サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~   作:ヤットキ 夕一

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──12──

「……キミが、彼女たちの新しいお仲間かい?」

 

 白繍なずなは、なんとも形容しがたい不思議な空間にいた。

 手足や体の感覚が曖昧ななような、ひどく不安定な空間に感じられた。

 そして目の前には、自分に話しかけている人影があった。

 

「──え?」

 

 赤と緑色半々に染められた道化師(ピエロ)が被るような帽子に、服装も同じ色をした道化師のそれ。そして顔の横半分にもまた道化師を思わせる化粧(メイク)が施されている姿だった。

 帽子からは金髪が出ているが、男性にしては長めだが女性のような長髪でもない。体つきも細身で、男なのか女なのか、どうにも区別がつかない人物であった。

 

「あなたは……?」

「ボクの名前はサリュ……パリシィの亡霊、って言った方がキミにはわかりやすいかな?」

「なッ──」

 

 ぼんやりとしていた頭が、驚きでハッキリする。

 その名前を忘れるはずがない。なぜならこの街に来る前から、資料でその名を目にしていたからだ。

 

「パリシィの亡霊、サリュ。まさか……冗談で名乗っていいような名前じゃないわよ!?」

「ああ、もちろん冗談なんかじゃないさ」

 

 心外だ、と言わんばかりに不満そうに腕を組む道化師風の人物。

 

「キミが知っているとおり、オーク巨樹でこの巴里に混乱を招いた張本人だよ」

「──ッ!! そんな人が、あたしにいったい何の用なの!?」

 

 思わず身構えるなずな。

 読んだ資料によれば、パリシィの亡霊は鎮められ──それによってオーク巨樹も消え去り、パリシィ事件は解決した、とされていたはずだ。

 その元凶であるサリュが、今なぜ、なずなの目の前に現れたのか。

 

「落ち着きなよ。ここは君の夢の中さ。この巴里に迫る危機を、わざわざ教えに来たんだから──」

「巴里に迫る、危機?」

「そうさ。ボクはパリシィだよ。この地を大事に思い、愛してやまない気持ちに変わりも偽りもない。だからこそ、危機を──ッ!?」

 

 突然、身を(かが)めるサリュ。

 そして苦しそうに表情を歪めた。

 

「なに!? いったいどうしたの?」

「くッ! さすがに相性が悪いなんてもんじゃないね。あの()たちに接触したら一瞬でバレるから、キミのところに来たんだけど……やはり一筋縄じゃいかないね」

 

 苦しげなサリュが手を付いて耐えている、その地面に漆黒の影が生まれ、蝕むようにサリュの体を染めていく。

 その纏った服が、徐々に徐々に色が変わっていく。緑色が暗くなり、逆に赤は色が薄くなっていき、そしてそのどちらもが色彩を失っていく。

 

「ちょっと……大丈夫なの!?」

「これが大丈夫に見えると言うなら、華撃団失格なんじゃないのかい?」

「な、なんですってぇ!!」

 

 冗談めかしたサリュの軽口に、思わず激高するなずな。

 

「……ともかく、この巴里に、危機が迫っている。そのことを仲間に、彼女たちに、伝えるんだ」

「彼女たちって……」

「ああ、もちろんそうさ。巴里華撃だ──グゥッ!!」

 

 苦しげに自分の肩を抱くサリュ。

 それ以上、身動きがとれなくなり、苦しげな表情で必死に耐えている様子だった。

 

(……やれやれ、やっと見つけたと思ったが、まったく油断も隙もないな)

 

 虚空から、そんな声が響く。

 途端──なずなの背中に圧倒的な悪寒が走った。

 まるで故郷である日本の雪国の、真冬の水をぶっかけられたような、そんな突然の悪寒に、全身が震える。

 姿は見えないが、確かに“いる”。

 その存在は、サリュの下へと降り立ち──その存在を蝕んでいく。

 

「ぐゥ……」

 

 苦しげにゆがむサリュの顔。

 そしてその手にはいつの間にか、仮面(ペルソナ)()り──禍々しささえ感じられる模様のそれが、顔へと迫る。

 

