「う・・・?」
意識を取り戻した或人の目に清潔感のある白い天井が写る。少し顔を傾けると天井と同じく白いベッドに自身が入っておりその横には点滴の液の入った袋が吊るされている。
「病院・・・か?」
状況からそう結論付けた或人は身体をゆっくりと起こす。まだ微かに痛みの残る頭部に手を当てると包帯が巻かれているのがわかった。
「或人社長」
声のする方に振り向くとそこには自分の秘書を務めるヒューマギア“イズ”の姿があった。
「イズ!どうしてここに・・・」
「或人社長が交通事故に遭い、此処で治療をしたと彼から連絡がありましたので」
イズが視線を向けるとドアを開けて白衣を着た医者が入室してくる。耳の部分には青いランプが点灯した機械製のモジュールパーツがつけられている。ヒューマギアの特徴の一つだ。
「頭部を打った事による軽い脳震盪ですね。特に異常はないでしょうが一応、検査入院という形で今日一日は安静にしていてください」
「Dr.オミゴト?そっか、お前が治療してくれたのか。ありがとうな」
「いえ、人間を治療するのが私の役目ですから。では」
そう言って医師型ヒューマギアDr.オミゴトは退室していった。その後或人は今自分が真っ先に気になる事をイズに尋ねた。
「そういえば、俺がライズホッパーでぶつかった人はどうした?一緒に搬送されてきたのかな?」
「?」
イズは首を傾げる仕草をする。
「或人社長は搬送されてきたのではありません。運ばれてきたのです」
「運ばれてきた?」
「はい、赤いギターを背負った少年が此方の病院の受付に或人社長を背負って来たそうです。『自分がバイクを手で止めてしまったせいでこの人が怪我をしてしまったから直して欲しい』と」
「赤いギター・・・そうだ、確かに赤いギターを背負ってた!それでライズホッパーを片手で止めちゃったんだ!」
「人間に出来る事ではありませんね・・・。でも応対した人の話では耳の部分にヒューマギアのモジュールは無かったそうです」
「モジュールが無いヒューマギア・・・まるで滅達みたいだ」
聞けば聞く程、謎が出てくるギターを背負った少年。或人は何か心に引っかかるものを感じた。すると横にいたイズが耳のモジュールに手を当てる。青く光るランプ部分も点滅をしている。
「或人社長、本社にいる副添副社長からシェスタを通して連絡がありました。A.I.M.Sから赤いギターを持った少年型ヒューマギアについての調査に協力要請が来ているそうです」
「A.I.M.Sが?・・・わかった。俺もそのギターを持ったヒューマギアの事が気になるし」
或人はベッドから出ると、来ていた病院用の衣服を脱ぎ私服に着替えだす。
「或人社長、今日は安静にしているようDr.オミゴトから言われています」
「ゴメン、イズ。ちょっと気になる事があるんだ。Dr.オミゴトにはちゃんと謝っておくからさ?」
そう言うと或人はライズフォンでライズホッパーを呼びながら病室を飛び出していった。
その日、不破諌は特にあてもなく街を歩いていた。“シンクネット事件”が解決して以来、街には平穏が戻っていた。しかし、悪意というものは大なり小なり決して滅びないもので、人間の起こす犯罪などの小さな悪意はいまだに街に燻り続けている。不破はそういった悪意を狩る為の街の用心棒、“仮面ライダー”として活動していた。・・・正式な仕事ではないので有り体に言えば無職になるのだが。
「今日も街は平和、か・・・。まぁ良い事なんだが・・・」
歩きながら不破が周りの風景を見渡すと、人々がそれぞれの生活を営む様子が見てとれた。ここ数日はこのような平和な風景が続いており、不破が動くような事件の類いは起きていなかった。人々が幸せに暮らせる事が第一だと頭では当然理解出来ているので事件が起きる事を望んでいる訳ではないのだがいかんせん無職である為、時間を持て余しがちになっているというのが目下悩みの種という所である。
「やっぱA.I.M.Sに再入隊でもするべきか・・・?いやでもあ 刃や亡の部下になるのは・・・」
そんな事を考えながら歩いていた不破の前を一人の少年が横切っていった。真っ赤なギターを背負った少年は苦しそうに胸を押さえながらフラフラと歩いている。
「おい、大丈夫か?」
