奈々「うーん…!」
彼女、木葉奈々はベッドから起きた。
奈々がいるのは自分の部屋である。
ベッド、机、テーブル、タンス、これらは全て木材から作られており、壁紙も整備され、エアコンとテレビ、トイレとシャワー、キッチン等が完備しており、とても船の中とは思えない部屋になっている。
また、このクジラ艦は揺れに強い設計になってるため、この船で暮らす人達に船酔いが起こった事は誰一人いなかった。
テーブルの隣には、沢山の荷物を入れてパンパンになった大きなショルダーバッグが置かれていた。
今日は奈々がクジラ艦を出る日。
奈々は窓のカーテンを開け、外の風景を見た。
外は見渡す限りの大海原…と思いきや、微かに陸地が見えてきた。
奈々「鎌倉府が見えてきた…そろそろ着替えて行くとしますか」
奈々は私服に着替え、荷物を肩に背負って部屋を出ていった。
部屋を出ると、奈々は廊下を歩き、真っ先に病室へ入っていった。
病室にはベッドが2つ置いてあり、青髪の少女と赤髪の少女が2本のホースに繋がれたまま眠っていた。
2つのベッドの中央にあるテーブルの上には、名前の入った札があり、そこには、桜田加奈(さくらだ かな)、桜田理亜(さくらだ りあ)の名が書かれていた。
奈々「加奈さん、理亜ちゃん…もう少しだけ、二人のCHARMをお借りします」
奈々は2本のCHARMを腰に収め、眠っている二人に礼をすると、部屋を出た。
奈々が次に訪れたのはミーティングルーム。
しかし中は誰一人いなかった。
隣にある黒板には、チョークで木葉奈々のお別れパーティーと大きく書かれていた。
昨日の夜、奈々はここで皆からお祝いされたのを思い出した。
今までにない盛り上がりで楽しんだ事を思いながらも、いざ終わると寂しい感じもした。
それでも自分は百合ヶ丘女学院に戻らなきゃ行けない。
2年前…リリィになるために奈々は鎌倉府に建てられた百合ヶ丘女学院に入学した。
ちなみに補欠合格である。
彼女はCHARMを使えるようにするために練習を始めた所、姉妹の二人と出会った。
二人は姉妹といっても血の繋がりはない。
二人はシュッツエンゲルの契りをかわした姉妹なのだ。
高1の上級生はシュッツエンゲルと呼ばれ、中3の下級生はシルトと呼んでいる。
奈々はシュッツエンゲルのリリィからマギの扱い、CHARMを使った戦い方を教わるようになり、日々努力していき、自らの力を付けていた。
そんなある日、悲劇は訪れた。
それが、甲州撤退戦…山梨県で起きた戦いである。
彼女にとって始めての実戦は不安でいっぱいだった。
それでもやってくる大量のヒュージを奈々は倒していった。
倒して、倒して、倒しまくって…気を失うまで戦い続けた。
しかし気が付いた頃には犠牲者が出てしまっていた。
それは、奈々に戦い方を教えたシュッツエンゲルの少女だった。
姉を失い、心に大きな傷を負ってしまったシルトの少女を前に奈々は何を言ったら良いかわからず、それっきりシルトの少女とは会っていなかった。
自分の未熟さに落ち込む奈々の元に、クジラ艦の艦長からスカウトの電話が来た。
強くなりたいのなら、私の船に来なさい…と。
奈々はその用言をのみ、学園から姿を消した。
皆を守れる程の力を付けたら、戻ってくることを誓って…
それから今に至る。
エースアタッカーと呼ばれるまで強くなった奈々。
そして今日がその時である。
奈々はミーティングルームから出ていき、今度は商店街のような場所に出た。
今の時間は7時過ぎ…現在は人が歩き、店を開く店主、畑から野菜を収穫する農業者など見かける。
ここはクジラ艦の中央に作られた場所で、様々な建物が建てられており、一般人達がここで暮らす場所でもある。
