サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
エッフェル塔での錬金術騒動から間もない日のことである。
テアトル・シャノワールの廊下を歩いていたグリシーヌ=ブルーメールは、赤い修道服を見かけて思わず声をかけた。
「ああ、エリカ。ちょうどいいところに……」
だが、その言葉が尻すぼみになって小さくなる。
「はい! なんでしょうか、グリシーヌさん」
明るく爛漫な笑みを浮かべて振り返ったのは、長い髪をした修道女のエリカ=フォンティーヌである。
とある用事を支配人であるイザベル=ライラック伯爵夫人──皆は彼女をグラン・マと呼ぶ──から言いつけられたグリシーヌ。
しかし、彼女も用事があったため、それを誰かに変わってもらおうと思って人を捜していたのである。
そんなおりに見かけたエリカに思わず声をかけたのだが──よく考えれば、不安が残る人選だと思ったのだ。
「いや……なんでもない。大丈夫だ」
「え~、そんなことありませんよね? グリシーヌさん、わたしになにか頼もうとしていたんだじゃないですか?」
「それは……まぁ、そうなのだが……うん、エリカは忙しそうだからな。やはり別の人に頼もう」
「そんなことありませんよ。わたし、今ヒマなんです」
ズイッと迫ってくるエリカの迫力に圧されるグリシーヌ。
どうしたものかと彼女が困り果てていると……そこへ頭の左右で髪をまとめた幼い女の子──コクリコが通りがかった。
「あれ? エリカとグリシーヌ……そんなところでなにしてるの?」
「いいところに来てくれた、コクリコ。今、時間はあるな?」
「うん、一応大丈夫だけど……」
エリカから逃げるようにやってきたグリシーヌに詰め寄られ、引きながらも頷くコクリコ。
「それなら今から駅に行って人を迎えに行って欲しいのだ。グラン・マから頼まれたのだが、あいにく私と花火は外せない急用ができてしまってな……」
「へぇ……そういう事情ならおやすいご用だよ。任せて」
笑みを浮かべて頷いてくれたコクリコに、グリシーヌはホッとする。
だが、それを見ていたエリカは当然に面白くない。
「グリシーヌさん、今のってわたしに頼もうとしていたことじゃないんですか?」
「そ、それは……」
目をそらし、誤魔化そうとするグリシーヌだが、エリカは詰め寄って追求する。
「わたしだって成長しているんですから。それくらい任せてくださいよ!」
「いや、今日来るのは異国から来る客人……とは少し違うな。このシャノワールの、そして巴里華撃団の新しく入るメンバーなのだ」
「え? 新しい人が増えるんですか!?」
「──って、この前、グラン・マが言ってたよ。エリカ…………」
驚いているエリカをジト目で見るコクリコ。
「その通り。グラン・マが以前話していた、隊長の代わりではるばる日本からやってきた人だ。もちろん巴里にもこの国にも慣れていない……」
「なるほどね。だからエリカに任せるのが不安だったんだね」
コクリコが苦笑混じりに言うと、グリシーヌも気まずそうに「うむ」と頷く。
「ちょっと、それってどういうことですか!? わたしが道案内できないみたいじゃないですか~」
「……言葉通りだろうよ。アンタに任せたら諸共迷子になるって思ったんだろ」
「ヒドいですよ、ロベリアさん」
大きな声を聞きつけたのか、白い髪に眼鏡をかけた、鋭い目の女性が廊下の向こうから歩いて近寄ってきた。
ロベリア=カルリーニ。百年単位の懲役刑をくらうほどの悪党だが、その持っている霊力をかわれて、巴里華撃団に所属することとなった。
活躍するほどに恩赦で刑期が短くなる彼女は、一風変わった、しかし頼りになる巴里華撃団の仲間だった。
「アンタも言うべきことはハッキリ言った方が本人の為じゃないのか? グリシーヌ」
