「はぁ? 行方不明?」
雷堂我鳴がそのニュースを見たのは、自分用に割り当てられたテレビ局の控え室だった。
『人気ヴィジュアル系バンド、『ヘルジャパン』のギタリスト、ヴァイオレットこと成宮金治郎、失踪』
スマホのニュースアプリに表示されたその見出しに、我鳴は深々とため息をつく。
また。そう、またである。と言うのも、最近バンド業界でどでかい騒ぎが起きたばかりなのだ。
国民的大人気バンドのリーダーが死亡。その後、メンバーの一人が後を追うように自殺し、事実上の解散。そして、その後を継ぐと思われていた新進気鋭のバンドにして、当時我鳴もベースとして所属していたバンド、『冥界への鍵』の電撃解散。
立て続けに起きた悲劇に、日本中が騒然となった。当然、音楽業界は突然人気バンドが二組も解散して大打撃である。
まあ、そんな中、期待の新星として新たなバンドも生まれ、我鳴もソロ活動を発表してなんとか建て直しが効いてきたという所にこれだ。神様はアタシらに何か恨みでもあんのか、と嘆きたいところである。
「……これ、絶対ただの失踪じゃねえよな。きっとあいつも、《何か》に巻き込まれたんだ」
神話的遭遇。ヴァイオレットの失踪はこれによるものだろうと我鳴は直感した。根拠はないが、絶対にそうだろうという妙な確信がある。……だからと言ってどうなると言うわけでもないが。
自らがやっと見つけた大切な居場所であった『冥界への鍵』を奪った神話的遭遇を、我鳴は快く思っていない。いや、あんなものを快く思う人間なんていないだろうが、とにかく我鳴もそのうちの一人だ。
「当然だけど、あーいうことに巻き込まれてんのはアタシらだけじゃねえんだな……それにきっと、一回で終わるとも限らない」
自らの行く先に待ち受けるは、残酷な死か、失踪か。我鳴はたまたま運良く生還できただけで、次や、その次があれば生きて帰れるとは限らない。それは、我鳴が見てきた数少ない例ではっきりとわかっている。
「まるで死地におもむく兵士のごとき心持ち……ってか。不謹慎だが、いいインスピレーションを貰えたわ」
仕事仲間の失踪をインスピレーションに変えるアタシつめてー! なんて思いながら一人で笑う。……ひとしきり笑うと、我鳴はおもむろに黙祷をした。もちろん、ヴァイオレットに向けて。
善良を体現したような男だった。小心者で、悪いことができなくて、いつも謝ってばかりでオーラなんて微塵も感じない。ヘルジャパンの控え室に挨拶に行き、逆に自分達に頭を下げ始める彼を見るたびに、ヴィジュアル系バンドなんて欠片も向いてないだろ、こいつ。と思ったものだ。
でも、ひとたびメイクをしてステージに立てば、誰よりも輝いていた。雷の閃くような彼のピック捌きに、日本中が虜だった。尊敬すべき、仲間だったのだ。
「なにも、あんたが行方不明になることねーじゃんか。なあ……」
きっとヘルジャパンも解散するのだろう。ヴァイオレットはバンドの作曲担当であったから、もうヘルジャパンとしての彼らの新しい楽曲がこの世に生まれることはない。そのことに、胸に穴がぽっかりと開いたような喪失感を覚えて……我鳴はそろそろ出番だ、と控え室を後にする。
その程度の感傷で、雷堂我鳴/Mr.noiseとして活動する彼女のベース捌きが鈍ることはない。ただ、きっと、わかる人にはわかるのだ。
現在、日本のトップミュージシャンの中で、最も演奏に自らの感情が乗る彼女の重低音が、その日は一層悲しげに響いていたことが。
雷堂我鳴 (らいどうがなり) 31歳 女性
シナリオ「誰がロックを殺すのか」を通過した探索者。粗雑な面のある女性だが、ベースの技巧はすさまじく、自らの演奏を魂の叫びと呼んでいる。ヤベー切れのよさのスラップベースが武器。かなりロマンチストな面があり、冥界への鍵に関しては『やっと手に入れたアタシの居場所』とか、『このバンドのみんなに出会えたのは運命』とか、『アタシはこのバンドに骨を埋めるんだ』とか思ってた。バンドが解散した直後は大層お荒れになっていた。
成宮金治郎 (なりみやきんじろう) 25歳 男性
ヴィジュアルバンド、『ヘルジャパン』のギター担当で、善良な男。どれくらい善良かと言うと、自販機のおつりが出てくるところに残ってた小銭を交番に届けるくらい。
D100クラスの神話生物と遭遇し、SAN値直葬されてSANロスト。その後神話生物に連れ去られてしまった。