道路の先には、小中高共通の学校とリリィ専門のガーデンが建てられいた。
反対側の通路は公園。
子供達の遊び場や、カップル達がゆっくりする場所になっている。
奈々「ここに来るのも最後か…」
そう思いつつも、奈々はこの商店街を出た。
そして奈々が最後に訪れたのは、物資搬入口の扉前。
色々な食料、本、電化製品等の物資はここで行っている。
この先に入れば、クジラ艦とはお別れになるだろう。
迷わず奈々は扉を開けた。
そこには、昨日戦ったメンバー達と、不参加だったリリィ達が奈々を迎えていた。
奈々「皆…!」
咲樹「来ると思ったよ」
穂香「最後は皆で見送ろうって決めたんだ」
司令官からの伝言と仲間のリリィ達を前に奈々は涙が出そうになった。
そんな中、綾瀬が1隻の小さなボートを奈々の目の前で指差した。
綾瀬「皆で作った特製ボートだよ。モーターボート並の速さが出るから気を付けてね」
奈々「おおー」
黒江「百合ヶ丘でも元気で」
周子「奈々と出会ってからの二年間、楽しかったよ」
奈緒子「あんたが出ていった後、今度はあたしがエースアタッカーの座を手にいれるわ」
真子「時々メール寄越しなさいよ」
麻耶「司令官は今回手が放せなくてここには来れなかったけど、伝言を託されたわ。「君との2年間、楽しかったよ」」
奈々「あはは、司令官さんらしいね」
最後に麻耶は奈々の肩に右手を置く。
麻耶「奈々さん、貴女がこの船で学んだ技術と経験…百合ヶ丘でも活かせる事を期待してるわ」
皆の思いがこもった言葉で奈々は気持ちを入れ換え、笑顔になる。
奈々「ありがとうございます。そして皆さん、今までお世話になりました!」
奈々は感謝の言葉を皆に伝え、礼をした。
そして奈々はボートに乗り、荷物をベルトで固定させ、エンジンを掛ける。
奈々は再び皆の方へ顔を向ける。
奈々「皆の事…忘れないよ。それじゃ!」
エンジンを掛けた奈々のボートは動き始め、大海原へと飛び出していった。
次第に遠くへ向かったボートは小さく見えていく…
咲樹「いってしまったね…」
周子「あっちでもうまく行くといいな」
麻耶「思ったんだけど、あのボート、皆で作ったって言ってたよね?」
綾瀬「そうですけど?」
麻耶「まさか咲樹さんもその中に?」
咲樹「私が入ったら悪いの?」
麻耶「胸ポケット…少し膨らんでるわよ」
咲樹「そうか?入れてはいないんだが…」
そう言いながら咲樹は自分の胸ポケットを探った。
すると、大きめの六角ネジが2本入っていた。
咲樹「…………………あ」
穂香「咲樹さん……」
麻耶「何故ボートの製作に咲樹さんを加えたのかしら?」
おしとやかな麻耶から微かな怒りのオーラを皆は感じ、怯む。
咲樹「…………まあ何とかなるでしょ。奈々なら」
麻耶「誤魔化さない」
綾瀬「でも工具箱も入れてあるから修理は出来るはずだけど…」
そう言われて咲樹はボートに置くはずの工具箱を持っていた。
これにはリリィ達も言葉をなくす。
麻耶「咲樹さん!!!!!」
麻耶の怒りの声がクジラ艦十に響き渡った。
一方、ボートで鎌倉府に向かう奈々は問題が発生した。
なんと、エンジンが動かなくなったのだ。
奈々は動かなくなったエンジンを確認すると、ネジが2本入ってない事がわかった。
奈々「これ…咲樹さんだな……」
犯人が解ったとしても、今の奈々にエンジンを直す術はない。
工具もないので直しようがないのだ。
これには困った奈々。
奈々「うーん…後もうちょっとなんだよね」
奈々の視界には運良く鎌倉府の浅瀬が見えていた。
問題はどうやって行くかである。
そう考える奈々。
奈々「!?」
奈々が何かを察知し、周りを見た。
すると、奈々の反対側に小型ヒュージの群れがやって来た。
奈々「うわ、ヒュージ!?」
見た限り、ヒュージの数は50体以上。
