしろ殿は私と会う前にはこべら殿を見つけていたらしく、残るは芹殿のみとなった。
しかし、芹殿はこの道草屋の事を熟知している。そう簡単には見つからないだろう。
見つかってしまったすずな殿は私を連れて広間へ向かう。
そこにはすでに見つかっているはこべら殿が時間つぶしなのか読書に耽っていた。
「……あら、すずなさんも見つかってしまいましたか」
「はい、見つかっちゃいました」
「私も、まさか一番に見つかってしまうとは思ってもみませんでした」
確かに。
はこべら殿であれば、搦め手を使って最後まで隠れていそうだが……
すずな殿も同じように考えたのか、どこに隠れていたのかを問いかけている。
「灯台下暗しを狙ってみたのですが、すずしろさんの方が一枚上手だったようで……」
「……?」
「そういうすずなさんはどこに?」
「客室の布団の後ろです。でも、クロちゃんのせいで見つかっちゃいました」
「……クロさんの?」
すまぬ。
はこべら殿は不意に出た私の名前に理解ができない様子だったが、すずな殿が経緯を語っていくと「なるほど」と腑に落ちた様子。
「クロさんは頭も良くて、鼻も利くのですね」
「いい事です」
「そうですね。良い事、ですねぇ……?」
うっ、はこべら殿の視線が痛い。
そう見ないでくれ。私だって気が付いていなかったのだから、仕方がないではないか。
私がはこべら殿の目線に居た堪れなくなっていると、廊下の先から足音が聞こえてくる。
顔を向けると、なぜかこちらも居た堪れない表情をしている芹殿とジト目のすずしろ殿が歩いて来るところだった。
話を聞けば、芹殿は探しに来たすずしろ殿を揶揄う為、天袋へ隠した髪飾りに「バーカ」と書いた紙を仕掛けていたとの事。
それを傍目から覗いて、すずしろ殿が手に取った時の反応を楽しみにしていたのだとか。
しかし、今日のすずしろ殿は冴えていた。
ここまでは良い。
その後、芹殿が髪飾りを回収する前にすずしろ殿は手に取ってしまい、仕掛けてあった紙をすずしろ殿の元に晒されてしまったことで今の状況へと至ったらしい。
茶目っ気のある芹殿らしいと言えばらしいのだが……
まぁ、それでいて彼女達は楽しんでいるようで、掃除の時よりも生き生きとした表情となっている。
適度に休息を取ることは大切だ。根を詰めすぎては上手く行くものも上手く行かなくなるからな。
私自身にも言えるのだから、以後気を付けるとしよう。
◇◇◇
広間に全員が集まると、かくれんぼはお開きとなった。
しかし、芹殿が何かを思い出したかのように声を上げる。
「そうだ。さっきね、懐かしいの見つけたのよ」
「懐かしい、ですか?」
「そう。まぁまぁ、来てみなさいな」
そう言って向かった先は、芹殿が隠れていたらしい客間。
到着すると、芹殿は押し入れの中へ潜っていき、取り出したモノは……
「三味線ですか」
「髪飾り置く時にね」
それは紫の胴掛けが特徴的な三味線であった。
確かに、三味線とは懐かしい。昨今ではあまり見かけなくなったからな……
すると、芹殿は徐に構えて指弾きで弦を打ち始める。
―――べぃん、べぃんっ……
……思っていた音と違うな?
よく見ると、長い間手入れをされていなかったのか、三味線には少し埃が被っていて、撥皮も汚れている。弦も緩んでいるのだろうな……
これでは良い音を出すのは難しいそうだ。
「まぁ、古いお屋敷ですもんねー」
「そうねー、探せば他にもありそうよ?」
「わたし、探してきます!」
そう言ってすずな殿は押し入へと入っていく。
時折ガサゴソと漁る音が聞こえていたが、しばらくして出てきたすずな殿の手には打楽器のトライアングルが握られていた。
さらには木魚や破れた小太鼓なども掘り出されてきた。
……あの押し入れの中は一体、どうなっているんだ?
