サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛をこめて~ 作:ヤットキ 夕一
ブリーフィングを終えた巴里華撃団花組は、格納庫にて組織が誇る霊子甲冑へと搭乗する。
各機体の周囲ではシャノワール・メカニックチームがめまぐるしく動き回っていた。
そんな中でなずなもまた、自分のものがあると指定されたハンガーへとやってきたのだが──
彼女の目の前には芥子色という黄色をベースに、白のラインが機体正面に入った霊子甲冑が鎮座していた。
特徴的なのは、まるで黄色い縁の白い陣笠を被ったような、円状のものが乗っているその頭部である。
他の5機に比べると、その“笠”以外は至ってシンプルであった。
すると、周囲の者に「ウダウダしているヤツは、セーヌ川に叩き込むぞ!」と檄を飛ばしつつ、チーフであるジャン=レオ自ら、初出撃であるなずなに機体の説明をしにきた。
「お前さんの機体は、まだF2にはしていない。コイツは光武Fの改良型……これでデータを取りながら、ゆくゆくはF2に変える予定だ。楽しみにしてろよ」
彼は説明を一度切ってニヤリと笑みを浮かべる。
そして目立つ特徴である頭上の“笠”を指す。
「頭に乗っているのは、霊子レーダーのレドームだ。一応、頑丈にはなっているが、センサーだからな。そこへのダメージは極力避けるように」
「わかりました」
先程の軽口でも緊張がほぐれる様子のないなずなが答えると、ジャンはなずなの肩を軽くパンと叩いた。
「嬢ちゃん、霊子甲冑で戦うのは初めてじゃないんだろ? 聞いてるぜ、アイゼンクライトで戦ったとことがあるってな」
「あ、はい……」
戸惑いながらも、なずなは素直にうなずく。
「安心しな。F2じゃないとはいえ、アレに負けないくらいの良い機体に仕上げてあるからよ」
そう言ってジャンは親指を立てる。
そんな気のいい様子の彼に、なずなは気を取り直し──
「はいッ! 全力で頑張ってきます!!」
──と元気な声で言い放った。
そして光武Fに乗り込み、腕を突っ込み操縦桿を握る。
そうして起動させ、その霊子機関の回転数を上げて動きを確かめた──までは、よかったのだが…………
「……え?」
なずなは絶句していた。
なぜならハッチを閉めて出撃直前の状態となり、いよいよ武器を取ろうとした──そこで初めて自分用の武器を見たからである。
そんななずなの戸惑いに気が付かず、ジャン班長から通信が入る。
「それがお前さんの武器だ。帝国華撃団からの話だと、棒を使った戦闘が得意だって聞いたからな」
その説明に、なずなはひきつった笑みを浮かべるしかなかった。
「棒って……そういうことじゃないんだけど…………」
もちろんこれは特注で作られた武器である。
そして、そこへ北大路 花火からの通信が入った。
「あら? 完成したんですね、ジャンさん。お役に立てたようでなによりです」
「おう。おかげで助かったぜ」
ジャン班長は親指を立て、それに花火は善意百パーセントの笑顔を浮かべる。
それにますます顔をひきつらせるなずな。
「は、花火……さん? ひょっとしてあなたが…………」
「はい。微力ながら御協力させていただきました」
ジャン=レオ達、シャノワール・メカニックチームがコレを作ったのは花火の協力あってのことだった。
──時間は、新入隊員が来るという話が決まったころまで遡る。
新しく霊子甲冑が地下格納庫に来たのを見て、メカニックの中の一人がジャンに言った。
「班長! F2じゃなくてFが来たんですけど、大丈夫なんですか?」
「ああ、気にすんな。F2を仕上げるにはデータがなさすぎる。それにガワはFでも中身はF2みたいなもんだ。しばらくF仕様でデータ取集だからな。それとグラン・マからも仕様要望が来てるから目を通しておけよ!」
「了解っと……でも、その新人さん。帝都から来るんでしたっけ? どんな武器使うんです?」