中にラージ級以上の敵はいないようだ。
さすがにボートの上で戦うのは望ましくない。しかも相手は小柄な為、下手すればボートに被害が及ぶので、是非避けたい。
安全な場所で戦うのが一番だが、肝心のエンジンが動かなくなってるので仮に逃げたくても逃げれない。
奈々「……さすがに面倒だけど仕方がない…!」
奈々はボートの後ろに立ち、両手を海に向けてマギを溜め始めた。
その間にヒュージの群れは徐々に近付いてくる。
後数秒もすれば奈々に接触するだろう。
しかし、それが奈々の狙いだった。
奈々「これなら!」
奈々は溜め込んだマギを真下の海に向けて放ち、爆発させた。
爆発の衝撃で至近距離のヒュージ達は全て吹き飛び、奈々を乗せたボートはその反動で空へと飛んでいった。
奈々「ふう…何とかなった…」
奈々は咄嗟にボートにしがみついていた為、放り出されなかった。
更に飛んでるボートはそのまま鎌倉府の方へ向かっている。
奈々「とりあえずは安心………」
気を抜く奈々だが、ここで一つの問題が浮かんだ。
どうやって降りるかである。
奈々「……………不味い?」
そう考えてる内に上昇するボートは一定の高さに着くと、ゆっくりと急降下し始めた。
奈々「いーーーーーーーっ!!???」
と、歯を見せながら急降下していく奈々のボート。
しかし落ちる先には、鎌倉府の浅瀬がくっきりと見えていた。
そしてその場には人らしき何かが沢山いた。
奈々「あれってまさか…ってそれどころじゃない!落ちる前に緊急装置とかないかな…ん?」
奈々が見つけたのはby綾瀬と書かれた緊急装置である。
奈々「良かった、綾瀬ちゃんのなら信用出来る。ほい!」
奈々は緊張装置のボタンを押した。
すると、ボートの周りからクッションのようなものが出てきた。
そして同時にボートは浅瀬に一度バウンドし、再び着地した。
奈々「おお…助かった…」
「むぐっ!?」
着地と同時に誰かの声がした。
「きゃあああお姉様!!?」
奈々「?」
少女の声に奈々は気付く。
辺りを見渡すと今、お嬢様らしさを感じさせる黒い制服を着た少女が3人と教師らしき服を着た女性が一人いた。
皆それぞれCHARMを持っていた。
奈々(あの制服…百合ヶ丘女学院の?)
先程叫んでいたのは、四ツ葉のクローバーの髪飾りを着け、片っ方テールにした桃色の髪の少女だった。
百合ヶ丘女学院 1年生 一柳梨璃(ひとつやなぎ りり)
CHARMはグングニル。
「ヒュージが来ると思ったら、空からボートが…!?」
面子の中で小柄なショートヘアーの少女が驚いていた。
1年生 二川二水(ふたがわ ふみ)
CHARMは梨璃と同じくグングニル。
「それより梨璃さん、お怪我はありませんか?」
梨璃「う、うん。大丈夫」
令嬢と呼ぶべきか、そんな感じのロングウェーブの少女が梨璃と呼ばれる少女に気を使う。
1年生 楓・J(ジョアン)・ヌーベル
CHARMは尖った形の二枚刃が特徴の実験機、ジョワユーズ。
「空から戻ってくるとは、相変わらず無茶苦茶な事をするなお前は」
教師を思わせる黒いスーツを着たショートヘアーの女性が奈々に話しかけてきた。
椿組 教師 如月出雲(きさらぎ いずも)
奈々は彼女、出雲に覚えがあった。
奈々「そのしゃべり方は、出雲センパイ!」
奈々は久しぶりの出雲との再会に喜び、ボートから降りてきた。
出雲「2年ぶりだな木葉…マギがますます強くなったのを感じたぞ」
奈々「分かりますか。流石センパイ」
出雲「後、私は学院を卒業して教導官兼教師だ。センパイではなく先生と呼べ」
奈々「おっと失礼しました、出雲先生」
二水「あの先生、この子は?」
二水が出雲に奈々の事を聞く。