三味線と小太鼓は分かる。お座敷で使っている所を生前に何度か見たことがあるからな。
木魚も、まぁ……わかる。
しかし、トライアングルを旅館で使うことなんてあるのだろうか?
私が素朴な疑問に頭を捻っていると、遅れてやって来たはこべら殿が廊下からひょっこりと現れた。
「あら、三味線?」
「押し入れで見つけたのよ」
「いつから
「昔、お婆ちゃんが使ってはいたけど……いつからかは分かんないかな?」
芹殿がもう一度指弾きをすると、はこべら殿も三味線に視線が向く。
「撥皮に弦も痛んでいますね。直すのですか?」
「んー……直したいとは思うんだけどね?」
「渋りますね」
「だってほら、お高いじゃない?」
「伝統楽器、ですからね」
すると、トライアングル片手にやり取りを眺めていたすずな殿が「あのー」と声を掛ける。
「そう言えば、三味線って何の皮が使われてるんですか?」
「えーとね、確かー……」
「猫皮ですね」
「……ぇ?」
ほぉ、三味線の撥皮って猫皮だったのか。動物の皮とは知っていたが、何の皮かは知らなんだ。
「それ、私も知ってます。確か、優しい音を出したい場合には猫の皮で、逆に強い音を出したい場合には犬の皮をってやつですよね?」
「そうですね。今では合皮を張るのが主流のようですけど」
まぁ、そうだわな。
もちろん、今でも本皮を使っている物もあるとは思うが、高級品だけだろう。
今の御時世、猫や犬の皮を大々的に使えば苦情の一つや二つ出かねないからな……
それにしても、先ほどから何やら思いつけたような表情を浮かべているすずな殿はどうしたのか?
その様子に芹殿も気が付いたのか、ふと声を掛ける。
「すずなちゃん、どしたの?」
「芹さん、さっき三味線直すって……」
「?そうね、このまま押し入れの肥しにするのも忍びないし……それがどうかしたの?」
すると、何を思ったのかすずな殿は私を抱えあげて、強く抱きしめる。
いきなりどうしたのだ、すずな殿?
「……クロちゃんは、ダメです」
……すずな殿は何を言っているのだろうか?
芹殿とすずしろ殿は目が点になって呆けており、はこべら殿でさえ首を傾げている。
しかし、どうやら見当がついたのか小さく噴き出すはこべら殿。
その様子を訝し気に伺う二人に小さく耳打ちをすると、二人はいきなり声を上げた。
「使わないわよ!?」「使うわけないよ!?」
いまいち話が見えてこない。何を使わないのだろうか?
「第一、直すにしても張るのは合皮よ?本皮なんてとてもとても…」
「そうじゃなくても、クロちゃんで三味線を直そうなんて思っていなからね!?」
これはまた……
まさか、すずな殿がこれ程盛大に勘違いを起こすとは思わなんだ。
しかし、否定してくれてよかった。
知らず知らずの内に撥皮にされたとなっては流石に敵わん……
「そ、そうですよね!よかったです」
「勘違い極まれり……」
「すずなちゃんって、時々天然入りますよね?」
「そこが可愛いんじゃないですか」
はこべら殿はブレないな……
まぁ、そんなこんなで他愛ない雑談をしていれば、いつの間にか全員でバンドを組むことになっていた。
バンド名は『Beauty 七草 Girls』略して『びゅなが』
ボーカルの
しかし、これも必然か、『びゅなが』は音楽性の違いにより、泣く泣く解散となってしまったのであった。
私としては面白い組み合わせであったのだがな、仕方がない。
彼女達は一通り笑い合ってから、忘れかけていた掃除へと慌てて戻っていった。
さて、私も涼しい日陰を探すとしよう。
しかし、外は日差しが強く、遠くに見える逃げ水が夏の熱さを物語っていた。
外はないな、と諦めて私は廊下を進む。
……まだ保冷剤は溶けていないだろうか?
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。
何かとオリジナル展開を多く挟んだため、齟齬が生じていると思いますが宇宙のように広いお心でご容赦を……
もちろん、指摘や感想は大歓迎でございます。少しでも良い作品にできるように頑張っていきますでの、これからもよろしくお願い致します。