「ク、ソ……」

 

 自分の手で付けようとしているのに、それを必死で抵抗している様子のサリュ。

 だが、それは無謀な抵抗であった。

 (あらが)うことができないサリュの顔に、その仮面が近づいていく。

 それが装着される直前に、理知的な金色だった瞳は狂気を帯びた赤色へと変貌し──ついに仮面を顔に着けた。

 同時に金の髪は一気に銀へ。そして緑と赤の服装が一気に、白黒(モノクロ)へと変わり、そのデザインも禍々しいものへと変化した。

 

「なッ!? サリュ!?」

 

 思わず声をあげるなずな。

 仮面を付け、白黒の道化師となったサリュはなずなに向かって手を広げ──

 

「──ッ!!」

 

 一瞬だけ直前の──まだ変貌する前のサリュのうっすらとした姿がその背後に現れると、衝撃波を放ってなずなを遠くへと引き離す。

 

(頼んだよ、巴里華撃団!!)

(ふむ、ここで露見されてはこちらも困るのでね、記憶の封印を──)

 

 その声が脳裏に響く中、吹っ飛ばされたなずなの意識は徐々に薄れ……

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──ッ!!」

 

 なずなは自分のベッドで、天井に向かって大きく手を伸ばした状態で目を覚ました。

 呼吸が荒く乱れ、脈もかなり速くなっていた。

 呼吸を落ち着け、なずなはゆっくりと上半身を起こす。

 

「えっと、いったい……なんだったかしら?」

 

 戸惑いながら呟いた。

 夢を見たのは間違いない。

 だが、綺麗サッパリ覚えていなかった。

 しかしその事実が──妙に心を不安にさせる。

 

「夢をよく覚えてないなんて、よくあることだけど……」

 

 こんな焦燥感のようなものを感じるのは初めてのことだった。

 そして夢というのは、霊感が高いものにとっては重要なものでもある。予知夢と呼ばれるものである可能性もあるからだ。

 

「ティーラさんにも言われたけど……でも、どうやって思い出すんだっけ?」

 

 帝国華撃団夢組で最も強い予知能力を持つ人からのアドバイスをまずは思い出すというところから始め──それでも成果は出ず、どうしても思い出すことはできなかった。

 

 

 ──そして、それに夢中になっていたなずなはうっかり、シャノワールへ行くのに遅刻しかけるのであった。

 

 


 

 ──さて、なずなが巴里に来て数日が経った。

 

 その間、なずなはグラン・マから得意な歌や舞等を聞かれ、それを披露したりしていた。

 というのも、巴里華撃団・花組のメンバーはシャノワールの舞台に立ち、歌や踊り、寸劇を組み合わせたショウであるレビューを披露している。

 花組の一員となったなずなもまた、それに加わなければならず、どういったものにするかの青写真を決めるために、なずなは様々な芸を見せることになった。

 その中で好評を得たのは、実家が神社でみっちり仕込まれた神楽舞と、和の弦楽器演奏──特に密かな趣味でもあった三味線である。

 特に三味線の腕前はずば抜けており、若きバイオリニストとして国際コンクールにも顔を出しつつある彼女の親友からも「すっごく上手い」と評価されるほどであった。

 演奏を聴いたグラン・マも「初めて聞く楽器だからなんとも言えないけど、なにかグッとくるものがあった」と好評だった。

 

 そうしてなずなは、グラン・マの監修を受け、“ルージュ=ゴージュ”という名前でデビューすることになった。

 橙色という目立つ和服の着物を着て、欧州ではまったく馴染みの薄くとても珍しい三味線の演奏を披露するという彼女のレビューは好評を得るのに成功した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「はぁ……」

 

 レビューが終わり、ドッと感じる疲労感になずなは思わずため息をつく。

 そんな彼女に声をかけてきたのは、コクリコだった。

「おつかれ、なずな。すっごく良かったよ。お客さんも喜んでいたし」

「アレで良かったの? あたしにとっては趣味の延長みたいなものだから、なんだか自信がなくて……」

 