出雲「お前達とは初対面だったな。彼女は木葉奈々。2年前にお前達と同じ百合ヶ丘女学院に入った私の後輩で、更なる鍛練の為にブルーガードに入った経験もあるすご腕のリリィだ」
楓「ブルーガード!?ってまさか…!」
二水「はい!海でのヒュージ退治を主に活動とする、トップクラスのリリィ達で構成されたエリート部隊!その一人が今ここに…ぶふぉ!!?」
梨璃「二水ちゃん!?」
ブルーガードについて力説し、興奮の余り二水は鼻血を出す。
奈々「うおっ!大丈夫!?」
出雲「いつもの事だ。気にするな」
二水「はい…心配要りませんので…」
鼻をつまんで鼻血を止める二水。
奈々「ところで先生、夢結さんは今どこに?」
奈々は夢結と呼ぶ少女を探していた。
出雲「………まだ気づかんのか?」
奈々「何がですか?」
出雲「後ろに下敷きになっている。ボートにな」
奈々「え!?」
奈々が後ろを振り向くと、ボートがひっくり返っており、目の前には白く長い髪をした紅い目の少女が怒りのオーラを出しながら奈々を睨みつつゆっくりと近づいてきた。
2年生 白井夢結(しらい ゆゆ)
CHARMはグングニルを大型化した攻撃特化のブリューナグ。
奈々「な!ルナティックトランサー!?って夢結さん!?」
ルナティックトランサーを発動した夢結を前に奈々は竦み上がる。
梨璃「ああっ、お姉様がまたルナティックトランサーを!?」
出雲「心配するな。このパターンはいつもの事だ」
梨璃「いつもの!?」
楓「確かに、様子が違いますわね」
夢結のレアスキルはルナティックトランサー。
本来、髪の色が白くなるのは完全な暴走状態になってる証拠なのだが、今回に限っては知らずに力を制御している。
それは、過去に夢結が奈々のトラブルに巻き込まれる度にルナティックトランサーを発動しているからである。
夢結「帰ってきて早々ボートをぶつけてくるなんて何を考えてるのかしら?」
奈々「こ、これは、たまたまですよ、たまたま。そもそも夢結さんがここに来るとか分からなかったんですから」
夢結「わかってたら、するつもりだったの?」
奈々「はい…………あ」
ついにボロを出してしまった奈々。
夢結「…言いたいことはそれだけのようね……」
そう言って夢結はブリューナグを構えて奈々に襲いかかる。
奈々「うぎゃああああーーーーー!!!??」
奈々の断末魔が遠くへと響き渡った。
久しぶりの再会は、夢結からのお仕置きという形でお開きとなった。
尚、夢結のルナティックトランサーは奈々にお仕置きしたあと、すぐに治まった。
……………………………………………………………………
二水「次回は遡って、先生が梨璃さんと出会う話になります!」
奈々「私の出番、あるの?」
NEXT 一柳梨璃は出会う
…………………………………………………………………
この小説の各キャラクターの設定
木葉奈々
主人公。普段はお調子者+ツッコミ系で、時に真面目になり、他人の為に頑張る仲間思いの強い子。戦いでは戦術にも強い。
イメージボイスは喜多村英梨。例えるならネプテューヌシリーズのユニ。
一柳梨璃
アニメ基準だけど、舞台版の設定も混ぜていく。あんまり変わらない?
楓・J・ヌーベル
こちらもアニメ基準だが、舞台版の要素も取り入れたい。セクハラ属性も一応。
二川二水
舞台版基準。「ぶふぉ!!?」の鼻血シーンを多くしたい。
如月出雲
オリキャラで教師。夢結より2歳年上で椿組の担当教師。リリィの能力もあるため教導官をこなす。
実力は夢結以上。
白井夢結
イメージ的にはアニメ版基準で行きたい。
奈々は無事鎌倉府にたどり着き、夢結に制裁を受けました(笑)
次の話はアニメ版4話の前半の一部の後にアニメの1話から3話までの話を書きます。
主人公の出番はありません(笑)。