魔性のJC潮はヤバすぎる   作:tete

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第1話

曙は困っていた

今朝から潮に元気がない、朝食も採らず話しかけても暗い顔をしている

何かあったか聞いても生返事で食欲が無いと、心配かけてごめんとさらに顔を暗くして謝ってくる始末だ

提督にも話を振ってみたが、ただの体調不良だろうと気楽に言うから腹が立った

「お前みたいに外でヘンなものでも食べたのかな」と失礼な事を言うので、散々罵倒して執務室を飛び出してきてやった

ふと、窓の外を見ると鎮守府側のベンチに一人座る潮が目に入る、気づけば足が向いていた

 

潮は気分が悪かった

提督からのスキンシップは既に1ヶ月以上続いている

未だに頭を撫でたり緩く抱いたりといったものが中心だが、ほんの少しずつ際どいものになっていく

膝を触る手はある日を堺に内腿に、かと思えば翌日は怯えたように肩を撫でるだけ

それでいて初めて尻を触られたのは曙の目の前で、つい昨晩の事だ

まるで深まる春の陽気に重ねるように、暖かさと寒さの鬩ぎ合いのように

ほんの少しずつ、提督の手は深い所へ伸びていった

 

提督のあの目が怖い、あの手が怖い

しかし、あの目を見捨てることができず、あの手を振り解くことができない

自分の感情、そして心と体に理解が追いつかず、結局一睡もできず今日まで引き摺っている

潮はどうすればいいのか分からなかった

このままではいけないことは分かる、まだ辛うじて引き返せる事も

だが、どうしても踏み出すことができずにいる気弱な自分が恨めしかった

 

 

沈む潮に勝ち気な声が掛かる

ベンチで花見なら自分も混ぜろだのと言う曙の言葉は、その裏に自分への気遣いが見え隠れしていた

彼女は自分を偽るのが下手だ、本人は隠しているつもりでも親しい者には微笑ましい強がりだと分かっていた

しかし、そうして強がることができる曙のことが、気弱な潮にとっては太陽のように眩しかった

 

春の陽気と、うららかな日差しと

潮は友との語らいで心が少し軽くなった気がした

今朝は心配する彼女に生返事で返してしまったというのに、彼女はそんな自分を気にかけてくれている

自分は今まで一人きりであるなどと妙な錯覚をしていたことが急に恥ずかしくなってしまった

彼女なら、踏み出すことができない自分を引っ張ってくれるだろう

 

「あのね、曙ちゃん……」

 

彼女に相談しよう、きっと気弱な自分ひとりで悩むより良い結果が待っているはずだ

意を、決する

 

「最近、提督の手がね…………あれ?」

 

先ほどまでの勝ち気な声が聞こえてこない

隣を見ると、うららかな陽気に誘われたのか、曙は微かな寝息を立てている

春の揺り返す暖かさと寒さ、今日は少しだけ暖かかった

 

潮は困ったような泣き出しそうな、複雑な表情を浮かべる

しかし、舞い降りた桜の花弁が微睡む曙の頬に落ちるのを見て、肩の力が抜けてしまった

まあ仕方がない、今日は少しだけ暖かいのだから

 

そうして初めて気付く

いつの間にか自分の足元に、背の高い影が伸びていた事に

 

 

「あ……」

 

心臓が早鐘を打つ

白い軍服と草臥れた帽子、逸らせぬ瞳と大きな手

いつからそこに居たのか、なぜ自分は気付かなかったのか

何より、自分の決定的な呟きは聞こえてしまったのか

 

―――恐怖に、泡立つ

 

そして遅れて気付く、提督の瞳の焦点が合っているのが自分ではないことに

隣で眠る曙に、あの陰気で昏い目が向けられていることに

 

提督の手が曙の頬に伸びる

さも彼女の顔に落ちた桜の花を退けるだけといった調子で

その実、その指先の動きには全く別の情動が隠れていることを、潮は身を持って知っていた

 

瞬間、潮の手は伸びていた

提督の手を遮り、自分のほうへ目を向けさせる

暗い目を通して考えが漏れ聞こえる、触れた手を通して感情が伝わる

 

 "ああ、こちらでもいいや"

 

自分の感情の整理はつかないくせに、なぜかこの男の心理は分かるのだろう

潮はそんなことを心の片隅で考えながら、竦んだ体は動いてはくれなかった

風が頬を撫ぜる、今日は少しだけ暖かかった

 

 

 

曙が気が付くと隣に居たはずの潮の姿は無かった

日の傾きから見る限り、小一時間ほど寝こけていたようだ

自分のだらしなさを恥じるとともに、起こしてくれずに去った潮に小さな不満を覚える

ここに居ても仕方がないと気を取り直し、肩などに落ちた花弁を払い席を立つ

 

曙が潮の姿を見つけたのは提督の執務室の前だった

放って置かれた恨み事をぶつけると、潮は申し訳無さそうにしつつも少し楽しそうに笑いながら謝ってきた

曰く、通りがかった提督に仕事を任され、あまりにも心地よさそうに寝ていた曙を起こせずにそのまま退席したという

なんだか釈然としないが、クスクスと笑う潮を見て、当初の目的は彼女の元気の無さについてだったことを思い出す

後日、詫びに潮の焼く菓子ひとつを所望するだなどと大上段から申し付けつつも、曙は既にすっかり許していた

 

曙は自分を偽るのが下手だ、だから他人が隠し事をしているのにも気づけない

部屋を出たばかりの潮が動揺していることも、その瞳に僅かな昏さが落ちていることも

クスクスと笑っているはずなのに、手で隠して見えない潮の口元が、

堪えるように結ばれたり、自嘲に歪んだりと定まらないことにも気が付けない

 

今日は、ほんの少しだけ、暖かかった

 

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