サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
「よく来てくれたね。なずな……」
そう言って、シャノワールの主はなずなをハグして歓迎した。
恰幅の良い中年の女性だが、しかしその手腕は巴里に華撃団を設立させるほどの豪腕だという。
そんな女傑に抱きしめられ、なずなは苦笑気味の笑顔を浮かべつつ、ハグを解かれてから握手をした。
「なにしろあんたは、ムッシュ大神の代わりとしてきたんだからね。期待しているよ」
イザベル=ライラック。
伯爵夫人であり、華撃団の団員からはグラン・マの愛称で呼ばれる巴里華撃団の司令である。
「あ、ありがとうございます……」
そんな彼女からの期待を込めた声に、なずなは恐縮してしまう。
彼女の言うムッシュ大神と言えば、言わずと知れた帝国華撃団の対降魔迎撃部隊である花組の隊長であり、巴里華撃団の花組隊長でもあった大神一郎のことである。
帝都での黒之巣会との戦いで花組隊長となった彼はその戦いを勝利に導き、その後の降魔との戦いでも中核となって戦い、多くの上級降魔を倒し、首謀者の葵 叉丹を倒して大規模霊障に打ち勝った。
その一年後の黒鬼会との戦いでも、彼は花組を率いて戦い、敵首魁である京極 慶吾を討ち取って帝都に平和をもたらしている。
さらにはつい先日に巴里で起こったオーク巨樹騒動でも、数多の怪人を倒し、その根元であるパリシィの魂を鎮めて、ここでも大規模霊障を抑えたのだ。
そんな生きる伝説にも等しいような武勲を持つ大神一郎の
(とはいっても、あたしってば花組になれない売れ残り、なのよね……)
そう心の中でため息をついてしまう。
(……むしろ食べ頃が過ぎそうで隣の家におすそ分けした作物のような扱いな気がするんだけど)
状況的にはまさにそれじゃないか、とさえ思う。
花組の空きがないから、空いている他の華撃団に送り出されたのだから。
「──そんなに重圧をかけ過ぎるのも、かえってよくないのではないか、グラン・マ」
色々考えすぎてなずなの顔が若干ひきつっていたのに気が付いたのか、緩くウェーブのかかった長い金髪の女性がグラン・マを諫めるように言った。
「おや、グリシーヌ。アンタにしては優しいじゃないか。ムッシュの時とはずいぶんと違うんだねぇ」
「なッ!?」
対してからかうようなグラン・マの言葉に、彼女──グリシーヌ=ブルーメールは思わずムキになって立ち上がる。
「そんなことはないぞ、グラン・マ! 私は隊長の時も、公平に──」
「あれ? 大神さんに決闘申し込んで、屋敷の船の上で戦ってましたよね? そうそう、それに負けた大神さんがメイド服を着て……」
疑問を口にしたエリカ=フォンティーヌは、そのまま大神の愉快な姿を思い出してクスクスと笑い出す。
一方、言われたグリシーヌは当時を思い出したらしく、気まずそうにしながらも、それを指摘してくれたお節介なエリカに対し、怒りを抑えつつもこめかみをヒクつかせていた。
それを苦笑混じりに眺めていたグラン・マが、なずなに話しかける。
「ま、アタシもバカじゃないよ。なずな、アンタがムッシュほどに戦えるなんて思っちゃいないさ」
グラン・マにしてみれば、なずなが育成機関を出たてのヒヨッコなのは百も承知である。
「でも、アンタを“頼みます”とわざわざ手紙をよこしてくれた帝国華撃団の隊長がいてね。彼がアンタを“絶対に役に立つ人だから”と保証してくれているんだよ」
「帝国華撃団の隊長って……イチローのこと? なずなってイチローの知り合いだったんだね」
その場にいたコクリコが楽しそうに笑みを浮かべるが、グラン・マは首を横に振った。
「いいや、ムッシュとは別の隊長だよ」
それになずなはそうだろうと思っていた。
無論、養成機関出身であり、花組の有力候補だったなずなは大神と面識くらいはある。
しかし本格的に花組の補欠となったのは大神が巴里に旅立った後のこと。入れ違いのようであった自分を、その実力を保証するほど見る機会はなかったはず。
そうなると別の隊長になるが──なずなは、それには心当たりがあった。
「別の? いったい誰だい、ソイツは……」
気難しげに眉をひそめるロベリア。その横では、花火が「いったい誰なんでしょうか……」と首を傾げている。
「この巴里の大恩人の一人だよ。帝国華撃団の霊能部隊、夢組隊長の……」