 赤みがかった黄色い着物を纏い、いつもと異なり髪を一纏めにして結い上げているなずなの姿は、普段と違う装いだった。

 そんな彼女は半信半疑でコクリコを見る。

 

「大丈夫。大丈夫。自信持ちなって。そもそもグラン・マが認めているんだから間違いないよ」

「でも……そのグラン・マをさっきから探してるけど、会えないのよ。ひょっとしたら出来の悪さに怒ってるんじゃないかって……」

「あ~、なんだかこの後、お客さんがくるって話してたよ。新しい運転手の面接とかなんとか……だから忙しいんじゃないかな」

 

 不安がるなずなに、コクリコは笑顔を浮かべ、再度「大丈夫だよ」と言った。

 それで多少は心が軽くなったなずなだが、それでも不安の種は尽きない。

 

「それに今は珍しくて聞いてくれているけど、飽きられちゃったら……どうしよう」

 

 今の自分には三味線しかない。そう思うなずなには、飽きられてしまうのが一番恐ろしかった。

 

「まったく。心配性だね、なずなは……」

 

 コクリコは仕方ないなぁ、と言わんばかりに苦笑している。

 

「確かに、今は楽器の珍しさが勝っているかも知れないけどさ。でも、それが慣れて受け入れられる頃には、今度はみんながなずなの演奏の良さに気づいてると思うよ?」

「……それって、本当に?」

 

 懐疑的ななずなに、コクリコは笑顔でうなずく。

 

「サーカスだって真新しい芸はみんな驚くけど、それが定番化したら飽きられてウケないわけじゃないからね。技術が高くて確かなら、みんなそれを称えてくれるよ」

 

 彼女はそう言って「自信持ちなよ」と優しく諭す。

 

「もちろん、日頃の研鑽を欠かさないのも、飽きられない重要な要素だから、しっかりと頑張らないとダメだけど」

 

 悪戯っぽく言ったコクリコは、腰に手を当てて人差し指を立ててなずなに忠告する。

 それになずなは──

 

「……うん。頑張る」

 

 そう言って頷き、それにコクリコも笑顔で応えようとし──

 

 

 ──次の瞬間、シャノワールに警報が鳴り響いた。

 

 

「──何ッ!?」

 

 戸惑うなずな。 

 その横では、コクリコがいつもの笑みを消して険しい顔になっていた。

 

「なずな、いくよ!!」

「え? 行くってどこに……」

「緊急出動だよ。行き方は教わってるよね? それで司令室に……」

 

 言うやコクリコは走り出す。

 事態に気が付いたなずなもまた、慌ててそれに追従する。

 なずなとコクリコはシャノワールの中を走った。

 身軽なコクリコはあっという間になずなを置き去りにして走っていく。

 それに焦りながらも、なずなも自分が飛び込むべき場所へと到着していた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そして身を翻らせ、一段下に位置する前半分が開いた金属筒へと降り立った。

 現れた座席へと腰掛け、手の位置にある取っ手を握る。

 直後、腰かけた機械は筒状の通路を高速で降下し──狭い小さな部屋へとたどり着いた。

 到着し、吹き上がった蒸気が換気によって吹き散らされる中──なずなは結い上げていた髪を解き、頭を振った。

 一気に広がった髪を、左右二つに纏められていつもの髪形にする。

 衣装を脱ぐと、壁から差し出すように出ていた黒を基調としたインナーを身に着け、ブーツを履き、上着を羽織り……前のファスナーを閉める。

 準備万端整ったなずなは、当初の金属筒と共に作戦指令室にある床から現れる。

 そのなずなの姿は巴里華撃団・花組の戦闘服──個人色(パーソナルカラー)は“芥子(からし)色”という黄色──であり、彼女はその場にいた司令のグラン・マへと敬礼した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 シャノワールの地下にある巴里華撃団・作戦司令室。