「ああ、それは……一応、帝国華撃団からデータは来ているんだが……」
そう言いながら、ジャンは手にした資料を見た。
程なく集まってくるメカニックチームの面々。
その霊力特性やら戦い方等、帝国華撃団から送られてきたデータを見て意見と戦わせていた。
また、司令であるグラン・マからはこの機体を“霊能支援用機体”にして欲しいという指示を受けている。
「班長、その霊能支援用、ってのはなんです?」
「ああ、それについてだが──」
部下の質問にジャンは説明する。
霊力支援用という特殊な機体を要望されたのは、巴里華撃団と帝国華撃団の違いからくる事情だった。
帝国華撃団と巴里華撃団の顕著な違いはその規模にあった。それゆえにその支援体制の規模も違う。
輸送する部隊一つとっても、地下鉄を利用する輸送用列車は帝都の轟雷号に対し、巴里のエクレールがある。
しかし戦闘飛行船・翔鯨丸に該当するような装備が巴里にはない。
それだけではなく、悪環境の中での戦闘を支援する帝国華撃団・雪組、霊能力を使った戦術支援を行う霊能部隊・夢組に該当する部隊も存在していない。
それら存在しない2部隊に関して、先のパリシィ騒動で特に必要性を感じたのは霊能支援だった。
例えばパリシィ事件の際にピトンが使った蛇型蒸気獣ベルスーズとの戦闘に於いて、地中に潜った蛇部分の探知は、ソナーに頼るしか無く、探り探りの戦闘になっていた。
もしそれが透視のような霊視や危険予知の支援を受けることができれば、見えない敵に対する対処が楽になっていたはずである。
その役目を担う存在は喉から手が出るほど欲しい。
元々、夢組志望でその技術に素養があるなずなが選抜されたのは、巴里華撃団にとって僥倖であった。
それゆえの霊能力支援用機体──それを霊子戦機と名付けた──なのである。
「ま、そういうわけでこの機体一つで、帝国華撃団夢組の機能を持たせようってわけだ。情報収集から結界展開、精神感応によるジャミング、仲間の支援と……なかなか欲張りな要望をしてくれるぜ、まったく……」
仕様書を見ながら愚痴るジャン。
「じゃあ、この頭の上の皿みたいなのは……」
「レドームだ。帝国華撃団の霊子レーダーのデータはあったからな。小型化して搭載している」
それが完成できたのも帝国華撃団からも技術提携があったからである。
そして、いよいよ武器についての考察に入る。
これに乗るはずの新入隊員のデータを見たのだが──
「ボウジュツ? っていうのは一体なんだ?」
そのデータを見ながら、チーフであるジャンは首を傾げていた。
それによれば、その新隊員はすでに霊子甲冑での実戦を経験しており、アイゼンクライトで多くの敵を倒したらしい。
──棒を使って。
「棒……棍棒ですかね?」
皆が想像したのは、木製で先端が太くなっている、一般的な棍棒だった。
「はあ? 帝都からやってくるのは女性ですよね? 棍棒振り回して敵を殴り飛ばすんですか?」
その声に、メカニックチームの面々はドッと笑う。
「おいおい、アマゾネスでもやってくるのか?」
「おっかねーな、その女。というか、本当にそうなのか? ニッポンの女はヤマトナデシコっていう奥ゆかしい、大人しい女ばかりじゃないのかよ」
ここ巴里華撃団にはその具体例ともいうべき北大路 花火がいるのだから、彼らがそう思うのも無理はない。
「いやいや……以前、大神隊長を訪ねて帝国華撃団の人達が来たとき、2メートル近い大女がいただろ? ああいう逞しい感じなんじゃないのか?」
誰かが冗談めかして言うと、再び笑いが起きる。
「う~ん、冗談としては面白い笑い話だが……実物を見てしまった以上、あり得ない話とは言えないからなぁ」
さすがに身長2メートル近い女性が何人もいるとは思いたくはないが、一人は目にしたのだから「いない」「ありあえない」と決めつけることができないのも確かである。
そしてメカニックチームは与太話を止めると、額を寄せ合って考え込む。