見かねた不破が声をかけると少年が振り向く。青いジャケットにズボン姿で頭にはゴーグルのようなものをかけている。お世辞にも流行に乗っているとは言い難いが何処か懐かしさを感じる風貌をしていた。
「だ、大丈夫・・・。“僕”の事は気にしないで・・・」
「それが大丈夫って顔かよ。見るからに苦しそうじゃねぇか」
「本当に大丈夫だから・・・、“僕”にはコレがあるから・・・」
そう言うと少年は近くのベンチに腰を下ろし、背負っていた真っ赤なギターを弾き始めた。アコースティックギターによる少年の演奏は哀愁を感じさせる音色ではあったがそれでもその腕前は確かなものだった。
「うまいじゃねぇか、その歳で大したモンだ」
「この音を聞いてると、心が落ち着くんです。だから苦しくなった時はコレを弾いてるんです」
「ふーん、何か訳アリってとこか?俺は不破諌。お前の名前は?」
「・・・ジロー、“僕”の名前はジロー」
「ジローか、今時のこどもにしちゃあ古風だが良い名前じゃねぇか。
ま、何かあったら俺の所に来いよジロー。必ず力になってやる」
「あ、ありがとう・・・」
しばらくギターを演奏していたジローだったが時折、顔を上げて街の様子を見る。そこには人々の暮らしを補助するヒューマギアの姿があった。こども達を連れて公園を散歩する保育士型ヒューマギア、荷物を配達する配送員型ヒューマギア、景観の良いカフェで接客を行うウェイター型ヒューマギア、その他にも様々な職種のヒューマギアが人々の暮らしの中に溶け込んでいる様子が当たり前のように広がっている。
「不破さん、あのロボット達は人間に奉仕する為だけのロボットなのかい?」
「ん?ロボット?・・・ああヒューマギアの事か?まぁそうだな・・・人員不足を補ったり、人間には危険だったり不可能な現場での活動だったり・・・そういった所で頼りになる存在ではある、かな・・・」
かつてはヒューマギアに対して激しい敵意を抱いていた不破。しかしヒューマギア暴走を端に発するアークを巡る一連の戦いの中でその考え方にも徐々に変化ぎ生じていった。かつてと比べるとヒューマギアに対する考え方も大分軟化したと言えよう。
「・・・やっぱりロボットは人間にいいように使われるだけの存在なのか・・・」
「何?」
ジローは悲しげな目でヒューマギアを見つめる。
「勘違いするなよジロー?全てのヒューマギアがそんな存在じゃない。中にはシンギュラリティに達して自我を・・・心を持ったヒューマギアだっている」
「心を・・・?」
心という言葉に反応してジローが不破を見る。
「ああ、自我を持ったヒューマギアの中には夢を見つけた奴だっている。機械にだって心は宿る、思いはテクノロジーを超える、らしいぜ?」
不破はかつての自分の経験を振り返りつつ、ロボットにも心が宿る事をジローに伝えた。しかしそれを聞いていたジローの表情はどんどんと曇っていく。そして・・・
「・・・それは幸せなのか?」
「何?」
「機械は“心”を持って本当に幸せになれると思いますか?」
そう不破に問いかけるジローの目は先程はのギターを弾いていた時と穏やかなものとは明らかに違っていた。そしてその目と同じ目を不破は知っていた。
(この目は・・・アークに変身した時の飛電或人の・・・!)
「不破!」
突然聞こえた自分を呼ぶ声で我に帰った不破。声の聞こえた方を振り返ると刃唯阿が走ってくる。
「刃⁉︎なんでお前が・・・」
「それはこっちの台詞だ、なんでお前がここにいる」
「ぐうぅっ⁉︎」
二人の問答は突如聞こえたジローの苦しむ声に遮られた。二人が振り向くとジローは胸の辺りを押さえながら苦しんでいる。
「どうしたんだジロー⁉︎」
「ジロー?お前、あのヒューマギアを知ってるのか⁉︎」
「ジローがヒューマギアだと⁉︎」
「うわあぁぁぁっ!」
苦しんでいたジローが突然叫び声をあげた後ガクリと力無く顔を俯かせその場から動かなくなってしまう。
「どうしたんだ・・・ジローのヤツ・・・」
「気をつけろ不破!様子が変だ!」
ゆっくりと顔を上げるジロー。しかしその顔は不破の知っているジローとは違い、内部メカが透けて見えていた。
「・・・行かなければ」
そう言ってジローはゆっくりと不破達に背を向ける。
「おいジロー!行くって・・・何処に行く気だ!」
ジローは不破の方に顔を向けて答える。
「“俺”の使命・・・飛電或人を殺す為に!」