クッパ城でおやすみ 作:トードストール
「大変ですマリオさん! 姫様がクッパにさらわれてしまいました!」
「なんだって!?」
ここは世界一有名な配管工兄弟が住む国、キノコ王国。いきなりであるが、早速ピーチ姫がクッパによってさらわれたようだ。
「クッパめ、こりもせずにまた悪事を始める気か! 姫、今助けに参ります!」
こうしてマリオはいつものように囚われのピーチ姫を助けるため、クッパ城ヘ乗り込むべく旅に出たのであった。これはスーパーヒーローマリオがクッパを倒してピーチ姫を救い出す物語──ではない。
◇ ◇ ◇ ◇
世界最大の軍事力を誇る悪の帝国、クッパ帝国。マグマ煮えたぎる灼熱の大地に、大魔王クッパの住むその城はあった。そして、そんな悪の帝国に不釣り合いな高貴さを纏った美しい女性が一人。クッパによってさらわれこの城に連れてこられたキノコ王国国主、ピーチ姫である。
「……ねえクッパさま? 私はね、別にあなたが私を浚うこと自体は別にいいと思ってるのよ」
「う、うむ」
「私を浚う理由が私の魔力を恐れたからでも、嫁にしたいからでも、特に理由もなくなんとなくでもいいの。結局浚われるんだし何でもいいわ」
いきなり爆弾発言をする姫。彼女は自分がさらわれることに拒否感はないらしい。
「でもクッパさま。これはどういうことなのかしら?」
「と、いうと?」
「私と、私のいるこの部屋を見て何かお感じになりません?」
そう問われたクッパはピーチ姫と、彼女を捕らえておくための監禁部屋を眺めて、ふと呟いた。
「姫を閉じ込めておくには部屋の内装が貧相だな」
「それよ、それ!!」
クッパの言う通り、監禁部屋の内装はだいぶショボかった。電気は裸電球だし、ベッドは安アパートにありそうなベッド、床はベニヤ板である。そもそも監禁部屋なんだからそんなもんでもベッドがあるだけマシな方と思わなくもないが。
「あのね、私は姫よ? 王族でありキノコ王国の国主を務める尊き身であるのよ?」
「う、うむ」
「その高貴な私を浚って! 閉じ込めておく部屋が! なんでこんなボロ部屋なのかしら!?」
要はピーチ姫は自分の監禁部屋が貧相すぎるのが気に食わないらしい。人質の割にやたらと余裕がある御仁である。
「こんな部屋でマリオが助けに来るまで生活するなんて断固お断りよ! 環境改善を要求する!」
「ピーチちゃん、自分が人質なのわかっておるか?」
「うっさい! 大体、前はこんな部屋じゃなかったでしょう!? もっと豪華で居心地のいい部屋だったじゃない!」
どうやらピーチ姫が以前さらわれた際には彼女も満足いく水準の豪華な部屋が与えられていたらしい。それがいきなり安アパートレベルに落ちればそりゃ不満も抱こうというものだ。それが人質の態度かということは置いておく。
「いや、ワガハイもピーチちゃんには良い部屋を与えたいのだが、実は事情があってな」
「事情?」
「実は前回の戦いでマリオに城を完全に破壊されてしまって新築にしたのだが……それで予算をほとんど使いきってしまってこの部屋はあまりの予算で突貫工事で作ったのだ」
「なん……ですって……」
どうやらピーチ姫の監禁部屋が粗悪になったのはマリオのせいだったようである。
「あのヒゲー! 余計なことしてくれたわね! 大体いつもいつもクリア率がどうだとか煩いし助けが遅いのよ!」
「仮にも自分を救い出してくれる相手に辛辣すぎではないか?」
「やかましい!」
知らないところで愛しの姫にヒゲ呼ばわりされるマリオ。かわいそうな男である。
「というかクッパさま、あなた私のこと好きなのでしょう!? なら私の部屋ができるまでさらわないとかそういうデリカシーを発揮すべきでしょそこは!」
「だってピーチちゃんに早く会いたかったし」
「そりゃどうも!」
もはやカップルの痴話喧嘩か何かしか見えないが、結局ピーチ姫の抗議も虚しく環境改善はなされずに終わった。そもそも改善するための資金がクッパになかった。
「はぁ……仕方ないわ。どうせやることもないんだし寝て過ごしましょう」
そう言ってベッドに潜ったピーチ姫であるが……寝つけないのか、ゴロゴロと何度も寝返りを打ち、起き上がって一言。
「こんな固いベッドで寝れるかっ!!」
どうやら王族であるピーチ姫には安アパートのようなベッドは固すぎたようである。超一流のものしか使ったことがないのだから当たり前だが。
「やっぱり我慢できないわ! クッパさまに資金が無いっていうんならいいわ! 私が自分でこの城の物を集めて環境改善してやるんですからね!」
こうして、ピーチ姫は自身の環境改善のために自ら行動を開始した。
──これは、クッパ城に囚われたピーチ姫が、自身の満足いく環境を手に入れて安眠するための物語である。