「棍棒じゃなくても、
「待て待て、それじゃあ鈍器であっても“棒”ではなくなるような気がするぞ」
「
様々な意見が飛ぶが、推論の域を出ず、決定的なものが出ない。
それというのも──
「実際の戦闘映像でもあればなぁ……」
思わずジャン班長の口から漏れる。
新隊員の彼女がアイゼンクライトで戦っている映像というのは送られてこなかったのだ。
というのも彼女が出撃したのは施設の防衛戦。機密保持のために施設が映っている映像を他国に渡すのを厳しく制限されたためである。
そのため、実際に戦った映像がなく、メカニックチームの中では「謎の棒」で敵を倒していったという図ができあがっていた。
「ふむ……日本の武器というのはイマイチわからんからなぁ」
「大神隊長の武器は
大神が光武FやF2で使った刀は帝国華撃団製の物で、刀がどういうものかはわかったが、それを再現しろと言われても不可能だろう。
今度来る隊員は、正式な帝国華撃団花組隊員ではないので、大神の時のように一緒に武器を送るということもできないらしい。
どうしたものか、とジャン班長以下が困っていると──そこへ偶然、北大路 花火が通りがかるのが見えた。
「む!?」
そしてピンとひらめき──ジャンは急いで花火の下へと駆け寄った。
「ちょっと、いいか!?」
「は、はい? なんでしょうか……」
ジャンの剣幕に驚いた様子の花火だったが、ジャンが今までの経緯を説明する。
そして──
「おそらく日本独自の武器だと思うんだが、オレ達には日本の武器っていうのが想像付かない。嬢ちゃんが知っているのなら教えて欲しいんだが……」
ジャンは日本人である花火の知識を頼ったのだ。
そして彼は花火に、日本の代表的な“棒”の武器を尋ねたのだが──
「ああ、それならきっと……」
そう答えた花火の手には本が握られていた。
そのとき偶然、たまたま持っていたのは“日本の童話集”であり──その挿し絵には鬼の絵が描いてあった。
それが手にしているのはもちろん──
──なずなが“それ”を眺めつつ、唖然としながらつぶやく。
「棒……って棍じゃないわよね。杖でもないし、完全に……金棒よね、これ?」
そんな彼女が見つめるその先には、確かに棒状の武器があった。
長めの柄の先にさらに長く一回り太い殴打するための部分──そこには威力を増すための鋲が沢山存在している──が備えられた鈍器が鎮座していた。
「昔話の鬼が持ってるヤツじゃないのよ~!!」
──
正式にはそう呼ばれるその武器は、まさにお伽話の鬼が持っているような金棒をスマートにしたような武器である。
特に太さに関しては重量や扱いやすさを重視して、細めに作られている。
そして──無論、これはあのとき本を手にした花火が「これに間違いありません」と言って挿絵を指したがために決まった武器である。
「はい。華撃団になずなさんが加わったのですから、これでまさに“鬼に金棒”ですね」
「……あの、あたしも一応、乙女ですので……鬼とか金棒とか言われるのは複雑なんですが…………」
明るく微笑む花火に対し、なずなは苦笑を浮かべるしかなかった。
──ちなみに、なずながアイゼンクライトに乗った際に使った武器は錫杖であり、似ても似つかぬ別の武器である。
【よもやま話】
なずなの光武Fは、頭部にレドームがあり電子戦ならぬ“霊”子戦用機──というわけでコンセプトやイメージは機甲戦記ドラグナーのD3です。
武器の金砕棒がどんなものかわからない人は、なずな機が持つものについてはWikipediaの金砕棒の画像3の鎧武者が持っているものをイメージしていますので、参考にしてください。
私も鬼の金棒を最初は考えたんですけど、やっぱり太すぎて不格好ですからね。あの画像を見て「これだ!」となりました。
ちなみに、花火の言葉が決め手になったわけですが、彼女的には「弓が得意」と話したらクロスボウ装備させられたというのは密かに怒っていたのかもしれません。