グラン・マが思い出すように目を閉じる。
その名前が出たことに、なずなは逆に驚いていた。
「ライラック伯爵夫人は、あの人のことご存じなんですか!?」
「……グラン・マでいいよ。アンタも今日から巴里華撃団の仲間なんだから」
そう言って彼女はなずなが言った呼称をやんわりと訂正する。
そうしてフッと笑みを浮かべた。
「ああ、その通りさ。ムッシュ大神が巴里を守った恩人なら、彼はその下地を整えてくれた恩人だよ」
巴里華撃団が設立する前のこと。欧州華撃団構想の中心地たる本部になる、欧州最初の華撃団をどこに設立するかで争っていた時期があった。
一つはもちろん、この巴里。
もう一つは、英国の
他にも
それを最終決定する会議に於いて、はるばる帝都からやってきた彼は、霊能部隊・夢組が巴里に大規模霊障が起こることを予知していると指摘し、その対策をするべきだと説いたのである。
すでに実績のある華撃団の、予知能力を駆使している部隊を率いる隊長の言葉には重みがあった。
それがきっかけとなり、欧州で最初の華撃団は巴里となり──その予知通りにオーク巨樹という大規模霊障が発生したものの、対処することができたのは、彼の発言があったからこそである。
「ま、それを知るのは少ないけどねぇ。ここにいる中だったら、アタシとムッシュ迫水くらいじゃないのかい?」
グラン・マがそう言って、なずなの横にいる男性を見る。
髭を生やした東洋人である彼は日本の駐仏大使の迫水。“鉄壁の迫水”と賞される彼は、巴里華撃団とも近しい。
そしてこの場には、帝都からやってきた新隊員の後見役ともいうべき立ち位置でいたのだった。
「ああ。思い出すね……オーク巨樹が残した傷跡はけっして軽くはないが、それでもこの状況に収めることができたのは、キミ達巴里華撃団の功績だ。しかしその設立に尽力してくれた彼の功績も忘れないで欲しいね」
なずなは隣にいた迫水が、帝都では比較的身近にいたあの人と知り合いなことに驚き、世間は狭いものね、と思っていた。
(普段は食堂で、姉さんの尻に敷かれてる主任さんなんだけどね……)
などと考えているなずなではあったが、彼女もまた彼を高評価するうちの一人である。
なにしろ京極慶吾勢力と帝国華撃団の最終決戦において、絶体絶命の危機を彼に劇的に助けられて以来、姉の気持ちに配慮しつつも密かに恋い焦がれていたのだから。
無論、そんなことを知る由もないグラン・マは、なずなの肩をポンと優しくたたく。
「その彼が保証してくれているんだから、アタシはアンタに期待するよ、なずな」
「はい! 全力でそれに応えたいと思います!」
なずなのいい返事──やっと浮かべた勝ち気な笑みに、グラン・マは目を細めて笑みを浮かべた。
そして巴里華撃団の一員として迎えられた白繍なずなは、グラン・マから各隊員の紹介を受けた。
長い金髪で、凛々しい顔立ちで責任感にあふれるグリシーヌ=ブルーメール。
赤い修道服に身を包んだ、マイペースを貫き通す長い茶髪の明るい修道女、エリカ=フォンティーヌ。
巴里華撃団・花組一の身体能力と身軽さを誇る、明るく天真爛漫な、笑顔を絶やさぬムードメーカーであるコクリコ──彼女の左右のおさげ髪は位置こそ違いがあるものの、なずなに自分の姉を思い浮かべさせた。
そして白い髪をした眼鏡をかけた鋭い目の女性、ロベリア=カルリーニ。厳しい視線とぶっきらぼうな態度、なによりもその纏う空気の恐ろしさに、なずなはさすがに萎縮してしまった。
それと対するように、朗らかな笑みを浮かべて丁寧に頭を下げてきたのは、肩付近で切りそろえられた黒髪に深い碧眼という日本人、北大路 花火である。日本には行ったことがないという彼女だが、同じ日本人という彼女の存在が、今のなずなにはとてもありがたかった。
そして、グラン・マの側に控えている、短い髪の厳しめの顔をしたメル=レゾンと、長く緩く巻かれた髪に人懐っこそうな笑みを浮かべたシー=カプリスを紹介される。
さらには、グラン・マの部屋から離れ、シャノワール内を案内されながら、各所で働く仲間達や、ジャン=レオ率いるメカニックチームも紹介され──なずなの巴里での生活は始まるのであった。
【よもやま話】
シャノワールでグラン・マに挨拶も済ませ、ようやく巴里華撃団の一員になれました。
さぁ、ようやく話が始まる──って、もう─11─までなってた!?