ロベリアがエリカを無視してジロッとグリシーヌを見ると、「ぐ……」と言葉に詰まる。
すると、隣にいたエリカが、満面の笑みを浮かべていいことを思いついた、と頷く。
「わかりました、グリシーヌさん! わたし、コクリコとロベリアさんを連れて、迎えにいってきますね!」
「なッ!?」
さすがに焦るグリシーヌ。
だが、よく考えればエリカ一人に任せるのならともかく、他の人がいるのなら別に厭うようなことではない。
「なんでアタシが行くことになっているのさ! 冗談じゃあない!!」
「そんなこと言わないでくださいよ、ロベリアさん。一緒に行きましょうよ~」
「ああ、もう、鬱陶しい! まとわりつくな!!」
ニコニコとロベリアの周囲を回るエリカを、本気で邪険にしようとするロベリア。
その様子には一抹の不安を感じざるを得ないが──傍らで苦笑しながらそれを見ているコクリコと目が合うと、彼女はそのまま一つ頷いた。
ため息混じりに「頼む」と口を動かしたグリシーヌ。
ロベリアに任せたらサボることは間違いなく、エリカに任せればどうなることかわからない。
この場で最も幼い彼女こそ、最も信頼できる相手とは、なんとも皮肉なものだった。
さて、そうして送り出され、駅へと到着したエリカ、コクリコ、ロベリアの3人は、待ち合わせの場所へ向かって歩いていた。
エリカやコクリコと違って、ロベリアだけは心の底から面倒くさそうにして、機嫌の悪さを隠そうともしない。
しかしそんな彼女にエリカはまったく臆することなく、話を振りさえするのだった。
「それにしても、新しい人ってどんな人なんでしょうね。大神さんみたいな人でしょうか」
「……そんなわけないだろ」
ため息混じりにそれを否定するロベリア。
「アイツは、留学という名目でこっちに来ていたんだ。優秀で当たり前なんだよ。それに、あれだけの実力者を
そう言いながら、ロベリアは肩をすくめる。
「それに、来るのって女の人だよ? グラン・マもそう言ってたし……本当に覚えてなかったんだね、エリカ」
コクリコが苦笑混じりに言うと、エリカは心底意外そうな顔になる。
「あら? あたしは大神さんの代わりだって言うからてっきり男の人かと思ってました」
コクリコの目の前で「な~んだ、そうだったんですか~」と言うエリカを、ロベリアは呆れた目で見ている。
「……迎えにいく相手の性別さえ調べてないのかよ…………」
「まぁ、そう思うよね……」
コクリコが「あはは……」と苦笑した。
すると突然──
「泥棒ーッ!!」
──という大きな声が周囲に響きわたった。
咄嗟に振り返るエリカとコクリコ。
「……で? なんでお前らはアタシのことを見てるんだ?」
不機嫌そうに言うロベリアに、コクリコが苦笑し、エリカは悪びれもなく笑みを浮かべている。
「いや、つい……」
「やっぱり泥棒と言えばロベリアさんじゃないですか。ダメですよ、もう。人のものを盗んだりしたら……」
「あのなぁ……今、まさにここにいただろうが。どうやったら向こうで物を盗れるんだよ」
苦笑するコクリコと、ロベリアに詰め寄るエリカ。それに対しロベリアは面倒くさそうに頭を掻いて言い放った。
彼女の言い分にエリカは「そういえばそうですね」ととぼけた答えを返していた。
そんな二人を後目にコクリコはその身軽さをフルに活用して騒動の中心へと向かっていた。
駅構内は人が多く、容易に逃げることはできないが、それ以上に追跡は困難なのだ。自分の身軽さが人助けになるんじゃないか、と判断してのことだった。
【よもやま話】
今回は巴里華撃団・花組の話と言うことで、オリジナルキャラが出ていない話が早くもやってきました。
正直、以前書いたことがあるのもありますが、オリジナルキャラは巴里華撃団の方が書きやすくて助かります。
人数少ないというのもありますけどね。