変化とは望む望まぬに関わらず起き得る事
だが、その変化を受け入れれるかどうかは
リザードマンと化した彼はこの世界では異端である
元人間といえども、所詮は己自身のみしか知らない事実。更にいえば事実であるとしても他者が信じなければ虚言として扱われよう
確かに彼は元となったゲームの熱狂的なファンであり、時には寝食すら投げ捨ててまでプレイしていた
なれど、原作の敵側ならいざ知らず魔物側では殆ど救いはない
メタな話になるが、イベントのボスキャラならば救済措置もあるのだが、彼は一般的な章ボスに過ぎない
しかも初めの頃に出てフェードアウトするタイプのボスキャラである
救いなどありはしなかった
そんな彼ではあるが、今は生きるために熊の様な魔物と戦っていた
確かに彼には知識がある
だが、相手とて伊達に弱肉強食の中生き残っていない。場慣れしていない彼の作戦など、平気で上回るか食い破ってくるのだ
彼は焦っていた
手数は間違いなく此方が上。にも関わらず、熊は普通に対応してくる
ダメージは入っている筈である。ところどころ出血しているから間違いない
だが、決め手に欠けていた
最もな事だが、彼は別にフルダイブ型のゲームや生身においての対人戦闘等した事がない
故に、相手を倒す事には不慣れなのである
少女は空腹の中、音のする方へと向かっていった
本来なら他者との接触は彼女の状況では危険極まる行為だが、空腹である以上やむを得ない事だった
だが、少女が見たのは荒れ果てた場所とこと切れた熊だけであった
少女は不思議に思いながらも、熊を調理して食べる事にした
彼は熊との死闘を何とか制する事に成功した
だが、少女が近づいてくるのが見えた為に慌ててその場を離れたのである
結果として骨折り損となったが、諦めるほか無かった
少女の事を彼は知っている
あのゲームにおいての中心人物であり、主人公の1人ともいえる
過酷な運命に翻弄され、それでも抗おうとする王女であった
今の魔物の姿ではどう転んだとしても、碌な事にならないと判断した為に彼女から姿を隠したのである
とはいえ、一つ分かった事がある
恐らくだが、原作は未だ始まっていないのだろう
始まっているのだとしたら、少女の表情はもう少しは明るいだろうし、彼女の側には騎士クンやエルフの少女、獣人の少女がいる筈である。
シナリオ的に進んでいったとするならば、彼女が1人きりになる事もなくは無いだろうが、にしては動きが重い様にも感じれた
今の彼女が仮に全力だったとしても、彼でも対処出来るレベルではないか?
そう見えてしまった
であるならば、彼女の実力は発揮し切れない状態、つまりは原作的には序盤と判断した
ならば、今の彼女では魔物の襲われたらマズイだろう。
あの厨二病の王女サマが彼女を放置する理由はないだろうし、それでなくとも少女には休息が必要である事は間違いない
暫くの間だけは、少女を護衛しようと彼は決意した
少女は空腹を満たした後、つい眠ってしまった
「っ!
あれ?」
自身の意識が落ちていた事を理解した瞬間、彼女は周囲を警戒した
だが
「何も、いませんね?
でも、時間はかなり経ってますし」
中天にあったはずの日は既に沈み、暗闇が支配する時間となっていた。幸いにも星の光などで辛うじて視界は確保出来てはいる。
しかし、彼女の経験上ここまでの時間隙を見せていたら、何らかの変化があるのは当たり前だった
ましてや眠っていたのである。襲撃が無かったのは寧ろ不自然といえる。
彼女は追われているが、此処は森の中。人間よりも魔物の方が危険であり、彼等は隙を見せれば襲ってくる
「おかしいですね?」
少女は困惑した
彼はやっと少女が目を覚ませた事に安堵した
既に周りには魔物の死体がこれでもか、というほど転がっており彼が苦労した事が見て取れる
ああ、もう!早く起きろよ、あの腹ペコ王女は!
こう内心憤りながらも、彼は少女に近づこうとする魔物を長時間排除し続けた
確かに彼女がいなければ物語は始まらないだろう
この物語は彼女達のものであり、その中核を担うのが後にペコリーヌと呼ばれる様になるあの少女〇〇〇〇〇〇〇なのである
ファンとして、彼女に思い入れがあるのは間違いない
だが、此処はゲームの世界であったとしても彼にとっては現実なのだ
しかも、彼の場合は現実世界に身体があるかどうかすら怪しく、死ねばそれで終わりである可能性は非常に高い
魔物の身とはいえども、心は人間でありたい
彼がどれだけそう願ったとしても、自身が徐々に変質しつつある事を理解していた
そうでなければ、魔物とはいえども躊躇おうと殺生出来るはずはない
しかも、倒した魔物を捕食しているのだ
普通ならありえない話である
ゲーム内でも魔物料理は某ギルド関連で頻繁に登場するし、それを扱う店の描写もあったことからある程度の市民権は得ているのだろう
しかし、万人受けする訳でもなくそれを良く思わない人間がいるのもまた事実
彼等はあくまでも現実の記憶が無いからこそ、魔物等と戦えると思う。翻って彼は記憶があり、殺す事に対して罪悪感を感じているし禁忌である事も理解している
にも関わらず、ソレを容易に行える時点で彼のナカの何かが変容しているというのはあり得る話であった
しかも、それが直接関係のない少女を守る為に行えたのならば、彼は何処かが壊れているのだろう
彼はその場を去った
自分が自分である事に恐怖しながら
残念ながら彼は強くありません。
良くも悪くも普通の感性を持ち、普通に生きていたかった