 そこには鮮やかな青色の戦闘服に身を包んだグリシーヌ、赤の戦闘服を纏ったエリカ、ピンクの戦闘服のコクリコ、緑色の戦闘服を着こなすロベリア、黒い戦闘服に身につけた花火が揃い──真新しい黄色の戦闘服姿のなずなが集まった。

 

「グラン・マ、これはどういことだ? 緊急召集などと……パリシィの怪人たちは出ないのではないのか!」

「あ、ひょっとして訓練だったんですか?」

 

 険しい顔のグリシーヌに対し、エリカはどこか脳天気だった。

 その一方で──

 

「パリシィ?」

 

 なずなはその単語が妙に引っかかるのを不思議に感じていた。

 もちろん意味が分からないというわけではなのだが……

 

「残念だけどエリカ、これは訓練じゃないよ。それにグリシーヌが言ったけど、相手がパリシィ怪人かどうかもまだ分かってないんだよ」

 

 グラン・マがチラッとスクリーンを見ると、そこには巴里の中央駅付近で暴れ回る、蒸気吹き出す動く甲冑のような物が映っていた。

 

「これは……ポーンなのか?」

 

 そう言ったロベリアだったが、妙な違和感を感じていた。

 彼女が巴里華撃団に参加してからパリシィ事件が収まるまでの間に何度と無く相手にした敵だったが、それだけに違いを直感的に感じていたのである。

 自律稼働する蒸気吹き出す西洋甲冑、という点ではパリシィ事件での尖兵だった蒸気獣ポーンと同じだが、デザインが微妙に違っているように見える。

 

「なんですかね、アレ……まるでトランプみたいなマークがついてますけど…………」

 

 エリカが興味深そうにその映像見つめて言った感想に、グリシーヌは「なにを暢気な」とため息を付いた。

 

「ともあれ被害が出ているのだろう? 出撃して一刻も早く倒さなければ……」

「ったく……落ち着きなよ、イノシシじゃないんだから」

「なんだとッ!?」

 

 たしなめるロベリアにくってかかるグリシーヌ。

 それを見ながら、グラン・マもうなずいた。

 

「言い方はともかく、言い分はロベリアの言うとおりだよ。現場周辺にはそれとは別に強力な妖力反応も確認されているのさ」

「はい。かなり強い反応ですぅ」

「おそらく、大型蒸気獣クラスの敵が潜んでいると思われます」

 

 グラン・マの言葉をシーとメルが補足し、それでグリシーヌやコクリコ、花火も厳しい顔になった。

 

「それと、なずなにとっては初陣だからね。くれぐれも注意して、慣れない彼女を援護してやっておくれよ」

「はい! お任せください!!」

 

 なぜかエリカが元気よく返事をし、隣のロベリアが眉をひそめる。

 

「オイオイ……お荷物は一人だけで十分だっていうのに…………」

「え? それがなずなさんなんじゃないんですか? 大丈夫ですよ、わたしがばっちりキッチリとフォローしますから!」

「……それがもう、十分に不安要素なんだけどな」

 

 ロベリアの懸念に気づくことなく、「先輩であるわたしに何でも聞いてくださいね」と満面の笑みを浮かべるエリカに、なずなは苦笑を浮かべてたじろぐのであった。

 




【よもやま話】
 ちょっと時間かけ過ぎたかな、と展開をスピードアップ。
 「ルージュ・ゴージュ」=ヨーロッパコマドリから、着物の色を羽根に合わせて黄色にしたのですが、ここから「巴里華撃団に黄色枠いないし、黄色でいいんじゃないか」となってパーソナルカラーが急遽変更されました。
 それまでは薄紫の予定だったのですが……主人公が青系統の予定なので被るというのもありました。
 なずなも姉同様に雷属性なので、黄色もありだな、と。
 と、まぁ、深く考えずに変更したのが、後々困る事態に……

 ──ところで、出撃シーンはなぜか帝国華撃団のと勘違いして、ダストシュート出撃と思い込んでました。巴里は違ったんですよね。
 通り抜けると服が変わっていくダストシュート出撃にあこがれて入れたシーンだったのに……書き直しました。 orz
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